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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
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ドラゴンラーキング4

 カルシ村。

 内陸部に位置し、一年中温暖な気候が続き、村人の多くが主に農業で生計を立てている。あるドラゴンを信仰しており、村の様々な場所に、ドラゴンの像が置かれている。


 そんな、カルシ村を見慣れない者達が歩いていく。

「……よそ者だ」「よそ者だな」

 村人がヒソヒソ話す声が、あちらこちらから聞こえる。

「なんか、居心地が悪いですね」

 ライルが、不安そうに、キョロキョロと辺りを見渡す。

「そうね……」

 リリースも落ち着かない様子だ

「綺麗な村ですね」

 一面に広がる麦畑を見ながら、エリアが呟く。エリアは、村人の話声など全く気にせずに村の中を堂々と歩いていく。

 村で取材をするには、まず村長に挨拶をしなければならない。

 村人に村長は、どこにいるのか聞いてみる。怪訝な顔をしながらも、村人は村長の家を指差してくれた。

「ありがとうございます。ところで、村長ってどんな方ですか?」

「……」

 ライルの問いに村人は、逃げるようにその場を去った。

「どうしたのでしょうか?」

「とにかく行ってみましょう」

 山の上にある村長の家は、まるで村中を見下ろしているかのようだった。


「ここですか……」

 山の上にある村長の家は、他の村人の家と比べ、かなり豪勢だった。

「御免下さい」

 家の扉を叩く。暫くすると扉は半分だけ開いた。

 開いた隙間から、女性が顔を出す。

「どちら様でしょうか?」

 彼女は、どうやら、この家の使用人の様だ。ライルは、使用人に村長に取材をしたいと話す。

「少々、お待ちください」と行って使用人は戸を閉めた。仕方がないので、エリア達は、そのまま待つことにする。

 十数分後、扉が再び開いた。先ほどの使用人が深く一礼をする。

「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」

 使用人は丁寧な動作で、エリア達を招き入れる。

 家の中は、とても広く、豪勢の限りが尽くされていた。使用人も三十人以上いる。

 やがて、エリア達は二階の奥にある部屋に案内される。 使用人によると、ここは村長の自宅であるのと同時に仕事場でもあるらしい。この家を訪れた客は必ず、ここに通されるのだそうだ。

「こちらで、もう少々お待ちください」

 使用人は村長を呼んでくると言って、部屋から出て行った。

「この椅子、フカフカですよ!」

 リリースが楽しそうに、椅子の感触を楽しんでいる。エリアも座ってみると体が沈んだ。相当、高価な素材を使っているのだろう。

「あれ、本物ですか?」

 今度は、ライルが興奮した様子でエリアに話し掛ける。ライルの視線の先を見ると、黄金のドラゴン像があった。エリアは像を注意深く観察する。

「見た限り、本物の様ですね」

「分かるんですか?」

「純金の銅像は、何度か見たことがあります。多分、本物に間違いありませんね」

 ライルは、目を見開いて驚いている。

「いくらぐらいでしょうか?」

「私も、そこまで詳しくはないですが、多分、一般の方が一生働いて、ギリギリ買えるぐらいの金額でしょうね」

 それを聞くや否や、ライルは純金のドラゴン像をじっと見る。彼は実に分かりやすい性格をしていた。

 ライルが黄金のドラゴン像を見ていると、ドアがゆっくりと開いた。一人の中年の男が部屋の中に入ってきた。

「ようこそ、いらっしゃいました。私が村長のカール=ニライです」

 カール=ニライは、ニコニコと笑っている。

 見た目は、四十代から五十代。頭髪は後退しており、かなりの肥満体形だ。額から、脂汗がにじみ出ている。 

 全員が立ち上がり、村長を向か入れる。

「記者のライル=ニケイルです」

「同じく、リリース=ジックです」

 ライルとリリースが、それぞれ名刺を渡す。

「小説家のエリア=カインドです」

 エリアがニコリと笑う。

「小説家?小説家の方が、どうして?」

 カールが眉根を上げた。ライルが慌てて説明する。

「彼女は、ドラゴン専門の小説を書いています。ドラゴンの専門家として同行してもらいました」

 カールはエリアを頭から足まで、じっくりと舐めるように見ると、ニヤリと笑った。

「それは、それは、いや、驚きました。こんなに若くて美しい御嬢さんが……」

 カールの顔は笑ってはいるが、目は笑っていないことをエリアは、すぐに見抜いた。明らかに、見下している。

「ところで、御嬢さん。あれを知っているかね?」

 カールは、部屋飾ってある一体のドラゴンの像を指差した。先ほどまで、ライルがじっと見ていた純金のドラゴン像だ。

 黄金のドラゴン像は、天に向かって高らかに吠えている。巨大な翼を持ち、足も太く、しっかりと地面に立っている。

 エリアは、ドラゴンの像をじっと見る。カールは、その様子をニヤニヤして見ている。

「セイルドラゴンですね」

 エリアは、あっさりと答えた。

 カールは驚いて目を見開く。リリースも同じ表情をしていた。ライルだけが意味が分からないという表情をしている。

「せ、正解です。さ、流石、ドラゴンの専門家ですな」

 カールは、エリアから目を逸らして話す。

「先生、これはアルクレイルドラゴンではないのですか?」

 リリースが訊ねる。

「はい、大きな翼、太い尾。確かに一見すると、アルクレイルドラゴンに見えますが、耳の形が微妙に違います。アルクレイルドラゴンの耳は尖っていますが、セイヴァードラゴンの耳は、少し丸みを帯びています」

 アルクレイルドラゴンとセイルドラゴン。両者は、とてもよく似ているため、昔は、同種だと思われていた。しかし、近年の研究で両者は完全に別種だと判明している。

 確かに、銅像の耳は少し折れている。しかし、それは、注意深く見なければ分から程、小さく折られていた。

 実はカールは、ワザとこの像が、アルクレイルドラゴンに見えるように、制作させていた。目的は、専門家を試すためだ。

 思惑通り、アルクレイルドラゴンの特徴を大きく表現していた像に、多くの専門家が間違えた。特に中途半端に知識のある者が、多く間違えた。

 しかし、エリアは一瞥しただけで、アルクレイルドラゴンではなく、セイルドラゴンだと看破した。

「すごい」

 ライルは、エリアを尊敬の目で見る。カールは、面白くなさそうに椅子に座った。

「で、今日は何の御用ですか?」

 エリア達も向かいの椅子に座る。カールは少し不機嫌に見える。しかし、さっきまでの見下した態度は消えていた。

 ライル達は、さっそく本題に入る。


「今日、お伺いしたのは『青光病』のことです」


 カールの目がキラリと光る。

「誰が、そんなことを?」

 カールが逆に質問する。

「残念ながら、情報元は教えできません」

 リリースは、きっぱりと答える。

「……」

 カールは少しの間黙り、口を開く。

「そんな患者、うちの村にはいません。すべて出鱈目です」

「出鱈目?」

 ライルが驚き、身を乗り出す。

「しかし、確かに、この村に『青光病』の患者がいると情報が……」

「全て、出鱈目です。そんな患者は、この村にはいません」

 全くいい迷惑ですと憮然とした態度でカールは、怒鳴る。そこから、しばらくの間『いる』『いない』で堂々巡りとなった。

 ライルとカールは、段々とヒートアップしていく。カールが大声で何か言おうとした時、突然、エリアが立ち上がった。

「分かりました」

 エリアは、カールに笑顔を向ける。

「今日は、これで失礼します。ライルさん、リリースさん。行きましょう」

「え?」

 ライルが驚き目を見開く。

「し、しかし……」

「では、これで失礼します。取材を受けていただいて、ありがとうございました」

 エリアは、ライルとリリースを置いて部屋を出てしまう。二人は、慌ててエリアを追い掛けた。

「エリアさん……どうして?」

「あのまま話していたら、きっと村長は『出ていけ!』と言っていたでしょう。そうなれば、この村での取材は難しくなります」

 ライルもそれは分かっていた。

「しかし、このまま引き下がるわけには……」

 エリアは、ニコリと微笑む。

「話を聞ける相手は、村長だけではありません。村人にも、色々と話を聞いてみましょう」

 自分以外のヒトを見下したような、あの村長では、最初から話を聞くのは、難しかっただろう。それよりも、本当に『青光病』の患者がいないのか?村人に聞いてみたほうが早い。

「そうですね……」

 ライルは納得し、頷く。

「さて、後は、どこか泊まれる場所が必要ですね」

 エリアは、ちょうど掃除をしていた使用人に尋ねる。

「すみません、どこか泊まる場所はありませんか?」

 暫く、この村を観光しようと思ってとエリアは、使用人に笑顔を向ける。

 使用人は、その笑顔を見ると顔を赤らめ、放心した。やがて「はっ」となり口を開く。

「こ、この先に民宿があります。そ、そこなら……」

 エリアは、使用人の顔を見つめ、微笑む。

「ありがとうございます」

 エリアが笑顔を送ると、使用人の顔は、また赤く染まった。


「ふん、餓鬼どもめ!」

 民宿に向かうエリア達を二階の窓から、じっと見ながら、カールは毒づく。

「しかし、どこから嗅ぎ付けたのか……」

 村の中に密告者がいるのだろうか?もし、そうだとしたら、許すわけにはいかない。この村の王が誰なのか、今一度、知らしめる必要があるだろう。

 黄金のドラゴンの像を見ながら、カールは不敵に笑った。


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