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第22話「vs.闇導師ミュレル 中編②」

レグナシア領から遥か北西…過酷な寒さが支配するコールディラ地方。其処にミュレルに良く似た容姿の魔法使いが度々姿を見せる…と言う情報を得た私は直ぐに準備を整えて出立した。


極寒の地で有るコールディラでは風魔法は余り有用では無かった。吹雪が非常に強く、視覚的にも体力的にも飛翔魔法や浮遊魔法を使用しての移動は困難だったからだ。既存の交通網で有る犬ゾリを利用して私は目撃情報の有った小さな集落の近く迄運んで貰い、火属性魔法を応用した体温調節と防寒具を頼りに徒歩で移動を果たした末…やっとの思いで目的である集落に到着した…。


…だけど。


「何よ…これ…。」


魔物達の襲撃を受けたらしく…集落は既に壊滅していた。家屋や建造物は軒並み破壊され、酷い状態で有ったが…襲撃を受けて未だそれ程時間が経ってないのか…或いはこの地特有の気候故か…犠牲者である住民達の遺体は綺麗なまま雪に埋もれた状態で晒されていた…。


完全に当てが外れてしまったと落胆する…同時に、このまま亡くなった人達の遺体を放置する気になれない気持ちと…こんな所で道草を食う余裕が私に有るのか…という焦燥が頭の中で鬩ぎ合う。


……結局、私は彼等を弔う事にした。…とは言っても大した事は出来ない。前述した通り、此処は過酷な極寒の地…幾ら魔法が使え様と魔力が切れれば私もこの人達と同じく雪の下で眠る事になってしまう…。だから調節した火の魔法で幾つか穴を掘り、近場の遺体をそこに入れて燃やす…それだけだ。


…遺体の数も20人を満たない位だったので作業は思ったより早く終わった。既に辺りは暗くなっている…私は来る前に武器屋で調達したルーンスタッフを小さく振るい、それぞれの穴の中に収まる遺体に小さな火を灯した…この吹雪でも暫くは燃え続けられる特殊な炎。無事に遺体に燃え移ったらしく、明々と燃え続ける炎から舞い上がる火の粉と燐…その光景を疲労混じりの瞳でじっ…と見つめる。


「……。」


……思い浮かぶのは…あのダンジョンで命を落とした仲間達…。思えば…身近な存在の死を痛感したのはアレが初めてだった…ミュレル程では無いにしろ…彼等とも仲は良かった…。なのに私は…仇を討つ為では無く…その仇を助けようとして行動している…。


彼等は…どう思っているだろうか…私を…。


「おぉー、人間の死体で焚き火とは面白い事をしてますねー?私もちょっと当たらせて下さいー。」


不意に背後から声が掛かり、意識が現実に戻された。……この声…忘れる筈も無い。


「実はこの近くに太古の邪悪な魔導士が使ってた伝説の杖が封印されてるらしいんですがー。」


私が探し続けた…変わり果てた親友。


「こいつらが場所を秘匿してるらしかったんですけどねー、脅しても言わないから魔法で皆殺しにしちゃいましたー。」


ローブのフードの下から垣間見える、綺麗な黒の髪…そして愛らしさよりは何方かと言うと美しく整った顔立ち…違うのはやはりあの嫌な嗤い方をしている点だけ…。2年の間に少し大人っぽくなったみたいね…。


「ま、そのお陰でこうしてあなたは火種を見つけられた訳ですしー…ギブアンドテイクって奴ですかねー。」


身長も伸びているみたいだ。後ろ姿しか見せてないとは言え、私に気付かないのは…きっと彼女同様に防寒具のフードを被っていたからだろう。


「ちょっと…私の話、聞いてますー?…無視してるんなら直ぐ殺しますよー?」


私は静かに振り返るとルーンスタッフを片手で彼女に構えながら、もう片方の手で頭のフードを外した。どの道、不意打ちでは彼女に勝てない。それに…一瞬だけでも向き合って話したかった…例えその先の展開が分かり切っていても。


「ええ…ちゃんと聞いてるわ、…ミュレル。」


一瞬の間…彼女は心底驚いた様にあの時から濁り切ってしまった紅い瞳を丸く見開いた後…忌々しげな物を見る目付きでこちらを睨んで来る。


「………前の話、聞いてなかったんですねー。…今度は…見逃したりしませんよ?」


ミュレルの顔に僅かながら不満の色が浮かぶ…まるでもう会いたくなかったとでも言うかの様に…。


「覚悟の上よ…、今度はあなたを救ってみせるから…。」


「…はっ……。今だけは前の人格に同情しますよー、消え掛かけてた癖に必死で助けた友人が…こーんな糞馬鹿なんですからねー。」


呆れた口調で肩を竦めた後、紅い瞳を細めれば蛇が絡んだ様なデザインの杖を構えるミュレル。…と、一気に彼女の体から黒い魔力が溢れ出す。…激しく舞う白い雪とは対照的な闇の波動……やはり地道な鍛錬で増やした程度ではミュレルの魔力総量には及ばない…か。


「その消え掛かってたという人格こそが本当のミュレルよ…あなたはミュレルであってミュレルではないわ。」


「あーそうですかー……なら…あなたも綺麗に消してあげますよ、ミリア・マージナル!」


こうなれば…短期決戦しかない!私は出し惜しみ等せず、彼女に向けたルーンスタッフに全力で氷属性の魔力を込め詠唱を始める…すると、それを即座に理解したのかミュレルもほぼ私と同じタイミングで闇の魔力を収束させ詠唱に入った。



「氷晶を司りし天空よ。その美しき霜を輝きと変え、我が行く手を阻む愚者を薙ぎ払え!」



「暗黒を授かりし常闇よ。光及ぶ所を影で覆い尽くし、我が行く手を阻む生者を撃ち払え!」



…!同種の魔法!?不味い…これで撃ち合っては最後は魔力が多いミュレルの方が有利になってしまう…!だけど…このまま破棄したら今度は、防御が間に合わない…!


……幸いにも此処は自然が氷属性の魔法を有利にしてくれている…やる…しかない!





総てを凍結さ(アイスレイト)せし猛吹雪っ!!!(・トルナージ)!』





総てを呑み込(テネブリスク)みし影の夜っ!!!(・レトローア)!』





叫ぶ様に魔法名を口にすれば同時に杖の先端がそれぞれ輝いた。次の瞬間、青と黒の光り輝く魔力の奔流が互いの距離の丁度中間でぶつかり合い、威力を相殺しあう様に拮抗する…!


「くっ…!」


「…!まさかあなたが上級魔法を会得しているとは…意外でしたよっ!」


光属性と闇属性が優れていると言われる所以の1つに魔法を最初から閃光として…詰まり、魔力を直接魔法として撃ち出す事を可能とする点が有る。それ以外の属性は全てこうして上級魔法で無ければ…直接魔力としては撃ち出せない。…っ!掲げた杖の先に広がる光景、ほんの僅かにだがミュレルの黒い魔力の方が私の青い魔力を押し始めている…しかも彼女には未だ未だ余裕が有りそうだ…。このままでは…何れ撃ち負けてしまうだろう…その前に…次の手を打たないと!ミュレルは同種の魔法を放つ事に意識が向いており、魔法障壁を使っている様子は無い。私はルーンスタッフを突き出してない方の手で腰のスティック杖を引き抜く…これは…魔法学院で当時ミュレルが愛用していた物だ。それを右手のスタッフ同様、彼女の方に構え…苦心の末覚えたあの禁断の力を発動させる!


「ふふふ、でも結局…その拾った命も無駄に捨てる事になりそうですねー?ミリア。」


「……………寿命…、5年を捧げる!!!」


「は…?一体訳の分からない事を…、ん…………っ!?ば……馬鹿な…っ!?」


突如、押され気味だった私の青い魔力が彼女の黒い魔力を押し返す…!同時に私から何かが抜けていく様な不快感…加齢した訳ではないし、疲労とは別の感覚…恐らく…あの禁呪の通り寿命を奪われたのだろう…でも、それでも良い…!どうやら差し出した5年では封じられたのはミュレルの闇属性のほんの一部だけだったようだ…。だけど、少し勝気が見え…


「………ちょっと押し返した位で…調子に……、…乗るなあああああああっ!!!!」


「っ!」


見下していた私に僅かとは言え押されたからだろう、激怒した彼女が更に闇の魔力の出力を上げて私の青い魔力を押し返す。更に


「お前と私じゃ格が違うのですよっ!…漆黒の魔球よ、憎き標的を亡者の手にて抉り殺せ!」


そんな…ニ重…詠唱…!?なんと黒い魔力を放出し続ける杖とは別に、彼女も左手をこちらへ向ける。私が今やってる魔法と禁呪の反則技ではない…純粋な属性魔法の2つ同時発動…!最上級魔法使いでも困難な大技なのに…!…ダメだ…今追撃されては…!……もっと…寿命を賭けるしか…無い!


「寿命…15年を捧げるっ!!!」


死霊群の誘い手(へリングハンド)!』


僅かに私の方が早く宣言すると先程以上に何かを失った様な不快感を覚えつつも、魔法名を唱える彼女の左手に収束していた魔力が消失した…恐らく、左手の魔法に回していた分の闇の魔力が封じられたのだ。


「なっ…あ…!!?こ、こんな…筈はっ…!あ…ぅぅ…!…な…何を…何をしたあぁぁぁっ!?」


既にミュレルは左手の魔法処ではなく、両手で必死に蛇杖を持ち魔力を流し込み続けている様だ…。しかし既にこちらの右手だけで持ったスタッフから放たれている青い魔力が相手の黒い魔力を完全に押している…これなら…!私は揺さぶりを掛ける為に彼女に告げた。


「禁呪を掛けたわ…!ミュレル…今のあなたでは…もう私には勝てない!」


「禁呪…だとっ…!おのれ…おのれぇっ!私の体に…何を…したぁっ!!!」


取り乱したミュレルは杖を両手で振るって放出し続けている魔力を波打たせ、一瞬だけこちらの魔力を押し返した瞬間に魔法使用を辞め一気にその場から横へ飛び退いた…が…僅かに私の上級魔法がかすったのか…一部が凍った状態の右半身を左腕で抱く様な体勢で忌々しげにこちらを睨んでいる…。私も同じく魔法の使用を停止すれば彼女に降伏するように説得する。


「諦めなさい…!あなたが大人しく元のミュレルに人格を返すと言うのなら、これ以上は…。」


それを聞いた彼女は一瞬だけ憎悪の表情をきょとんとさせた後、再びこちらを睨みながら…


「っ…、…はぁぁー?…お前、馬鹿ですかー?代価は払ってこその代価…もう二度と私は私の人格以外にはなりませんよー…それにさっきも言いましたが…2年前にお前を見逃した時点で…元の人格は既に、消失寸前だったんですよ。あれが最後ですよ、最後。」






その言葉の意味を理解した瞬間、頭の中が…真っ白になった。






え…?……つまり……もう…あのミュレルは…二度と…帰って…、来な…い…?


「そ、んな…!そんなのって…!!」


「はしゃいでたかと思ったら…急に絶望した顔になるんですかー…傍迷惑な女ですねー、…そのまま死ね。」


今度は私が取り乱しそうになった所で、ミュレルが無事な左腕を掲げてるのが見える。



ああ…。



…もう…どうでも良いや…。



私には…彼女を助けられなかった……。



それだけが…真実なのだから…。



「……!」




俯き掛けた時、その時…左手に握っていたスティック杖が…一瞬だけ小さく輝き、震えるのを見た…。



そして…何となく、あの時の光景が頭の中で蘇った…。




『ではでは、さような……うっ…!?ぅ…ぅ…っ…あ…ぐ…っ!邪…魔…するなっ…殺す…っ…!…ミリ…ア…、逃…!……、ぅ…嫌…っ…!殺…!だ…め…っ…!』




…あ。



…………そう、だ…。


今の彼女は確かに…優しかったミュレルじゃない…。


だけど…ああなってしまう前までの彼女は…打算なんかで人を助ける子じゃ…無かった!


何時でも、どんな時だって…優しい子だった…!


人格が消えてしまう直前になっても…最後まで諦めず…私を救ってくれた…!


だったら…私だって…!再び顔を上げた私は左手の杖に魔力を集め、詠唱を開始する。


「冷たく凍てつく氷の棺よ…。」


それなりに知識を得た今の私なら理解出来る。恐らく…現状の魔法や薬学、医療では…彼女を戻す事は不可能だろう。だけど…。


「その者を包み、長き時を静止させ、深き眠りにつかせ給え…」


だけど…何時かは…彼女を助ける方法が…見つかるかもしれない…!


他力本願な希望だって…罵られても構わない…!


今、私に出来る事は…!


「永久の闇底に…封印されし…黒き邪竜…よ……、…っ…ぐ…!…おの…れ…!この程度の召喚…魔法…すら…!」


ミュレルが魔法輪を左腕と凍った右腕に纏わせ、詠唱を始めているが…大半を封じられて属性魔力が思う様に捻り出せないのか、両足の輪が出来上がらず、歪んで安定しない…。だけど…もう、どの道遅い。彼女も私が使う魔法の効果が分かったのだろう…弱り気味ながらも憎悪を込めた口調で叫ぶ。


「…ミュレル。」


「我が…呼…、…!?……み…ミリ…アぁああああああっ!覚えて…やがれですっ!必…ず…必ず見つけ出して…っ!」


私は残るほぼ全ての氷属性魔力を左手の杖に込めつつ掲げ…魔法名を宣言する。




凍土封印の安らぎレイド・レストィフル…!』




その瞬間ミュレルの背後にとても強力な魔力で出来た氷の棺が現れる。と…同じくして氷の魔力で作られた鎖が棺から飛び出し、彼女の体に絡みつくと中に引き摺り込む。そうして中に封じられた彼女は足下からピキピキ…と凍り付いて行く。



「お前を殺してやるっ…!ミリア・マージナルぅぅぅぅ…ぅ…ぅ……………ぅ………、……………。」



そうして彼女が完全に氷の棺の中で凍ったと同時に…棺はただの巨大な氷の塊へと変貌し…厚く分厚く、とても大きな氷の中へとミュレルを閉じ込めた。殺してはいない、近い、或いは遠い未来…救われると信じて…彼女を封印したのだ…。


「………。」


ミュレルは私を殺すと言った…でも…きっと…私が生きている間には…彼女とはもう逢えないだろう、それだけの魔力を込めて封じたし…何より…彼女の闇魔力を封じる為に20年の寿命を失った…私はきっと先に逝くだろう。…だから、氷の中で眠る彼女へ…私は別れの言葉で締め括った。





「………さようなら…ミュレル。」





彼女と果たした2度目の邂逅は…そこで終わりを告げた。

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