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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
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ドラゴンラーキング3

 アド=カインドとの会話は、日に二、三言話すだけに留まっていた。

 理由は、エリアがあまり話さないため、会話がほとんど弾まず、終わってしまうことが原因だった。

 話す内容は、天気のことや、その日の課題のことなど、大したことではなかったが、エリアは、不思議と、その会話を面倒とは感じなかった。

 ある時、アドが風邪を引いて、休んだ日があった。

 その日は、一日中、体に穴が開いたような感覚があった。物を壊されたり、殴られたりした時も、そんなことは感じなかった。

 三日後、風邪から回復したアドが、再び登校してきた。

「おはよう、エリア」

 アドからの短い挨拶。それだけで、エリアは体に空いた穴は塞がったように感じた。

 

 エリアが、小さな違和感を覚えたのは、それから少ししてからだった。

 その頃、エリアは、ほぼ毎日隠れて暴力を受けていた。しかし、その回数が、二日に一回、三日に一回と徐々に減っていていた。

 さらに、物を隠されたり、物を壊されたりする回数も減っていった。

 エリアは、不思議に思い、調べることにした。ターゲットは、自分に暴力を振るっていた者のリーダー。彼女が一人になった所を見計らい。物陰に連れ込んだ。

「な、何よ!」

 喚く少女の口を手で覆って黙らせ、凍った眼でじっと見る。

 いつもいる仲間はいない、口を塞がれ助けも呼べない、必死に抵抗しても、全く動かない。目の前にいるのは、いつも暴力を振るっていた少女。

 殺される!

 少女は、ガタガタと怯えだした。エリアに暴力を振るっていた時とは、まるで別人のようだった。

 しかし、エリアは、そんな少女に興味はない。知りたいのは、何故、自分に暴力を振るうのをやめたのかということだ。大声を出すなと言って、覆っていた手を離す。少女はもう抵抗する気力を失っていた。

「話せ」

 短く命令すると、少女は何も頷き、話し始めた。


 話によると、グループの一人が、もうエリアに関わるのをやめようと言い出した。すると、別の少女も同じことを言いだした。

 初めは反対していたリーダーだったが、やがて、多くの少女がエリアに暴力を振るうのをやめようと言い出した。リーダーの少女もこれ以上反対したら、今度は、自分がグループを追い出されてしまう。そう思い、渋々、同意したのだという。

「何故、そいつらは、そんなことを言った?」

 エリアが、尋ねると、リーダーの少女は悔しそうに言った。


「アドの奴が、皆を説得したらしい……」


 エリアが、いじめられていると知ったアドは、少女一人一人にいじめをやめるように説得した。少女達は、最初は反抗していたが、アドは辛抱強く彼女達を説得した。

 おそらく、少女達が大勢群れている時に、いじめをやめるように言っても誰も聞き届けられなかっただろう。ヒトは仲間といる状況では、罪の意識が分散されてしまう。

 しかし、一人の時なら罪悪感も分散されることはない。アドは、そこに賭けた。時間を掛けて、一人一人を説得する。

 すると、アドが考えた通り、一人、また一人とアドに説得された。

 未だにエリアに積極的に話し掛けようとする者や遠くから悪くいうものはいる。

しかし、エリアの物を壊したり、暴力を振ったりする者はいなくなった。


「……」

 次の日、エリアは朝早くから、とある道の端に立っていた。多くの生徒は、この道を通り、学校に通う。道に立つエリアは、多くのヒトの目を引き付けていたが、彼女は、そんな目を気にも留めず、ただ待っていた。

「ふぁ」

 アド=カインドが眠そうな目を擦りながら、こちらに歩いてくる。エリアは、そのアドの前に、綺麗な動作で出た。

「あれ?エリア?」

 アドは、不思議そうにエリアを見る。

「……」

 エリアは、アドを黙って見ている。

「どうした?」

 アドは、そんなエリアを心配そうに見ている。

「……あ」

「……あ?」

 エリアは一言だけ発すると、下を向いてしまった。しかし、直ぐに顔を上げ、アドの目を見る。

「ありがとう」

 エリアはアドが何か言う前に、凄まじい速さで行ってしまった。


 エリアの顔が赤く染まる。心臓の音も早まり、頭も混乱する。

 この感情の名前をエリアは、知識としては持っていた。しかし、実際に自分にそんな感情が、沸き起こるとは思ってもいなかった。

 真っ赤に染まった顔で、自分の胸を押さえるエリアは、まるで、普通の少女の様だった。


「ロマンチックですね!」

 リリースと、初めて話を聞いたカレンが微笑ましい表情で、エリアを見る。反対にライルは複雑な表情をしていた。

「そ、それから……どうなったのですか?」

 最初は止めていたカレンもライルも、興味深そうにエリアを見る。

「その後、彼に告白して恋人になった後、結婚しました」

 正確には、恋人の段階は飛ばしている。

 それに、アドに告白したのは、それから二年経った後だ。その間、全く話し掛けられなかったのだ。


『エリア、ドラゴンについて何か知ってる?』


 アドにドラゴンについて聞かれた時は嬉しくて、気持ちが高まり、つい喋りすぎてしまった。その時は反省したが、それからも、アドにドラゴンのことを話すと、つい長くなってしまう


「よく、ご両親が許してくれましたね」

 リリースの疑問はもっともだ。

確かに、法律上は、十五歳で結婚が可能だ。しかし、厳密には決まっていないが、暗黙の了解として、普通は両親の許可が必要となる。でないと、役所で結婚を拒否される。

 しかし、アドとエリアの場合は、少し事情が異なる。

「私も夫も結婚する時には、両親が二人ともいませんでしたから」

 再び、場が静まる。

「す、すみませんでした!」

 リリースが頭を下げて謝る。

 そんなリリースにエリアは「大丈夫ですよ」と微笑む。

「じゃ、じゃあ、この話は、これまでということで!」

 気を利かせたカレンの発言で、この話は終わった。



「ところで、先生。次回作はもう決まっているのですか?」

 ナイフとフォークを置き、エリアはリリースを見る。

「いえ、まだ決まっていません」

 エリアは少し、困った表情になる。

「それでしたら、こういう話はご存知ですか?」

 リリースは、真剣な表情になる。

「最近、パラサイク国のカルシと言う村で、奇妙な病気が蔓延しているらしいです」

「……『青光病』のことですか?」

「流石、先生!」


 青光病は、ここ最近発見された病だ。

 この病気になると、その名の通り、体が青色に発光する。さらには、夜間に大声を上げ、森の中を走りだす。木の頂上まで上り、そこで動かなくなる等、奇妙な行動をとり始める。

 致死率はおよそ、七十パーセント以上。

 だが、その原因は、登った木の上から落ちたり、森の中を走り回り、崖から落ちたり、森に棲んでいるドラゴンに食べられる等。病気そのものより、病気になった際にとる行動のせいで死亡する事例が多い。

 病気の原因は不明。有効な治療法も確立されていない。


「今度、現地に赴き、この病気のことを取材するつもりです。よろしかったら、先生も来ていただけませんか?」

 リリースの申し出に、エリアは首を傾げる。

「何故、私を?」

 リリースは、頬を掻く。

「その村には、ドラゴン信仰の風習があります。先生の取材にも役立てると思います。ですので、私達としてもドラゴンに詳しい方に一緒に来ていただいた方が心強いのです」

「なるほど……」

 ドラゴン信仰とは、その名の通り、ドラゴンを神の使い、または、神そのものとして、崇め、信仰することだ。ドラゴン信仰の歴史は古く、様々な文献にも登場する。

 ドラゴン信仰の村や町に取材するには、まず、友好関係を築く必要がある。

そのためには、信仰されているドラゴンのことをよく知っていることが一番の近道となるが、中途半端な知識では、相手に認めてもらえない。その上、信仰の対象となっているドラゴンは、地域ごとによって異なる。

 そこで、友好関係を築くために、ドラゴンベンチャーなど、ドラゴンに詳しい者に同行してもらうことが必要となる。

「いかがですか?先生」

 エリアは、少し考えるが、直ぐに顔を上げる。


「分かりました。行きましょう」

 満面の笑顔で、エリアは微笑んだ。


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