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第24話「vs.闇導師ミュレル 後編①」

   ***



体中に走る鈍痛と同時に俺は意識を取り戻した。どうやらさっき聞いた話の通り…気絶させられた所からの再開みたいだな。…格好付けて自分からこんな窮地に戻るなんて…俺ってやっぱ脳内がおめでたいのかもしれない。


「…っ…て…。」


「クラルッ!目が覚めたのね!?早くそこから離れてっ!!」


ぼやけ気味の視界…熱気を感じる方向に視線を向けると…何とミリアさんがあの馬鹿でかい竜の吐く黒い炎を魔法障壁で必死に抑え込んでいる。ど、どうなって…いや、そもそも何故ミリアさんが此処に…?


「早くしなさい!!!そう長くは持たないのっ!!!」


「はっ、はいっ!」


普段、聞かない様な切羽詰まったミリアさんの怒号が飛ぶ。訳が分からない、気絶する前に此の場で…冥竜、そしてあの闇導師とか言う女と戦ってたのは自分だけだったのに。いや…兎に角、今はミリアさんの指示に従わないと!俺は回復魔法を発動させる暇も無く、ふらつく足で何とか黒炎が届かない瓦礫の物陰にまで後退する。


「み…ミリアさん…離脱、しましたっ!」


「っ…!」


既に返事をする余裕すら無かったのか、ミリアさんは素早く杖を横に振るって一瞬だけ魔法障壁に勢いを付ける。同時に僅かに黒炎を押し返したのを見計い地を蹴ると、そのたった一動作で俺が避難していた位置にまで下がって来た。微弱ながらミリアさんは薄緑の魔力を纏っているのが見て取れる。多分、前にコルトを運ぶ時に俺へ掛けてくれた身体強化の魔法を使用しているのだろう。


「……。」


ふらふらと疲労困憊な俺を、強化魔法が掛かったままのミリアさんが感極まった様に思いっきり抱き締めて来た。何か柔らかいし良い匂いだけど…ほ、…骨が軋む音がする…。


「……クラル…っ…!」


「み、ミリアさ…!い、痛い、痛いですっ!」


こんな事をしている場合では無いのだが、俺の無事を喜んでくれているのだから無碍には出来ない。っていうか本当に痛いので肩を控え目に叩いて離して貰う。


「あっ…ご、ごめんなさい…!つい…、でも…無事で…良かった…!」


「す…すみません…心配を掛けてしまって…。」


「もう…本当よ、…だけど…あの子を相手に…よく頑張ったわね。」


とても温かい声、そして我が子を案じてくれる様な仕草で頭を撫でてくれる。でも…俺はそれよりも…あの子…って発言に意識が向く。やはりあの女…ミュレルとはやはり何か因縁が有るのだろう…。結局、マージナル家の人達を巻き込む前に何とかする事は出来なかった。でも……ミリアさんの言葉からしてあの冥竜と闇導師は、きっと自分が考えている以上の相手なのだ。


「…よし。」


気持ちを切り替えよう。俺の剣や攻撃魔法では歯が立たない…だけど、回復魔法だけは別だ。この世界に回復魔法の使い手が本当に俺だけなのなら…ミリアさんのサポートとして戦うだけでも有利になる筈!


「ミリアさん、此処からは一緒n」


「…ダメ、あなたは自分を回復させたら此処から離れなさい。」


「は、離れろって…そんな事出来る訳!」


「なーにをのんびり話しているのですかぁー?」


「「っ!?」」


直ぐ頭上から声が響くと同時、俺とミリアさんが視線を上空に移せば…先程よりずっと近距離で浮遊しているミュレルがそこに居た。


「私に殺される順番でも相談してたのですか?それとも…逃げる算段?」


「くっ!」


既に互いの力量の差を理解していても尚、俺は反射的にミュレルに向け杖を構えようとする…が。


雷の糸(フィロ・スタンティカ)


「っが…!?」


「クラルッ!」


俺の右手に黄色くうねった糸の様な電撃が直撃すれば杖を握っていた手に痺れが走り、力が入らず思わず地面に落としてしまう。ミリアさんは既に前に立ち、俺を庇う様にミュレルと対峙している。


「でも、残念ですが順番は決まってますー。まずはミリア……お前をそのガキの前で八つ裂きにしてやりますよ。」


無詠唱で、その上杖を使用せずに放ったのか、僅かに雷を纏わせた人差し指を向けた状態で淡々と敵意を吐くミュレル。…その瞳には、明らかに狂気の色が垣間見える。


「……もう…今度ばかりは…封印なんかじゃ…済ませられない…。」


だが、それを見ても恐れる事無くミリアさんは静かに言葉を続ける。そうして三宝玉を象徴とした杖を静かに前方頭上に向けて構え直すと…絞り出す様な声音でハッキリと敵に向けて告げた。


「今日、この場で…あなたを…殺すわ……!」


それを聞いたミュレルが一瞬だけ瞳を丸くするが、直後…表情が一変する、狂気と悦びが含んだような…そんな笑み。敵も黒く昆虫の手足みたいな形状の杖を構える…と同時に、ミリアさんの身体周辺に先程より濃い緑色の魔力が収束するとゆっくりとミュレルと同じ高さの位置にまで浮かび上がって行く。


「さて、私を殺すとか偉そうな事を言ってますけど…こちらには冥竜(ヴァハムート)も居るのですが…?」


「……。」


「慈悲深ーい私は待ってあげますから…切り札があるならさっさと出したらどうです?」


「……。」


地面に立ったまま唸り声だけを漏らして主の命令を待つ冥竜に視線を向けるミュレル。そうだ…あいつが指示を停止していたから動かなかっただけで…奴とミリアさんが戦うとなったら当然あの冥竜も戦列に加わるに決まっている…!…やっぱり…戦力としては役に立たなくても…囮位の役は俺が…!そう考え、自身の胸元に片手を添えて漸く回復魔法を掛けようと考えた時だった。



「…大気を司りし風の神子よ。」



ミリアさんの右手、左手に濃緑色の魔法輪が発現する。…まさか、これは…。



「我が魔力と祈りを糧とし、」



順に右足、左足と魔法輪が現れていく。



「気高き風で地を裂き、空を斬れ…!」



そしてミュレルの時と同様…杖と身体全体を覆うように何重もの魔法輪が回転しながら発動する。間違いない…これは…召喚魔法だ…!



風唄ノ巫女(シナツヒメ)!』



詠唱が終わりミリアさんの身体を包んでいた魔法輪が一気にパキィンッ!と砕ける音と同時に、彼女の隣の宙に魔法陣が発動し、その中から風の魔力と共に緑色の巫女服を着た女が現れた…いや、あれが召喚獣なのだろう…。見た目は人間に近いが恐らくあの冥竜にも引けを取らない威圧感を放っている。ミュレルも軽口を叩く様子も無く、愉しそうに口元を歪ませたまま軽く顎をしゃくると冥竜は翼を広げ主の傍まで飛翔する。




「さぁ…決着を付けましょう…ミュレル。」




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