ドラゴンの国11
エリアも知らなかった未知のドラゴンは、大型コピルニアモンキーを丸呑みにするとゆっくりと首を動かす。未知のドラゴンの視線が坂の上にいたアド達に向いた。
「コカ!」
「馬鹿な!」
この距離で気付かれるわけがない。しかし、アドの考えとは裏腹に未知のドラゴンはしっかりとこちらを見ている。
「コオオオオオオカアアアアアアアアア!!!!!」
未知のドラゴンは激しく鳴くと、アド達に向かって真っすぐ走って来た。
「引くぞ!」
エリアの叫びと同時に、アドとネイドが神殿に背を向け走り始める。
「コオオオオオカカカカカカカカカカカ」
背後から聞こえるドラゴンの鳴き声が次第に大きくなっていく。距離は確実に縮まっている。
「止まるな!走れ!」
エリアの檄が飛ぶ。アドもネイドも止まらない。未知のドラゴンは坂をあっという間に駆け上がると、アド達を視界に捉えた。
「コカッカッカカカカ」
未知のドラゴンは、不気味な鳴き声を発しながらアド達に迫る。その大きな足で地を掛け、凄まじいスピードであっという間にアド達に追いつくと、アド達をそのまま追い越して前に回り込んだ。
三メートルを超える未知のドラゴンが、アド達の前に立ちはだかる。
「コカカ」
「おいおい、嘘だろ?」
ネイドが呆れ気味に声を上げる。アド達の目の前に回り込んだドラゴンは、まるで観察するかのようにアド達を見ている。
ネイドがナイフを取り出し未知のドラゴンに向けた。アドも睡眠銃を取り出し、ドラゴンに向ける。
「コカカカカカ」
未知のドラゴンが跳ねた。次の瞬間、ネイドの体が吹き飛んでいた。あまりのスピード。アドは勿論のこと、エリアでも見切れなかった。
飛ばされたネイドの体は、数回地面を転がると壁にぶつかってようやく止まった。
「がっは」
壁に叩きつけられたネイドは、そのまま気を失った。気絶したネイドを一瞥すると未知のドラゴンは次にアドを見た。
「逃げろ!」
エリアはアドを突き飛ばし、未知のドラゴンの前に出る。エリアの体が変化ししていく。眼はトカゲのようになり、口が頬まで裂ける。そして指からはヒトのものではない鋭い爪が伸びた。
エリアは、未知のドラゴンに向かって跳ぶと同時に鋭い爪をドラゴンに振り下ろす。
「くっ」
だが、エリアの爪はドラゴンの皮膚に弾かれた。
「コカカカカカ!」
未知のドラゴンはエリアの鋭い爪を弾き飛ばすと、凄まじい速さで回転した。そして、そのままの勢いでエリアの体に蹴りをめり込ませる。まるで、回し蹴りのような蹴りをまともに受けたエリアは、ネイドと同様に吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「エリア!」
「コカカカカカ」
「くそっ」
アドはドラゴンに麻酔銃を向けた。だが、エリアの爪でさえ弾き飛ばしたドラゴンに麻酔銃の針が刺さるとは思えない。そこで、アドは未知のドラゴンの目を狙った。どんなに固く頑丈な生物でも、目までも固くすることは出来ない。
アドが引き金に掛けた指に力を込めかけた時だ。ドンという音と共にアドの頭に鋭い痛みが走った。
何だ?
何かで頭を殴られたような痛み。薄れゆく意識の中アドは後ろを振り向いた。
「キャキャキャ」
アドの背後にはコピルニアモンキー達がいた。その中の一匹が、棍棒のようなものを持っている。おそらく、これでアドの頭を殴ったのだろう。
アドの視界が暗転する。意識は途切れ、そのまま気を失った。
「コオオオオオオオオオオオオカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!」
アド、エリア、ネイドの三人が倒れている傍で、未知のドラゴンはまるで笑っているかのような不気味な鳴き声で、鳴き続けた。




