強化、再開、絶望
昼の12時。
俺はいつ起きるか分からないルーシャの傍にいて12時間が経とうとしていた。
未だに起きる気配は感じられない。
「いつまでこうしている気だ?」
「いつまでも待ってやるつもりではいる。……ルーシャが目を醒ますまでな……」
こんな気分は久しぶりだ。
悲しいと思う事が今までの人生にあまり無かったからだろう。
……いや、違う。自分の感情が壊れていだけで、悲しい事は幾度もあったはずだ。それを今、目で、顔で、身体で悲しみを感じている。
少しずつ人間らしくなっている様な気がした。
「……ザクロ、俺の武器は堕天使と殺り合うには弱すぎる。どうにか出来ないか?」
だが今はその感情を味わう時じゃない。そんな事をしてる暇があったら次はこうやろうと努力する方がよっぽど得策だ。
ルーシャは死んだわけじゃない。寝ているだけだ。そう思って過ごすしかない。
「俺の命令で魔導師達に非魔法適応者でも魔法式で動く魔法武器を造らせてやる。最強が最弱になる姿なんて、俺が見たくねぇからな」
ザクロがいつも見てきたのは常にライムの背中だ。
ザクロはそれを急に追い越せる人物に成り果ててしまうのが嫌なのだ。
「出来れば刀を使いたいがゲームマスターの言う事は絶対だ。今のまま、二丁の銃で頼む」
「俺は帰ってそれを命令、後は俺達も失楽戦争に参戦できる様に軍と話あう」
ザクロはドアから出て、自国へ帰っていった。
どうやって帰るのかは分からないが、今は次逢った時の報告を待つのみだ。
「ライチ……お前は……何がしたいんだ……?」
そういえば昨日、外から突然家へと場所が変わったのは何だったんだろうか?
固有魔法の転移系の魔法と考えるべきか?だが流石にそれは安易すぎる考えだ。
やはり本人に聞くのが一番早いだろう。
(俺はここで何もできない……ザクロが上手くやってくれる事を祈るとするか)
手がかりも何もない場所で色々な事を考えたところで確信できる内容にはならない。
俺は大人しく、もう一度目覚めを待つことにした。
####
さっきいた街、ミッドガルドの横にある代々魔導師が多い国のシャイヴァールに王としてザクロは戻った。
移動手段として、街から一日に2本しかないシャイヴァールを通る車に乗った。
車といえど外国の、しかも車が出来た当初辺りのヨーロッパにありそうな、何処かのテーマパークにありそうなデザインの車に乗った。
「王よ、何をしておられたのですか?」
シャイヴァールの城に入った瞬間、まるで待ち構えていたかの様に城内に立つ神父に再会した。
「友人に逢いに行っていただけだ。それと……騎兵を見殺しにしちまった……すまねぇ」
身分が違えど、たとえ雑兵だったとしても、自分の国の兵士が死んだ。
そんな事をいうととても戦争などできないが、これは戦争じゃない。事後だ。
外に待機させるんじゃなく、中で待機させるべきだった。
「それは仕方ありません。第一に、王の無事が最優先ですから」
「……悔やんでもしかたねぇ。俺が抜けていた間、何か変わった事はあったか?」
「これといって報告する様な事はございません」
そう言うと、立ち話が嫌になったのか城内の奥に向かって神父は歩き始めた。
俺はその後ろを追いながら話を続けた。
「そうか、ならよかった。それで、帰ってきて直ぐ命令するのも何なんだが頼みがある」
「はい。何でしょうか」
「魔導師を集めて、魔法武器を造れねぇか?」
神父の足が止まる。
そして、ゆっくりとにらむ様にも見える横目で、俺を見た。
「……何のために?」
「友人のために、それと、世界を救うためにだ」
「世界を……救う……か」
意味有り気な小さな声を漏らす。
俺はその小さな変化を見逃さなかった。
「何が笑止しい」
「いや、少し昔の事を思い出していただけです。……世界を……救おうとした人を」
神父はどこか懐かしい様な目で一瞬上を見上げた。
そして、俺の儀式の人材確保のために人を集めた時の様に手を前に出し、目を閉じたかと思えば、その手は微かな紫の光が包まれていった。
その手を胸に当てて告げる。
「魔導研究員よ、手の空いている者は工房室へと向かえ。これは王の命だ」
「……悪いな」
「いえ、王の為さる事ならば構いません。世界を救うのならば、私も賛成です。では、私はこれで」
神父はそう言い、今歩いてきた廊下を逆戻りしていった。
そして俺はその逆、今歩いてきた廊下のさらに進んだところにある工房室に向かった。
♯♯♯♯
「御待ちしておりました、王よ。此処に呼んだという事は、何かの研究や開発でしょうか?」
工房室に入ると、10人ちょっとの魔導研究員が集まっていた。
医者の様な白衣の人、防具の様なローブを羽織っている人といい様々な人が集まっているのだろう。
「急に呼び出したりして悪ぃな。此処に集まってもらったのは、魔法武器を造って貰おうと思ったからだ」
「魔法武器……ですか。王はご自身の武器や防具があるのですから、何のためにですか?」
「堕天使……いや、魔法に対抗する武器が欲しいんだ。俺の武器じゃなく、俺の友人に」
この言葉を言った途端、部屋がざわめいた。
「友人に武器を……?武器は人に合ったものでないと、費用が無駄になります。その友人に来て貰わないと、我々は造るに造れません」
「……なら、俺基準で作ってくれ。アイツならどんな武器でも扱える」
「で、でも」
「費用がもし無駄になるんだったら俺が払うから、何とか頼む」
俺は頭を下げた。その行動に、またもや部屋中がざわめく。
王に頭を下げさせたと思っているからだろう。
「頭を下げないで下さい!分かりました、造ります!我々の力、見ててくださいよ!」
「あぁ、よろしく頼む!」
俺は差し出された手を握って、握手を交わす。
相手の手の握る力は力強く、期待できそうな気がした。
この握手を済んだ後、残りの魔導研究員は奥のドアから研究室へと進んでいった。
この部屋に残ったのは俺と握手をした魔導研究員の二人。
「それではさっそく始めます。……とはいえ王クラスにもなると、自分達は出来る限りの魔力を詰めて調合するだけなんですけどね。その友人さんは魔法使いですか?」
「いや、違う。序でに言っておくが、俺が望むのは二丁の銃タイプだ。魔法使いとも殺り合えるな」
魔導研究員は持っていたボードに何かを書き出す。
大よそ、今言っている内容をメモしているだけだろう。
「なるほど……威力があって二丁タイプのハンドガン……。我々はハンドガンを造った事がありませんから、結果がどうなるかは分かりません。善処を尽くします」
「それと、一ついいか?」
「はい、なんでしょう。…………はい……はい…………分かりました。それもやってみます」
俺はもう一つ武器の製造を頼むと、それをメモした後、この魔導研究員も奥のドアへと進んで横の実験室へと向かった。
実験室はこの部屋の横にガラス張りをされていて、両部屋双方から窓越しに見える様になっている。
俺はそこで見守るように眺めている事にした。
####
「もう2時か……早いな」
何もしていない時間だけが過ぎていく。
だが今は仕方がないと自分に言い聞かせ、この部屋にずっと座り続ける。
(……そういえば)
今までルーシャの事しか考えてこなかったが部屋をよく見てみると、あの例の本が机の隅に置かれていた。
この様な何もする事がない時にでも読んでおいた方が効率がいいものを自分は見落としていた。
(これでも読むか…………ん?)
ポケットから緑ではなく、黄色の光が輝きだす。
(なんだ……?)
恐る恐るポケットから取り出してみると、任務ではなく俺に用がある内容だった。
『依頼人が集会所に。直ちに集会所に参れ』
直ちに参れという事は今すぐにこうという事。つまりルーシャを一人にするという事だ。
仕方ないが仕事中のケイトに任せるしかない。レジの横にでも寝かせてもらうとしよう。
俺はルーシャを抱いて、部屋を後にした。
(肩甲骨か……この固い突起は。持つ場所を間違えたな)
そう思いながら階段を下りると、ケイトの声が聞こえた。
「ありがとうございました」
どうやら接客は終わり、店から出て行った様だ。
「今いいか?」
「いいけど、どうしたの?」
「急用ができた。俺が戻るまで、レジの横でもいいからルーシャを寝かせてやってくれないか?」
「いいわ、任された。で、どこに行くの?」
俺はルーシャをケイトの腕の方に差し出し、ケイトはそれをお姫様抱っこで抱いた。
「集会所だ。依頼人か何だかしらないが、直ちに来るようにと言われた」
「そう、じゃあ行ってらっしゃい」
俺は店からでて、小走りで集会所へと向かった。
今日の街はいつも以上に賑やかで活気があった。それがあってか、人を避けて通るのに苦労しながら大通りを進んでいく。
大きな荷物を担ぐ人、店に呼びかけをする人、奴隷を連れている人、遠くの方を見ると奴隷の売買も行われているのも見える。
街を見ながら、色々な事を思いながらもいつもより少し遅い時間を掛けて集会所に到着した。
すぐさまカウンターへ行く。
「ライムだ。俺に依頼人が来ていると言っていたが」
「ライム様ですね……はい、では案内します。ここ少しでお待ちください」
係員は退席し、別の係員と交代した。
恐らく呼びに行ったのだろう。
(今日はあまり人がいないな……こういう日もあるのか……)
そんな事を思いながら待つ事数分、依頼人が姿を現した。
「や、久しぶり」
「……!お前は」
「覚えてる?名前」
赤色の目に赤色の髪のローブの魔術師。ローブを被っていたが間違いない。この少女は。
「依頼人はカナロアだったのか。久しぶりだな」
「ビンゴ!もう一度会えないかなって思ってね」
水の中から突然現れて、水の中に消えた魔術師。
次に会う事すら困難だろうとは俺も思っていた。
「で、依頼というからには何かあるんだろう?」
「街の外に用があるんだ。そこで話すよ」
俺とカナロアは集会所を後にして、街の外へと向かった。
####
俺達は、出会って別れてからお互い何をしていたのか、普段分からない外の話を聞きながらライムと話した事のある方向から街を出た。
「依頼はなんだ。出来るだけ手早く済ませたい」
「さっき、いつの間にか家の中に居たって話してくれたよね」
「あぁ。それがどうかしたか?」
「それ、違うよ」
出会った時、再会した時とは違う雰囲気が漂っている気がした。
「……どういう事だ」
カナロアは身体の向きを変えずに後ろに居る俺の方に振り向いた。
「サキュバスって知ってるよね?」
「……?眠っている時に人の夢の……中……に………!!」
俺は目を見開いた。
そう、あの時の違和感の謎が分かった。
……ライムは……サキュバスの堕天使だったという事が。
だが、一つ疑問が残る。
「カナロア、何故俺に気付かせる様な問いかけをした」
「それはね……」
被っていたローブを脱いで、全身で振り返った。
「アタシは……ライチだからだよ」
俺は、刹那の速さで銃に手を掛けた____
すぐ書き終わってから直ぐの更新なので誤字脱字はすみませんm(._.)m最近こんなのばっかなんで気を付けます。
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