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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
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ドラゴンラーキング6

 暗く湿っている階段を村人に連れられたエリア達三人が下りてくる。三人の両腕は、逃走防止のために、縄で縛られている。

 階段を下りると目の前には、牢屋があった。

「入れ」

 村人は無理やり、三人を牢屋の中に入れると、鍵を閉め、どこかに行ってしまった。

「くそ!」

 ライルが力任せに牢を蹴るが、ビクともしない。牢の中は薄暗く、嫌な臭いで充満している。ライルは途方に暮れ、リリースとエリアは、牢屋の中を観察する。

 すると牢屋の隅で、何かが動いた。

「貴方達は?」

 声と共に、闇の中から眼鏡を掛けた若い男が現れる。

「ライル?お前、ライルか?」

 名前を呼ばれたライルは、驚き、男の顔をよく見る。

「俺だよ!俺!」

「イーヤ?」

「そうだ。俺だよ!」

 眼鏡を掛けた男は、ライルに駆け寄る。

「お前、どうしてこんな所に?」

「お前こそ、どうして?」

「お知り合いですか?」

 二人の様子を見て、エリアが訪ねる。ライルは、「はい」と答えると、男を紹介した。

「彼は、イーヤ=グラインツ。学生時代の友人です」


「初めまして、イーヤ=グラインツと言います」

「リリース=ジックです。ライルとは、同じ会社で働いています」

 イーヤはリリースと握手する。

「エリア=カインドです。小説家をしておりまして、ライルさんとは……」

「エリア?もしかして、『ドラゴン進化論』の作者の?」

「はい、そうです」

 エリアの名前を聞くと、イーヤは途端に笑顔になる。

「私、貴方の小説のファンなんです」

「そうですか。ありがとうございます」

 エリアもイーヤに、笑顔で返す。ファンは大切にしなければならない。


「先生の写真は、見たことがありませんでしたので、驚きました!まさか、こんなに、お美しい方だったなんて!」

 エリアは、無言で笑顔を返す。

「それに、リリースさんも、とてもお美しい!」

「ありがとうございます」

 リリースは、エリアとは違い、笑顔を作らなかった。その表情は、不機嫌そうだったが、イーヤは、全く気付いていない。

「牢屋の中で、お美しい女性と二人も巡り合えるなんて、不思議なこともあるもんです」

 イーヤは、冗談めかした口調で話す。

「お前、どうして、ここにいるんだ?」

 ライルが、先程の質問を再びイーヤに訊ねる。

「この村のことを調べていたら、捕まっちまった」

 イーヤは照れくさそうに。頭を掻く。

 彼からは、とても強い体臭がした。髭は顔を覆うほど伸びており、最初ライルも彼だと気が付かなかったほどだ。その様子から、長い期間、牢屋に入れられていたことが分かる。

「俺、写真家になったんだ」

 イーヤによると、彼は黒い噂のある施設や場所に行き、その様子を写真に収め、その写真を様々な雑誌社や新聞社に、売り捌いているのだという。

イーヤは、エリア達全員に、これまでにあったことを話し始める

「この村には、『青光病』ってい病気が流行しているって情報を得て、やって来ました。でも、村長も村人も誰も、『青光病』なんて知らないっていうばかりでした。そこで、村に泊まりかけで、張り込んでみました。すると一人の村人が『青光病』を発症する場面をカメラに捕ることに成功したんです」

「そ、そのカメラは、どうした?」

「村人に気付かれて、盗られた」

 イーヤは悔しそうに地面を叩く。ライルも悔しそうにしている。

「……そうか」

「ライルさんは、写真を撮らなかったのですか?」

 あの時、『青光病』の男を追っていたのでリリースとライルを見ていなかったが、雑誌記者なら、カメラを持っているのではないかとエリアは思った。しかし、ライルは首を振る。

「突然のことでしたので、撮れませんでした。それに、取り押さえられている時に村人に盗られたので、どの道、意味がなかったと思います」

「私も同じです」

 リリースも申し訳なさそうにする。

「……どういうことだ?お前もここに取材に来たのか?」

 イーヤは、首を捻る。

「ああ、実は……」


 ライルの話を聞き、イーヤは驚く。

「そうか、まさか、お前が雑誌記者になっていたなんてな。しかも、お前も『青光病』を調査しに来ていたとは」

「……そうだな」

「……」

 会話が途切れると、牢獄の中に長い、静寂が訪れる。さっきは、思わぬ再開で気分が盛り上がっていたが、それも収まると、次第に恐怖と不安が襲ってきたようだ。

 そんな、空気を消したのはリリースだった。

「黙っていても、しょうがありません。イーヤさん」

「はい?」

「取材をしていて、何か面白い話はありませんか?」

「面白い話、ですか?」

「はい」

 リリースは、イーヤに笑顔を向ける。

「次の取材のネタになるかもしれませんし、暇つぶしにもなりますので、よろしければ」

「……」

 イーヤは少し悩んだが、リリースの笑顔に負けたのか、話始める。

「今度、調べようと思っている場所があります」

「どんな場所ですか?」

 リリースは、興味津々で話を聞く。

「ギレ国の山奥にある施設なのですが……」

 イーヤの話によると、その施設は、ヒトを避けるように山奥に、ポツンとそびえ立っており、公式には、山の地質を調査するための施設とされているそうだ。


「でも、それは表向きの話で、本当は様々な違法な実験が行われているそうです。しかも、怪物までいるらしいです」

「怪物?」

「はい、体はヒトで、頭がドラゴンの怪物です」


「フマラ」

 エリアが、ポツリと呟く。

「そうです、流石先生」

 イーヤが、エリアを称賛する。

「どこで、その話を?」

 リリースが、話に食いつく。

「その施設で働いていたという元職員の証言です。まぁ、本当か嘘かは、調べてみないと分かりませんが」

 話しているイーヤ自身も、半信半疑といった様子だった。

「そのフマラについて、もっと詳しく、教えて貰ってもいいですか?」

「いいですよ。聞いた話でよければ」

 イーヤは、そのフラマの特徴をリリースに伝える。

「そのフラマは、かつて捕まえたフラマが生んだ個体らしいです。それを何年も施設で育てているとのことです」

「……ということは、そのフラマは外を見たことがないのですね」

 リリースは、何かを考える

「……それは、寂しいでしょうね」

 リリースが、ポツリと呟いた言葉をエリアだけが、聞いていた。


「それにしても何故、村人は、村長に従うのでしょう?死人も出ているのに……」

「村長が、この村に来たのが、確か二十年前でしたね」

昼間の調査では、村人は『青光病』については、教えてくれなかった。しかし、村のことや村長のことについては、簡単に教えてくれた。


 村長が村に来たのは、二十年前。

 当時、カルシ村は大量発生したイナゴに頭を悩ませていた。駆除しても、駆除しても湧くイナゴに麦は食い荒らされ、生産量は激減していた。村人は、その日食べるものにも困る程だった。

 そこに、今の村長であるカール=ニライが現れ、村人を救った。

 当時、カールは農薬開発会社の社長をしており、自社が開発した農薬を持って村々に売り込みを掛けていた。カルシ村の村人は、藁にもすがる思いで、カールの農薬を使うことにした。

 農薬の効果は絶大だった。

 使用して、わずか三か月で、麦畑からイナゴは、いなくなり、半年も経つ頃には、麦を荒らしていた他の害虫もすっかり見なくなった。


 しかも、この農薬はヒトには、全くの無害だった。


 農薬は飛ぶように売れた。

 村人の信頼を得ることに成功したカールは、二年後、カルシ村で行われた村長選に立候補する。結果は、カールの大勝だった。

 以来、十七年、カールは村長選に勝ち続けている。

「ここ十年以上、カール村長以外、村長選に立候補する村人もいないようです」

 事実的に、カールの独裁政権という訳だ。家を見る限り、カールはカルシ村の利権のほとんどを握っている。

「『青光病』が発生したのと、カールとの間に何か関係があるのでしょうか?

「彼が、頑なに否定していた所を見ると、関係はありそうですね」

「もしかして、その農薬が原因でしょうか?」

 大量の虫を殺す農薬だ。ヒトに害がないというのは実は嘘で、農薬を吸ったことが、原因で『青光病』を発症したのではないかと、リリースは言う。しかし、エリアはそれを否定した。

「もし、そうだとしたら、農薬が付着した麦を食べたヒトも発症しているはずです」

 村の麦は、都心でも食べられているから、都心でも同じ病状が出るヒトがいるはずだ。しかし、この村を含め、他の場所で発生した『青光病』も都心から外れた場所で発生している。

「しかし、農薬が、この病気の引き金になっている可能性はあります」

「引き金、ですか?」

「はい」

 そこで、ライルが気付く。

「もしかして、先生は、病気の原因が分かっているのですか?」

「まだ、仮設段階ですが、原因に思い当たることがあります」

三人が、一斉にエリアを見る。

「教えてください!」

 イーヤがエリアに、詰め寄る。エリアは、三人を安心させるように微笑み、答える。


「私の考えでは、『青光病』の原因は、『ユークロプラムシ』だと思います」


「……なんですか?それ」

 聞きなれない言葉に、ライル達は首を捻る。エリアは聞き取りやすいように、今度はゆっくりと言った。


「『ユークロプラムシ』、寄生虫の一種です」

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