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二十話

 翌日、アンドゥは宿屋の部屋にいた。


――どうやらこの町は商人が幅を利かせてるようだ。だけど内陸は職人が幅を利かせている町が多いっぽい。ねじれ構造。入り込む余地はありそうだな。


 同職組合が複数の町を跨いでいることはあまりない。基本的に一つの町か町と衛星村を含めての縄張りを持っている。故に場所によって幅を利かしている組合は異なる。

 昨夜にフィアの結論を聞き、今日の行動指針を確かめるアンドゥ。


――物の流れにおいて陸上なら馬車、水上なら船は欠かせない。運び屋。雇われと自営業がいるが、馬車持ちなら自営業で十分やっていけると聞く。それに今、出稼ぎで人の出入りが激しいと思われたからこそこの町を選んだ。町の間を移動する人って普段はあまりいないからな。今後のことを考えると運び屋の身分は手に入れておくのは悪くないだろう。馬と荷馬車を買いに行こう。


 今日の予定をおさらいし、アンドゥは宿をあとにした。

 馬と荷馬車、普通はそんなに気軽に買える物ではない。伝手もなく身一つで出て来た者は、何年も下働きして、同世代は結婚し、子どもができる頃ようやく資金が足るぐらいの価値がある。伝手と運、実力で前後するがな。


 だが今のアンドゥは非常に懐が暖かった。この前襲った商船が貨幣をそれなりに載せていたからだ。

 そこでも手形を手に入れたが、手形を現金化するのは止めた。いくら大人に見えるようになったとは言え、一見素人が現金化に現れるのは怪しすぎるためだ。



 アンドゥはヴォフレラントから東へ出発して行く馬車の群れを尻目に、近くにある馬屋に到着した。


 馬の入手法は何通りかある。

 牧場からが一番多いが、牧場には育てた責任と体面がある。故に牧場には一定以上の馬、一定以上の価値の馬しか売っていない。

 馬屋は本来馬を預ける場所だが、町中の馬屋を利用している人に比べ、ここは町の端っこ。どちらかというと金がない利用者が多い。そのため、たまに馬を置いて消えたり、売りたいという者がいて、馬屋でも馬を手に入れることができるとアンドゥは聞いたことがあった。ついでに馬車もな。故に発着場近くの馬屋に来たのだ。


 アンドゥはただ運び屋の身分を手に入れたかっただけで、本気で商売するわけではないから良い馬を選ぶ理由がなかった。技量もな。



 馬の世話をしていた者に購入可能な馬がいるか聞くと、責任者が呼ばれて来た。


「馬が欲しいってのはあんたか?」

「はい。ついでに荷馬車もありませんかねぇ」


 責任者の男が顎を掻くと、


「馬も荷馬車もいくつかあるぞ」


 馬屋を出て通りから見えない場所へ行くと、馬車が数台車輪が外された状態で置かれていた。


「荷馬車はこの辺だな。車輪は外してあるが、見たいなら持って来てやる」



 アンドゥたちは再び馬屋へ戻ると、


「こっから向こうが全て売りに出してる」

「……思ったより数売ってるんですね」


 現在いる馬の四分の一ほどが売り出されていることに、疑問を呟くアンドゥ。


「まあ戦争のせいさ。儲けた奴は儲けたが、逆も然りってことだ」

「まだ始まったばかりだと思うんですがねえ」

「にいちゃん商売初めてかい? 商売人にとっちゃあ軍の衝突前には結果は出たようなもんだ。負けた奴は、すっぱり辞めた方が賢い選択さ」


 責任者の男の話を耳に入れつつ、馬に近づくアンドゥ。


「まあ安く譲ってやれるのが、この二頭だな」


 アンドゥの素人加減にか、金はあまり持っていないだろうと見て、男は安い馬を紹介する。


「単純に歳だな。二年くらい使えれば上等だろう」


 示された二頭は確かに素人目にも老馬に見えた。


「確かに随分と年取ってるようだ。馬車を引かすには荷が勝ちすぎてないか?」

「俺は目利きにはそれなりの自信がある。五千アズでどうだ?」


 疑問を口にするアンドゥに、値段交渉に入ろうとする男。


「それは吹っ掛けすぎでしょう。いいとこ三千ってとこじゃないですかい? まあ二頭引きってのも憧れますがね」

「おいおい、一頭五千だ。――いや、二頭と馬車付きで一万。これでどうだ」

「私の技量では一頭操るのが精一杯ですよ。一頭馬車付きで五千でどうでしょう」

「六千」

「馬車付きで六千か。……あー、でも看取るのやだな。多分涙脆いんですよ私」


 アンドゥの物言いに、胡散臭そうな目で見る男。


「……まあ冗談はおいといて。これからの相棒だ。じっくり選びたい」


 老馬二頭に「ごめんね」と別れを告げ、馬屋の先へ進んでいく。



 馬の顔を見ては先へ進むアンドゥ。

 アンドゥに良い馬や多少の年齢差を見分ける目なんてない。だから単純に気が合いそうな馬を選ぶことにしていた。


 馬を見て進んで行くと、一頭の馬の前で足を止めた。


「ん? それにするのか?」

「これは?」


 アンドゥが足を止めた前にいる馬は、小さく最初子どもの馬かと思っていたが、よく見たら他と随分と馬の種類が違うだけの大人だと思われた。何故一頭だけ毛色が違う馬がいるのか気になり男に聞く。


「にいちゃん若いから知らんかもしれんが、これは昔からこの島におった馬だ。今は大陸から入って来た馬ばかりだが、まあ田舎の方に行けば未だ現役張ってるな」


 どうやら周りにいる馬は大陸から入って来た馬の子孫のようだ。


「それにするんだったら、五千だな」


――やっす。老馬と同程度かよ。


「年って訳じゃないんでしょう?」

「まあそうだな、普通に若い。だがこの辺じゃ全く人気がないから買い手がつかんわけだ。お前さんが買って来れるならこの価格で譲るぞ」


 うまい話には裏がある。そんなことは十そちこちのアンドゥでも知っていた。胡散臭げな視線を男へ向ける。


「いやいや、そんな顔せんでもよいではないか。単純に力がないから荷馬としては割りを食うってことだ」


――その辺が、外来の馬に立場を取られた原因か。ふむ、ここで正直っぽいところを出して他の馬を高く買わすための布石か? だが……これは。ある意味目立つか? この馬なら俺がこの国の田舎の出という設定でも問題ないんではないだろうか? 目立たなすぎるのも問題だが、優秀な方に目立つわけでもない。案外良いんじゃないだろうか。


「この馬。名前は?」

「知らん。好きに呼べばどうだ」


 条件的には悪くなさそうな在来種の馬。あとは相性と、


「なあ馬よ」


 アンドゥは馬の横側から近づくと首に触れる。


「うちにくる?」


 馬は、歯茎を見せる、人がやったら相手に多分変な顔をされる行動をする。


「ほお、お前さんに興味はあるみたいだな」

――これってそういう意味の行動なの?!


 アンドゥは海の人間。船によっては動物を積んで航海したこともあったが、動物に関して熟練しているとはとても言えなかった。


――興味を持たれてるのならいいのかな?

「荷馬車と一緒に頂きます。割り引き期待してます」


 こうしてアンドゥは馬と荷馬車を手に入れた。




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