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一章 一話.天界の人は忙しや

 俺は一面雲に覆われて様々な神々が棲まう、天界と呼ばれる場所に来ていた。


 だけど、思っていたのと違う。


 天界と言えば、天国にも類似した場所で、天女や幸福の神様が優雅にゆったりと過ごしており、花畑に虹がかかったような綺麗で幻想的な場所であるはず……。

 だけどそこは、ユートピアでも花畑でもなく、簡素な鉄製のデスクワークに、事務用のパソコン、メガネにスーツ姿の男性や女性が所狭しに仕事をしており、天界(ここ)と地上の風景と照らし合わせてもあまり変化しないだろう。


「なんだよ、この、人間の夢と希望を根刮ぎ覆すような悲しい世界は……」


 俺はあまりに衝撃的な光景を目の当たりにして、口をあんぐりと上げながら呆然と立ち尽くしていた。

 見るからに、多忙な日々を過ごしてようやく安寧の地を迎えられたかと思ったら、また更に非常な現実に忙殺されなくてはならないという絶望を与える場所である。


 すると、一人呆然と立っている俺を見つけた男性が声をかけてきた。


「君ってもしかして、我々の手違いでここに来ちゃった人かな?」

「間違いもなにも俺は死んだんだぜ?」


 そう、俺は高校に行くために通学していたら、突然上空から隕石が落ちて来て見事俺に命中。

 そのまま即死して、今ここに居るって感じだ。


「はい、あなたの死亡理由である隕石落下は、我々の手違いなのです」

「おいお前ふざけてんの? 隕石に当たって死亡ってシャレになんねーよ」


 手違いと聞いで無性に腹が立つ。

 それもそのはず。こっちは何もしていないのに、向こうのミスで死ぬなんて以ての外。

 これで裁判でも起こしたら、百パーセント勝てる自信すらある。


「この度は大変申し訳ございませんでした」

「いやいや、謝って済むなら警察はいらないから」

「そのお詫びとしては難ですが、こちらの意見の総意として、あなたが今まで暮らしていた世界とは違う世界に転生することを決めました」

「勝手に話しを進めないでくれる!?」


 俺の意見もロクに聞かずに、急ピッチで進む話しに少し戸惑っていた。

 だけど、この男性が提示した内容はそう決して悪いものではない。

 よくアニメやラノベで見る、世界とは異なる世界……異世界に転生できるなんて、こちらとしてはいささか嬉しいことでもある。


「ですから、あなたには異世界に転生してもらうことに決まりました」

「そ、それは分かったけどよ」

「分かったけど?」

「そっちのミスで俺はこんな目にあってんだぜ? 少しくらいは俺の願いの一つや二つ叶えてくれてもいいんじゃないか?」


 少し嫌味を混ぜながら強請るように言うと、男性は一瞬の顰蹙(ひんしゅく)を見せるが、ホッとため息を吐くような所作をした。


「なんだそんなことですか、それなら、最初から手配してありますのでご安心ください……神になりたいとでも言うかとヒヤヒヤしましたよ」

「じゃあ神になりたい」

「それは無理です」

「即答かよ、冗談だよ冗談」


 俺は少し出来心で言ってしまったが、それをきっぱりと断られたためムッとするが今はスルーしておこう。

 それより、一番肝心なモノを既に措置されているとなると、選択肢は一気に減る。

 俺みたいな奴が異世界で必要とする物といえば……。


「なら、異世界のあらゆる情報が分かるように何かスカウターみたいな物が欲しいかな」

「ふむ、スカウターはございませんが、脳に直接処置を施す事なら可能ですよ」

「の、脳に……」

「安心してください、異世界転生時に勝手にやるので痛くはないはずです」


と、男性は言うが、どうも胡散臭くて信頼ができない。

それもしょうがないか。何せ俺は……


「おいおい、どうやってそれを信じろって言うんだ? こっちはお前のミスで死んでるんだぞ」

「まあ、信じるか信じないかはあなたの勝手ですが、こちらにも時間が然程ありませんので早速ですが異世界に送り出させてもらいますね」

「ちょっと大雑把すぎやしないか? 第一俺は……」

「では送りますね! それでは楽しい異世界生活を!」

「ちょっと待てい!!」


俺が言いかけようとした時、もう聞くのが面倒くさくなったのか、強引に話しを切り上げて無理矢理俺を異世界へと送り出す。


男性が横にあったレバーを引いた瞬間、俺の足元がガバッと開いて穴に落ちるかのように落下していった。


(あのクソ野郎、今度会ったら酷い目にあわせてやる)


俺は内心そう思いつつ、落下していくに連れて意識が薄くなっているのを感じる。

なるほど、目が覚めたら異世界の地へ強制的に送還されているということか。

俺の中での神はだんだん、禍神といったふうに思えてくる。

数十秒ほど落下したところで俺の意識は、フッと波にさらわれるかのように消えた。

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