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第8話「家名洗礼」

頼まれた買い出しの品を購入し終えたコルトが戻って来ると、防具屋を出てまた大通りを歩き回る事になった。あ…でも必要な物ってさっきの店の物だけで良いのだろうか?もしかして他にも必要な物があるんじゃ…。ふとそう考えたのでコルトに聞いてみる。


「アンクさんに頼まれた買い出し品ってそれだけ?」


「え…、えーっと…ま…まだ、ある…かも?」


何で疑問系なのか分からないがまだ有るらしい。まぁ飲食店の買い出しなんだし、1度の買い物で全部済むとは思ってない。って…荷物持ちで来た筈なのにコルトに持たせててどーすんだ、俺が持たないとお詫びにならんじゃないか。


「じゃあもっと荷物が増えかもしれないし、とりあえずそれは俺が預かって置くよ。」


まぁお詫びじゃなくても、女の子に荷物を持たせて自分は手ぶらってのがやたら落ち着かんからどっちにしろ持つけど。え、男女差別?知らん、俺は自分で持ちたいから勝手に持つのです。そういう訳で俺の隣で大き目の紙袋を大事そうに胸元に抱えて歩くコルトに告げるも


「…………こ、これは軽いから大丈夫、だよぉ。」


すっごい間を空けてから断られた。俺に持たせたくないのだろうか。或いはこれからもっと重い物を買うから今は手ぶらでも許してやんよ!って感じだろうか…これは気合を入れねば…。


   ***


…そう予測して何時でも来い!と身構えていたら夕方近くになってました。結局この時間まで俺とコルトは普通に村の中を歩き回…いや、ほぼ間違いなくコルトに連れ回して貰う形になっていた。お陰で村にある殆どの施設や店、主な通り道等を知る事が出来たけど…もしかしなくてもこれ…買い出しを名目にした俺への村案内だったのではなかろうか…?一応買い出し品はさっきの防具屋で買うには買ったが…本当にそれだけだったんだよなぁ…。恐らくだが…また気を遣わせてしまったのだろう、本当にこの一家には頭が上がらない。勿論その感謝すべき筆頭は今も俺の少し前を歩いているこの少女な訳だが…。


「結構歩いたけど…随分高い所にあるんだなぁ…。」


「も、もう少しで到着だから頑張ろ…?ほら、後ちょっと…だよ?」


村の中を雑談しながら歩いている最中、ふと俺の家名の話を思い出したのかコルトが「今日のうちにクラルの家名…貰いに行こ?」と言い出しくれた。そういう理由で夕暮れに染まる丘の上、静かにそびえ立つ小さな教会への道のりを歩いているんだが…。その途中で振り返り、薄紫色の髪をふわりと風に靡かせながら俺へ向けて口元を緩め微笑むコルト。お…おぉ…、…めっちゃ絵になってる…つーかギャルゲーとかエロゲーのCGで描かれた1シーンみたい…やめてくださいロリコンになってしまいます。と、そう思っても口には出さないけど…。…ってか出したら、俺もヤバいしアンクもヤバい。前者は殺害される被害者であり、後者は加害者である。大丈夫、俺は紳士、社会人仕事大事、懲戒免職コワイ。とかアホな事を考えていたらあっさりと教会前まで到着した。目の前には左右が前後に開くタイプの扉。しかし…何でこう教会の扉ってデカいのが多いんだろう。開き辛くないんかな?


「あ、あの…ごめんください…。」


コルトがとても控え目な声で扉をコツコツとノックする。コルトさん、多分それじゃ絶対聞こえんですよ…隣に立つ俺ですらかなり意識を向けて漸く聞き取れる声量だった。という訳で今度は俺が声を掛けてみようか…と、思ったら扉の片方がガチャリと開き、中から長く癖っ毛のある銀髪のシスターっぽい女性が顔を覗かせる。いや、ぽいって言うか服装とか俺の勝手なイメージ像まんまだ。しかしこのシスター、あのコルトの呼び声でよく気付いたなぁ…。


「ようこそ聖ライアナ教会へ、本日はどの様な…って、あら…コルトさん?」


「こ、こんばん…こんにちは…?シスター…。」


夕方の時間帯もあって少し挨拶に迷うコルト、分かる…分かるぞ。俺も前の世界で夕方と夜の境目の微妙な時間帯はこんにちはなのか、こんばんはなのか、無駄に考え続けた事があった。結局「暗くなったらこんばんはで良いや」と適当に結論付けたけど。あ、俺も挨拶しとかないとな…。いきなり「至急名前くれや。」では流石に失礼だろう。


「こんにちは、シスター。」


「こんにちは、お2人とも。えっと…坊やの方は確か…数日前にコルトさんを助けたって言う男の子かしら…?」


「はい、助けたって程の内容でも無かったですけど…棒を振り回したら相手が勝手に逃げて行っただけですし…。あ…自分はクラルテと申します。今はマージナルさんのお宅でお世話になっています。」


この村の情報流通の早さには今更ながら驚くが口には出さない。そしてコルトが俺の言葉でやや納得行かない様な表情をしているが今回は触れずに置く。昨日、あの犬の魔物を倒したとコルトに事実を伝えた際…これは2人だけの秘密にして欲しいと頼み込み、口外しないと約束して貰った。秘密にした理由としては、せめてアンクとミリアさんにはこれ以上俺に余計な気を遣って欲しくないから。蜂蜜亭の評判や、今日会ったリンゴ飴のおっさんのアンクに対する言葉を鑑みるに…村人に話したパターンでも少し遠回りするだけで結局、最後には2人の耳に入ってしまうだろう。そういった事情から…本当に申し訳無いのだがコルトには俺の嘘に付き合って貰っている。


「まぁ、これはご丁寧に…私はシスター・メティアです。その幼さで何と謙虚で礼儀正しい…とても良いご両親に育てられたのでしょうね。ライアナ神もきっとあなたの勇敢な行いを讃えてくれる事でしょう…。」


そう言って瀟洒な笑みと優しげな手付きで胸元に十字を切るシスター・メティア。…意識してなかったけど視線が向いたせいで気付いた、意外とでかい。……じゃなくて…俺は無垢な少女に嘘を強要したり、褒めてくれるあなたの胸を意味無く観察するキモオタの屑です。だから少し位は謙虚にしてないと寧ろ天罰が降ると思います。………両親に関してはきっと、当たってます。少なくとも俺には勿体無い位の子供想いな両親でした。


「それで…お2人は本日はどんな御用で入らしたのですか?」


おっと、そうだった。話が脱線していたが家名を貰う為に洗礼を受けに来たんだった。俺が名前を思い出せず、名無しだったとか事情のあらましを告げるとシスターは笑顔で


「そういった事情でしたか、では直ぐに準備を整えますから…どうぞ聖堂の中で椅子に掛けてお待ち下さいね。」


と教会の中に招き入れてくれたので、俺とコルトは長椅子に腰掛けて静かに準備が出来るのを待つ事にした。


   ***


おー、教会内部とか前の世界では日本製のだけしか見た事無いけど…全然雰囲気が違うなぁ…特にあのステンドグラス、凄い高そうだ…誤って割ってしまったりしたら幾ら掛かるんだろ…とか考えてると、隣のコルトが自分の袖を弱めにくいくい…と引いて来た。どしたん?もしかしてコルトはこのステンドグラスを割った事が!?……ある訳ないわな、アンクなら有りそうだけど。


「く、クラル…あの…きょ…今日…、どうだった…?」


「へ…?」


どうだったとは、あ…っ…!そうだった、コルトはわざわざ買い出しと両親に口裏を合わせてまで俺に村案内をしてくれてたんだったな…いや、凄い楽しかった!ちょっとRPGなゲーム世界チックっていうか…やっぱ武器屋とか防具屋とか実物を売ってたり着てる人が動いてるのを見ると男の血が騒ぐっていうか…後リンゴ飴がやたら美味かったし!コルトとのイベントCGも心の中でゲット出来たし!?…いかんいかん、これでは前世界より見掛けがマシなだけのキモオタだ…冷静になるんだ俺…うんよし、落ち着いた。


「た…楽しくなかった…かな…、ボクと一緒じゃ…」


「いや、最高に楽しかった。しかもコルトに案内して貰ったから5割り増しで最高だったよ。」


別に口説き文句では無く本音である。俺は幼い頃の妹以外とは異性と一緒に出歩いた事は全く無かったし…まぁ精神年齢的にはコルトは異性っていうより妹か娘って感じだけど…仲の良い誰かと外を一緒に歩くって良いな。…あの事故で家族が逝ってしまう前にも後にも、仲の良い友達は居たけど…会う機会自体少なかったし…。仕事にも良い先輩や後輩は居た…けどそれは結局仕事仲間であって…何か違うし。だからだろうか、俺は珍しく自然な笑顔を浮かべられた。キモオタスマイルではない、まだ無邪気な子供だった頃の笑い方が…確かこんな感じだった気がする。


「ぼ…ボクが案内したから…?…最高…?…そ…そうなんだ…、さ…最高…だったんだね…?…えへへ…。」


ぼひゅ!っと一瞬で真っ赤になりつつコルトは何とも形容し難い蕩けた様な笑顔を浮かべている、愛らしいですなぁ…。この顔をアンクに見せたらきっと1週間は寝なくても料理を作り続けられるに違いない。


「でも結局、コルトへのお詫びに買い出しの手伝いをするって言ったのに…また俺が助けられちゃったなぁ…ごめん。」


そうなのだ、既に秘密を共有してるとはいえ俺はコルトにお詫びをしなきゃいけない立場だったのだが…何も出来ない処か村の案内をさせてしまった訳で…。こうなったら少しずるいが、何かプレゼントを上げるとか画策するとしよう。物で解決とか汚い大人で済まねえ…。


「…………もうクラルは…、お詫び…してくれたよ。」


「へ…?何時?」


俯きながら嬉しそうな声音で、だけど消え入りそうな声量で呟くコルト。でも俺は難聴系アレでも、別にコルトにホレられてるとかでも無いので普通に聞き返してしまった。…あの手の主人公ってさ、もしかして空気読んで聞こえないフリしてるんじゃないの…?これ、聞いた俺がKYみたいっすよ…。


「ふぇっ…!?き、…聞こえて…t」


「お待たせ致しました。家名洗礼の準備が出来ましたよ。」


あ、俺の代わりにシスターさんが空気読んでくれた。ありがとうシスター、ありがとうライアナ神。無宗教者だけど今だけは感謝します。コルトも俺とのやり取りが有耶無耶になった事でホッとしている様だ、横目に見ると胸元を押さえて安堵の溜息を漏らしてる様子が見れた。シスターからの詳しい説明を受ける為、俺だけ長椅子から立ち上がる。とは言っても…それ程難しい儀式ではないっぽい。映画とか漫画とかでよくあるシーン、祭壇前の身廊で跪いて祈りを捧げる、それだけだ。少し違うのは跪く者の前に水が並々と入ったデカい金の杯を置く位、それを挟んで向かい側に聖職者が立ち、洗礼を施すと家名が杯の中に浮かび上がって来るんだってさ。…ちょっとファンタジーっぽくてええやん!


「では早速始めましょう。クラルテ…どうぞこちらへ。」


シスターの声が穏やかな物から、静かで厳かな物に変わる。流石はプロ、切り替えが見事だ…。俺は説明通りに杯前の身廊で両手を合わせ跪く、片脚の方が何となくテンションが上がるので片足で。


「はい。」


「汝、新たなる家名を求むるならば祈りを捧げよ。」


「…。」


俺はとりあえずそれっぽい雰囲気を出せる様に瞼を閉じ、合わせた両手の指をより強く絡めて心を込めて祈る。家名くだしあ。視界が暗闇に包まれる中…頭部に僅かな水滴の感触、どうやら洗礼が始まったらしい。そうして暫くの間、目を瞑ったままでいるとシスターが再び声を掛けて来た。


「宜しいでしょう…、クラルテ…杯の中を…。」


…ついに俺の新しい家名が杯に浮かんだらしい。俺は目を開け、祈りの態勢のままで水で満たされた器の中を覗き込む。浮かんでも字はまだ読めないのだが形だけは作法に従う、先程のシスターとのやり取りでその件は伝えていたので名前を読み上げてくれる事になっている。というか、この世界では字を読めない人も割と普通に居るって言ってたから読めなくても問題は無いらしい。まぁ不便なのは困るし、蜂蜜亭も手伝いたいから俺は覚える気でいるけど。


「ライアナ神の加護と導きにより…汝には新たなる家名、"カークティア"を授ける。」


クラルテ・カークティア…か、うん。語呂はなかなか悪くないんじゃないだろうか。儀式が全て完了した後はコルトからは「おめでとう」との言葉を、シスターからは労いの言葉を頂いた。よくよく考えると…この2人って俺の名付け親だよなぁ、これから何か機会があった時は必ずお返ししないと…。まぁコルトには前々から返す気で居たし、シスターは仕事だから気にしなくて良いとかって言いそうだけど…ここが日本人だけの感性なのだろうか、文化の違い的な…。



兎に角、こうして俺は遂に…この世界でのフルネームを手に入れた。


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