夢想の悪魔
少しの間、前書きコーナーは閉鎖します。
9/28追記:固有魔法を固有能力へと修正しました。
夜中。俺は眠いのに何故か眠れなかった。
目が冴えている感覚、目に違和感があるとかそういう理由も全く無いのだ。
だがそれとは対照的に、俺の横で寝ているルーシャを見ていると、ぐっすり寝ているようだ。
何の不安も抱えていなさそうな自然な寝顔だった。
(身体にも違和感は無い……。この調子だと夜通しコースだな……)
目の前の時計を見ると深夜2時を指している。
時計を見ると同時に、部屋の電気を消し忘れていた事にも気付いた。
寝れないため、このままベッドに横になっていても時間の無駄だと思い、ルーシャを起こさないようにゆっくりとベッドから降りる。
(ベッドからでてもやる事なんて無いが……何もしないよりはマシだろう)
ケイトから借りた店の服から、いつもの制服に着替えてついでに部屋の電気も消してから部屋を出る。
ケイトやザクロを起こさないようにゆっくり階段を降り、店の玄関にザクロがいるはずなので裏口から外へ出た。
(こんな夜中の散歩は初めてだがちょうど良い。昨日行っていない場所を通るとするか……)
外へでて見ると、いつもの昼の賑わいが嘘の様に思えるほど、人はかなり少なくなっていた。
少し歩いたところの大通りにも人は数えるほどしかいない。
夜間営業が盛んになっていないのか、周りの数ある店から電気が照っている店は一つもなかった。
あるのは街灯だけ。
その街灯と街灯の間の大通りををどんどん歩いていくと、道に数えるほどしかいない人のほとんどが運び屋らしい人で、見ている限り人の横には荷台かこの街に入る前に見た自動車がある共通点に気付いた。
自動車は確かに昼には走れない、夜間に移動するのは納得できる。
そう思いながら進んでいき、昨日素通りした右横の道に足を踏み入れる。
大通りと余り変わらない道をかなりの時間進んでいくと、どこからか何か違和感を感じてきた。
(暗くて余り分からないが……住宅街か……?)
店には基本、この様な店だという店のデザインやマークがついていたがそれが無い。
つまりこの街の住民の家だろう。それと同時にこのまま道を歩いて行っても何もないだけだと思い、引き返すことにした。
また長い道を歩くことになるのだが、散歩としてきている以上しょうがない。
そして振り返るその瞬間だった。
「……また……逢ったね……」
闇夜に同化して見え辛いが、黒い漆黒の羽と何度も見たその幼くも無いが大人でもない中学生くらいの顔、改めて見ると露出が多い衣装のような服の少女が立っていた。
……堕天使ライチが。
(ポケットが緑に光らない……。堕天使だぞ……?)
「この街の結界すり抜けるの……案外簡単だった。一人だったから……位置も特定しやすかった」
「……この前の戦闘でも気配があるのに攻撃が絣もしなかった。……そして今の街の結界とやらを越える物……ステルスか何かか?」
堕天使が入ってこない理由として街に結界の様な物が張られてる事は薄々気付いてはいたが、どうやら本当の様らしい。
それを越える力……恐らくこれがライチの固有能力なのだろう。
「凄い……当たりだよ」
「俺に何の用だ?お前とはもう殺り合いたくはない。引いて貰えないか?」
「戦うつもりはアタシにもない。……アタシと……契約をしてくれれば……いい」
そういえばライチはずっと立ってるだけで、殺気も何も感じない。
俺だけが警戒していた様だ。
「その契約とやらが分からない。何を契約するかは分からないが、どんな内容であれ、堕天使と契約など出来ない」
「契約……アタシがライムの……使い魔に……なる」
「……は?」
「ライムが主で……アタシが召し使い。……どう?悪い話じゃない」
(油断などという意味の無い事くらい、アイツも分かっているはず…)
散々アイツには戦術の掟や人との関わり方を教えてきたつもりだ。しかもこの俺に油断させようなど、アイツには無理な話だろう。
「……?……何?」
考えていると、突然さっきまでとは違う、信じられないというライチの顔が暗くてもハッキリ分かった。
「……何なの?あの娘……」
「……あの娘?」
「ねぇ……ライムの横に寝てる女の子……だぁれ?」
(俺の横に寝てる……?俺は今起きて……いや違う、ルーシャの事か!)
「俺の……引き取った孤児だ」
すると信じられないという顔がだんだん真顔に変化していった。
俺は感じた、何かがヤバイと。
「助けたのは分かるけど……なんで一緒に寝てるの?」
「俺の寝てる間にアイツが潜り込んできた。それだけだ」
「……その娘。なんでライムにデレデレしてるの?アタシだって一緒に寝たことないのになんでもうアタシのしてない事やってるの?おかしくない?ねぇ、おかしいよね?」
この表現が恐らく分かりやすいだろう。ライチの目に、ハイライトが無い。
完全に壊れている。
だが俺にはする事がない。黙って見ることしか出来ないのだ。
「汚物は消えて貰うしかない。……契約はその後だね」
「なに!?」
俺は瞬きをした瞬間、強烈な目眩を襲った。
その瞳に映ったのは、部屋の天井だった__
####
「ライチ!!」
俺はベッドから飛び起きて、ルーシャの上に乗る不適な笑みのライチに飛び掛かる。
黒い羽根が飛び散り、お互いベッドから落ちた。
「ライムがアタシの上に強引に……フフ」
「ルーシャに何をした!?」
「今のところはまだ何もしてな………何の……つもり?」
俺は銃を額に当て、完全にライチをロックした。
「気が変わった。……もうお前はライチとは思わない」
「魔法使いと一般人じゃ……勝ち目……見えてるのに」
そう聞こえた後、横の黒い羽根が動いているのを横目で確認した。
そして………一閃。
羽根が光の速さで俺に刃物の様な鋭さで向かうのを掠り傷で避ける。
「甘い……すぐ撃てば……死んでたのに」
俺自身の私情が招いたミス。
心の奥では倒したくないという思いが表れているに他ならない。
「ルーシャちゃんって言うんだ。…………染めちゃお」
ルーシャに近づき、頭に手を当てる様な腕の持っていき方を見た瞬間、俺は発砲した。
だが、
「だから……魔法使いと一般人じゃ……無理」
ほぼ零距離で放たれた銃弾は、黒い羽根で創られた壁によって防がれた。
「なに!?」
「魔法使いに効く銃弾じゃないと……戦えないよ?」
黒い羽根の壁が一斉に崩れて、地面に落ちた羽根はライチの服の一部に戻っていった。
「ルーシャは直に堕天して……堕天使になる。この壁を突破できなければね」
不適な笑みのままのライチの手は、ルーシャの頭上で黒く煌めいていた。
絶望的。為す術もなかった。
この声が聞こえるまでは。
「伏せろ!!」
俺はドアから離れ、閃光の様に輝く槍の一閃の通り道を創った。
「『三叉槍』!!!」
黒の羽根で出来た壁は一瞬で焼け落ち、部屋を貫通した。
だが貫通した槍の先に、肝心のライチはいなかった。
「暗殺者!!何処だ!?」
「ザクロだね……久しぶり」
地面に散らかっていた黒の羽根の水溜まりの様な場所から、転送魔法の様にライチは姿を現した。
そして直ぐ、ルーシャの頭上に手を翳す。
「半分までしか出来なかったけど……これはこれで倒しがいがあるかな……」
「ライチ……お前も……!?」
「ザクロ……助けられなくて……ごめんなさい」
そういうと、槍で穴が開いた部屋から翼を広げて去っていった。
追いかけようと思ったがこの暗闇だ。まともには戦えないだろう。
「……ルーシャ!!」
狭い部屋だが、ルーシャの場所まで走って近付き、大丈夫かどうかを確かめる。
大丈夫であってくれ。そう願うしかない。
「…………」
(……寝ている?)
気絶してる様には見えず、寝ている様にしか見えない。
呼吸も安定しているし、恐らくそうだと思いたい。
だが、その思いは打ち砕かれた。
「……うっ!?……あぁ……うぅ……」
ルーシャが悪夢を見始めたのか、急激に顔が魘されている顔になった。
魘されてと言っていいのか分からない程の唸り声としかめ顔。
ただ、見守るしかなかった。
「狂戦士という名はもう古いかもしれんな。ライム」
「何が言いたい?」
「人に対して感情を持たない無慈悲な戦士だから狂戦士と呼ばれていたお前が今ではこれだ。……どうなるんだろうな」
「今は、そんな事を言ってる場合じゃない」
ザクロはルーシャと会ってからの俺は変わったと言いたいのだろう。
変わったからこそ、ルーシャを大切にしたいという気持ちがあるのだ。
昔には無かった、この感情が。
「ご主……人……あぁぁぁ!!」
俺はこんなルーシャを夢から覚めるまで手を握って待つ事にした。
目が覚めたルーシャが安心できる様にと__
突然外からベッドに移った理由はちゃんと説明します。分かってる人もいるかもしれませんけど……
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