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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
38/61

ドラゴンラーキング2

「美味しいですね」

「はい」

「初めて食べましたが、とても美味しいです」

「……おいしいです」

 レストランの食事は、とてもレベルが高く、どれも美味だった。

 エリアと二人できりで食事ができなかったライル以外の三人は、とても楽しんでいた。

「ところで、先生。先ほど聞けなかった質問をしてもよろしいでしょうか?」

 ライルと同じく、雑誌記者のリリースがエリアに尋ねる。

「何でしょう?」

 エリアが、笑顔で答える。

「ずばり、恋人はいらっしゃるのでしょうか?」

「!」

 リリースの質問にライルが反応する。

「本来なら、本の仕事とは関係ない、プライベートな質問はしてはいけない決まりになっているのですが……」

 エリアは、笑みを深める。

「なるほど、今は、仕事は関係のないプライベートな時間ですからね」

「そういうことです」

 リリースもエリアに笑顔を向ける。

「そういう質問は、ちょっと……」

「そうですよ、失礼ですよ!」

 カレンとライルがリリースの質問を止める。

 ライルは、エリアの答えが気になっているようだが、相手の気に障るような質問はするつもりがないらしい。よくできた雑誌記者だ。

「構いませんよ」

 止める二人にエリアは、笑顔を向ける。

「本当ですか?」

「はい」

 エリアは、少し勿体ぶるように間を置いてから、口を開き、「恋人はいません」ときっぱりと否定した。

「……そうですか」

「そうですか!」

 リリースは少しつまらなそうに、呟く。ライルは、嬉しそうに笑った。


「しかし、夫はいます」


 エリアの発言に、その場の時間が止まる。

「先生、結婚されていたのですか!?」

「はい」

「驚きました!」

 リリースが目を丸くする。

「失礼ですが、先生、今お幾つですか?」

「十八です」

「結婚されて、どれぐらい経つのですか?」

「十五の時に、結婚しましたので、三年ですね」

 エリアの住んでいる国は、法律上、十五歳で結婚が認められている。

 しかし、実際に十五歳で結婚する事例は、ほとんどない。

「旦那さんは、何をされていますか?」

「ドラゴンベンチャーをしています。世界中を飛び回っていますね」

「出会ったきっかけは?」

 その質問に、エリアの目が少し開く。

そして、過去の記憶を再生させ始めた。


 エリアは、捨てられていた所をドラゴンベンチャーの両親に拾われた。

 拾われた当初、彼女は、全く感情を表に現さなかった。常に無表情で凍った眼をしており、何に対しても心を閉ざしていた。

 そんな彼女を両親は、普通の子供と同じように育てた。

 言葉を教え、文字を教え、食事の仕方を教え、洗濯の仕方を教え、食器の洗い方を教えた。寝る前には、本を読んで聞かせ、様々な場所にも連れて行った。

 最初は、心を開かなかったエリアも少しずつ、両親に心を許していった。

 やがて、エリアは両親の仕事に興味を持ち始める。そんな彼女に両親はあらゆる場所から集めた剥製や本を見せた。


 ドラゴン。


 その不思議な生物に、彼女は、たちまち魅了された。


 エリアの学習能力の高さは、両親を驚かせた。

 彼女は一度読んだ本の内容は、決して忘れず、千を超えるドラゴンの剥製の名前を全て覚えた。そればかりか、本の内容の矛盾を指摘し、見た目がそっくりだが、種類の異なる二つの剥製の名前が入れ替わっていることにも気が付いた。

 両親は、そんな娘の能力の高さを誇りに思い、さらにたくさんの本を与えた。

 ドラゴンについて書かれた本ばかりではなく、科学、経済、法律、ヒトの行動学など、様々な本を彼女に与えた。

 気が付けば、エリアの家の本は一万冊を超えるまでになっていた。


 月日が流れ、エリアも学校に行く年齢となった。

 学校は勉学だけではなく、同年代の子供達と過ごすことで、社会性を身に着けさせることも目的としている。

 エリアの両親は、本だけではなく、彼女が同じ年頃の友達を作り、そこから多くのことを学んで欲しいと願っていた。

 だが、そんな両親の願いは敵わなかった。

 確かに、学校は多くの友人、仲間を作ることができる場所だ。

 しかし、同時に激しい生存競争の場所でもある。

 なじめない者、皆と違う者は、容赦なく排除されていく。

 エリアは、他の子供達と比べ、とても美しい外見をしていたため、多くの同学年の男子は彼女に魅了された。さらに、他の子供と比べ、抜きんでいる頭脳、他表情を出さず、他人とは話さない性格もミステリアスな魅力に拍車を掛けた。

 彼女は、多くの者から人気があった。しかし、一部の者はエリアに嫉妬心を抱いていた。

 ある日、一人の男子がエリアに告白した。

 その男子は、容姿も良く、運動もでき、さらには、性格も良かった。もしも、二人が付き合うことになれば、とても、似合いの恋人同士になっていただろう。

 しかし、エリアは、その男子の告白を断った。

 エリアは、その男子以外にも大勢に告白されており、その全てを断っていた。

 彼女にとっては、その男子も他に告白してきた男子と変わらなかった。

 しかし、このことが、エリアに対する周囲の反応を変えてしまう。

 その男子に好意を寄せていた複数の女子が、エリアのことを悪く言い始めたのだ。

彼女達は、エリアが『自分たちを馬鹿にしている』など、真実とは異なることが広めていった。

 善悪に関係なく、声の大きな者の意見は、正しく見える。

 エリアに告白したが振られた者や劣等感を持つ者など、彼女を逆恨みした者も彼女のことを悪く言い始めた。

 エリアは、教室の中で完全に孤立した。

 遂には、教科書を破られる、机に悪戯書きをされるなど、いじめに発展してしまう。

 だが、当のエリアは、どんなことをされても常に無表情で、感情を見せることはなかった。

その態度が、彼女をいじめていた者達のさらなる怒りを買った。

 隠れて、暴力も振るわれるようになるなど、いじめは、ますますエスカレートしていった。教師もうすうすはエリアが、いじめられていることに気が付いていたが、見て見ぬふりをしていた。


 エリアの両親は、何も気が付かなかった。

 仕事で、家を離れることも多く、エリア自身が、学校を楽しんでいると両親に伝えていたため、両親はエリアがいじめに遭っていることに気付けなかった。


 学年が上がると、クラス替えが行われる。

しかし、エリアはクラス替えが行われても、何も変わらないだろう思っていた。

実際に、クラスが変わっても、彼女に話し掛けようとする者は、いなかった。

 一人を除いて。

「これから、よろしく」

 その男子が話し掛けてきたのは、たまたま席が隣同士になったからだという理由だけだった。だが、エリアにとっては、久しぶりに同じ年代の子供との会話だった。

「……よろしく」

 エリアは、短く返事を返した。


「ちょっといい?」

 授業が終わると、その男子は、複数の女子に教室の隅に連れて行かれた。

『あの子とは話さないほうがいいよ』、『仲間外れにされるよ』

 女子達は、いかにも、その男子のためを思って言っているような言葉を並べていたが、実際には、『あの子と話すと仲間外れにするよ』と言っているのと同じだった。

 今までにも、何も知らずにエリアに話しかけてくる子供達はいた。

 しかし、彼女をいじめていたグループが、いつもエリアに話し掛ける子供達に。彼女と話をしないように圧力を掛けた。結果、その圧力を跳ね除けてまで、彼女に再び話し掛けようとする者はいなかった。

 連れて行かれた男子は、しばらくすると戻ってきた。そして無言で席に着いた。

 エリアは、いつものことだと思い、その男子には見向きもしなかった。

「おれ」

 声が聞こえた。その男子の声だった。 エリアは、ゆっくりと声がした方を向く。


「おれ、アド=カインド。よろしく」


 アド=カインドは、笑顔でエリアに挨拶を求めた。 


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