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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
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ドラゴンラーキング7

 ユークロプラムシ。

 体長一ミリ以下の寄生虫で、普段は小型のドラゴンの体内に寄生している。

 彼らの繁殖方法は、とても変わっている。彼らが生きるためには、ドラゴンの体内に侵入する必要がある。だが、足も羽もない彼らは自力で、ドラゴンの体内に入ることができない。そこで、ユークロプラムシは、コオロギなどの虫を利用する。

 まず、ドラゴンの体内にいるユークロプラムシが産んだ卵は、ドラゴンの糞と共に体外に出される。その糞をコオロギなどが食べるとユークロプラムシの卵は、その虫の体内で孵化し、寄生する。しかし、それは一時的なことだ。彼らの最終目標は、あくまでドラゴンの体内である。

 では、どのようにして、ユークロプラムシは虫の体内から、ドラゴンの体内に移動するのか?ユークロプラムシは、恐ろしい方法を使う。


 ユークロプラムシはドラゴンの体内に侵入するために、寄生した虫を操り、宿主をドラゴンに食べさせるのだ。


 ユークロプラムシに寄生された虫は、異常な行動をとり、体に変化が現れる。

 一、所構わず走り回るようになる。

 二、草陰や石の下に隠れている虫が隠れるのをやめ、日の当たる場所まで出てくる。

 三、草のてっぺんまで登り、そこで動かなくなる。

 四、コオロギなどのオスが、目立つ場所でしきりに鳴くようになる。

 五、赤色や青色など、目立つ色に体が変色する。

 六、敵が来ても逃げようとしなくなる。


 この結果、ユークロプラムシに寄生された虫は、されていない虫に比べ、小型のドラゴンに発見され、食べられる確率が何十倍にも跳ね上がる。食べられた宿主は消化されるが、ユークロプラムシは酸に強いため、胃では消化されない。

 こうして、ユークロプラムシはドラゴンの体内への侵入に成功する。


「まさか、そんな生物がいるなんて……」

 ユークロプラムシの生態に、ライルが驚く。

「宿主を操る寄生生物は、他にもいます」

 魚を操る寄生生物、カニを操る寄生生物、ネズミを操る寄生生物など、宿主を操る寄生生物は、数多くいる。

 宿主を操る目的も、本来の宿主の体内に移動するためだけではなく、自分の産んだ卵を守らせ、世話をさせるなど、寄生生物によって異なる。

「奇声を上げ、走り回る。木の頂上まで上り、そこで動かなくなる。体が変色する。確かに、共通している部分は多いですね」

 リリースが手を顎に当て、考えている。

「待ってください!」

 イーヤが叫ぶ。

「その、ユークロプラムシという寄生虫がヒトに寄生して、操っているというのですか?ドラゴンに食べてもらうために?」

「私は、そう考えます」

 イーヤは、信じられないという顔をする。

「仮に、その寄生虫のせいだとして、その寄生虫は普段、小型のドラゴンの体内にいるのですよね?それが、どうしてヒトに寄生するようになったんですか?」

「農薬のせいだと、私は考えます」

 エリアは、きっぱりと自分の考えを言う。

「農薬が、寄生虫を変化させたということですか?」

「そうです」

イーヤは、納得していない様子だ。

「農薬のせいで、寄生虫が変化することなんて、あり得るのですか?」

「農薬そのものというよりは、農薬が虫を殺したことが原因だと思います」

「どういうことですか?」

 首を捻るイーヤに、エリアは自分の仮説を語る。


 カールの農薬は害虫、益虫問わず、あらゆる虫を殺した。それは麦畑だけでなく、周辺の森にまで、影響を及ぼしていた。

 その結果、カルシ村周辺に生息していた小型のドラゴンのエサがなくなってしまった。小型のドラゴンの多くが死に絶え、小型のドラゴンに寄生するユークロプラムシも宿主を失ったため、多くが死んだ。

 しかし、ユークロプラムシの中に、大型のセイルドラゴンに寄生する者が出てくる。

 セイルドラゴンも虫がいなくなった影響を受けていた。虫がいなくなったことで、花は受粉することができず、セイルドラゴンの食料である果実がなくなってしまった。

大人のセイルドラゴンは、他の植物を食べることで何とか生き残った。だが、子供のセイルドラゴンは、果実以外の植物だけでは栄養不足だった。そこで、セイルドラゴンの子供は、小型のドラゴンの死骸を食べ、不足していた栄養を補った。その時に、小型のドラゴンの体内にいたユークロプラムシがセイルドラゴンに移動した。


 ユークロプラムシは様々な虫に寄生し、操ることができる。

その中には突然変異によって、ヒトを操ることができる才能を持った者も誕生していた。しかし、全体から見れば、ヒトを操ることができるユークロプラムシの数は、一パーセントにも満たない、ごく少数だった。少数は多数に押され、数を増やすことができず、すぐに死滅した。結果、ヒトを操ることができるユークロプラムシがヒトに寄生することはなかった。

 しかし、農薬のせいで、事態は一変する。

 運よく、小型のドラゴンからセイルドラゴンに寄生できたユークロプラムシも、運び屋である虫いない状態では、繁殖することができなかった。

 生き残ったのは、ヒトを操ることができるユークロプラムシだった。少数派だった彼らは、多数派がいなくなったことによって、一気にその数を増した。

 ヒトを操ることができるユークロプラムシは、虫を操っていた時と同じ行動をヒトにもとらせた。操られた村人は、奇声を上げながら森の中を走る。積極的にヒトを襲うことは、あまりないセイルドラゴンだが、その動きに食欲を刺激され、村人を食べる。

 村人の体内にいたユークロプラムシは、今度はセイルドラゴンに移動する。これを繰り返して、カルシ村に『青光病』が広がった。


「これが、私の仮説です。現在、他の地域で発生している『青光病』も同じ様な過程を経て、誕生したと考えています」

 三人は、黙って聞いていたが、ライルが口を開いた。

「もし、先生の言うことが本当だとして、どうして今まで、原因が分からなかったのでしょう?」

『青光病』の原因は未だに判明していない。もし、寄生虫が原因なら、何故、原因が分からないのだろう?

「可能性として考えられるのは、ユークロプラムシが、脳の奥深くまで入り込んでいた場合です」

 ヒトの行動を操るのなら、脳に寄生すると考えるのが自然だ。ユークロプラムシの体はかなり小さい。脳の奥にまで潜り込まれていたら、発見するのは難しいだろう。

「うっ」

 その光景を想像して、ライルは気持ち悪そうに口を押えた。

「ユークロプラムシの感染源は、やはり糞でしょうか?」

 今度は、リリースがエリアに質問する。

「はい、この村ではセイルドラゴンの糞を肥料にしています。その時に手についたユークロプラムシが口や鼻から体内に入ったと考えられます」

「となると、ほとんどの村人が感染していることになりますね、」

「……そうですね」

「そんな!」

 ライルが驚きの声を上げる。

「感染してから発症するまでには、おそらく個人差があります。感染してすぐに症状が現れるヒトもいれば、長い間発症しないヒトもいます。ですが、いずれ発症することには違いありません」

「何とか、なりませんか?」

 ライルの訴えに、エリアは首を振る。

「ヒトに感染することがないとされているユークロプラムシに対する薬は、そもそも開発されていません。それに、セイルドラゴンの体内にいるユークロプラムシは、これまでのユークロプラムシとは、全く違う体の構造をしている可能性があります」

「それは、つまり……」

「全く違う生物に、進化しているかもしれないということです」

 ヒトに寄生することのできるユークロプラムシ。それは、もはやユークロプラムシとは言えないのかもしれない。となれば、ヒトはまたしても自らの手で『新種』を生み出してしまったということになる。

 牢屋の中が、また重い空気になる。

「今、話したことは、あくまで私の仮説です。調べてみないと分かりません」

 エリアは、ほほ笑む。

「そのためには、何とかして、ここを出なければなりません」

 エリアの意見に皆が同意する。

「そうですね、何とか出る方法を考えましょう」

 皆の意見が一つになった時、村人が食事を持って来た。パンが四個と、コップに入った水が四杯。たった、それだけだった。

「では、いただきましょう」

 エリアは、気にする様子もなくパンを口に運ぶ。それを見て、他の三人もパンを食べ始めた。間もなくすると、四人はそのまま眠ってしまった。

 四人が眠ると、複数の村人が階段を降りてきた。村人の一人が牢の中を確認する。中にはぐっすりと眠る。四人の姿があった。突然、その中の一人が、ムクリと起き上がる。

 起き上がった一人は、牢の向こうにいる村人に話し掛ける。

「大丈夫だ。全員寝ている」

 それを聞いた村人は、頷いて牢を開ける。

「よし、運び出せ」

 村人は三人をそれぞれ担いで、牢を出た。


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