一章 七話.夫
夕食を済ませたあと風呂に入るために、家に併設されている浴槽に向かったのだが、それがまた、檜で作られた豪華な浴槽で驚いた。
自分自身、檜風呂なんか温泉などでしか入った事ないし、こんな民家に檜風呂が造られているなんて、思いもよらなかった。
贅沢すぎる風呂を堪能したあと、俺は疲れを癒すために早めに寝ることにした。
ここに来るまで、野営だとか石の上で寝るだとかで良い睡眠ができなかったからね。その分、今夜はよく眠れそうな気がする。
ソフィアさんに部屋まで案内してもらい、そこにあったベッドに頭からダイブする。
俺が貸してもらっている部屋は二階にあり、その天窓から綺麗な星空が見える。
だんだんこの家が、大金持ちの別荘にも思えてきたが、今はそんなことを考える余裕がないくらい星空に夢中になっている。
そこまで、星座や星の名前に詳しくないのだが、これは分からなくても十分すぎるくらいに楽しめる。
というか、ここは異世界だから俺の知ってる星なんて元からないのだが。
すると、数分間ボーっと星空を眺めていると、天の川のような場所に流れ星がサッと流れていき、それが突然激しい明滅を繰り返しながら消滅する。
「あ、あれは?」
流れ星というか、あれは確実に流れ星ではない気がするのは俺だけだろうか。
少し驚いてベッドから立ち上がっていたので、再びベッドに倒れるように伏せる。
今日はここまでにして、就寝といくか。
俺は目を瞑りながら、視界に表示されている歯車マークを脳内操作で消し、深い眠りへと落ちていった。
◆◇◆◇◆◇◆
やがて朝になり、天窓から差し込む日の光によって目を覚ました。
なんか、ちゃんとした寝床で就寝するのは久々でよく眠れた。そのおかげか、体がいつもよりすごく軽く感じる。
俺はベッドから降りて、深呼吸をしながら蹴伸びをした後、階段を降りて家の中のキッチンに向かう。
キッチンに入って早々、ソファに座っていた人物に少しびっくりする。
ここからじゃ、後ろ姿しか見えないが、体格と髪型からして男性で間違いないだろう。
「あら? もう起きていらっしゃったのですね、ソウマ君」
「あぁ、はい、おはようございます、ソフィアさん」
「はい、おはようございます」
俺が入り口付近で佇んでいると、キッチンにある台所で料理を作っていたソフィアが気付いて声をかける。
まずは挨拶が鉄則なので、一応挨拶を返しておく。
すると、そんな俺達のやりとりに気が付いた男性は振り向いてこちらを見てくる。
「おや? この方が昨日言っていたお客さんかい? どうも始めまして、僕はアレクサンドル・ナナリーゼと申します。この村からかけ離れた王国で聖騎士という職に就いています。以後お見知り置きを」
「あ、えっと、俺はタカギ・ソウマと申します、よろしくお願いします」
アレクサンドルが爽やかな微笑みで自己紹介してきたので、俺も便乗する形で自己紹介をする。
こちらを振り向いた時に分かったのだが、ミディアムに仕上げた金髪の頭に、柔和な顔立ちの爽やかなイケメンだ。
なんというか、俺の頭の中で考えていた聖騎士というものにドンピシャな感じだ。
だが、アレクサンドルは自己紹介をして間も無い内に急いで家を出て行ってしまった。
おそらく、王国までに時間がかかるため朝早くから行かないと間に合わないのだろう。
多分、ソフィアの夫がアレクサンドルだから、こんなに家が他と比べて立派なのか。
そりゃ、聖騎士という位に就いていればこれだけ立派な家に住めるのも普通のことだ。
ソフィアが朝食の準備ができたと声をかけてくれたので、俺は和食風の朝食を食べることにした。