番外編「深夜のカプリッツィオ」
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トイレから出た俺は複雑さと嬉しさを心に秘めたまま自室に戻った…が、そこでコルトがこの部屋で椅子に座ったまま寝ているのを思い出した。どうしよう…あんな話の後じゃちょっと下の2人にも話し掛け辛いし…、かと言って彼女をこのままにして俺だけベッドで寝るのは罪悪感がある…。しかし、足はまだ滅茶苦茶痛い。朝になったらまた走るのだから、何とか睡眠をもう一度取って置きたい所だ…。仕方ない、気が引けるが起こして自分の部屋に戻って貰おう…。
「コルト、コルト。」
驚かせない様、控え目な声量で彼女の肩をポンポン…と何度か優しく触れる。これで起きてくれれば良いのだが…。
「………………。」
あ、起きた…。起きたけど…すっごい目が据わってる…元々タレ目で優しげな印象だったけど…今はもう何ていうか…「すっごく眠いよ!」って目付きしていて、これはこれで変な魅力があるが…。間違いなく寝惚けてるよな、うん…。でも一応…お礼と用件を伝えてみよう。
「えっと…気絶?した俺を見ててくれたみたいで…ありがとう。もう大丈夫だから、コルトも自分の部屋で寝うぉあっ!?」
感謝の言葉を告げ、続いて伝えたい事情を話そうとした矢先に…なんとコルトが両腕をガバッと広げ、襲い掛か…いや、飛び込んで来た!俺は飾り処かジャンク品状態の筋肉痛な足を必死に動かし回避…というよりも床に転倒して何とか避ける。眠そうな表情のコルトは標的を捕縛出来なかった事が不満なのか両腕をスッ…と下げてじぃー…っとこっちを見下ろしている。無言なだけに恐ろしい…。と思ったら寝惚けコルトが口を開いた。
「…………ボク、眠いの。」
はい、知ってます。邪魔してすみません…。でも俺に襲い掛からなくても口で言って頂ければそれでもう黙ってますから…。
「…クラルと、寝るの。」
いや、何言ってんのこの子。まぁ変な意味じゃないのは分かってるんだけどさ…どういう流れでそういう結論になるの。
「出来れば、自分の部屋で寝て欲しいんだけど…。」
「………………。」
また無言になったコルト。こええよ…。寝惚けているのもあって今度は何をしてくるのか分からない為、足に力を入れて立ち上がろうと踏ん張る。よし、立て…
「…………………ん。」
足元を向いたまま歯を食い縛って何とか立ち上がった俺が顔を上げると視線の直ぐ先には寝惚け顔のコルト、間近で両腕を再びガバァ…!と広げている姿が映る。ああ…もうだめぽ…。今の俺に自分の体重以上を支える踏ん張りが利く訳ないので、そのまま後ろに押し倒された、木造りの床に、後頭部から。きゃあ!誰か人を呼んで!って痛ぇえええ!頭打ったぞ…、頭の強打した箇所を両手で押さえながら悶絶している俺を余所に覆い被さっているコルトは…。
「…………すぅ…。」
再び寝に入った模様。うん、寝顔も凄く可愛いし…何より無害だからそのまま寝ていてくれ…。大体このまま朝を迎えたら俺はただでは済まないのだ、主にアンク的な意味で。なので俺の体に回しているコルトの腕を離そうとする…が
「…ん、んん……やぁ…の…!」
えぇ…、眠い時の子供って確かにそんなリアクションするけど…解こうとしたら余計に腕に力が込められ、ギューッとしっかりホールドし直される…クラルは逃げ出した!しかし、回り込まれてしまった!…あー……。……いかん、ロリコンじゃないぞ俺は。だからこんなちょっと…密着してて女の子の匂いがするとか…小さくても女の子は女の子らしい、柔らかい肌してるんですねとか…思わん、思わんぞ…!そうだ…俺は元の世界でだって三次元の幼女や少女には興味がなかったんだから…二次元こそ至高なんだ…!……でも、尖った耳とか…エルフとか妖精っぽくて良いよなぁ…薄紫色の髪なんて…元の世界でも髪染めしたりしてる人も居たけど…自然に存在してる髪の色じゃないから…コルトみたいに綺麗じゃないし…、大人になったらミリアさんみたいにスタイルも良くなって、何よりも心が優しい……。……、そうだ…この子はとっても優しい子だ。俺がこんな邪な想像を向けて良い子じゃない筈だ。…俺は抱き締められたまま、背中を掌で優しくトン…トン…と撫ぜる。そうしていると回されていた腕の力が弱まり、心なしかコルトの寝息もより穏やかになっていく。これで離れる事は出来るだろうが…、彼女をここに寝かせておく訳には行かない。
「…………っ…ん……ぎっ…!」
そして呻く訳にも行かない。俺は今、既に先程無理だと自覚済みの行動を取っている。覆い被さっていたコルトを抱き上げベッド上へ運ぶ、普段なら無理では無いであろう行為だが…正直…今の俺の足では相当に厳しい内容だ。きっと今、俺の膝は酷く滑稽な程に震えているだろう。筋肉痛の足全体に2人分の体重を支える負荷が掛かっているので恐ろしく辛い、一歩…一歩…コルトを落としたりしない様に慎重に…しかし出来れば早めに、と…運んでいく。そうして何とか彼女をベッドの上まで運び終え、寝かし付けることに成功した。今度は離れる時に腕で俺を捕獲して来る様子も無く、静かに寝息を立てている様だ。そして俺はと言うと…もう完全に足に力が入らなくなったので、とりあえず床の上を転がってコルトが俺に飛び込んできた際に落とした毛布に包まる事にした、枕が欲しい所だが贅沢は言えない、というか…もう起き上がって棚とか引き出し開ける気力も無い。何時間寝られるか分からないが、このまま寝てしまおう…。
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そして修行2日目の早朝。起床はしたものの…立ち上がれず扉の真下で這い這いつくばりながらドアノブへ必死に手を伸ばしている所で…。
出て来るのが遅かった俺を呼びに来たらしいアンクが勢い良く扉を開く→急に開いた扉に顔面を強打し顔を押さえて呻いている俺を偶然目覚めたコルトが発見→そしてアンクはアンクで俺の部屋で寝ていたコルトを発見
という朝から大騒ぎになりそうなコンボ事件が発生した。尚、この事態を知ったミリアさんは昨日の深夜の繊細さが想像出来ない位、口を押さえても隠し切れない程笑っていた。…ツボだったのだろうか?




