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100Gのドラゴン  作者: カエル
第六章
54/61

ドラゴンの国5

「ニーナさん!ニーナさん!」

 船に向かって呼びかけるが、返事はない。

「落ち着け」

 エリアはアドの肩に手を置く。

「私が船に上る。梯子があれば下すから、それで上ってこい」

「分かった」

 エリアは船か離れる。そして、助走をつけて船に走った。

 カン、カン、カン、カン、カン。

 船の壁面を蹴りながら、エリアはあっという間に船の上に上がってしまった。

「梯子があった。上ってこい」

 エリアは梯子を下す。アドは梯子を使い船の上まで上る。

「おいで」

 アドが手招きすると、下にいたクロが飛んで来た。

「バラバラに捜索するのは危険だから、一緒に探すぞ」

「分かった」

 船内にはコピルニアモンキーがいるかもしれない。エリア一人だけなら問題ないだろが、アドを守るために彼女は三人で探すことを提案してくれたのだろう。

「入るぞ」

 エリアが先に入り、続いてアドとクロも船内に入る。

 船の中はひどい有様だった。

 各部屋は荒らされており、物は壊れていた。壁には引っ掻いたような跡があり、所々に血が飛び散っていた。

「ひどいな」

 思わず、アドが呟く。

「コピルニアモンキーの仕業か?」

「間違いないな。船に獣の臭いがこびり付いている。壁に付けられている引っ掻き傷もコピルニアモンキーが付けたのだろう。そこらじゅうにある血は、ほとんどがヒトのものだ」

「乗客はどこに行ったんだ?」

「血は、あちらこちらにある。それにも関わらず死体がないことを考えると、連れ去られた可能性が高いな」

「そうか……」

「もしくは、どこかに隠れているか」

 確かに、船が襲われたからと言って全員連れ去られたとは限らない。むしろ、この船の乗員乗客の数を考えれば、全員が連れ去られたとは考えにくい。

「どこにいるか、分かるか?」

「血の臭いが周りに充満していて、よく分からん」

 しらみつぶしに探すしかなさそうだった。アドとエリア、それにクロは、船内を隈なく探す。しかし、どこにもヒトはいなかった。

「あとは、ここだけか」

 アドとエリアとクロは、ある扉の前に立つ。

「食料倉庫の様だな。ここなら、食料の心配もなく立てこもれるというわけだ」

 エリアは倉庫の扉に耳を立てる。

「中に生物がいるようだ。かすかに物音がする」

「ヒトか?」

「鍵が掛かっていることを考えても、間違いなくヒトだろうな」

 コピルニアモンキーは中から鍵を閉めたりしないだろう。ヒトがコピルニアモンキーを倉庫に押し込めて、カギを掛け閉じ込めたという可能性もなくはないが、ヒトが中に立てこもっている可能性の方が高い。

 アドは扉をノックする。

「すみません!中に誰かいますか?」

 だが、いくらノックしても、いくら呼びかけても扉は開かない。すると、エリアが小声で話し掛けてきた。

「無理やり開けるか?」

「いや、それはやめておこう」

 アドも小声で返す。

 エリアなら簡単に開けられるだろうが、中にいるヒト達はきっとコピルニアモンキーに襲われ、怯えているに違いない。中に何人いるのかは分からないが、彼らをこれ以上怯えさせたくはない。

「では、開けなくていいので扉越しに答えてください。ニーナ=カトレイナという女性は中にいますか?」

 返事はない。アドがどうしようかと思っていると、中から小さい声がした。

「……貴方は、誰?」

「私はアド=カインドと言います。ニーナ=カトレイナさんの知人です。ニーナさんはそこにいますか?」

 アドの言葉から少し間をおいて、中にいるヒトは答えた。

「ここには、いない」

「……そうですか、今どこにいるか分かりますか?」

 中にいるヒトはなかなか答えなかったが、やがて小さな声で囁くように言った。


「連れて行かれた」


「くそっ」

 思わずアドは叫ぶ。最悪の事態だ。

 森に連れて行かれたとすれば、ニーナが生存している可能性はグッと低くなる。

「今、外にサルはいない?」

 中にいるヒトが訪ねてきた。アドは慌てて答える。

「はい、今はいません」

 ガチャリと鍵が開く音がしたかと思うと、扉がゆっくり開いた

 アドは少し驚く。そこにいたのは、まだ年端もいかない子供だった。

「入っていいよ」

「私も入っていいかな?」

 エリアは笑顔で少女に話し掛ける。

少女はエリアを見て、目を見開く。そして、一言「綺麗」と言った。

「私もニーナさんの友人なんだ。私も入っていいかな?」

 少女はコクリと頷く。

「いいよ」

「ありがとう」

 きっぱりと、ニーナを友人と言ったエリアに一言アドは言いたかったが、今は黙っておく。

「それと、この子も入っていいかな?」

 エリアはクロを前に出す。クロは「クー」と鳴いて首を捻った。

「可愛い」

 少女はクロを見ると、少し微笑んだ。どうやら、ドラゴンは嫌いではないようだ。

「いいよ。みんな入って」


 少女はアド達を中に招き入れると、鍵を閉めた。

「こっち」

 倉庫の中はかなり薄暗かった。少女は火のついた蝋燭を持ってアド達を奥まで案内する。

「結構、広いな」

 倉庫はかなり広いスペースで、非常食が入っている袋が大量にあった。

「緊急用の食料なんだって」

 アドの疑問に、少女が答える。

 なんとも用意のいいことだ。ここにいれば、しばらく食料の心配をする必要はない。

 ふと、後ろを振り返るとエリアが非常食の入っている袋に鼻を近づけ、臭いを嗅いでいた。

「どうかしたか?」

アドが何をしているのか尋ねると、エリアは首を横に振った。

「いや、なんでもない」

「ここだよ」

 少女は倉庫の奥を指差す。そこには大人が二十人程座っていた。


「そいつらは、誰だ?」

 座っていた男が立ち上がり、大声で怒鳴った。恐怖のためか、ひどく混乱しているようだ。

「ニーナさんを探しに来たんだって」

 少女の言葉に、全員がざわつく。

「た、助けに来てくれたのか?」

 立ち上がった男とは別の男が、アドの膝にすりよってきた。どうやら、アド達を自分達を救助しに来た者だと勘違しているらしい。無理もない。

「いいえ、違います。私達はニーナさんを探しに来ただけです。皆さんを救助しに来たわけではありません」

 残酷だが、アドははっきりと言った。アドの足に縋ってきた男はガックリと肩を落とす。

 立ち上がっていた男が叫ぶ。

「ふざけるな!俺達を助けに来たんじゃないなら、すぐにここから出ていけ!」

「待って!せめて、ニーナさんのことを教えて上げようよ!」

 アド達を案内してくれた少女が、男を止める。しかし、男は聞く耳を持たない。

「うるさい!お前らどうせ、ここにあるの食料が目当てなんだろ?とっとと出ていけ!」

 長く怯えていたためか、男はすっかり正気を失っていた。

「出て行けって言ってるだろ!」

 男はアドに突然、殴り掛かってきた。その拳がアドに届く前にクロが間に入った。


「ガルウウウウウウウウ」


「ひいいい。ドラゴン!?」

 男はアド達の後ろにいたクロに気付かなかったようだ。牙をむいて唸り声を上げるクロに男は腰を抜かす。他にヒトも一斉に悲鳴を上げて、怯えた。

「クロ、やめろ」

 アドの声にクロは唸り声を止めた。

「ありがとう、俺は大丈夫だ」

 アドはポンポンとクロの頭を撫でる。クロは甘えるように、すり寄ってきた。

「私達はここに留まるつもりはありません。すぐに出ていきます。ですから、どなたかニーナさんのことを知っている方がいらしたら、教えてくれませんか?」

 アドは必死にニーナのことを尋ねるが、誰も答えてくれない。諦めようとした時、少女が口を開いた。

「私が教えて上げる」

 

 少女の話によると、ポシーイド号がこの島に難破して直ぐにサルの群れがこの船を襲ったのだそうだ。

 サルの群れは、無差別に乗員乗客を襲い。森に連れ去ったのだそうだ。

「ニーナさんとは、その時会ったの」

 乗客が皆パニックになる中、ニーナは無事な乗客をまとめ、必死にサルの群れに抵抗したのだそうだ。親を連れ去られた少女のことも必死に励ましてくれたらしい。

ニーナは頑張ったが、毎日のように襲ってくるサルに一人、また一人と連れ去られてしまった。

 そして、遂にニーナ自身もサルに連れ去られてしまったのだという。

「それは、いつ頃のこと?」

「二日か、三日ぐらい前。だと思う」

 暗い中にいたため、時間の感覚が分からなくなっているのだろう。少女はあいまいに答えた。

 アド達がポシーイド号の行方不明を知ったのは、船が行方不明になってから二日後。そして、それから島に来るまでの準備に五日掛かった。

 つまり、ポシーイド号が行方不明になってから、今日で一週間程経っている。

「ニーナさんは……私のことを……守ってくれて……」

 少女の目に涙が浮かぶ。アドは少女に優しく微笑んだ。

「教えてくれて、ありがとう。大丈夫、ニーナさんは俺達がきっと助けるから」

 アドは少女の頭を撫でると、少女は驚いたように顔を上げる。

「助けるって……森に行くの?」

「うん」

 アドは即答する。

「だめだよ!危ないよ!」

 少女はアド達を必死に止める。

「心配してくれて、ありがとう。でも行かなくちゃいけないんだ」

 アドは少女に礼を言い、そこにいたヒト達に頭を下げる。

「行こう」

 アド達が倉庫からでようとすると、背後から大きな声が聞こえた。

「待って!」

 少女がアド達の所まで、走ってくる。

「私も行く!」

 少女は叫ぶ。アドは驚いて、目を見開いた。

「駄目だよ。危ないから、ここで待って……」

「ニーナさんは私を助けてくれた。だから、今度は私が助けたい」

 少女は一歩も引かない。アドはその気迫に押されたが、やはり危ないので連れて行くわけにはいかない。

 アドがもう一度説得しようとした時、エリアが口を開いた。

「分かった。一緒に行こう」

 アドは驚いて、エリアに詰め寄る。

「何、言ってるんだ!駄目に決まって……」

 詰め寄ってくるアドの耳に、エリアは小さな声で囁く。

「ここにいた方が、危ないかもしれない」

「それって、どうゆう……」

「お願い!」

 少女がもう一度、アドに頼み込む。その姿を見て、アドは頭を掻く。エリアを見ると彼女は頷いた。

 エリアの考えは分からない。だが、アドは彼女の言うことを信じることにした。

「分かった。一緒に行こう。でも、俺達から離れたら駄目だよ」

 少女は嬉しそうにほほ笑む。

「うん!」

「よし、じゃあ行こうか」

 アド達は少女と共に倉庫を出る。アドは振り返り、残ったヒト達を見た。しかし、少女が危険な場所に行くというのに、誰も何も言わなかった。


 船の上から森を見る。

 森はどこまでも広がっていた。そこから無数の目がアド達を見ている。

「じゃあ、行こうか!」

 ニーナはきっと生きている。そして、きっと助けだす!

 その心を胸に、アド達は森に向かった。



「コカ」

 不気味な声が響き渡る。

「コカ、コカ、コーカカカカカカカッカッカカッカカッカカカカカカカ」

「クカカカッカカカ」

「コーカカカカカカ」

 森の中心から響き渡るその声は、どこまでも不気味でどこまでも不吉だった。


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