一章 二話.チートと無チート
俺は弱い倦怠感を感じながらも、眠りから覚めるように目を覚ました。
天界から、ここまで落下してきたのか、それともテレポートしてきたのか知りたいところだが、今あのブラックな天界を思い出すと憎たらしさが蘇るのでやめておこう。
「............ここどこだよ?」
確かに天界の人は、異世界に転生すると言ったはず......
いや、異世界と言えば異世界なのかもしれないのだが、もう少し転生場所を考えてほしい。
目の前に広がるのは、大地を真っ二つに切り開いたかのような立派な渓谷、そしてその下を流れる川.......
俺はその渓谷の下を流れる川の脇に転生されたのだ。
周りを見渡しても、地平線まで延々と続く長い川、横には高層ビルほど高さがある渓谷。
渓谷を登ろうとしても、足場なしではとても登れそうではない......
かと言って、地平線が丸く見えるほど距離がある川を渡っていくわけにはいかない。
状況だけでいうと、八方塞がりといったところだ。
「神は俺にまた死ねって言ってるのか? 全く、昔から運は悪かったがこれは酷すぎだよ.......」
俺は途方に暮れながら深く嘆息する。
もしここで野垂れ死ぬ事があって、再び天界に行ったらあの神様の顔面を一発殴ってやる。
「このまま考えていても何も.......って、なんだこれ?」
今まで思わぬ不運に見舞われて、そちらに気を取られていたので気付かなかったが、俺の視界の横らへんに歯車のようなマークが浮いているのだ。
俺は不思議に思って手を伸ばしてみたが、綺麗に貫通。
否、貫通というよりその場に元からないようだ。
試しに姿勢を変えて視界を動かしてみると、そのマークも一切その場から動かず付いてくる。
ということは、その場所に浮遊しているわけではなく、俺の視界そのものに入っているっぽい。
だが、手で触るとことができなければ、動かずこともできない。
だとしたら......
「これをこんなふうに.......ビンゴ! やっぱり頭で操作するのか」
俺はその歯車マークを脳内でタッチする想像をしたら、見事にその歯車マークから色々な選択肢がヒョコッと顔を出した。
その中には、アイテム欄、ステータス欄、マップ欄、魔法欄、装備欄とあり.......
「ってこれ完全にゲームじゃん!」
確かに神様は、脳に直接処置を施すといっていたが、それがまさかゲームのようになるとは思いもよらなかった。
俺自身、昔からゲームに慣れ親しんできたのでこういうのは大歓迎なのだが、なんだかVRゲームをやっているようで異世界感が台無しになっているようにも思えてくる。
まあそれは分かりやすくて良いことなので置いといて、俺はステータス欄を見ることにした。
神様の話しによると、転生すると同時にチートな能力を付与すると言っていたはずだが.......
「......まあ、思った通りだな」
俺はステータス欄を脳内操作で開き、その内容を拝見したのだが、そこにはザ・チートと言えるほどの悍ましいパラメータが表示されていた。
タカギ ソウマ Lv999
HP 9999
MP ∞
とだけ表示されていた。
「レベル九百九十九って......それに、えむぴー? 多分マジックポイントかな? 無尽蔵か.......」
例え自分だとしても少し恐ろしい。
ゲーム定番の攻撃力とか防御力とかないけど、そこらへんには補正がかけられているのかな?
確かめるべく、おもむろに渓谷の壁面に近寄り、自己流のストレートを壁面に軽くする。
すると......
「えっ......?」
軽くパンチしたはずなのに、その壁面はけたたましい轟音を立てながら崩れ、ぽっかりと大穴が空いた。
もし、俺が本気でパンチしたらどうなるのだろうか。少し邪な思考が過ぎるが、世界の破壊者みたいな不名誉な称号を獲得しそうなのでやめておく。
本当に世界を破壊してしまったら、転生した意味がないからね。
「そういえば、魔法ってどうなってるのかな?」
俺は魔法欄を開き、その中を見てみると......
「開けてビックリ玉手箱っていうのは、このことを言うのかな?」
想像では魔法欄びっしりと表示された、数多なる魔法といくはずだったが、そこに表示されていたのは無慈悲なる現実を連想させられるものだった。
そこには、何も表示されていない全くの無地な魔法欄だった。