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六話

 帆船から垂らされた網を、手漕ぎ船に乗っていた男たちが登っていた。


「ネード商会所属、ヴェイス号船長、セアクマだ。救助感謝する」

「マクシーだ。この船の船長をしている。なあに困った時はお互いさまさ」


 セアクマと名乗る男は、昨日アンドゥに襲われ奪われた船の船長だ。

 セアクマたちは昨日船を奪われたあと、手漕ぎ船を漕ぎ、運良く辿り着けた岩場で一夜を過ごし、今日も陸地を目指して北へ船を漕いでいると通りかかった船に救助されたのであった。


「マクシー殿といったか。運び屋としてその名を聞いた事がある」

「ネード商会の船長に知られとるたぁ、俺もそこそこ有名になったかなあ」


 互いの船長はがっしりと握手を交わした。


「軽く報告を聞いたが、海賊が出たんだったな」

「俺も長年この海域を渡って来たが、あんな意味不明な海賊は初めてだ」

「おう、その話は後で詳しく聞かせてくれや。片隅で悪いが休める場所を確保した」


 フリーランスの運び屋であるマクシーは、乗り込んで来たセアクマの所の乗組員たちを見て、休憩を勧めた。



 しばらく時が経ち、互いに船長と航海士を交えての話し合いが開始された。

 助けられた恩義からかセアクマたちは、起こった出来事全てを包み隠さず告げるのであった。


「では何か。本当に子ども一人に船を奪われたってのか」

「今思えば子どもかどうかは分からん。背が異様に低いだけの大人、みたいなもんかもしれん。だが……」

「ああ、仮に仮に一人で船を奪えたとしても、一人じゃ船は動かせん。と言うか今の話、上にはどう伝えるんだ。正気を疑われるぞ」

「……信じてくれるのか? こんな荒唐無稽な話を」


 第三者にとってセアクマたちの話は、疑わしいものであったのは間違いない事であったが、マクシーは信じ、また今後のセアクマたちの心配をするのであった。


「海は広い。ときどき突飛な話を耳にする事もある。それらに比べたら、まだ信憑性があるし、それに、お前さんらが嘘を吐いているように見えん。それだけだ」


 腕っ節逞しいマクシーであった。



 その日の夜。停泊中の船の船長室。

 マクシーは船長室に置いている少しいい酒を飲んでいた。その顔は昼間とは系統が違う表情をしていた。


「ふっふ。これでネード商会に恩が売れる。中々いい拾いものだったな」


 フリーランスな運び屋は、新たな飯の種にほくそ笑むのであった。


「しっかし、一人のガキにやられたって。ふんっ、笑わせる。もう少しましな嘘つけってんだ。腹が捩れて計画が台無しになるところだったぜ」


 マクシーはセアクマたちの話を本当の意味では信じていなかった。それはそうだ、そんな事普通に正気を疑われる。何かしらの理由があって口裏を合わせている、そうマクシーは睨んでいるようだった。


「まあいい、この借りはでけぇ。精々むしり取ってやるぜ」


 そう、グラスを傾けつつ呟くマクシーの顔は、ひどく歪んでいた。





 その頃アンドゥは、机に向かって手を動かしていた。早速文字の勉強が開始されたのだ。


「オプトレアさんは、この文字が使われている言語名をご存じないそうですが」

「うん。普通に喋ってるけど、なんて名前がついてるか知らないんだ」


 アンドゥは手を止めるチャンスとばかりに話し始めた。


「前にも言ったけど、このラルガ海には大きく三つの言葉があるんだ。一つは俺が話してる、これ。あとはラルガ海の東西にある大陸で使われてる言葉。俺たちは東大陸語、西大陸語って呼んでる。俺が話してるこれは、海に浮かんでる島の大体で通じるかな。でも、大陸が近くなると通じない人が多くなるって話を聞いた事がある。それでフィアさん、これはどういった話なの?」

「はい。名称がないというのは意外と使い難いものです。ですので、とりあえずの仮称を付けないかという提案です」

「えー、そんなのなんでもいいじゃん」


 今回の提案事には関心がないのか、アンドゥはテキトーに返した。


「――そうですか。ではこれからこの言語は私が割り振ったコード、九一三七一‐一三三と呼ばせて頂きます」

「考えさせてください!」


 なんという変わり身の早さだろう。先程まで眠たそうにしていた目は見開かれ、椅子から立ち上がり強く宣言するアンドゥであった。




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