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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
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ドラゴンラーキング9

「ば……、ばけ……もの」

 胸倉を掴まれたカールが必死に声を出す。

「おっと」

 エリアは瞼を下す。そして、三秒ほど数えてから瞼を上げると眼は元に戻っていた。少し裂けていた口も、指先から出ていた爪も元に戻っている。

「質問に答えろ」

 冷たい声でエリアが問いただす。

「ああっ、ああああ」

 恐怖で混乱するカールの胸倉をエリアは強く締める。カールは息ができず、顔が青くなる。締め付けを緩めると、カールは大きな咳を何度もした。エリアは質問を繰り返す。

「質問に答えなければ息の根を止める。いいな?」

「は、はい!」

 カールは何度も頷いた。それを見てエリアは改めて問いただす。

「『青光病』の原因はユークロプラムシが原因だな?」

「……はい」

 カールは、うなだれる様に頷く。

「お前は、それをかなり前から知っていたな?」

カールは農薬会社の元社長だ。寄生虫などの知識があってもおかしくはない。そして、もし知っていれば、発症した者の症状から『青光病』の原因がユークロプラムシであることに、たどり着くことは可能だ。

「……はい」

カールはあっさりと認めた。

「このことを知っているのは、お前の他にもいるのか?」

「……知っているのは私だけです。村人は知りません。ここにいた連中にも詳しいことは教えていません」

「私達を始末しようとしたのは、口封じのためだな?」

「……そうです」

「私達以外にも、『青光病』のことを調査しに来た者はいたか?」

「……いました。以前に一回だけ……」

「そいつらは、どうした?」

「……始末しました」

 カールは、顔を上げ必死に訴える。

「し、仕方なかったんだ!寄生虫が流行している村の麦なんて誰も買ってくれない!この村を守るためには、『青光病』のことを外に漏らすわけには……ぐっ」

 エリアが、再び胸倉をきつく締める。

「聞かれたことだけに答えろ」

「わ……わが……りまし……た」

 締め付けを緩めると、エリアは質問を続けた。

「『ムラファ』という言葉を知っているか?」

「……ムラ?なんですか、それは?し、知りません!」

「……」

「ほ、本当です!聞いたこともない!」

 エリアはじっとカールの目を覗く。どうやら嘘は言っていないようだ。

「最後の質問だ」

「は、はい!」

「お前は、ユークロプラムシの特効薬を持っているか?」

「……」

 エリアは、胸倉を少し強く締め付ける。

「も、持っています!」

「やはりな」

 カールはヒトとしては、グズの極みだが、農薬を開発する才能はあった。麦によって得た大量の資金を使って、万が一、自分がユークロプラムシに寄生された時のために薬を開発しているのではないかとエリアは考えた。

「で、でも作ることはできましたが、ほんの少ししか作れませんでした……」

「お前の分だけだな?」

「……そうです」

「それは、どこにある?」

「い、家にあります!」

「今すぐ、案内しろ。全部渡してもらう」

 カールの目が見開かれる。

「ぜ、全部ですか?そ、そんな……」

「それから、もう一つ。お前には薬の作り方を教えてもらう」

「……」

「そうすれば、命は助けてやる」

「……」

「断れば、今ここで、頭を潰す」

 エリアはカールの頭を掴むと、頭蓋骨がミシリと音を立てた。激痛がカールを襲う。

「わががあがががが、わがりまじたああああああ」

「よし」

 エリアは、カールの頭から手を放す。その時だった。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 咆哮と共に、巨大な塊が突っ込んできた。

 エリアはカールを突き飛ばし、自身は後ろに跳ぶ。

「ガアアアアアア」

 突っ込んできたのは、今まで伏せていたセイルドラゴンだった。それが、凄まじい勢いで襲い掛かってきたのだ。

 エリアの眼が再びトカゲの眼に変わる。口が裂け、指先からヒトのものではない爪が伸びる。

「……」

エリアは、セイルドラゴンを観察するようにじっと見る。明らかに先程までと様子が違った。

「はっはははっはっはは……」

 エリアに突き飛ばされ、倒れていたカールが立ち上がる。

「やはり、俺には運がある!」

 自分のような選ばれた者がこんな所で死ぬ訳がない!カールはニヤリと気味の悪い笑顔を浮かべる。助かったという安心感からか、何故、セイルドラゴンが突然襲ってきたのか?ということまでには、頭が回っていないようだ。セイルドラゴンの様子がおかしいことまでにも気が付いていない。

「やれ!あの化物を食い殺せ!」

 カールは、半狂乱でエリアを指差す。セイルドラゴンはカールの指先にいるエリアを見た。

「やれ!はははははははは、は?」

 セイルドラゴンは少しだけエリアを見たが、すぐに視線を外した。そして、その視線を今度はカールに向けた。セイルドラゴンは、カールに一歩近づく。

「ま、待て、俺じゃない!向こうだ!」

 セイルドラゴンは、カールの言葉を無視して、もう一歩近づくと大きな口を開いた。

「ま、待て!来るな!来るなああああ!」

 何故だ?俺は、「セピリア」の成分を体に吹き付けている。なのに何故こちらに近づいてくる?

「来るなあああああ」

「グアアアアアアアアアア」

 雄叫びを上げ、セイルドラゴンがカールの腕に齧り付く。

「ギャアアアアアア」

 カールが悲鳴を上げる。今、カールに死なれては、薬の作り方が分からなくなってしまう。エリアは、セイルドラゴンを止めようとする。

「くっ!」

だが、突然激しい頭痛がエリアを襲った。そのあまりの痛みに、思わず動きを止め、片膝をつく。

「や、やめろおおお、離せえええ!」

 激痛にカールが泣き叫ぶ。セイルドラゴンはカール悲鳴など一切無視して、その体を空高く放り投げた。天高く舞い上がったカールは、やがて頭から地面に落ちてくる。

 下では、セイルドラゴンが口を開けて、待ち構えていた。

「あああああああああああああああああああ」

 悲鳴を上げながら落ちてきたカールの体が、そのままセイルドラゴンの口の中に入る。セイルドラゴンは、口に入ったカールの体を左右に激しく振った後、一気に飲み込んだ。

 そして、そのままどこかに飛び去ってしまった。


 セイルドラゴンが飛び去って、しばらくすると、エリアの頭痛が消えた。エリアは、立ち上がり、後ろを振り返ると、冷たい視線を向けた。その視線の先には、ライルとリリースが横たわっている。

「お前の仕業か?」

 エリアは、背筋が凍るような冷たい口調で言い放つ。

「ふふふふふ」

 陽気な笑い声が聞こえた。実に楽しそうな笑い声だった。

 倒れている二人の内の一人が、ゆっくり起き上がる。手足を拘束して縄が下に落ちる。縄は切られており、その切り口は、まるで鋭利な刃物で切られたかのように綺麗だった。

「お前は、何者だ?」

 エリアが問い掛けると、起き上がった者はニコリとほほ笑んだ。

「改めまして、自己紹介をさせていただきます。リリース=ジックといいます」

 リリースは眼鏡を外し、地面に投げ捨てた。

「私は…」

 リリースの表情が変わる。知的な印象は消え、まるで街中にいる普通の少女のような表情になる。そして、笑みを浮かべたまま、楽しそうにエリアの問いに答えた。



「君の同類だよ♪」



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