ゲームエンド→堕天の兆し
死
体力は、空腹度や疲労度という隠しパラメーターによって激しく変動する。
瀕死状態になると、頭の上に赤のマークが出現、点滅する。その点滅が無くなり常に表示状態になると死亡となる。
ゲームという性質上死体は残らず、一定時間経つと消滅してしまう。
だが、死亡者が身に付けていた物一つだけは消滅せずに残る。
「3体討伐で1500円……か。たがが蜘蛛討伐でこれだけでるなら、確かにおすすめの職なのも納得だ」
俺は集会所に行ったのち、ルーシャの買った服屋に来ていた。
他の人はいない。言ってはならないが、売れていない店と言えるだろう。
俺たちはレジに立つ店員ケイトと話をしていた。
「そうでしょう?これで私を貴方の仲間と認めて下さりました?」
「……いいだろう。だが、何かあったら承知しないぞ」
睨みつけて威嚇する。
効果はあるのかは知らないが。
「前から気になってたんですけど私、そんなに信用できない人なのですか?」
「初対面の人は信用するな。これが基本だ。」
「じゃあご主人様は信じてはけない……?」
後ろに居たルーシャが此方を見つめてくる。
「確かにそうだな。だが、俺が一度でもルーシャに迷惑な事をした時があったか?」
「……無いです」
「信用するしないは自分の判断だ。今ここでルーシャが嫌だというのなら、俺の元を離れても何も言わない。これからは自分の意思の結果に従え。他人を気にするな」
俺が生きてきた中で、他人に流されて突っ込んでいき、何人死んだか分からない。
大人数での突撃は状況打破を目的だが、失敗と成功で得るのは仲間の死だけ。即ち作戦失敗にもなりかねない。
自分の意思は、身を守る事さえもある重要な選択だ。
「……はい。記憶しました」
「ここまで奴隷と仲がいい二人は初めて見ました。凄いですね」
「もうルーシャは奴隷じゃない。人間としては半人前にもなっていないが、それは俺が父親代わりにでもなって生き方を教えてやる」
戦争の前で生きてきた暮らしと知識、戦争の中で得た暮らしと知識。生き方を教えるのには十分だ。だが、自覚するほどに他の一般人と考えがかけ離れている。だから、
「ルーシャは俺とは違う。感情豊かに生きてほしい。それだけだ」
「貴方は確かに大人の顔と体を持っている。でも貴方もまだ子どもでしょう?よく人生を知り尽くしてるのね」
ケイトは店に客が居ないのを見て、俺達を店の裏の休憩室に案内した。
立ち話だったから気を使ってくれたのだろう。
コーヒーも注いでくれている。
「俺をその辺の人間と一緒にして貰われると困る。俺の過去はお前達が思っている以上に、長い年月と過酷な日々を送った。ルーシャには負けるかもしれないがな」
「私よりいい大人してますわね、貴方。はい、コーヒー。砂糖も置いておくわ」
コーヒーを二つ置かれる。
ミルクが入ったのがルーシャの分だろう。
「お前はもう少し口調を統一したらどうだ?」
「それは私の個性と捉えて下さい!」
チャリン……
「あ、お客さんが来たみたい。それじゃ、また後で」
ドアの鳴り物が鳴ったのを合図に、ケイトは出ていった。
(この人の作り込み……ここまで過ごしたがやはり、この世界をゲームと思わない方がいい。ゲームはもう終わりだ)
「ご主人様」
ルーシャは目と体を此方に向ける。
真剣な表情、見たことも無い顔だった。
「なんだ?」
「私は今まで、一番使えない奴隷として、多くの雑用、罰を受けてきました。でも……新しいご主人様だけは違った」
「………」
「新しいご主人様は私を助けてくれた……気を失っていた私を、奴隷を助けて下さった」
「………」
俺は何も言わず、ただルーシャの思いを聴く。
これが彼女に与えられた数少ない発言の場だ。
「名前も、服も、食事も、普通の事全部を下さったご主人様に、何かしたい。……でもこの恩は大きすぎて、返せない……」
「………」
「ご主人様は、過去に辛いことが在ったと言った……だからこれからの人生は幸せになって貰いたい……」
真剣な眼に涙を浮かべ、その意思が見て分かるように現れる。
「今度は私がご主人様を助けたい。この命、身体、人権を全て……ご主人様に捧げたい」
「……それがお前の意思か?」
「……はい。私どうなっても構いません。それでご主人様が幸せになるのであれば、それは私の幸せです」
今まで気にしてはいなかったが、聖書にはこう書かれてある。
「全ての人は、同じ権利を持つ。これが奴隷に適用されないのは、奴隷にも権利を持つが、奴隷は全て主人に従うからだ」
だが今のルーシャは奴隷じゃない。一人の一般人だ。
だが全てを捧げるというのは奴隷と同じ。つまり俺がルーシャに何をしようと聖書に違反しない。
「自分の意思の結果に従え。それがお前の望みなら俺は何も口出しはしない。だが、言った事の意味が本当に自分で分かっているのか?」
「勿論です。二言はありません」
(この真剣に俺を見る眼、実によくアイツに似てる……この顔は偽りが無い)
過去にも同じような事を言った年下のアリドがいた。だが人生は短く、俺は他界した。
代わりといったら駄目だが、しかたない。
「……分かった。なら俺に付いて来るがいい」
「……いいんですか?」
「お前の意思に俺は口出しはしないと言っただろう。俺がそれで幸せになるのかは知らないが、害はない」
自分が幸せになる事など考えてもいなかった。
ルーシャが自分の意思で俺を幸せにしたいのであれば、是非俺の事を幸せにしてやってほしい。
そんなルーシャは涙を手で拭い改めて、
「ありがとうございます。これから、よろしくお願いしますね」
と、笑顔で告げる。
その笑顔は耀いていて、俺には眩しかった。
####
この世界に、何があるというのか。
あるのは戦場という夢も希望も無い正真正銘の地獄。
得るものは、何もない。ただ失うだけ。
失った者は絶望し、一生後悔する永い空虚感と絶望。
これを背負って一生を生きていかねばならない。
つまり、
「…この世界に……希望は……ない」
深夜の部屋に一人、一つの無力な声が鳴り響く。
今までみんなの前で堪えて、堪えて、堪えきった結果の末路。
全てがどうでもいい。どうなってもいいと。
ここまでくると、自分がやっている事に良し悪しの判断か無くなり、感情も消え、自分を押さえられなくなる。
それゆえ、泣いている感覚さえも自分には分からない。
「もう……無理だよぉ…」
ライチは泣きながら、共に敵を倒してきた、共に銃の整備をやり合った、共に戦争を無くすと誓った我が身の半身とも呼べる狙撃銃を抱き締める。
こうすればライムを感じられる、こうすればライムと同じ世界を感じる事が出来る。そう信じて。
(…………そうだ)
「これで撃てば……アタシも……ライムと…同じ世界に……」
壁に狙撃銃を押し当て、その銃口を……蟀谷に当てる。
だが手ではトリガーに届かない。だが、足なら届いた。
その目に光は無い。世界を恨む、漆黒の黒。
「みんな…ごめんね……これで……ライムに……」
深夜の暗闇に、一瞬の光と爆音が鳴り響いた____
誤字があるかないか心配毎日の心配
だが確認はしない。しなきゃいけないんですけどね。
明日も23時に更新できそうです。
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