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十六話

 六月上旬も中頃になると、ようやくアンドゥも今この海域で何が起こっているのかを理解した。

 それは最近、航行する船の数がガクッと不自然に減ったことに起因した。それにいかにも物々しい船団のみが行き交っていたのも理由の一つだ。


「つまり今、タスピモウスとコーリカム国は極度の緊張状態。いつ軍事的衝突が起こっても不思議ではない。そういう認識でいいんだよね?」

「はい、現在ある情報と状況を鑑みてほぼ間違いありません。しかもどうやらタスピモウス側が先に動き、状況を有利に進めているようです」


 第三区画第二格納庫、その場所でアンドゥとフィアは椅子に座って話し合っていた。


「戦争か。海上には武装した船団しか見なくなったし、どうしたらいいだろう?」

「いくつか選択肢があります。大きく分けるとタスピモウスとコーリカム国の北側二国にこのまま介入を続ける。もう一つは北側は情報を集めつつ静観し、南側二国、

トロンツミ王国とロビネム王国に介入する選択があります」


 フィアが示した案に、アンドゥは声に出しつつ南側二国の確認を行う。


「トロンツミ王国とロビネム王国は、間に中継地こそないがタスピモウスとコーリカム国と似たような地理的関係。でも両国とも、タスピモウスの優に五倍はあるラルガ海の中堅国家」

「はい。いかがなさいますか?」


 アンドゥは椅子に深く座り直し、目を瞑りしばらく考え込んだ。


「北……このまま北側に介入しよう」


 一言呟き、アンドゥは答えを出した。


「了解しました。ちなみに理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「国力が大きいって理由もあるけど、東側のロビネム王国。近くにはまた別の国家があるんだけど、その国家っていうのが東の大陸国家の傘下なんだ。大陸の人って元々いた海の人たちと考え方っていうのかな? それがずれてるだよね。だから南側に介入したらどういう反応が返って来るか分からないから北側を選んだんだ」


 アンドゥは大陸勢力の介入を示唆し、北側にこのまま介入を続ける理由を語った。


「ありがとうございます。大陸勢力についてはこれからの課題になりそうですね」

「そうだね」

「では大陸の情報収集も並行して行いましょう」


 軽い調子でフィアは言った。それにアンドゥは、


「……言いたいことは分かるけど、この状況下で集まるだろうか?」


 アンドゥの懸念はもっとも。南側は手を出さず、北側は一般の流通が止まったこの状況で、第三国の情報を集めるのは至難。そう言わざる負えない状況だ。

 だが、フィアには一つ方策があるようで、


「現状、国家へ直接的に手を出すのは得策とは言えな状況です。ですのでしばらくは陸地で活動することを提案します。それで陸地での活動ですが……」


 詳細な作戦をフィアは話し始めたのだった。





 アンドゥたちが今後の活動方針を練っている頃、リュルブッセ諸島東の島ヴェグレーマハン島では、簡素ながらも軍港が建造されていた。

 建造の指揮を執っているのはもちろんタスピモウス。リュルブッセ諸島に拠点があるタスピモウス側を商会の支援のもと急ピッチで作業が進められていた。


 元々諸島は両国の間、諸島に拠点を置く商会もどちらかの国に所属している者たちが支配的で、予め話が通っていたのだ。故に状況がどちらかに傾けば迅速に事態が収束する方へ進む、そういう手筈なのだ。

 そして、タスピモウスから邪魔者認定された者は、薄暗い施設で勾留されていることだろう。


 反撃に出るコーリカム国を迎え撃つ準備は着々と進んでいた。

 そんな建造風景を眺める一人の男がいた。


「建造は順調。コーリカムが攻めて来る前には第一次分を消化できそうだな」


 男は書類片手に呟いた。

 服につく階級章を見るに彼はタスピモウス海軍の少佐であることが見て取れた。


「島を根城にしていた海賊は拿捕。後日輸送予定。まあ、いつのことになるかは分からんが。だが」


 男は書類を数枚めくりある記述に辿り着いた。


「突然海中より現れマストをへし折る、海賊と名乗る少年、か。……魚人は実在するのかもしれません、少将」


 戦間近の中においても、アンドゥたちの行いは広まりつつあった。




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