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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
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ドラゴンラーキング5

 エリアは、民宿の二階から、外の景色を眺める。

「綺麗ですね」

 外には一面、麦畑が広がっていた。麦畑は、太陽の光を反射してまるで黄金のように輝いている。

 一面に光り輝く麦畑。その向こう側には、自然の森が広がっていた。森は、神聖な場所とされているため、村人が入るのは固く禁止されている。

「あの森に、セイルドラゴンがいるのですか?」

 エリアが、民宿の女将に尋ねる。

「はい、そうですよ」

 女将は、笑顔で答える。

「あの森に、『神様』が住んでおられます」

 この村では、セイルドラゴンを神として祀っている。

 村中の至る所に置いてあるドラゴンの像も、全部、セイルドラゴンだ。もちろん、村長の家にあったような黄金の像ではなく、普通の銅像である。

 村では、セイルドラゴンを神として崇めているため、村人は、セイルドラゴンのことを『神様』と呼んでいる。

「女将さんは、『神様』を見たとこはありますか?」

「ええ、とても神々しいお姿をしています」

 女将さんの話によると、セイルドラゴンは三日に一度の割合で、森から出て、村の上空を滑空するのだという。

「危険ではないですか?」

 セイルドラゴンは、体長が五メートルもある大型のドラゴンだ。

 雑食性で、普段は、森の植物や果実を食べているが、他の生物を捕食する狩人でもある。積極的にヒトを襲うことは、あまりないが、空腹であれば話は別だ。

「大丈夫ですよ。森におられる『神様』は村の上を飛ぶだけで、下に降りてくることは、滅多にありません。それに『神様』は貴重なものを落としてくれます」

「貴重なもの?」

 ライルが訊ねる。

「それは……」

 

「『神様』が出たぞ~」


 突然、大きな叫び声が、村中に叫び声が響き渡る。エリア達が、慌てて二階から空を見と、上空には一匹のセイルドラゴンが飛んでいた。

「お客さん、『神様』が来られましたよ!」

 女将の声が、興奮で大きくなる。

 セイルドラゴンは、村の東の方に飛んでいく。エリア達は、外に出てセイルドラゴンを追い掛けることにした。

「見失うなよ~」

 エリアがセイルドラゴンを追い掛けていると、村人がどんどん集まってきた。

 村人もエリア達と同じく、セイルドラゴンを追い掛ける。しかし、エリア達とは違って、ただ、好奇心で追い掛けているわけではないようだった。

 やがて、セイルドラゴンから、巨大な何かが落ちてきた。

「落ちたぞ~、急げ~!」

 村人は、セイルドラゴンから出てきた何かに、群がる。そして、それを一心不乱に掛け集め、バケツに入れ始めた。

「あ、あれは……」

 ライルが、悪臭に鼻を押さえる。

「ええ、セイルドラゴンの糞ですね」

 ライルは絶句する。

「な、なんで……あんなものを?」

 悪臭を全く気にする様子もなく、エリアは笑顔だ。

「堆肥にするためでしょうね」

 森の豊富な食料を食べているセイルドラゴンの糞は、栄養価が高く、堆肥としてとても優れている。

「どけ!」

「きゃ」

 一人の村人の男性が、リリースを突き飛ばし、セイルドラゴンの糞に向かって走る。

「乱暴ですね!」

 リリースは男性を睨むが、男性は無視して、セイルドラゴンの糞に群がる。彼らにとっては、それだけ、セイルドラゴンの糞には価値があるのだろう。

 その後も、何度かセイルドラゴンは、村に糞を落とすと、森に帰って行った。

 ヒトを襲うこともあるが、ヒトに恩恵も与える。畏怖と恩恵の念を込めて、彼らがセイルドラゴンを崇めるのは、自然なことだ。


「結局、『青光病』のことは、分かりませんでしたね」

 セイルドラゴンの糞に群がるヒトという、珍しいものは見ることができたが、肝心の『青光病』のことは、何も分からなかった。『青光病』のことを聞いても、誰も知らないというばかりだ。夜もすっかり更け、一度、民宿に戻ることになった。

「村長がいった通り、ガセだったんでしょうか?」

「そうは、思えないけど……」

「あの、聞いてもいいですか?」

 リリースとライルの会話に、エリアが割って入る。

「その、情報提供者の方は、どのようなヒトなのですか?」

 リリースとライルは顔を見合わせる。教えるべきかどうか、迷った末、ライルが口を開く。

「正直な話、情報提供者のことは、よく分からないのです」

「分からない?」

「手紙が届いたのです。このカルシ村で、『青光病』という病が流行っていると……」

「本当かどうは、分かりませんでしたが、もし本当ならスクープです。それで念のためにこの村を調査することになりました」

「その手紙に、名前は書かれていましたか?」

「はい、『ムラファ』と書かれていました」

 エリアは、ピクリと眉根を上げる。

「……『ムラファ』ですか」

「どうしました?」

 ライルが心配そうに声を掛ける。

「いえ、何でもありません」

 エリアは、また、いつもの笑顔に戻る。

「さて、そろそろ寝ましょうか。続きは、また明日と言うことで」

「……」

 エリアの提案に、リリースとライルは顔を見合わせる。

「ほ、本当に、ここに泊まるのですか?」

「ええ」

「さ、三人で?」

「ええ」

 エリアは、あっさりと答えた。

 

 民宿には、エリアたち以外、客はいない。つまり、部屋は余っている。にもかかわらず、エリアは、三人、同じ部屋で寝ることを提案した。

「そのほうが、経費も安く済みます」

 最初は反対していたライルも、その一言で、結局、同意した。日頃から、会社に経費を削減するように、いつも言われているからだ。

 リリースも同じく、同意した。

 

 夜がさらに深まった頃、エリアが目を覚ました。物音を立てないように、ゆっくりと二階の窓から、地上を見下ろす。

「捕まえろ~」

「そっちへ行った!」

「くそ!なんて速さだ」

 複数の男達が、松明を片手に、何かを追いかけまわしていた。


「ははっはあああああああああああああああああああああはははははっはははっははははっははっはっは。あははっあはははははははばはははぱははははああ」


 一人の男が、大声で気勢を上げて、走り回っていた。

 男は、凄まじいスピードで、村人の手を振り切る。力も強く、たとえ捕まっても、強引に振りほどく。

「どうかしました?」

 外の騒ぎに、リリースとライルが目を覚ます。エリアは、二人に外を見るように促す。

「あれは?」

 二人が見たのは、奇声を上げ、走り回る男の姿。


 その男は、青く、美しい光を放っていた。


「あの人?」

 リリースが気付く。あれは、昼間にリリースを突き飛ばした男だ。

「行きましょう」

 エリアが外に出て、男を追い掛ける。

「まっ、待ってください!」

 リリースとライルが慌てて、エリアに続く。

「あははははっはははははははは!」

 男は、スピードを維持したまま、森の中に入る。村人は、そこで男を追うのを諦めた。しかし、エリアは、そのまま男を追う。

「お、おい。あんた!」

 村人の制止も聞かず、エリアは森の中に入る。

「エ、エリアさん!」

 背後から、ライルの叫び声が聞こえた。エリアが振り返ると、リリースとライルが村人に取り押さえられていた。

 エリアは、再び前を見て、男を追い続ける。


「こっちか」

 足跡と、折れた枝、それに森に響き渡る奇声を頼りに、男を追う。

「いた」

 エリアの先に、青く光る男がいた。

「あははははっははっははは!」

 男は、地面に倒れていた。その右足は変な方向に曲がっている。どうやら、森の中で走っている最中に、足の骨を折ってしまったらしい。

 それにも関わらず、男は地面を走るような動作を続けている。

 エリアが男に近づこうとした時、上から何かが降ってくる音を聞いた。

「セイルドラゴン」

 村人に『神様』と崇められているドラゴンが、男の前に降りてきた。

「あははははははははっ!」

 セイルドラゴンは、青色に光り、奇声を上げながら地面に倒れ、手足を動かす男をじっと見る。


「あははははははははあああああ……」

 バクッ。


 セイルドラゴンは、男を頭から丸呑みにすると、そのまま、どこかに飛び去った。

 奇声が消えた森は、再び虫の声一つしない静寂を取り戻した。


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