戦いの兆し
古代魔法
人間が誕生する前、精霊種が遣っていた魔法。
精霊師という職は、祖先に精霊種が混ざっているか、精霊種と契約する事で、魔法適正がない人でも精霊師になる事ができる。
基本的に範囲が広くその分魔力が分散するため威力が低く、一対一のタイマンを苦手とする。
だが、段幕を張れる事と、補助魔法が強力かつ豊富な事を強みに、精霊師は失楽戦争では後衛での仕事が多い。
9/28追記:足手纏いのフリガナが間違っていたことの訂正
「ん……朝か。……ルーシャ?」
早朝、部屋の時計を見ると朝の7時だ。
ルーシャは既に起きていて、椅子に座って無表情でボーっとしている。
「何を……してるんだ……?」
「よく眠れましたか?おはようございます、ご主人様」
「あ、あぁ……おはよう。なんでこんなに朝早くから起きてるんだ?」
俺はベッドから腰を下ろし、ルーシャの横の椅子に座る。
久しぶりのいいべッドでの就寝だったため、ルーシャの言う通りよく眠れることができた。
「私はいつも、六時に起こされていましたから……」
「習慣になっているのなら何も言わんが、基本起きる時間は遅すぎなければいつでもいいぞ」
奴隷の一日は早いという事……か。一日中仕事で街を歩き回っているのなら、夜も遅いはず……。
さらに食事も摂らせない、生きて此処にいるのも不思議なくらいだ。
「ありがとうございます。……なら起こして貰おうかな」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
「そうか。俺は少し一階に行く事にする。自由行動だ」
「……はい」
俺は二階にあるこの部屋から出ていき、一階にある洗面所に顔を洗いに行く。
店の売れ残った紳士服を寝間着代わりに着用して寝ていたため、ここで着替える。
上着を脱ぎ、上半身半裸のところで俺は手を止めた。
「下を脱ぐが、そこに居てもいいんだな?二人とも」
「貴方凄い体格してるわね、細マッチョ?」
「俺は見られてもどうも思わないが、お前が見たらそれはセクハラにはならないのか?しかも、ルーシャを巻き込むな」
これがセクハラにならないのであれば、これは明らかな男女差別だと思うため、一応聞いてみる。
ルーシャに関しては教育上どうなのかと思うだけだ。
「ルーシャちゃんは自分の意思で此処に居るのよ」
「自由行動と言われましたので、ご主人様について来たのですが……ダメでしたか?」
「ダメとは言わないが……そういえば聞いてなかったな、ルーシャ。お前は何歳だ」
「それは分かりません。誕生日がいつかも、どこに生まれたかも、私には教えてはくれませんでしたから……」
分からない、つまりルーシャは産まれて直ぐに奴隷として生きてきた事になる。
親は早々に居なくなり、引き取られた先が奴隷として育てた……可能性としてはこれだろう。
「聞いて悪かった。後ケイト、セクハラの件だが…」「はい!申し訳ありませんでした直ぐに店の準備に取り掛かります!」
猛スピードで逃げて行った。
まぁいいだろう、俺に害はない。
上着を洗面台の横に置いてある洗濯機の様に見える機械に服を放り込む。
「ルーシャ、此処に残るという事は、つまりそういうことだぞ」
「はい、此処に残るという事はつまりそれなりの覚悟はできてます」
どんな覚悟だろうか、少し聞いてみたい気もする。
だがふと思った。
「覚悟するくらいなら見る必要ないんじゃないか?」
「それもそうですね……。……でも……見たい…気も」
「すまん、ちょっと心の声が聞こえた気がするんだが」
「き、気のせいです気のせいです!」
「まず、俺の下半身を見てどうなる。下着も着ているし、何も見どころは無いと思うが?」
「うぅ……。じゃ、じゃあやっぱり……いやでも……いや、見ます!」
頬を赤らめてまじまじと俺を見る。
(この反応はとても子どもがする反応じゃない。14~16歳くらいだろうか)
「まったく、服を脱ぐだけでどれだけ時間を掛けさせるんだ」
俺はズボンに手を掛け、下へと下ろす。
「何も見てません!何も見てませんからぁ!」
「まて、見たいんじゃなかったのか」
俺はすぐさまいつもの制服を着て、事なきことを得た。
……と信じよう。
「あわわ……ご主人様ぁ……」
俺は頭に手を当てて、深くため息をした___
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午後。現実世界なら昼食だが、この世界では数日に一回の食事らしいのでこのまま部屋でのんびりと過ごす。
蜘蛛討伐の報告の際、次の依頼はと聞くと、自動的にそのカードに依頼がくるらしい。
今のところ何もきていないので、自由ということだ。
銃を使うと言っただけでクラスは弓兵とは、なかなか可笑しな世界だ。
「ルーシャは魔法は使えるのか?」
「強化の魔法だけなら、遣う事が可能です。私は何も教えられてきませんでしたから、これしか遣えないんです」
「そうか。凄いんだな、魔法を使える事ができて。俺は魔法の適性はないから、教える事が出来ない。すまないな」
「いえ、そんな謝られる事では……。……でも、だからといって魔法使いにはなりたくありません。……あの人思い出してしまうから……」
あの人……きっとアルマの事だろう。
自分から魔導師と言っていた。
次会った時は倒さねばならない敵だ。
「すまない、思い出させるような事を…」「……あ、あの!」
「……何だ?」
「私に……戦う術を教えてくれませんか!?」
その言葉に、一瞬言葉を失った。
いずれ護身術は教えてやるつもりでいたが、自分から、さらに戦える様にというランクアップした事をルーシャの口から飛び出そうとは思いもしなかった。
「何故だ?」
「これから戦うご主人様にとって私は足手纏い。守られてばっかり……。でも……そんなの嫌です!私だって……私だって……」
「私だって戦える!ご主人様の……剣になりたいんです!」
昨日の今日と同じようなルーシャの声が部屋に反響する。
これ程の熱意、昨日で殻を破る事が出来たルーシャの本当の声。
「俺は……お前を傷つけたくない。教えるとなると、かなり厳しい修行だ。そもそも、なんの職かも分からないのに教える事がない」
「私は奴隷だった。痛い事、辛い事全部耐えてきました。修行くらいで倒れたりなんか……しません」
迷いの無いな目、気合と決意が重なってできた綺麗な眼。
ここまで言われると、引くに引けない。
引くと、それこそルーシャに無礼を働く事になる。
修行とは、何かを失い、その代りそれ以上の強さを得るもの。
俺はその事を、痛いほど知っているのだ。
だがその強さを欲し、ルーシャは自分から修行をしたいというのだ。
「……本当に……いいんだな?」
「もちろんです。覚悟はもう既に決めてます」
「……なら」
俺は片手でルーシャを持ち上げた。そしてそのまま肩車へともっていく。
「え、ちょ!?何を!?」
「軽いな。40キロ、下手したら30キロくらいしかないんじゃないか?まずは身体から作っていかないと、とても修行には耐えられないな」
筋肉をつけろとかいう以前に、栄養不足だ。体も至る所が細い。
これからは毎日食事を摂らせよう。
「で、ある程度身体に余裕ができたら、体術から教えてやる。まぁ体術しか教える事がないんだがな」
「あ、ありがとうございます!!」
こんなにハキハキしている姿を見ると、4日前に出会った人と同一人物とは思えない。
「4日前とは大違いだな。よく喋るようになった」
「……そりゃ……少しは、警戒しますし」
「ハハ、こんな強面の面構えにいきなり俺に付いてこいなんて言われたんだ。無理もない」
(まだ4日前しか経っていないのか……時の流れは遅いのか早いのか分からないな)
「ご主人様、初めて……笑顔になりましたね」
「…………え?」
俺は片手を離し、自分の顔に、頬に当ててみる。
頬の肉付きが目に寄っており、気が付けば本の少し視界の下の方が、頬の肉が見えて視界が狭くなっている。
……笑顔……か。
「もう最後に笑ったのがいつかも覚えてない。この笑顔を……忘れないようにしないとな」
「いつもの雰囲気と違いますね、ご主人様」
「それはルーシャも同じだ。最初に会った時より、ずっと喋るようになった」
俺はルーシャを地面に下ろす。
そして少し屈んで、同じ目線に合わす。
「ルーシャには俺に出来なかった事をして欲しいんだ。だから、俺の言う事をしっかり聞いてくれ」
「昨日それは誓いました。私はご主人様の物と」
「……そうだな」
俺は子どもの様に頭を撫でて、少し微笑む。
(こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか……この、懐かしい感じは……)
「俺は感情が壊れている。だがルーシャは壊れていない。思う存分喜んで、怒って、哀しんで、楽しむ人生を生きて欲しい」
人間の感情、喜怒哀楽。それが欠けている俺は、まるでロボットだと。
ルーシャにはあるが、俺には持っていないもの。それだけで、人生の勝ち組なのだ。
感情の無い人生など、何も楽しくなどない。
「……生きる資格を下さったからにはこの命、無駄にはしません。必ず……」
「……有り難う。……ん?」
突然右ポケットが緑色に光だした。
(右ポケット……緑色……依頼か?)
俺は発光しているカードを取りだし、裏を見て確認する。
『シャイヴァールの王、シヴァから街の安全を確保。至急今すぐに外へ出ろ』
「シャイヴァールとはなんだ?」
「この国の隣にある魔導師の国よ。その王が此処に近づいて来てるって事よ」
ドアからケイトが顔をだす。
「それより仕事でしょ?私の固有魔法で感じるけど、大分ヤバい感じがするから、直ぐに行った方がいいわ」
「……分かった。ルーシャを頼む」
「頼まれた。信用してくれて嬉しいわ」
一階にでて、違和感を感じた。
外の声が何も聞こえない。
俺はすぐ外に出て、周囲を見渡す。
(人がやけに少ないな……しかも男だけ……なるほど、コイツらは全員俺と同じで呼び出されたヤツらか……)
「そこの兄ちゃん、こっちだ」
後ろを振り向くと、集会所の案内をしてくれた巨漢の男が身を潜めて座っていた。
俺はその方向へと足を向けた。
だが、
「『三叉槍』!!」
振り向いた刹那、僅かに右へ槍が過ぎて往く。
「そこか!」
位置を逆算して発砲。
するとガキィンという弾いた音が鳴り響く。
「流石だな、狂戦士」
「……!?まさか……その呼び方は……!?」
「そのまさかだ。久しぶりだな、ライム」
街の入り口に立つ槍兵。見間違える筈がない。鎧は少し違えど、その自信満々な面構え、キザな出迎え方。
かつて『一閃』呼ばれた槍兵、ザクロが立っていた____
ネタみたいな回になってすまんなって思いました。
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