矢と結界
「アタシの……記憶は……ここまで」
およそ10分から15分たっただろう長い話が終わった。
感想というものはなく、思った事もほとんどない。
ライチにしたら過酷で辛い最近の過去。だが俺はそんなものには興味はない。
この話からどんな情報を聞き出せるか、それを期待していた俺の頭はこの話の内容を少し残念に思っている。
だが聞きたい事はゼロではなかった。
「ここまで正確に覚えているとはな、驚きだ。……気になる点があるが……いいか?」
「……うん。出来るだけ……簡潔にね」
(やけに時間を気にしている……気を付けたほうがいいか……?)
「俺はこの世界に来るまでに確かにその二階堂という人物に会った。だが俺は一部を残してその記憶を消されている。お前は……何故覚えている?」
「消されて……ないから。そのまま……執り込まれたからね」
(俺は消されてライチは消されなかった。俺は何か消される様な重大な話でもしていた?それとも……いや、次にいこう)
早くしてくれと言っているのだ。考えるのは後からでもできる。早くしたところで此方には支障はない。
「二階堂の顔は、見てないんだな?」
「……うん。声だけ……だった」
正直もう聞くことがなかった。
疑問に思う事はあるが、どれを問っても恐らくはライチには分からない。
だが、ここまでの話を聞いて一つの仮説が立った。まだ一つ疑問は残っている。
「最初に会った時と今のお前とは違う」
「……?」
「お前にはリリスとライチ、2人の人格が一緒になっていないか?」
目の色が違う事、逃げてもいいという発言。理由としては不十分だが、抗い続けた過去の話を聞いて完全に執り込まれていない可能性も自分の頭の中ではあったのだ。
間違ってても構わない。単なる仮説にすぎないのだから。
「……半分正解。8割はリリス……アタシは……器でしかない。だから……今話せているの……奇跡」
「器だから脳は残っている。つまりライチの記憶自体は、まだ残っているという事か」
「そう。アタシの顔をした……別人。リリスがライチで反応するのも……この口調なのも……脳がアタシの物だから」
だが、それは今ライチの状態で話せるという理由にはなってない。
奇跡。ライチはそう言った。
「ライチに戻ったのはいつだ」
「頭の中のアタシ……外に……出れないかと思って……いつも抗ってる。その思いが……失楽園に戻った後に……通じた」
「……なるほど、大体理解した。……話したい事はそれだけか?」
過去の話を話しただけでは、俺の何故お前が堕天使になってこの世界にきたという疑問が解消されるだけだ。
きっと、他に理由がある。その前置きとして過去の話をした、という事だろう。
「アタシを……殺してほしいの」
「……なに?」
一瞬聞き間違えたのかと思った。いや、聞き間違えたと頭の中では認識した。
「よく理解できなかった。もう一度話してくれないか?」
「アタシを……殺して。躊躇いなんか……いらない」
今度はハッキリ聞こえた。理解もできた。
だが、何故かしっくりこない。
殺すのは容易いことだ。相手が防がない限り、ここで銃を抜いて殺すことが出来るだろう。
だが、何故か納得がいかなかった。
「何故?」
「……野放しにすると……きっとこの世界に……迷惑かけるから。暗殺者とはいえ……他とは違う……堕天使だから」
「……そうだな」
ライチの本心だろう。
迷惑を描けたくないが、身体は言うことを聞かずに動いてしまう。
ライチは、やっぱり姿は違えどライチなのだ。
「弱点は……障害物の無い場所……接近戦……広範囲の攻撃。後は……魔法封じ」
「弱点を自ら……。正気……なんだな?」
「堕天使の時点で……正気じゃない。けど……ライムに……これまで……迷惑掛けてきた……もう掛けさせたくない」
顔色がさらに悪くなっていっている様な気がした。
……時間が……ないのだろう。
背中の垂れていた黒い羽根も、1秒に1mmずつ程のスローペースで大きく広がってきている。
「時間切れ……逃げて……ライ……ム」
直ぐ後ろに走れば街に入れる……が、足が動かなかった。
逃げちゃいけない。逃げちゃいけないと脳より足が訴えかけるのだ。
だが、このまま戦えば死ぬだろう。
誰よりも自分の事を理解してくれた人物が目の前で苦しんでいる。逃げていいわけがない。
(…………そうか)
あることに気付いたのだ。殺してくれと言われて納得がいかない理由。それはライチが、大切な人だから。
殺そうと思えても、頭の何処かは殺しては駄目だと否定していた。それが納得がいかなかった理由だろう。
(こんな感情は……初めてだ。……だが)
そう、今は逃げるしかない。
苦しんでいるライチが目の前にいる。だが助ける事は出来ず、殺すことも出来ない。
今は逃げることが最善の一手なのだ。
「くっ、すまない!」
俺は数m先の街に向かって逃げるように走り出した。
敵に背を向けて逃げることはやってはいけない行為だが、呻き声を挙げ、リリスになっていくライチなど直視したくなかった。
「逃がさない」
「なに!?」
街まで数cmのところ、手を伸ばせば届く距離。
足に、漆黒の黒い羽根が鎖の様に両足を固めた。
「……捕まえた」
雰囲気、声の感じ、比べてみると違うことだらけ。
だが見た目は先程と変わらない。
そこには、堕天使リリスの姿があった。
「弱点晒されちゃったか……なら……今仕留めるまで」
「覚えているのか?さっきまでの内容を」
「何もかも……アタシが怒るくらいにはね!」
叫びと同時に、強く地面を足を踏んだ。
「くぅッ!!」
足に電気が走ったような痛み。だがよろけただけで倒れはしなかった。
「まだ……本調子じゃ……ないな?」
「えぇ……悲しいけど」
(口調もライチとホンの少し離れている……前よりも執り込まれているというのか……)
「もっと長くいたかったけど……さよならね」
黒い翼を大きく広げ、身体から無数の羽根が螺旋状に回転しながら空へ上がり、空中で球体状になって収束する。
そして球体は弾け、そこには一つの弓と一つの矢が、リリスの手に毎堕ちる。
そして告げる。
「『堕ちし翼の翔る楽園(ウィルグ・ルシフル)』!!」
矢に黒き翼が宿り、弦を弾いた。その瞬間、矢は闇が目映いほどに光り、ライムに向かった。
俺は目を瞑り死を悟った__
「『闇夜二灯ル誓いノ上弦(ダークサイド・ディメンション』!!」
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辺りは暗い。目を瞑っているからだ。
風が冷たい。死ぬ直前で身体が恐怖に満ちて感覚が狂っているのだろう。
なら、この触れているのは誰だ?
「ご主人様……ご無事で」
「な………に?」
俺の手を慕うように持ち、黒い翼の堕天使は……そう告げた。
堕ちし翼の翔る楽園 (おちしつばさのかけるらくえん)
闇夜二灯ル誓いノ上弦 (やみよにともるちかいのじょうげん)『い』はひらがなです。
なんかfateみたいだな。しょうがないm(._.)m
後1週間以上無更新ごめんなさい。テストだったんです。そして長めにも書けず……本当にごめんなさい_| ̄|○
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