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バイバイとさよならの境界線  作者: 犬猫帆月
《 開幕 》
2/6

【始まりは雪と共に】

これは【菜ノ風木】と【銀猫@境界線】による合作です。


ぼちぼちと投稿をしていきます。


12月の始め。今日も雪が降った。

窓は外の風の恐ろしさを音とともに僕に伝えてくれる。

低体温の自分にとって冬は恐ろしい魔物で、氷のような風はすぐさま僕を襲おうと待ち構えている。

だから、私立魔法アクセプト小学校に入学してから三年目の今年。この冬休みもこたつに埋もれながら終わる。それが僕の望みであり、日常であり、同時に祝福のひと時だった。



冬休みの宿題も終わったし、後はゴロゴロするだけ !


そう思った矢先のことだった。

中古で大量に買った漫画を読み漁りながら、暗い部屋のもと本を読む。たまに寝てしまうけどそれもまた幸せの一つ。

そんな幸せを噛み締めていた時、それを終わらせるような声が家中に響き渡った。


「シーナちょっと来て~!」


母さんだ。

あの独特の声。あの声が赤に満ちた時この何百年も前からあるらしい我が家は崩壊すると思う。

そう、母さんは言っていることとやっていることが多く矛盾している人だ。





例えば……僕が6歳の時。

母さんは僕に何処からかもって来たのか【虫籠】と言う緑色の箱を僕に渡した。

使い方は、そこらへんにいる虫を入れるとのこと。けれど、そう言う代物と聞いても僕には理解できなかった。

何故かって?

だって、この魔法界には例え田舎だとしても虫専門店(ムシショップ)などに行かなければ、一センチに達する虫など存在しないからだ。

それを母さんに言うと、理不尽なことに家を追い出された。

『虫をそのカゴに入れてくるまで帰るな』と言う条件付きで……。

結局考えた(めんどくさかった)僕は、運良くポケットに入っていた六百五十円を手に、虫専門店(ムシショップ)まで足を運んだ。

お店に入ると、白いヒゲが五センチぐらいある虫好きらしいおじいちゃんがいた。

ずっと、「ふぉふぉ」言いながらヒゲを撫でていたことを覚えている。

まぁそのおじいちゃんは良いとして、店の中に問題があった。そう、至る所にブンブン言う虫ばかりなのだ。

「すごいじゃろぉ楽しんでいけ、坊主」と言われたが、僕は坊主じゃないしここで楽しめるわけがない。と内心ツッコんだ。

相変わらず下からも上からも横からも右からも至る所から水槽のような黒縁の箱に入っている虫たちがブンブンと言いながらその音を僕の耳に突き刺そうとする。そんな中、そう。そこまでは良かったのだ。

気持ち悪い。とは思ったが逃げ出そうとするレベルではなかった。なかったのだ。


「どうした、坊主?」


だから坊主じゃないっ、と返しながらも六百五十円内で買える虫を頼んで虫籠に入れるようにお願いした。


「少し店の中でも見て待っておれ、多少時間がかかるからのぅ」


そう言って店の奥に引っ込んでしまったおじぃちゃんはどこか懐かしそうに笑っていた。


そんなに虫が好きなんだ…


僕には、おじぃちゃんみたいに好きになれるものが無かったせいもあったけれど、どこか【いいな】と思った。

そして、おじぃちゃんに言われた通り店の中を歩き出す。

上の方の虫たちは身長のせいで全く見えなかったが、部屋の明かりに照らされて所々反射した光を僕に見せてくれた。僕の周りには緑色の虫がいたり、赤色の虫がいたり、宝石のような綺麗な色をした虫たちが一匹ずつ大きな箱にいた。ちょっとだけ、綺麗でここはおじぃちゃんにとって宝箱のようなものなんだろうなと思った。そして、虫の音がちょうど耳に慣れた時、店の1番奥にまで辿り着いた。


「ここまでか……」



ちょっと残念な気もしたが、別に嫌いな空間ではなかった。

だけど……


「……あ」


僕は見てはいけないものを見てしまった。

これが、僕の人生始めの後悔だ。


「こ、これ……何?」


「うぅん?あぁ、この国では珍しいやつじゃがワシの国では家によく潜んでたまに家の中に出て来たりするやつじゃよ」


気付くと、おじいちゃんが僕が渡した虫籠を持って後ろに立っていた。


「ほら。入れて来たぞ」


おじいちゃんには目も合わせず、虫籠を受け取ったが僕の目はとあるもののから与えられた恐怖のせいで目を背けることが出来なかったのだ。


家にこんな不気味な奴が出てくるのか……?おじぃちゃんの国大丈夫なのか?


「この虫の名前はな。【ゴキブリ】と言うんじゃよ。若い女の子は確か……Gともよぶのぅ」






……G?






「ギャァァァァァァーーー!!!!」



この日。今年一番の叫び声を上げた。

その後、涙を流しながら走るようにしてお店を飛び出し、家の扉を壊すほどに叩きまくったことを覚えている。

お陰で手が腫れた。けれど、なんだなんだ言って母さんは虫籠に入った虫を見て【懐かしい】と喜んでいた。が、扉を叩き過ぎだと怒られた。その声で扉にヒビが入った。


よって、この家の存続はあの母の感情によって日々、危機に晒されている。


「シーナ!!ちょっと来て~!!」


さっきよりも、声を張り上げて呼ぶ母さんの声が聞こえなくもない。

けれど、僕には使命がある。この冬を外に出ず、一生こたつの中で過ごすのだ。


「シーナ!!シーナ!!…………チッ」


あ、何か聞こえ……


「え……?」


気付けばこたつの中にいたはずの自分が、寒い玄関の前にいた。

何故、玄関にいるのか。そして、漫画はどこに行ったのか。原因は……


「シーナぁ?母さん何回も呼んだわよね?」


母さんである。


「え、う、うーーん?よ、4回くらいじゃない?」


「へぇ~~、4回も」




僕が玄関にいる理由それは母さんが操る魔法の一つ。【召喚魔法】だ。

この世界で魔法を持っていない人はいない。動物や虫も人ほどではないが持っている。それがこの世界。ただ、人は動物たちと比べて魔法を扱える種類が全く違う。

人はいわゆる、【家系魔法】と【個人魔法】と呼ばれるものがある。

【家系魔法】とはもちろんその名の通り、親から子に受け継がれる魔法。

僕の場合は【召喚魔法】だ。

【個人魔法】とはこれも同じで受け継がれるものではなく、その人個人だけが操れる魔法。どちらとも、成長するにあたって魔法を使えるようになるらしい。




「それより、早く戻してよ。僕が何かしたとしても、何も変わらないんだから。むしろ酷くなるし……」



母さんの方を向くと、腰に手を当てながら仁王立ちしている。まさしく、その姿は教科書にも出てくる英雄のようだ。


「す、すぐ行こうとしてたんだよ……?」


「そぅ…、この前は10回呼んでも来なかったわよね。なのに、今回だけは来ようと思ってたの?」


「・・・う、ぅん?」


「シーナ。人生後悔するわよ」


「え?」


母さんの手がゆっくりと上に上がる。

そして、ニッと笑った。















「シーナ。寝てばっかりいないで何かしなさい!!!!」














僕は悟った。


あぁ……キレたな。


だが、僕は気付くのが遅かった。その声とともに、僕の周りに母さん独特の魔法陣が浮かび上がる。

魔法陣が足元に出たら最後。いくら手を伸ばしても、叩いても魔法陣の外に出ることは出来ない。

だから、抵抗などする気も起きなかった。次第に魔法陣からの光が強くなる。

一瞬視界が真っ白になったかと思えば、今度は暗くなっ……た。



「……え?」



そこは古びた公園で、今立っている場所からは一柱の黒く錆びついた電灯がひっそりと立っていた。


「はぁ……」


息を吐くと、雪の様に真っ白だった。

母さんのせめてもの優しさで靴は履いていたものの、せめて防寒具くらい欲しかったものだ。


寒い、めっちゃ寒い……


母さん今、この季節忘れてるんじゃないの?夏じゃないんだよ?夏も死ぬけど、今、冬冬冬冬冬。


下には雪がしっかりと積もっていて、部屋着のままの自分は下から上に上がってくる冷気と上からも下からもそこらじゅうからやってくる風と格闘するしかなさそうだった。

電灯の方に頑張って足を進めると、電灯の前に古びた黒縁のベンチがあった。


「さ、さ、寒、い……」


そう言いながらベンチに座った。右側を見ると、公園の中央には電灯よりもしっかりと立っている時計塔があった。


こんなデカい時計塔なんてあったっけ……?


真っ白な風が吹き、僕の髪を一瞬にして氷に変えてしまう。

体は震え、目に自然と涙が浮かぶ。


「うぅ……」








「ねぇ、こんなところで何してるの?」








「えっ……?」


女の子の声だった。


「君は、誰……?」


雪の精霊のようだった。


「どこにでもいるただの人」


そう言って、両手を後ろに回しながら笑った。


雪と同じように真っ白な肌に綺麗な何色にも例えられないような、見たこともない色の瞳と晴れた日の晴天のような雨上がりの美しい日差しのような透き通った空色の髪。

胸元まであるような髪はオレンジ色の大人用のマフラーに絡まっていて、薄茶色のダッフルコートの下から見える白いレースの付いたワンピースはさらに女の子を精霊らしく引き立てている。

足元には焦げ茶色の足首までしかないブーツを履いていた。


「クスクスッ、君こそ誰?」


女の子はそう聞き返した。


「僕は……」


「寒そう。なんで、そんな薄着で外にいるの?」


「そ、それは……」


女の子から目線を外し、自分の靴に雪が落ちて染みる様をじっと眺めた。


「私のマフラーあげるね」


その声とともに、僕の首から暖かい温もりが身体中を巡った。

それから、女の子はクスッと笑った。


「えっ……?」


「風邪引いたらかわいそうだから」


オレンジ色のマフラーには、どこかの紋章のような花のマークがあった。


「……ん?どうかしたの?」


「い、いや、えぇっと……その……」


こう言う時、おきまりの言葉がある。

母さんなら、言え言えと急かし仕方なく言うような形になるが、今ここに母さんはいない。これほどいて欲しかったと思ったことはない。

女の子は僕を曇りのない瞳で見つめてくる。


「あ、ありがとぅ……」


「クスクスッ、なーんだ!私の方こそ、ありがとう」


電灯の光に反射して、女の子の周りがキラキラと水面のように輝いた。


多分、僕は一生この光景を忘れないんだと思う。


そう、思った。いや、心に誓った。


「あ……、そろそろ五時だね」


時計塔の針は、四時五十四分を指している。


「本当だ。もう、家に帰らないと……」


母さんは、自分で召喚魔法を使ったくせに五時までに家にいないと怒るのだ。


「てっきり、家出したのかと思ってた」


「それはない!」


「うん!そうだね」


女の子は椅子から降り、雪をパラパラと払う。僕もそれにつられて、椅子から立ち上がった。


「僕の名前は、シーナ。シーナ・キリア」


「……シーナ・キリア?」


女の子は不思議そうに聞き返したがまた笑った。


「あ、じぁ、ごめん僕もう行くね」


「うん」


女の子に背を向けて僕は走り出した。けれど、ふと、公園を出る前に女の子に聞かないといけないことがいくつか脳裏をよぎり、急いでまた女の子の元へと急いだ。


「ね、ねぇ、また、ここに来てもいい……?」


女の子はまだ電灯の前にいて、その光をうっとりと眺めていた。


「クスクスッ、もちろん!」


僕の方に向き直り、女の子はまた笑ってそう言ってくれた。


「ねぇ、シーナは【唄】って知ってる?」


「歌?」


「ううん。やっぱり何でもない。ほら、早く行かないと怒られちゃうよ?」


「あ、うん」


「クスッ、また明日ね」


「うん!」


手を振る女の子を背に僕は家路を走っていった。

何度か後ろを振り向いたが、もう女の子はいなかった。


次は名前聞けるかな……?


楽しみが少し、いやかなり増えた気がした。


ゴーーンゴーーーン


時計塔の針が五時を指す。

錆び付いた鐘の音も僕の耳には心地よく、いつまでも聞いていたいと思った。

風が大きく吹き、マフラーを揺らす。

ちょうどこの位置から時計塔が見えることを今日初めて知った。

少し、少しだけだが、母さんに感謝する気持ちが一ミリ芽生えた気がする。


鐘の音が15回響いた時だった。


鐘の音と風と共に、雲が晴れ、雪が止み、大地が潤い、鳥が空を舞い、木々が高ぶる。


「うた、だ……」


あの女の子が言っていたのはこのことかとも知れない。

時計塔の辺りから響く、優しい声。






まるで、【天使の声】だった。




この日から毎日五時を指す時計塔の鐘の音が15回響いた時【天使の声】が僕の耳と体を奪った。




















けれど、それから ー約三週間後ー




僕は世界に絶望した。



女の子も、約束も、人も、雪も、感謝も、優しさも、綺麗な景色も、鐘の音も……


綺麗なモノ、美しいモノ、全てそして、全部。


全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部!!!


嫌になった。


【約束】を守れなかった自分も……









女の子はその後いなくなり、あの公園も跡形もなく取り壊される事となった。

僕と女の子の集合場所だった電灯も、よく一緒に座っていたあの古びた黒縁のベンチも初めて綺麗だと思ったあの時計塔の鐘の音も……。全て綺麗だと、大切にしたいと、忘れないと思ったものは全部、跡形もなく消えていった。


そして、僕も……


引っ越す事になったのだ。今の家からはかなり遠い場所。はっきり言ってどうでも良かったが、あの女の子の事を忘れられるなら、何処でも良いと思った。

僕が生まれて初めて住んだ家は珍しい作りのせいか売り渡しはせず、別荘地として残す事となった。















ー懐かしいモノは全て色をなくしたー















もう、色付く世界なんていらないとそう思っている。




どうかこれから、何もなく、何も起きず、楽しくなくても良いから、ただただ、普通に過ごしていけますように……







気付けば、あの女の子はどこに行ったのか、そして、どうして僕はこんなにも多くのものを嫌いになったのか【約束】とは何だったのかもうすっかりと、忘れてしまった。






けれど、これで良かったのだと思う。







今年の春。









俺はやっと人生における難題点と戦う事になる。






学生最後の三年間。






そう、高校生である。







最後まで読んでくださりありがとうございました。

次話も近いうちにあげようと思います。

これから様々な登場人物達が出てきますのでどうぞよろしくお願いします!

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