パラサイトドラゴン10
『飼い主』と『ペット』。
本来、エリアを育てたドラゴンベンチャーの二人とエリアの関係はそう呼ぶのが正しいのだろう。彼らは『ヒト』であり、エリアは『フラマ』だ。ヒトが食料でもなく、売るためでもなく、ただ単に愛玩物として育てる生物のことは『ペット』と呼ばれている。
しかし、彼らはエリアをヒトとして育てた。育てるヒトと育てられるヒト。両者の関係のことは、血の繋がりがあろうとなかろうと『親子』と呼ぶ。だから、エリアは彼らのことを『両親』と呼んでいた。
彼らが、何を思いエリアをヒトとして、育てたのかは分からない。
二人には子供がいなかったので、自分の子供の代わりと思ったのかもしれないし、ただ単に未確認生物であるフマラの成長や知能を研究したかったのかもしれない。
だが、エリアには何故、両親が自分を育てたかなど、どうでも良いことだった。あのままでは、死んでいたエリアが、今生きているのは、間違いなく両親のおかげだ。それだけで十分だった
エリアは、ヒトとして生きてきた。ヒトとして生きていく内に、ヒトにも色々いることを学んだ。良いヒト、悪いヒト。どちらでもないヒト、どちらでもあるヒト。
ヒトは、おもしろい。ドラゴンと同じくらいに。
だから、もし危険な目に遭っているヒト、または、危険な目に遭いそうなヒトが目の前にいたら、できるだけ助けようとエリアは決めていた。
「私は、君の同類だよ♪」
まるで、少女のようにリリースは無邪気にほほ笑んでいる。エリアは対照的には、無表情でリリースを見る。
(やはり、そうか)
リリースは、手を口に当てて笑う。
「その様子だと、やっぱり気づいていたみたいだね♪」
「……」
「宿に泊まった時、三人一緒の部屋に泊まろうと言い出したのは、私からこの男を守るためでしょ?万が一、私がこの男を襲わないように♫」
「……」
「優しいんだね♪」
リリースは、笑う。どこか、見下しているような笑い方だった。
エリアは、今までに自分の仲間と会ったことはない。しかし、リリースを一目見た瞬間、彼女が自分と同じヒトではないものだと分かった。目で判断したのか、それとも臭いか。それは、自分でも分からないが、とにかくヒトとは別の生物だとエリアは判別することができた。しかし、エリアに自分と同じ仲間に出会えたという喜びはない。むしろ、彼女を最大限に警戒した。
今まで、一度も自分の仲間と出会ったことのないエリアにとって、フマラは未知の生物だった。習性や性格、能力。それら全てが謎だった。ヒトに育てられたエリアは、自分が他のフマラと比べ、優れているのか、それとも劣っているのか、それさえも分からない。そして、もう一つ。彼女を警戒する理由があった。
リリースは、確かにヒトではなく自分と同じフマラだ。それは、間違いない。しかし、同時に違うとも感じた。フマラには違いないが、エリアと全く同じではない。
それについて、エリアは一つの仮説を立てた。
「お前は、私とは違う『種』だな?」
エリアがそう問いかけると、リリースはニヤリと笑った。
「そう、私は君とは違う『種』のフマラだ♪」
例えば、アドのパードナーであるクロ。ネイドのパートナーであるメイ。この二匹は同じ『ドラゴン』だが、種が違う。クロは『クロウドラゴン』という種であり、メイは、『エリフドラゴン』という種だ。
これと同じで、エリアとリリースも同じフラマだが、種が違う。
フマラは、ヒトには存在しないとされている生物だ。当然、学術的な分類はされてはいない。だが、フマラも他の生物と同じように、様々な系統に枝別れしながら、進化してきた。
「私は自分のことを『バンパイア・フマラ』って呼んでる♪」
リリースは、胸に手を当て、そう言った。
「バンパイア?」
「私の食料は、他の生物の血液なんだ♪」
リリースは口を開き、エリアに見せる。口の中に生えている歯は、全てが鋭く尖っていた。植物を噛み切り、すり潰す歯も肉を切り裂く歯もない。明らかに異質なものだった。
「この歯を獲物に刺して、血を吸うんだ♪あっ、でもただ血を吸うわけじゃないよ♫牙から毒を注入するんだ♪」
リリースの牙から毒が一滴落ちる。
「毒には、獲物を麻痺させるだけじゃなくて、獲物の血を凝固させないようにする効果もあるんだ♪あとは、牙から血を吸うだけ♬一番美味しいのは、ドラゴンの血♪特に肉食性のドラゴンの血が美味しい♪逆に一番美味しくないのはヒトの血だね♩」
エリアの歯は、リリースのようにはなっていない。これもエリアとリリースが『別種』であることの証だ。
ここで、エリアは違和感を覚える。何故、リリースは、自分のことをペラペラと喋るのか?単におしゃべりなだけか、それとも何か別の目的があるのか。
エリアの指先から鋭い爪が伸びる。その爪は縄なら簡単に切断でき、ヒトに斬りつければ、皮膚や筋肉を引き裂き、骨まで達する。
「お前の目的は何だ?」
エリアは、核心に迫る。それにリリースは笑顔で返した。
「君のことは、前から知ってた♫といっても、つい最近のことだけどね♬」
エリアが一歩前に出る。
「どうやって、私のことを知った?」
エリアがフマラだと知っているヒトは、三人。うち二人はもう死んでいる。残りの一人もエリアの秘密を漏らすことはありえない。
「君を見つけたのは、偶然だよ♪数か月前のことだ♫」
リリースは自分の耳を指差す。
「私は生物が出す、なんていうのかな?自分でもよく分からないけど、『音波』みたいなものを聞くことができるんだ♪それで、偶然、町を歩いていたらヒトではない、強力な『音波』を聞いた♫それが、君だったんだ♪」
リリースはエリアを指差す。エリアは思い返すが、リリースに会ったという記憶はない。といことは、リリースはエリアが感知できないほど遠くから、エリアを感知したことになる。
「それから、君のことを色々と調べた♫そうしたら、君がヒトの手によって、育てられたことが分かった♫」
リリースはエリアを指差す。
「驚いたよ♪そして、君に興味が湧いた♫君は私と同じだったから♪」
「……お前と同じ?」
リリースはフッと笑う。
「私も君と同じように、ヒトに育てられたんだ♪」
エリアは目を見開く。
(まさか、そんな?)
言葉に詰まるエリアに、リリースは自分の過去を話始めた。
「私が、拾われたのは二十二年前♬森に捨てられていた所を、ヒトに拾われた♪私を拾ったヒトには子供がいなかったから、私はその家の子供として育てられることになった♪」
エリアは、さらに目を見開く。拾われた状況も拾ったヒトの状況もエリアと全く同じだったからだ。
「私はヒトとして、育てられた♩でも、成長するにしたがって、違和感を覚える様になった♪自分は他のヒトとは違う♫食べ物も違っていたし、体もヒトとは違う部分があった♩だから、聞いてみたんだ♫『自分は本当にヒトなの?』ってね♪そしたら、『違う』って言われた♫そして、私に教えた『お前は、ヒトではないフマラという生物だ』とね♪」
リリースの親もまた、エリアの両親と同じように、本当のことを話していた。
「それから、『フマラ』について、自分で色々と調べたよ♪実際にはいないとされている生物♩ヒトでもドラゴンでもない生物♫調べれば、調べるほど自分がヒトではなく、フラマだということを自覚していった♩だから、私はヒトとして生きることをやめることにしたんだ♫そして、ある目標を立てた♪」
リリースは、まるで記憶を辿るように、遠くを見る。
エリアは最初、リリースが語ったことが、あまりにも自分の経験と似ていたので、もしかしたら、リリースはエリアの過去を調べ、それをあたかも、自分の過去の話のように聞かせているのではないか?そう思った。しかし、それは間違いだった。リリースは、まぎれもなく自分の過去を語っている。なぜなら、リリースが、その後にとった行動は、エリアとは全く違っていたからだ。
「そのために、まず邪魔者を始末した♪」
リリースは、ペロリと舌なめずりをした。その仕草を見て、エリアはリリースが何をしたのか理解した。
「喰ったのか?自分の両親を?」
リリースは首を縦に振る。
「うん♫その時、初めてヒトを食べた♪全然美味しくなかったけどね♪」
エリアは、歯ぎしりをする。
「何故、殺した?」
フマラのとして生きたいのなら、そのまま家を出ればいい。そして、その辺にいる生物の血を吸えばいい。育ての親を喰う必要は全くない。
「決意表明みたいなものかな?」
「決意表明?」
「そう♪自分で立てた目標を絶対に成し遂げるという決意表明♪」
エリアは、警戒心を最大限に引き上げた。
「お前の目的は、何だ?」
リリースは、笑う。その顔は、今まで見せたどの笑顔よりも、深く残忍だった。
「私の目的は、ヒトの絶滅♪ああ、これは違うな♫正確じゃない♩」
リリースは首を横に振り、コホンと咳払いをする。そして、改めて宣言した。
「私の目的は、ヒトとドラゴンの絶滅だよ♪」




