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FLARE GUARDIANS

Special episode.Ⅵ

作者: 睦月火蓮

一部本編の設定を変更しているところあり。

月火蓮花(つきひレンゲ)」、本名を「旭ヶ原蓮華(あさひがはらレンゲ)」といい、旭ヶ原家次女であるお嬢様にお仕えする三体の式神のうち第二の式神である烏天狗、主に蓮花お嬢様の護衛の役目を担う僕を「太陰(タイイン)」と呼ぶ。

第一の式神・九尾の(アサヒ)はまだ子供だ。主な役目は魔力の制御程度ではあるが、蓮花お嬢様のお世話係も兼任しておりお嬢様と最も付き合いが長く理解しているのは彼女であることは違いないだろう。

第三の式神・苛炎虎(カエンドラ)の鬼蓮。お嬢様が生み出した新種の妖怪であるこの者は謎が多く、普段はお嬢様の影に潜み、一度(ひとたび)その名を呼ばれればお嬢様とよく似た人間の女が着物を着崩した姿で和傘を差した姿で出てくるが本来は苛立つ炎の虎だ。式神としての役割も蓮花お嬢様の感情の鎮静化であり、だいたい蓮花お嬢様が怒る前にこの者が怒って出てくる。語れば語る程この者の謎は深まるばかりだ。


「……あっ、太陰様!」


「む……」


旭ヶ原家の屋敷を出ようとしていたところを、屋敷にいた頃の蓮花お嬢様の身の回りのことを任されていた雪狼の妖怪・銀月(ギンヅキ)に声をかけられた。これでも蓮花お嬢様の兄君・桃千(モモチ)様の式神・氷雨牙月(ひさめガヅキ)の弟なのだが、やはりまだ修行中の身であるこの銀月は人の姿に化けているにも関わらず獣の耳と尾がそのまま、しかもほぼ必ずといっていいほどパタパタと頭の耳や尾が動くもので、どんなに妖怪であることを隠していようがそれでは『モロバレ』というものだ。


「蓮花様の近辺……巡回ですね!お気をつけくださいませ!」


「ああ。(普通に辺りを警戒しに行くと言えば良いのに、兄を真似てか無理して難しい言い方を……)」


銀月に見送られ、蓮花お嬢様のいる学園を目指し翼を広げた。
















僕が蓮花お嬢様と顔を合わせたのは、お嬢様がまだ言葉を話し始めたばかりの頃だ。


「わたち、あさひがはらレンゲ。なんじ、なをなんともーす、ですか?」


「……我、汝を我が主と認め、以後汝の配下となり第二の式神として従う契約を……御許と我とで、絶対なる忠誠と主従の契りを交わす事を此処に誓う者。其のアヤカシの名は、烏天狗一族八咫烏(やたがらす)の太陰。真名──濡羽朧月夜陰丸(ヌレバのオボロヅクヨカゲマル)と申す」


真名というのは、産まれた時につけられた本当の名前……簡単に言ってしまえば本名だ。僕の出身は「八咫烏」という烏天狗一族で、一族の掟でこの真名を同族以外に教えるのは、本当に信頼した者か絶対の忠誠を誓った主にのみとなっている。無論主たるお嬢様に本名を教えるのは当然のこと。

……だが、当時の僕はというと。


「たーい、あそーで」


「……僕は貴様を主と認めたわけではない。これは形式だけの主従関係。真名も仮名も気安く呼ばないでくれ」


「あう?」


自分でも理由はよくわからないが、当時の僕は酷い人間嫌いだった。式神になることも、当時渋々やっていた。

八咫烏一族は掟で成人年齢を越えるとギオンを警備する役割があるが、僕の家系はそれを免除される代わりに現代において数少ない陰陽師家の一つである旭ヶ原家の者に仕えるかの選択肢を余儀なくされる。

で、人間嫌いの僕はどちらの方がまだマシなのかと色々考えているうちに弟の濡羽不知夜月丸(ヌレバのイザヨイヅキマル)──(ヨル)も成人を迎え、僕とは正反対の性格の夜は成人したその日に笑顔で「少しの間二百年くらい過去の世界へ修業しに行ってくる」と言ってそのまま数日後本当に過去の世界へと旅立って行き、その上その世界で式神になってしまった。おそらくその人間が死ぬまでの百年ぐらいは夜が修行を終わらせるつもりはないだろう。数少ない理解者で話し相手である夜がいなくなって「数多くの人間を長い間見守るくらいなら長くてもせいぜい百年ぐらい一人の人間に従っていた方がまだマシなのでは?」と思い、やむなく僕も式神となる道を選んだ。

そうして僕は旭ヶ原家次女の蓮花お嬢様の式神となったのだが、やはり人間嫌いである当時の僕は例え幼子であろうとも容赦なかった。


「たーい、あそぼー」


「……」


「ねーね、あそんで、たーいー」


「……何度も言っているが、気安く僕の名前を呼ぶなといつも言っているだろう小娘。……ん?」


「あそぼー」


「……」


「キャー蓮華ー!またそんな傷だらけになってー!」


「やー、ねねやーだ」


「こーら蓮華待ちなさい!」


季節問わず白皙であるこのお嬢様は、今はそうでもないがあの頃はいつも外から戻ってくれば必ずと言っていいほど何かしらの怪我を負って屋敷に戻ってきた。酷い時には額から出血していようとも平然とした顔で戻ってくるものだからとうとう兄君の式神が失神したこともあった(彼がお嬢様に対し過保護になったのはそれからだろうか……)。それでも尚僕は殆ど無関心で、遠くからその様子を眺めているだけだった。そんなある日、その兄君の式神である雪狼・氷雨牙月が僕に声を掛けてきた。


「……おい阿保烏」


「……」


「今すぐ反応しないと自慢のその羽毟るか凍らせるかして当分飛べなくしてやろうか」


「……なんだ、氷雪(ひょうせつ)の若造」


「お前の役目はなんだ?蓮華の護衛がお前の役目じゃないのか」


「フン。あんなものただの形式のみの主従だ。あの小娘がどうこうしようと僕には関係……」


「やっぱ馬鹿だなお前」


「……何?」


「よく考えてみろよ。あの年齢で、お前を式神として迎え入れた意味」


「意味だと?」


「普通式神は一人一体、複数いたとしても迎え入れるのは少なくとも10歳を超えてからだ。なのに5歳にすらなってないアイツが第二の式神を必要とした意味はなんだ?……確かに俺は何百年も生きるお前らからしてみれば若造だがな、式神となった経歴は俺の方がずっと上だ。自分が何の為に存在しているのかよく考えろ。どんなに能力が上だろうと地位が高かろうが……主を守る式神の役目を放棄してるお前を、俺は絶対認めない。蓮華にもしものことがあれば、俺は一生怨んでやる」


この時の僕は、彼の言葉をよく理解しようとしていなかった。ただの弱犬の遠吠え程度にしか思っていなかったからだ。漸く彼の言った意味を理解したのは、それから何年も経った……お嬢様が寺子屋(お嬢様達は小学校と呼んでいた建物)に通い始めた年だ。


「蓮華ちゃん、帰り遅いな~」


「……子狐、だからといって僕の頭に乗るな」


「あっ、ごめんなさい。太陰君高いからよく見えるかなって思ったの。よいしょっと」


僕の頭から隣の瓦屋根へと飛び移り、寺子屋のある方角を見ながらうろうろとしていた。

姉君・桜花(オウカ)様の世話係をしている九尾・神楽(カグラ)の妹である、手毬のようなこの子狐・旭。聞けばお嬢様が生まれたその時から式神となったというが確かにお嬢様も彼女にはよく懐いていた(幼き頃は玩具のようにされ少々ぞんざいな扱いをされていたこともあったが)。


「う~ん、それにしても遅いな~。そのまま遊びに行ったとしても、日が落ちて悪い妖怪さん達が動き始める時間帯を警戒して、今の時期は5時までには帰ってくるのに……それに蓮華ちゃん、今朝はちょっとお顔赤くて体調悪そうだったしな……うぅー心配だな~ぁ、やっぱり無理にでも引き留めて学校お休みしてもらえばよかったのかな~ぁ……」


「……」


「旭、どこ?手が空いてたらこっち来て手伝って」


「あっ、は~い神楽お姉ちゃーん」


姉君に呼ばれ、屋根から飛び降りると同時に少女の姿に化けるとそのまま台所へと小走りで去って行った。


「……」


(とり)の刻……黄昏時(たそがれどき)逢魔時(おうまがどき)とも呼ばれる日没時は奴等が動き出す頃。この数日前にも屋敷の居候となった少年とともに妖怪に襲われ保護されたこともあり、また面倒事を増やされては御免だと思った僕は渋々お嬢様を捜しに単独で屋敷を出た。だが捜索して数分も経たぬ間に、寺子屋へ行き来する途中にある森の中でお嬢様を見つけた。


「こんな所にいたのか、小娘」


「……」


「……?……!?」


見つけた時お嬢様は背を向けていたが、振り返ったその顔を見て驚き、思わず錫杖を取り出し距離をとっていた。何故なら、あまりにも禍々しい敵意の気配がお嬢様からしたからだ。


「……お前は、誰…?……あの子でも、あの子でも、あの子達でもない……」


「……小娘、御人好しも大概にしろ……よりによって陰陽師の家系の娘である貴様が取り憑かれるとは何事だ?」


弱った人間が悪霊に取り憑かれることがあるという話は聞いたことあるが、まさに天真爛漫という言葉が相応しいお嬢様がそのようなことになるとは予想だにしなかった。

今なら分かるが、おそらくあれは苛炎虎として産み落とされる前の鬼蓮だったのだろうが、そのことを当時の僕は知る由もない。これには途轍もなく呆れた。


「……早く行かなきゃ……こんな世界……あの子達が……」


何やらぶつぶつと言っていたが大半は聞き取れなかった。そもそも聞く気はなかったが。


「誰も彼も気持ち悪いっていうもの、お母さんは私のこと嫌いなんだもの、お父さんもお兄ちゃんも私のせいで肩身の狭い思いをしているんだもの、心の支えだったあの子達とも話せなくなってしまったんだもの……いなくなった方がお互い良い結果になると決まってる……」


「……!? 止せ!」


いつの間にかお嬢様の手には、護身用にと兄姉が渡していた、鞘の抜かれた懐刀が握られていた。それをお嬢様はゆっくりとご自身の首元に向けられ、僕は思わずそれを阻止せんと飛び出して、触れたくもなかった筈の人間に自ら手を伸ばしその肩と細い手首を押さえつけた。


「馬鹿か貴様!大馬鹿者か!」


「……」


だが、急に力の方向が変わった。予期せぬことに僕は。


「……ぐっ!?」


僕自身の力も加わって、お嬢様に深々と懐刀を肩に突き刺された。


「……男は嫌い……汚らわしい……最低……男なんかが私に触らないで!」


「うぐっ…!?」


「嫌い嫌い嫌い嫌い!男なんて嫌い!お前なんて大嫌い!暴力振るう男子もそれを無視する教師も道端で襲った変質者もそれを怖くて抵抗できなかったのにまともに相手してくれない警察も!どいつもこいつも男は皆私のことを愚弄するんだよ!お前だって私を見下してんだろっ!ああっ!?」


突き刺した懐刀を抜こうとするその手を押さえていた結果、当時六歳の少女だとは思えない程の力で抵抗するお嬢様に傷口を抉られていた。その激痛だって、憎悪しか籠ってない目で僕を睨むお嬢様に吐かれた数々の暴言だって、何もかもを今でも覚えている。そんな状況で僕は、あの時の彼の言葉を思い出していた。



──自分が何の為に存在しているのかよく考えろ。



「(こうなったのは、僕が自分の役目を放棄したから……これは間違いなく僕のせいだ)」


それはあまりにも遅過ぎた。主たる蓮花お嬢様を人間だからと見下し毛嫌い、その身を守る配下でありながら役目を放棄し驕り高ぶっていた結果がこれだ。こんな目に遭って初めて自分の失態に気付き、漸く心底反省した。


「憎い!嫌い!大嫌い!私に近付くな!気安く触れるな!人の領域に踏み込んで来るな!」


「(今のこの小娘は……まさに僕だ。人を忌み嫌う、人間嫌いの僕と全く同じ……)」


元々雲行きが怪しいと思っていたが、いつの間にか雨が降り始めていた。森の木々を伝い雨の滴が体温を奪い、雨水と混ざって傷口から血が流れ、僕の衣服やお嬢様の手を赤く染めていた。それでもお嬢様は懐刀を手放す様子もなくただ暴れていた。


「皆嫌い!大嫌い!死ね!死ね死ね死ね!お前なんて死んでしまえばいい!」


「……」


僕はその時、お嬢様から手を離した。これは別に諦めたわけではない。抑止するものがいなくなったことで傷口から懐刀が引き抜かれ、更には土砂降りになり始めた雨水とも相俟って、僕の体からは大量の血が噴き出していた。思わずふらりと視界が一瞬歪んで、堅い石畳の地面に跪くような形で片膝をついた。その時見上げたお嬢様の顔は、やはり僕を冷ややかな視線で見下して、今にもその刀を振り下ろさんとしていた。


「……我が名は……烏天狗一族、八咫烏の……太陰……」


傍から見た者は、こんな時に何を言っているんだと思うだろうが、僕はそう口にしていた。


「……我が、認めし、主……(よわい)六の、幼き娘……其の名、旭ヶ原蓮華……」


いつ、お嬢様が刀を僕に突き立てても可笑しくはなかった。そう思えるほどに僕は無防備だった。だが、お嬢様はそうしなかった。おそらく……お嬢様は葛藤していたのかと思われる。


「この太陰……貴女様をお迎えに、馳せ参じました。ご家族や屋敷の者達が、貴女様のお帰りを待ち侘びております。迎えが、数々の御無礼を致した僕で申し訳ございませんが、どうか御許しを……」


下がっていた顔を上げて、今度はお嬢様の顔を見据えた。その時初めて、僕はお嬢様の真紅色の目を知った。


「……蓮華お嬢様」


僕が名前を呼んだことに驚いたのか、その時お嬢様の瞳が揺れた。


「ともに、皆が待つ屋敷へ帰りましょう……蓮華お嬢様」


「……」


少しの間が空いて、刀を落としたお嬢様は倒れた。地面に倒れる前にその体を受け止め、地面に落ちた刀を拾おうとしたがその前に刀身が縮み、お嬢様が通学の際に使う肩掛けにも背負うこともできる革製の通学鞄の小さな装飾品(お嬢様達はストラップと呼んでいた)に変わっていた。

ふと、お嬢様の顔を見ると、体が小刻みに震え異様に冷えており顔面蒼白となっていた。この頃のお嬢様は体が弱く、それも数日前に病(風邪)で体調を崩し長期間屋敷に籠られてから漸く回復したばかりであって、この日はそんな病み上がりの状態で久々の登校、そして帰宅途中に何者かに取り憑かれ、その上長時間雨に打たれていた。そんな条件が揃っていれば体調を悪くするのも頷ける。


「……急いで戻らねば」


今更意味はあるのかどうか謎だったが、持ち歩いていた黒地の風呂敷でお嬢様の体を包みできるだけ体を冷やさぬようにすると、両の腕で抱えて木々の木の葉の下から飛び出し、土砂降りの中に飛び込んで屋敷を目指した。

だが、その時の飛行は決して良いものとは呼べず、寧ろ最悪の状況だった。打ち付ける雨水で目が開かず飛行が安定しない、その上まともな止血もしていない傷口から流れ出る大量の血で視界が眩み、いつ墜落してもおかしくはなかった。雨天の飛行は何度かあったが、こんな土砂降りの中……況してや深手を負った体で子供一人抱えての飛行なんて無謀以外の何ものでもない。それでも、僕に芽生えた使命感がそうさせたのか、奇跡的に屋敷に到着するまでなんとか持ち堪えていた。


「……ハァハァ……ようやく、着いた……」


半分不時着するように屋敷の中庭に降下した時には既に羽がずぶ濡れになっていて、乾くまでの間暫く使い物にならなかった。


「……やっぱりお前か」


縁側から声をかけられ、見れば牙月が傘を手にして僕のいる所に来た。これから玄関に向かおうとしていた時に彼が現れ、一安心したのをよく覚えている。


「お前のことだし、てっきりどっか行って雨宿りしてるんじゃないかと思ったんだが、わざわざこの大雨の中飛んで来るなんて珍しいな。全身スゲーずぶ濡れじゃないか」


「……」


天候が悪いこともあるが日が落ちたことで彼はおそらく、黒い風呂敷で包まれたお嬢様の姿がよく見えなかったのだろう。僕に接近して、漸くお嬢様の存在に気付いたらしく驚いた反応を見せた。


「……なっ!?蓮華!?何があったんだいったい!それにお前……その怪我は!?」


「……」


「おい!?……誰か大至急来い!えーと救急箱とあとタオルと毛布も!」


そこから先の記憶は途切れている。おそらく彼や屋敷の者達に介抱されたんだろう。次に目を覚ました時、僕に与えられた自室の中で寝かせられていた。


「ああ、気がつかれたか」


障子が開いて中に入ってきたのは、救急箱とタオルの入った洗面器を持った、本来なら此処にいる筈がない弟・夜。


「何があったか知らないが、主の手によって深手を負うとは……兄上らしくもない」


「……」


「丁度包帯を取り換えようとしていた頃だ。兄上、起きられるか?」


どうやら僕が倒れたことを聞き付けた父上が夜を過去の世界から呼び戻し、僕の面倒をみるようにと言ったらしい。


「……お嬢様は」


「うん?ああ、蓮華様か。兄上が倒れた翌日、やはり熱を出されたようだ。が、今は元気に……そう、牙月殿と中庭で遊んでおられる。この様子なら、明日からでもまた通い始められるだろうとのことだ」


「……そうか」


「……しかし兄上。少し変られたようだな」


「何がだ?」


「私以外にも兄上の世話をする者達がいたが、人間が接触しても拒絶反応を起こさなくなったな」


「……そ、そうか……」


思っていたよりも僕の人間嫌いは相当なものらしい。


「それに、兄上達を最初に介抱したという牙月殿に聞いたのだが、蓮華様はどうやら兄上の羽根を一枚握り締めていたそうだ。お目覚めになられた際には何事もなかったのはきっとそういうことなのだろう。旦那様がそれを加工し、今後お守りとして持たせるそうだ」


「……羽根か。確かにそれならある程度は追い払えるだろうが……しかし、羽根なんていったいいつのことだろうか」


「ご本人も記憶がないと申されていた。だが確かに兄上の羽根だったな……きっとどこかで意識が戻り羽に触れたか何かして、その時についたのだろう」


「……。(まさか僕のような者が人に、それも特に嫌っていた羽を触れられたことに気付かないとは……)」


「ああ、それと、あの懐刀はまだ蓮華様には危険だということで次からは何か別のものにするらしい」


「その方が良い。あれはまだ六つの小娘に持たせるような代物ではない」


「本来なら役目を放棄していたことを叱りたいところだが、何やらその必要はないと見たから良しとするが……ただ、兄上は極端だ。くれぐれも、主を悲しませるようなことはするなとだけ私から言っておこう」


「ああ。わざわざすまなかった」


「いえ。どうかその心、忘れぬようにな」


幼子の足音が廊下から聞こえてくると、夜は僕から離れて障子の傍に移動した。この部屋の前でその足音は止まり、かと思うと何度か不規則に聞こえてくる。夜はそれに笑いながら、細く障子を開いた。


「どうかなさいましたか?」


「わっ」


聞こえてきたのは案の定、お嬢様だった。二人は何やら僕に聞こえない声で短く会話すると、つい先程まで庭を駆け回ったのだろう土汚れたお顔をお嬢様は見せた。


「たーいん?はいって、イイ?」


「……どうぞ」


その時僕はなんとなくお嬢様の顔を見れず、顔を逸らし素っ気無く答えた。それに対してお嬢様は、如何にも嬉しそうな声で「はいるね!」と言い、此方にやってきた。


「けが、イタイ?だいじょーぶ?」


「……いえ、これくらいはなんとも」


「たーいんはつよいなぁ」


「……妖、ですから」


「んーん。アヤカシさんでも、イタイのはイタイの。だから、たーいん、つよいね」


「……僕は、強くなど…………?」


急に陰り、何かと思い顔を上げた。そうしたら、頭部に何か小さな温もり感じた。


「ありがと、たーいん。レンゲ、イイ子イイ子したげる」


「……」


それは、お嬢様に頭を撫でられているんだと、数秒ほどしてから漸く気付いた。


「でも、ムチャしたらメっだよ。レンゲ、ぽっこーしちゃうからね!」


「……それは、その……」


「……ぷふっ……」


「んん?ヨル、どしたの?」


「あ、兄上が……蓮華様に……ふくっ……も、もう限界……あっはっはっはっはっ!あっ、あの兄、兄上がそんな困った顔を……しかも、まだ幼子の蓮華様に……はははは!」


「?…?……ねえたーいん、ヨル、きゅうにどしたの?」


「……さて、どうしたのでしょうね?」


自分でも驚いた。身内でも見せたことがあるかどうか記憶が曖昧だというのに、僕は初めて……それも人間に対して、笑いかけた。
















それからというもの、僕は蓮花お嬢様を絶対にお守りすると心に誓い、こうして周囲を警戒している。


「……む。あの姿は……」


「夕陽夕陽、次のお休みここ行きたいんだけどどうかな?」


「ん、そうだな、寮からの距離を考えて……」


「あのクソガキャよっくも俺の可愛い蓮花と……(ブツブツ)」


「はいはい、いい加減蓮花(いもうと)離れしようねー牙月。青春邪魔しちゃ嫌われるよー」


時折こうしてお嬢様の近辺を警戒していると、やれやれと思うことがある。それも最近は頻繁に見るようになった。


「……まぁ、僕が心配せずとも、あの少年がいればお嬢様は無茶をすることはないだろうがな……」


それでも僕が警戒を怠らないのは、式神としての使命感とはまた別の感情もあるからなんだろう。

ちなみに、太陰(外見約20代前半青目黒髪の青年)と夜(外見約10代後半赤目黒髪の青年)の実年齢は【自主規制】が入るレベル、二人の年齢差は少なくとも■■歳。

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