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第7話「アミュレット村」

村の一角に到着した俺達は、始めに露店が立ち並ぶ大通りを見て回る事にした。…と言うより、コルトが俺に気を利かせて案内をしてくれている感じだ。これじゃお詫びになってない様な…。まぁ良いか、買い出しの荷物が多くなった時にこそ俺が活躍してみせるぜ。…今は子供の体だから前の世界以上に腕力に余り自信は無いけど。


「へぇー、村って割には人通りも多いし…活気あるんだなぁ。」


「うん。このアミュレット村はね、昔からレグナシア王国の領土だから…王国の方から来る人も沢山居るの。」


この村ってそんな名前だったんだ…そういや最初にこっちに来た時、ここが何処なのか質問すらしてなかったっけ。あー異世界来たみたいねー、で勝手に納得してたし…。コルトの説明通りなら、このアミュレット村はその王国とやらの中継地点の役割を果たしているんだろう。ゲームでRPGも好んで遊んでた俺はこういう無駄知識にだけは自信がある。


「その…レグなんとか王国、ってのは大きい国なの?」


「えっとね…ボクもお父さんのお仕事で…一緒にレグナシアには何回か行ったけど…この村よりもずっと大きなお店や教会があって、聖殿やお城もあったよ。」


「ほー…大きな店や城かぁ、俺も機会があったら1回は行ってみたいな…。…ところでその王国にある教会と聖殿ってどう違うの?」


コルトにそう何気なく尋ねると、タレ目で温和そうな印象の彼女が吃驚した様に目を真ん丸くする。うーん…やっぱりアンクとミリアさんの娘だな、リアクションした時の表情が似てる。で…聞いては不味い内容だったのか不安になる俺。


「ほ、本当に知らないの?レグナシアの聖殿だよ?」


「ごめん、全然知らない…。」


そもそもレグナシア王国を知らないニュアンスで話していたのだから聖殿だけ知っていたらおかしいと思う、とはまだ突っ込まない。彼女がこう言うのだからその王国自体よりも聖殿の方が有名な可能性もあるし…。


「そっかぁ…。じゃあ…勇者アステリアの噂とかも知らない…よね?」


え、この世界に勇者とか居たんだ…あんな魔物が生息してる位だからどっちかっていうと冒険者達がこう、「狩りに行こうぜ!」的なノリで成り立ってる世界なのかと思ってた…。つまりこの世界の勇者は世間一般的に知られてる程度には知名度が高い訳だ、桃太郎みたいなもんかな?


「勇者、アステリア…。成る程、その人が聖殿と何か関係してるから有名なのか。」


「うん、関係って…いうか…1000年前に自らを封印した勇者アステリアが入った結晶の塊を…今でも聖殿の中に祭ってるって噂…。国王様とか、偉い人じゃないと見られない…らしいけど…。」


その勇者が実在してる可能性がある、と…しかし1000年前って…もう賞味期限切れてるんじゃないの…?まぁつまりは…国家機密って奴か、しかし何でまた勇者が自分自身を封印する必要なんてあったんだ?ちょっと気になる…勇者の歴史の本とか売ってないかな………あ、ダメだ。俺こっちの世界の字はまだ読めなかったんだ。今はお手上げですわ。


「でも、それが本当ならこの世界の平和は安泰だな。封印状態とはいえ、そんな名高い勇者が王国に居るなら悪い奴とか何も出来ないだろ。」


「…そう、かなぁ。ボクは…その勇者よりも…えっと…クラルの方が…頼りになると思う…けど。」


「ははは、そんな訳ないない。俺なんて棒切れ振り回して犬を倒すだけで精一杯だし…。」


コルトは何時もやたらと俺を持ち上げて来る。嬉しい、期待は嬉しいけど…俺はそんな大物ではない。こっちに来る直前に救世主がどうこう言ってた声が聞こえたけど、今こっちで異世界っぽい事したのって自分に回復魔法掛けただけだし、あんなのこそ信用ならん。きっと命の危機に瀕した彼女を助けたから…何て言うんだっけこういうの……吊り橋効果?いや、これは違う…親の欲目?これはアンクだ、まぁ彼の娘に対する評価は間違いなく正しいから問題ないんだけど。えーと…意味的にはコルトの欲目だな。うん、しっくり来た。


「むー…クラルは凄いのに…。」


「コルトが褒め過ぎなんだって、俺はそんな大層な人間じゃないよ。それより…買い出ししなくて良いの?」


「えっ…買い出し?………あっ、そ…そうだよね!うん、えっと…えっと…お、おじさん!そのリンゴ飴を2つ下さい!」


えっ、それ買い出しに頼まれた物なの?2つって事は俺にも買ってくれたの?初めてのおつかい失敗フラグですよこれは。どーれみーふぁーそーらー…。


「あいよっ!いやぁ可愛いカップル……ってアンクさん所の嬢ちゃんじゃないか!いやぁアンクさんには何時も世話になっちまって……ん?そっちのは…よく見たらこの前嬢ちゃんを助けてくれた坊主じゃねえか!よーしよし、そんな2人なら代金は取れねぇ!ほら、持ってきな!」


「…か、かっぷ…る……あ、あぅ…。」


そういうと気の良さそうなおっさんは俺とコルトにそれぞれ一番でっかいリンゴ飴を手渡して来た。何故かコルトは顔を赤面させてもじもじと俯きながら受け取り、俺は初めてのおつかい失敗回避に安堵し、ホッとした表情で受け取った。すまんおっさん、マージナル家への恩義は兎も角…俺が無料で貰う道理は無いんだけど、何時か必ず代金は払うから今だけはその好意に甘えさせて貰う。


「ありがとうございます、おじさん。」


「ぁっ…、…ありがとう…ございまひゅ…!!!」


「おう!美味しかったらまた買いに来てくれよ!お前さんらなら大歓迎だ!」


いや、今回買ってないけど…とか野暮な突っ込みはしない。心からのお礼を述べる俺に続き、ブツブツ何かを呟いていたコルトも赤面したまま顔を上げ、とても幸せそうな笑みを浮かべて礼を述べた。リンゴ飴が好物なのだろうか?てか思いっきり台詞噛んでいた。可愛いですね。


こうして暫くの間、2人でリンゴ飴を舐めながら露店やちょっとした店を覗いて回ったが、一向にコルトが何かを買う気配は無かった。買い出しって言ったら食材とか調理用具とかだと思うんだけど…。そうしている内に次に覗いたのは防具屋…の様な…お洒落な洋服屋というか…、ファンタジー世界の冒険者なら誰かしらは着ていそうなローブやら鎧やらが所狭しと並んでいる店だ…コルトってこんな店も覗くんだなぁ。お、この紺色をメインに銀の刺繍がされたマント、結構好きなデザインだな。しかもフード付きだし、せっかく回復魔法を覚えたんだから俺も少し位は本物の魔法使いっぽい格好をしてみたい。…なーんてな、こういう事はもう少し魔法が多く使える様になってから考えるとしよう。後、収入も。


「クラル…それが欲しいの?」


手に取って眺めていたのを見ていたからか、コルトがそんな事を尋ねて来た。


「んー、あー…いや?ちょっと珍しいから手に取って見てただけだよ。」


マントを元の位置に戻す直前、値段を見て少しだけ焦った。この世界の貨幣価値はよく分からんけど少なくとも0が4つ以上あった、しかも一番頭の数字が9…。これは…貧乏人の俺が触っちゃダメな奴やな?


「そっかぁ…。…………あ、これ…確かにちょっと高いね。」


そう言うコルトは何故か家を出た際に直ぐ俺が渡した買い出し金入りの布袋を覗いてしょんぼりとしている。いや、だからそれはアンクに頼まれたお使い用の資金でありましてね…?…意外にコルトは不良なのだろうか、親の金をくすねてはいけないぞ。


「いやいや、その袋の中身はちゃんと用事に使うとして…これは自分でちゃんと働いて、お金を貯めてから買うよ。」


「…うん、それじゃあ…買い出しの物だけ買って置くね?」


どうやらここには頼まれていた物が売っていたらしい。コルトが店主らしきおばさんの方に向かうのを見届けると、俺は何時か手に入れてやると紺色のマントを一瞥した後、他の品々を眺めて買い物を終えるのを待つ事にした。

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