レベルが支配するこの世界で
俺の名前はエスト・ウィーク。レベル1の15歳、男。
俺の身体的な特徴を挙げるとするならば、ぼっさぼさの赤髪と、ガンを常時飛ばしているかのような目付きの悪さだ。それ以外は普通。悪くもなければ良くもない。
「くそっ!なんでレベルが上がらねえんだよ!」
エストは怒りに身を任せ、思い切り魔物を蹴る。しかし魔物は痛そうな素振りを全く見せず、大振りの攻撃で隙だらけのエストに反撃を行った。
「ぐっ、くそ……」
魔物の名前はスライム。ぷるぷるとした柔らかな身体を持つのが唯一の特徴で、この世界で最も弱いとされているレベル1の魔物だ。
だが、エストはそんな最弱の魔物1匹に苦戦を強いられていた。
平原のど真ん中でエストはスライムと戦っているのだが、エストは武器を持っておらず、己の肉体のみで戦っている。
防具はと言えば、麻で作られた半袖の服と、安物の半ズボンを身に着けている。
何が言いたいのか?というと、戦うために適した装備をしていないということだ。そのせいで、エストの防御力と攻撃力がともに最低値なのである。
「ーーこんな世界、大嫌い……だ」
エストとスライムの戦いは、スライムの勝利で幕を閉じた。それは同時に、エストが死んでしまったことを暗に示した。
「勇気はそこそこ。知性は微妙じゃな。ま。及第点と言ったところかの」
エストとスライムの戦いを見届けた老人が1人いた。その老人はローブを身に纏い、自身に生えている白髭を指で弄りながらエストの死体へ近付く。そして、先ほどまでエストと戦っていたスライムを睨みつける。それだけで、スライムは老人から放たれる威圧感によりいとも容易く絶命した。
「……ほう、肉体から魂がまだ抜けておらんのか。よほど生への執着が強いのじゃな? 根性だけは認めてやろう」
老人は満足そうに頷き、エストの死体に向かって呪文を唱え始めた。
すると老人の周囲には不気味な黒い魔方陣が出現し、地割れが起き始めたのだ。
「我が黒き呪いを授かりし汝に光ある呪いを授ける。理を殺せし、特異なる力よ。汝を祝福したまえ」
老人が詠唱を終えると、エストの体が黒く発光を始める。それは、人影がどんどん深い黒色となっていくような不思議な発光であった。
「ーーうっ、うん……」
何とも言えない奇妙な違和感を覚え、エストは目を覚ました。
「確か俺、スライムにやられて……死んだはず、だ」
だが、エストの体はどこも傷ついていなかった。肢体はがどこか欠けているわけでもなく、痛い箇所もない。エストが目を覚ました場所はスライムと戦っていた場所だったので、あれが夢であった可能性はあっさりと否定された。
エストが頭を悩ませていると、自分の身に着けているズボンのポケットに身を覚えのない折り畳まれた紙があることに気が付いた。
「ん? 何だこれ……」
折り畳まれた紙を開いて見てみると、文字が端から端までぴっしりと書かれていた。
ーーエスト君へ
目覚めの気分はどうじゃ?今、君は自分が生きておる事に驚いとったじゃろう。
結論から言おう、君は1度死んだ。じゃから、わしが君を生き返らせたのじゃよ。
「どうして俺の名前を? ……というか、俺を生き返らせた? そんな事が出来るスキルなんて聞いたことがないぞ……?」
この時、エストは全身に戦慄が走るのを感じた。だが、文を読み進める手は休まることがなかった。
本題に入ろう。君は生まれてから今まで、どれだけ努力を積んでもレベルが上がらなかった。そうじゃな?
そのような呪いをかけたのは紛れもなく、このわしじゃ。全ては世界を正しき姿へ変えようとする志を持てる者を見極めるためじゃった。君からすれば迷惑極まりなかった事じゃろう。
君が死ぬまで、君自身のレベルが上がる事は絶対にない。じゃがレベルが上がらぬ代わりに、君に世界を変えるスキル授けた。
その名は《貰受変化》。同意を得た相手、もしくは瀕死の相手に対して発動出来るスキルじゃ。
発動した場合、相手が持つレベル、装備、姿。ありとあらゆる能力を使うことが出来る。それは人外が相手でも同じことじゃ。
「な、なんだと!? じゃあ俺は、あらゆる存在になる事が出来る、と?」
驚き、困惑、歓喜。あらゆる感情がエストの中で渦巻き、エストを混乱に陥れる。だが、エストは読み進めるのことを止めようとしない。まるで、読むことに魅入られたかのようであった。
《貰受変化》の発動方法は簡単。なりたい相手を頭に思い浮かべよ。解除は元の自分の姿を思い浮かべよ。それだけじゃ。
念を押しておこう。《貰受変化》はこの世界のシステムの穴をついたスキルじゃ。1歩間違えればこの世界が容易く滅びる。願わくば、君が道を見失わないよう祈る。
「……」
エストは言葉を失った。怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもない。
自分が世界を滅ぼせる力を持ったことに絶句したのだ。
「ミレッカに頼み込んで……試してみよう」
エストは少し早歩きで平原を移動し、ミレッカの住む家に向かった。
エスト・ウィーク 人間 15歳 男 レベル1
体 力 12/12 魔 力 2/2
攻撃力 1 防御力 2
俊 敏 2 幸運 1
状 態 普通
所有スキル一覧
《レベルストップ》、《貰受変化》
「あんたねぇ、急にうちの家へ押しかけてきたと思ったら、『スキルを試してみたいから協力してくれ』だなんて。頭おかしいの?」
そう言って明らかに不機嫌にしているのはミレッカ・プリース。エストの幼少期だった頃からの幼馴染みであり、数少ない異性の理解者でもある。
顔立ちは幼さが目立つが凛としており、腰の辺りまでのばしている青色の髪の毛がとても綺麗な女の子だ。
「頭がおかしくて悪かったな。でもな、俺が今から試してみたいスキルは、ミレッカにしか協力を頼めないことなんだ」
エストはミレッカの家を訪ねる時、決まって月が頭上にさしかかる頃に訪ねることにしている。それがミレッカの機嫌を悪化に向かって加速させているとは全く気付かないのだから、ミレッカは呆れるしかないのだった。
「ああもう! 分かった、分かったわよ! でもね、今度うちに来る時はちゃんとお昼に来て頂戴」
「はいはい、分かりましたよ」
エストは右手で頭をぽりぽり掻きながら、頭を下げる。その姿は誰がどう見ても反省の色を感じられないものだ。
これで何度同じやり取りをしたのかしら、とミレッカは思った。どうせ今度も夜に来るのよね、そう思うと溜め息が自然と出るのであった。
「それで、何のスキルを試したいわけ? レベルが上がったのなら初級スキルよね?」
「《貰受変化》だ」
何故か誇らしげにエストは言い放った。
はぁ?おーばーとらんす?……何それ、ずっと玄関前で話しているから、寒さで頭でもおかしくなっちゃったのかしら?というのがミレッカの本音だった。
「……考えても意味が無いわね。協力してあげるから、実際に見せて頂戴」
エストはミレッカにそう言われ、紙に書いてあった通りに実行した。
しかし、特殊なスキルであり、かつ生まれてから初めて使うスキルであったためか、緊張してエストは中々上手くミレッカの姿を頭に思い浮かべられないでいた。
「ねえ、もういいかしら? いつまでも玄関前に突っ立ってると、うちの親が心配し始めるわ」
エストは数分ほど前から目を閉じて棒立ちになっている。ミレッカがいくら協力をすると言ったとはいえ、家の玄関前で寒空の下にいると辛くて辛くて我慢ならないのだ。
無理にでも扉を閉めて、帰ってもらおうかしら。そうミレッカが考えていたときだった。
「な、なによそのスキル……」
ミレッカはエストのスキルが発動したことに驚いた。
ーー正確には、スキルの発動に伴い現れた魔方陣に驚き、恐怖した。
通常、魔方陣の色は青色か白色か黄色である。それ以外の色の魔方陣はスキルを極めなければ使えないものであり、黒色に至っては禁断のスキルに用いられるとされているのだ。
更に言うなら、文字や印を用いて魔方陣は作られる。例外はなく、スキルに合った文字や印を用いらなければ、魔方陣は形成されずに消滅してしまう。
だがエストの魔方陣はどうだろう?文字どころか印の1つすら見当たらない。
ミレッカの第6感がこれは危険だ、今すぐ逃げるべきだ!そう告げている。
ミレッカは慌てながらも家の中へ逃げようとする。
しかし、その判断は余りにも遅すぎた。
エストは見た。目の前で、ミレッカが煙のように消滅したのを。
「……え?」
そして、気付く。
エストの目線が、急に低くなったことに。
エストの着ているものが、ミレッカのものに変わっていることに。
ーーエストがミレッカに成り代わり、ミレッカ本人をこの世から消してしまったことに。
「あ、あぁ……うぁぁあああああ!!」
ミレッカはーーいや、エストはしばらくの間、玄関前で泣き崩れていた。
何故消滅したのか分からない。もうミレッカ(本人)は帰らぬ人となったのだろう、そう思うと心がズキリと痛み、涙が止まらなかったのだ。
そんな時にエストはミレッカの母親に見つかった。
ミレッカの母親は赤子をあやすように、泣き続けるミレッカ(エスト)に対してこう言った。
「エスト君と何があったのかは聞かないけど、また元気な顔を明日からは見せて頂戴ね」
その後、エストは彼女に手を引かれてミレッカの部屋に連れていかれたのだった。
ミレッカ・プリース(エスト・ウィーク) 人間 15歳 女(男) レベル32(1)
体 力 89/89 魔 力 17/17
攻撃力 47 防御力 60
俊 敏 51 幸 運 10
状 態 ショック
所有スキル一覧
《ホワイトヒール》、《レッドファイア》、
《ガードウォール》、《俊敏成長率アップ》、
《レベルストップ》(現在は無効です)、《貰受変化》(現在使用中です)
短編って難しいですね……え、簡単?な、なんだってー!?
……コホン、多分他にも小説を執筆していますので、他の小説もお暇でしたらどうぞ。