一章 五話.村
あれから三日間歩き続けた後、ようやく村の近くまでやってくることができたのだが、一つ、異世界での死活問題でもある事が脳裏をよぎった。
それは、俺が異世界語を喋れない、という事だ。
元の世界でも約数千種類もの言語があり、世界という小さな括りでもそれだけの言葉があるなら、今度はスケールが一層違う異世界という括りだ。どれだけの言語があるのか、考えるだけでもゾッとする。
俺は、言葉の壁を乗り越えるための対策を練りながら、脳内操作でマップを確認する。
マップによると、残り約二キロで目的地である村に到着するそうで、歩くに連れて減算されていく数値に期待が高まる。
村は浅い森林の中心部にあって、その森は今俺の目の前にある森で間違いないだろう。
だけど、マップ欄で確認する限り、森林の中を小さな光点が幾つも動き回っているのである。おそらくこの光点は、異世界特有の獣、魔物や魔獣といった生物を示すものだと思う。
俺は、剣や魔法を所持していないので、魔物と遭遇しても攻撃手段がない。そのためマップを縮小化させて、視界の左端らへんにスライドさせておく。これは、ここまで来る途中に色々弄っていたら発見したやり方で、一々マップを開閉しなくてもいいというのが便利だ。
俺はマップに表示される光点を避けながらどんどん森の最奥へと入っていく。
万が一、魔物に遭遇しても、俺のチート掛かったパンチをくらわせれば問題ないとだろう。
......まあ、できるだけ出会いたくはないが。
魔物から身を隠すように森を進んでいき、やっとの思いで村に到着した。
村は、集落の全てを覆うように木の壁が造られており、門と思しき場所には、レイピアを持った村人が二人見張っていた。
「あのー、こんにちは」
俺が門番をしていた村人に声をかけると、眉を顰めた不機嫌そうな顔で睨めつけてきたので、少し怯えつつも話しを進ませるために、声をかけ続ける。
「えっと、道に迷ってここを放浪してる者ですが、少しの間、村に泊まらせてはくれないでしょうか?」
そう言うと、村人は少し安堵の表情を浮かべて嘆息した。
「なんだ放浪人だったのか......てっきりまた、村から俺達を追い出すために来た人だと思ったよ」
「そ、そうですか」
「村に泊まりたいって? あいにくだが、村には宿泊施設なんかない......だが、せっかく久しぶりのお客さんだ。丁重にもてなしてやるよ」
「あ、ありがとうございます」
なんだ、気前のいい人じゃないか。
笑顔で承諾してくれた村人の一人は、俺を村の中へと案内してくれた。
村の中には、木や土で造られた家が点々としていて、時折子供たちが、布を丸めたボールのような物を蹴って遊んでいた。
「おーい皆んな! 久々のお客さんがやってきたぞ!」
そう村人に向かって大きな声で叫んだ門番の村人は、俺の方を向き手を突き出してきた。
「俺の名前はカザン・マクスヒートというんだ、よろしくな」
「あ、はい。俺はタカギソウマと言います」
「ほぉ、珍しい名前だな、もしかして、王都から来た人かい?」
俺は、握手している村人が名前を聞いて、疑問の色を浮かべるので少し驚いた。
だが、それもそのはずだ。ここは日本とかけ離れた国である異世界、名前の書体も違えば呼び方も違うだろう。
そういえば、言葉の壁があると思って懸念していたのだが、全然通じ合えるというか、日本語そのものだ。
もしかして、神の加護とやらで喋れたり分かったりしているのか、奇跡的に日本語を喋る異世界に転生したとかかな?
「いえ、ニッポンという異国から来ました」
「ニッポン......なんだか良さそうな国だな」
「ええ、それはもっとも」
どうせ異世界の人にはわからない事なんだし、少しは本当の事を話しても問題にはならないはずだ。
......そんな変わった事を話す俺に興味津々な村人たちが、次々と集まってきており、ちょっとした有名人の気分だ。
村人は、布を継ぎ接ぎしたボロい服を着ている人が圧倒的に多い。自然に囲まれて、まともな商売ができない村人にとっては普通なのかもしれないが。
「だれかソウマを泊めてくれる奴はいないか?」
「「「はーい!」」」
カザンさんがそう村人に促すと、俺を取り囲んでいた村人全員が勢いよく手を挙げて立候補した。
次回の更新は7/27日になります。
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