過去の彼女と未来の少女
補助魔法と強化魔法
補助魔法は自分の周囲にいる人間にのみ強化が適用される主に見方の補助をする魔法。見方を有利にする事をバフといい、敵を弱体化させるのはデバフという。
基本的には魔力が向上したり、防御力が向上したりと、その他色々な補助魔法がある。
範囲と効力は発動した魔法使いの魔力量によって左右される。魔力量が多いと、範囲も効力も上がるが、範囲内に相手がいると、敵にもバフが掛かるので、前線ではより有能な魔法使いはデバフを撒くことになる。
バフを自身にのみ適用する場合は、より強化の効力が高まる。これを強化魔法という。
自身に適用する関係上、デバフは存在しない。
「ねぇ……こっち……よく見て?」
俺は暗殺者に背中を向けたまま、横目で後ろを見る。
本気で見てはいけない、そう悟った。
なぜなら横目で自分の目を疑ったからだ。堕天使の翼、それが見えた気がした。
「……お前の……名は?」
「アタシは……堕天使……リリス・フォール。……でも……この名前の方がいいよね」
(……やめろ)
「ライムの師匠で……妹で……いいなりの奴隷……」
(……やめてくれ)
「アタシの名は……ライチ」
刹那、銃を抜いて振り向き……
発砲。
「ライチ!!何故ここにいる!?」
「……死んだから……だよ」
俺は歯を食い縛り、いつものトーンで続ける。
「2㎞先から撃てるやつが、そう簡単には死なない。……自慢じゃないが、俺が鍛えたやつが死ぬはずがない」
「アタシは……倒されたんじゃない。自分でやった……それだけ」
「なっ!?」
(自分で……やった?それはつまり……)
「自…殺……だと!?」
たどり着いたその答えは自分の耳と目と脳を否定した。
「ホントだよ……だからアタシ……死ぬ前に言った。ゴメンって。約束守れなくて……ゴメンね……って」
「死ぬなとは言った、だが!こんな結末の死は許していない!」
「アタシも死んだらライムと同じ場所に逝ける。そう思ってここまできた」
「俺なんかより、国の為に戦え!俺はそう言ってきたはずだ!」
「その約束、アタシは守ったことない!」
そう、ライチが唯一守らなかった言いつけ、それは
『国の為に戦え、犠牲は割りきって、勝つことだけを頭に入れろ』
と。
ライチは常に勝つことより大切な人を失うほうが嫌だと言う度に返すほど、この教えを頑なに聞かなかった。
「アタシはライムと居ればいい……ライムと居れば……どんな結末だって受け入れるよ」
「……それで…俺をどうする」
「アタシはもう一度……ライムの物になりたい……だから……アタシと……契約……して?」
「……契…約?」
ライチは此方へと近寄ってくる。
俺は当然後ずさりして、街の入り口で止まる。
街に入るとコイツが何をしでかすか分からないからだ。
「契約……知らない?アタシが遣い魔になって……ライムと一緒に過ごすの」
「堕天使の言うことは……聞けないな」
「堕天使……?アタシが堕天使とか…普通の人間だとか……関係ない。アタシはライムの隣に居たいだけ」
俺は少しづつ街のゲートから横にズレるように歩き、背中は何もない原っぱに移動した。
それに比例してライチも僅か距離約30㎝を満たない距離でさらに俺に近づく。
(落ち着け、冷静になれ。熱探知をすれば嘘かホントかは分かる……が)
「今のお前の鼓動を見ても……嘘か本当か分からないな…」
「……?何の……話?」
俺は銃をもう一度ライチに突き出す。
今度は銃口を腹に当て、絶対に外さないように。
「……聞いて……くれないんだね」
「お前は俺の知っているライチとは違う。出直してこい」
耳元で言った。
できれば殺したくない、そういう意味を込めて。
「……いいよ」
「なに?」
「殺して……いいよ。ライムが望むなら……アタシはそれを……受け入れる」
「……」
(俺は……。俺は、どっちを望んでいるんだ?)
『戦場に私情は禁物だ』
今は戦場じゃない。人間的に壊れた二人がいるだけ。
『敵は殺せ、見方は助けろ』
今は敵。だが……昔、共に歩んできた正真正銘の仲間。
『倒せる敵は一撃で仕留めろ』
仕留められる、だが!!
「……帰れ」
「……」
「俺はお前を殺せないし殺さない。だが、仲間にもしない」
銃を下げ、街の方へ身体を向ける。
「……自分の言いつけを……自分で破るの?」
「お前を信用したいが、今は敵だ。俺の事をどれだけ大切に思っていようが、今は信じられない」
「……そう…なんだ」
悲しい声の主に、俺は顔を向けずに街へと歩いていく。
ライチも俺の身体からどんどん離れていき、次第に距離は5mくらいにまで離れる。
そして、街の前で立ち止まる。
「また直ぐに……逢に往くから」
「……勘違いするな。俺は、お前を嫌ったわけじゃない」
俺はそう言い残し、街へ再び足を踏み入れる
感動の再開は悲劇の再開へと姿を変え、両者の心に傷を負わせた。
(俺は……甘い人間だな。自分で言ったことを自分で破り、その上殺せる堕天使を殺さないとは…)
自分は今で最強と称されて生きてきたが、所詮それは外。物理的な強さだけを評価されていた。
そして今ようやく気付いた。
自分は、半端者なのだと____
####
「おかえり、どうだった?……って無視するな!」
家……いや、店に戻った俺は、ケイトの言葉も無視して真っ先に借りている自室に向かう。
何もやる気が起きない。
部屋に入ると真っ先にベッドに腰を掛け、何も考えずに、一人暗い部屋でルーシャの帰りを待つことにした。
「入るぞ」
部屋に入って数秒後、ザクロが部屋に入ってきた。
薄暗くてよく見えないが、何か言いたそうな顔は辛うじて確認できた。
「お前、『刹那の果実』を知ってるか?」
「いや、知らないな。それがどうした?」
「これをお前にやる。どうするかは、お前が決めろ。」
懐から何やら本を差し出し、それを受け取る。
顔の確認は出来たが、この本の表紙に何が書かれているかは分からなかった。
俺は後で確認しようと、横の机に置いた。それを見てザクロは部屋から早々と出ようとする。
「何があったかは聞かないが、いい顔じゃないな」
「……そうだな」
「まぁいい。それと確認だ。ルーシャ、アイツ何者だ」
何か警戒している様な口ぶり。
俺は何もも知らないため、こう返すしかない。
「知らないな。俺が知る限り、ただの人間だ」
「……剣の腕前はそこそこだが、あの強化魔法……初級の強化量じゃねぇ。明らかに桁が違う」
「……なるほど。注意しておく」
そう言うと、ザクロは部屋から去っていった。
普通にしていたつもりだったが、かなり体力を使ったらしい。
それほど、ついさっきの事が衝撃だったのだと実感する。
(一眠りでもするか……)
そう思った時にはもう座ったまま、深い眠りに落ちていた。
####
「……様。…主人様」
「……ん?」
何か、誰かが俺を呼んでいる。
この声は……?
「あ、ご主人様。どうかされましたか?ベッドに座ったまm……え?」
「……ラ……イチ?」
俺はライチの両肩を持ち、地面に膝をついた。
そして俺の顔には、何故か今まで流れた事がない涙が浮かんだ。
目のには、堕天使じゃない、俺の知っているライチが立っていた。
「あの、ちょ!?ご主人様!!?」
「…………すまなかった」
「え?」
「俺が死ななければ……お前をこんな事には……」
本当は分かっている。ルーシャだと。
ルーシャを助けた事、ルーシャに付いてこいと言ったこと、全てが全てライチにやったことと同じだ。
そして俺は同時に悟った。
ルーシャをこんなにも可愛がってしまうのは、恐らくライチにルーシャを重ねているからだと。
「ご主人様……私……知ってます」
ルーシャは包み込むように、そっと頭の後ろに手を回した。
「ザクロさんに聞きました。ご主人様は、この世界に来るまでは最強の兵士だった事、過去に何があったのかも、簡単ですが全て教えてもらいました」
無心の俺に続けて言葉を囁かれる。
「……私なんかより、酷い。私は肉体的には辛かったですけど、ご主人様は……精神的にも肉体的にも、私よりもずっと過酷です」
「……」
「どんなに辛くても一人で解決しないで、私に話して下さい。私達は、今を生きるしかないんです。過去を悔やんでも仕方ありません」
「……お前と……同じ様な奴がいたんだ。……だから……お前はその代わりとしてここまで来させたのかもしれない……本当に……すまない」
涙が溢れそうになる。
俺は死んだ事を後悔していないと思っていたが、知らぬ間にルーシャに過去の日常を投影していた。
ルーシャの意思があったのは事実だが、そう思わせたのは俺だ。
自分は二人の人生を狂わせた悪人だ。
「……代わりでも……構いません。……どんな形であれ、私はあの時、助けられたんですから……」
「……!」
「ご主人様は神様です。……だから私は恩を返したかった。でも奴隷の私に返せるものなんてなかった。だから身体を、人権さえもご主人様に捧げたんです」
ルーシャの言葉が胸に突き刺さる。
俺は狂わせたんじゃない。変えたのだと。
主張権の無い奴隷から、意思のある一人の人間へと。
「俺は……お前に悪い事をしたか?」
「逆です、良いことしかしてません。ご主人様は世界一頼れる人であり、人生の指導者です。……これからも、ずっと」
勘違いしていた。自分は悪人だと。
だがそれは違う。今こうして言ってくれている言葉に嘘は無い。自分のエゴで助けた少女が、こんなにもキラキラしているのだから。
「……これからも……付いてきてくれるか?」
「死んでも追いかけます」
「……傍にいて……いいか?」
「私から傍に行きます」
全て躊躇いの無い即答。
答えはもう既にでていたのだ。最初から。
「……ありがとう。……俺は……もう、一人じゃない」
俺はいつもの調子で堂々と顔を上げ、ルーシャを見る。
ルーシャはルーシャだ。ライチとは違う、別の存在。
「これからも……よろしくお願いしますね」
返ってきたのは、やはり笑顔だった。
久しぶりっていうのが当たり前になってきてしまいましたね。
すぐ書いての更新なので誤字あればすみません。
やって刹那の果実がでてきて自分も安心してます。
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