五話
船の検分を終えた二人は、第一格納庫に壁沿いにぽつんと置いてあるユニットハウスに入った。
ハウスの中は机やフィア用の機器が多く設置されていた。
「では作戦会議を始めます」
二人は机を挟んで対面に座ると、アンドゥが会議の開始を宣言した。
「えっと、まずは現状を。我々は先の作戦で帆船一隻の鹵獲に成功。鹵獲した船はこの施設から北西方面にあるタスピモウス船籍。純粋な商船ではないが、外洋上では最も一般的な武装可能なものであった」
これまで船を転々として得た、船上での大人たちのやり取り調に何とか報告を上げているアンドゥ。
「計画一段階目、情報収集。技術水準をはかるための船の標本集め。一つ、商船。二つ、移乗攻撃用軍艦。三つ、砲撃用軍艦。四つ、最新鋭艦。五つ、純粋商船。一項目めの商船の鹵獲は完了済み。四、五項目はできたら。それで第二段階目へだ」
目的と現状の進捗度の確認をし、次の標的を宣言した。
「次は軍艦。これを鹵獲を狙う」
「軍艦ですか。どこの国を標的にしますか? 近いのは北側のタスピモウスとコーリカム国が近いですが」
「うーん。俺も軍関係はあまり知らないんだよなぁ。乗った事もないし」
頬に人差し指を置いて、困ったような仕草をした。
「でしたら先に偵察がいいでしょう。殆どの偵察機材の施設外への持ち出しはアズヤード様から許可は出ていませんが、擬体と潜水艇は自由に運用可能です」
「そうだね。どちらの国の海軍も、強いという話は聞いた事ないけど流石に商船と同じように考えては駄目だよね」
次の標的は軍艦。つまりこれは国家への明確な敵対行為。市井の商船を襲うのとはわけが違った。だが計画実現に邁進するアンドゥにとっては、必要な工程として考えないようにしている風だった。
「軍の維持には多額の資金が伴う、らしい。だからタスピモウスとコーリカム国から一隻ずつ頂こうと思う」
「了解しました。では、どちらの国から偵察に行きますか?」
フィアがコンソールを操作すると、机の上に近隣海域の地図が投影された。それは手書きで書かれたものとは一線を画した緻密なものだった。
「タスピモウスの主な島は二つ。コーリカム国は一つ。三島の内でこの場所から一番近いのが、タスピモウスで二番目に広い島です」
「二番目と言っても随分小さいなあ」
「本島の大体四分の一です。本島同士の場合は、コーリカム国の方が二倍ほど大きく、陸地面積では大凡五対八となっています」
「小国同士と言っても、そう聞くと結構国力差あるっぽな。軍艦は多分砲撃用の方が高いから、それはコーリカム国から頂こうかな」
俯瞰的に見ると浮かび上がって来た差に、案を少し詰めるのであった。
「では先にタスピモウスに偵察に出ますか?」
「うんそうだね。コーリカム国の方が新しい情報がいいから、先にタスピモウスに偵察に行こうと思う」
「了解しました。ですが、私たちの行動はできるだけ他者との接触を避けた方が無難です。特に陸地での活動は、退路を確保できない可能性があります。十分にご注意ください」
「大丈夫でしょ。あの擬体ってやつ、その辺の大人より断然強いし」
アンドゥは両腕を組んで、うんうんと昨日の場景を思い出しているようだった。
「いいえ。それは過信が過ぎます。擬体は筋力及び耐久力はありますが、結局は操縦者のオプトレアさんの体力しだいだという事をお忘れですか? 最終手段として、周囲一帯を焦土と化す自爆機能は有してますが、そうなってしまった場合、アズヤード様もいい顔はしないでしょう」
「あれってそんなの付いてたのっ!?」
擬体がそんな機能付きだと知らなかったらしいアンドゥは、速足でフィアに詰め寄った。
「はい。ですが装置が起動するには相応の条件がありますから、捕まりはしなかったら大凡大丈夫でしょう」
「違うそうじゃない! そんなもん腹?に巻いて使ってたのか! あれってちゃんと感覚あるよな。じゃあ爆発したら絶対痛いだろうが!」
「大丈夫です。一定以上の圧力は今使用しているスーツでは仕様上、物理的に再現不可能です」
「……ぶつりてき……信じていいの、か……」
「はい。オプトレアさんの現在の身体能力を鑑みて、擬体接続状態時に自爆装置が起動しても死にはしません。もっともそうなる前に、緊急切断シークエンスが始まりますので、余程特殊な状況以外痛みすら感じません」
ここでようやくフィアの両腕から手を離したアンドゥは、元の席へ戻り、椅子に深く座り込んだ。それを見てフィアが話し始めた。
「タスピモウス偵察はいつから行いますか?」
「ああ、うん。明日からでいいんじゃない」
「では夜間に潜水艇をタスピモウス近海まで進ませておきます」
「ありがとうフィアさん」
こうして軍艦鹵獲のための下準備が開始された。