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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
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ドラゴンラーキング8

 かつて、砂漠に取り残されたトカゲ達。過酷な環境を必死で生き、命を繋げていくうちに彼らの肉体は変化し、様々な姿形に進化した。その中に、後ろ脚と尻尾を使って二本足で立ち上がり、周囲を警戒する者達がいた。彼らは、敵をいち早く発見することで生き残ることができた。立ち上がる者同士が生き残り、子孫を残した結果、彼らの後ろ脚はどんどん強くなり、ついに二足歩行が可能となった。

『バイペド・リザード』と名付けられた二足で歩くトカゲは、様々な種類に枝分かれした。

 その中の一部が、同時期に生息していた地面に穴を掘って生きる『ディグ・リザード』と交わり、太い腕と鋭い歯を得た。さらに、体内にガスを貯める『セーブ・リザード』とも交わり、ガスを吐く能力も得た。その後、歯の一部が『火歯』に変化し、炎を吐くことができるようになる。

 最終的に、翼を持つ『フライ・リザード』とも交わり、ドラゴンへと進化する。


 では、ディグ・リザードと交わらなかったバイペド・リザードはどうなったのか?


 現在、バイペド・リザードは地上のどこにも生息していない。彼らの化石は、ちょうどドラゴンが現れた時期を最後に、見つかっていない。彼らは、ドラゴンとの生存競争に負け、絶滅したのとされている。

 バイペド・リザードを研究していた古生物学者のテール博士は、ある説を提唱した。

『もし、バイペド・リザードが絶滅せずに、今も生きていたら、どうなっていたのか?』というものである。

博士は、バイペド・リザードが二足歩行で生活していたことに注目した。二足歩行であれば、使わない前足が自由になる。バイペド・リザードの前足は物を掴むことができるように進化していた。もし、物を掴める前足が手に変化していけば、道具を扱うことも可能となり、それに伴って知能も発達する。そうなれば、その姿は徐々にヒトに近づいてくる可能性が出てくる。ヒトの姿形が、脳を発達させるために適しているからだ。

博士は、何度も研究とシミュレーションを繰り返した。そして、一つ生物が誕生させた。

ヒトの形をした知能の高いトカゲ。ドラゴンでもヒトでもない独自の進化を遂げた生物。


 テール博士は、この生物に『フマラ』と名付けた。


フマラを見た専門家は、ある者は笑い。ある者は、衝撃を受けた。『フマラ』を見た一般人の中には、この生物を実際に見たという者すら現れた。

 フマラの製作者として専門家の間では、有名になったテール博士であるが、彼が晩年に残した言葉は、あまり知られていない。


『もし、フマラが実在するとしたら、二種類いるだろう。一つは、ドラゴンのような頭とヒトの様な体格をしたフマラ。そして、もう一つは……』



 エリアは目をゆっくりと開き、周りを確認する。周囲は木々が生い茂っており、体は土の上に寝かされていた。手足は縄で強く結ばれている。

エリアの近くには、ライルとリリースもいた。彼らもエリアと同じように手足を縛られ、地面に寝かされている。二人の目は閉じられているが、死んではいないようだ。

 遠くには、松明を持った数人の男達が集まって何かを話している。その中の数人は銃を持っていた。エリアの目が一人の男と合う。

「目を覚ましているぞ!」

エリアと目が合った男が驚きの声を上げる。男達の視線がエリアに集まった。

「本当だ!」

「嘘だろ!」

騒ぐ男達。エリアは、ここにいる男達に見覚えがある。全員村にいた男だ。

「どけ!」

 村人を押しのけ、一人が前に出る。カール=ニライ。この村の支配者だ。カールは、地面に倒れているエリアをじっと見る。

「本当に、目が覚めているな」

 カールは目を丸くして驚いている。

「薬が入った食い物を食わなかったのか?」

「いえ、ちゃんと食べてました」

「あの薬が体に入ったら、半日以上は、何をしても起きることはないはずなのに……」

 カールは体から嫌な臭いを漂わせながら、首を捻る。

「……まぁいい、念のために手足を縛っておいてよかった」

 カールは、その場を去ろうとする。


「『青光病』の原因は、やはりユークロプラムシですか?」


 カールの動きが止まった。

「口まで利けるのか」

 カールの驚きを無視して、エリアは問い続ける。

「どうなんですか?」

「……答える必要はない。それに答えても意味はない」

 カールは、冷たい視線をエリアに向ける。

「どうせ、お前達は死ぬのだから」

 そう言って、カールはエリアから離れた。


 ここは、カルシ村の外にあり、村人が神聖視している森の中だ。セイルドラゴンが生息しているこの森は、実はヒトを始末するには、うってつけの場所だ。

 始末したい者を眠らせ放置しておくだけでいい。眠らせた者はセイルドラゴンが食べてくれる。セイルドラゴンはヒトを丸飲みにするため、遺体が発見されることはない。遺体を地面に埋めたりするよりも、確実に証拠隠滅ができる。さらには、直接手を下すわけではないので、自分が殺したという罪悪感をいだきにくいという利点もある。

 カールは、寄生虫のことを村の外に漏らそうとした村人などを、何人もこの方法で始末してきた。村人には金というエサを与え、協力しなければ、殺されるという恐怖で縛り上げている。村の中で、彼に逆らう村人は、ほとんど殺されてしまった。

 

 村人の一人が、持っていた笛を吹いた。ヒトには聞こえない音だが、セイルドラゴンの耳には届く。セイルドラゴンが仲間を呼ぶ時の声に似た音だ。暫くすると、松明に照らされた場所に一匹のセイルドラゴンが舞い降りた。

「おお!」

「何度、見ても美しい」

 エリア達から少し離れた所で、村人は感嘆の声を上げる。最初は、ただ単に裏切り者を始末するために始められたことだったが、いつの間にか、村人の中ではセイルドラゴンにヒトを食べさせる行為を神に捧げる『生贄』として解釈されるようになった。

 カール自身も『生贄』を楽しみにするようになった。あらゆる贅沢にも飽きてきたが、ヒトがドラゴンに喰われる光景は、何度見ても飽きない。

 カールや村人の体には、「セピリア」とうい植物からとれた成分をとかした無色透明な液体を体に吹き付けていた。ヒトには匂わないが、ドラゴンの鼻には匂う。一部のドラゴンを寄せ付けない効果があり、セイルドラゴンに対しても有効である。これによって、カール達は襲われる心配もなく、ヒトが食べられる光景を見ることができる。

 降り立ったセイルドラゴンが、ゆっくりとエリア達に近づく。手足が縛られ動けない彼女達は、セイルドラゴンにとって格好の獲物だ。

(さぁ、どんな表情を見せる?)

 心の中で、カールは期待に胸を膨らませていた。今までは眠らせていたので、『生贄』は何の抵抗もなく喰われていた。だが、今回は違う。起きた状態で喰われる者が、どんな表情を見せるのか、とても楽しみだった。

「……」

 しかし、エリアは怯えもせず、泣きもしなかった。ただ、無表情のまま、じっとセイルドラゴンを見ていた。

カールには、それが全てを諦めた行為に見えた。

(なんだ、つまらん)

 カールは、退屈そうな溜息を吐く。

 セイルドラゴンが、エリアに近づいてくる。目の前まで迫ると、セイルドラゴンは口を開けた。そして、エリアに襲い掛かる。誰もが、エリアが頭から喰われる光景を想像した。

 

「動くな」


 その声は通常なら、とても聞き取れない程の速さで発せられた。それにも関わらず、その場にいた全員が、その声をはっきりと聞いた。

 セイルドラゴンは獲物に齧り付く寸前で、動きを停止させていた。


「下がれ」


 その声は、またしても全員の耳に届く。セイルドラゴンは、口を閉じると後退りし始めた。六歩下がった所で、セイルドラゴンは動きを止める。

「なんだ?」

 カールは驚き、身を乗り出す。村人全員、何が起きたのか分からなかった。

「あっ」

 セイルドラゴンに目を奪われていた村人達だったが、一人の村人が『生贄』を見て、驚きの声を上げた。いつの間にか、『生贄』の一人が立ち上がっている。『生贄』に結ばれていた縄は、いつの間にか、切られていた。

『生贄』は、セイルドラゴンを見る。すると、セイルドラゴンは、その場に伏せた。それは、セイルドラゴンが自分より力が上の者に対して行う行為だった。


『生贄』だったはずのエリアとセイルドラゴンの力関係は、完全に逆転していた。


 エリアはセイルドラゴンから、村人へ視線を移す。その眼は、捕食者が獲物を見る眼だった。

「ひっ!」

 悲鳴を上げ、銃を持っていた村人が銃口をエリアに向ける。次の瞬間、エリアは村人との距離を一瞬で縮め、銃を払いのけた。他の村人が慌てて、エリアに向けて発砲しようとする。しかし、銃が撃たれることはなかった。エリアは銃を持った村人を全員、気絶させた。

「うわああ」

 残りの村人が逃げ出し始める。カールもそれに続いて逃げようとしたが、突然、体が動かなくなった。エリアの手が、がっしりとカールの肩を掴んでいた。

「は、離せ!」

 カールは懐から護身用のナイフを取り出すと、振り向き様にエリアに切り掛かった。

 だが、エリアはナイフをいとも簡単に受け止めると、カールからナイフを取り上げ、片手で、ぐにゃりと曲げた。

「ひぃいいいいい」

 エリアは、恐怖に怯えるカールの胸倉を掴む。その指の先端からは、ヒトのものではない爪が伸びていた。エリアの頬はまるで、笑っているかのように少し裂けている。

 そして、凍っているかのような青い眼は、まるでトカゲの眼の様だった。


『もし、フマラが実在するとしたら、二種類いるだろう。一つは、ドラゴンのような頭とヒトの様な体格をしたフマラ。そして、もう一つは……』











『ヒトと見分けがつかない姿をしたフマラだ』


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