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100Gのドラゴン  作者: カエル
第五章
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ドラゴンラーキング

 進化とは、年月の経過と共に、環境に合わせて生物の姿が変化することを言う。

 進化が起こる要因としては、捕食や競合といった他種の生物との関わりによるものや、気候によるものなど、様々だ。

 その環境に適さない個体は、淘汰され、適したものだけが生き残る。

そして、生き残った個体同士が子供を作ると、両親の特徴が子供に伝えられる。その子供の中でも、さらに環境に適したものが生き残る。これを繰り返し、生物の姿は、世代を経るにつれて変わっていく。

 このように見ると、進化とは生物が、強化されていく現象のように見える。しかし、必ずしも、そうと決まっているわけではない。


 ガリペディア諸島。

 十五個程の島からできており、ここにしかいないドラゴンも存在する。

 キューリィティアドラゴンもその中の一つだ。

 体長二十センチ程の小型のドラゴン。雑食性で昆虫、小型の哺乳類や爬虫類、果実、果物など、何でも食べ、ガリペディア諸島のほぼ全ての島に生息している。


 近年、ガリペディア諸島の一部の島で、キューリィティアドラゴンに異変が起きている。


 まず、一部の島のキューリィティアドラゴンの体格が、通常のものよりも、巨大になった。その島にいるキューリィティアドラゴンの体格は、通常のものよりも、約二割程、巨大になっている。

 さらに、外見も大きく変化した。

 通常のキューリィティアドラゴンは、目つきが鋭く、耳がピンと立っている。

 指には、鋭い爪が生えており、これを使って、木の中にいる虫や果実の中身だけをくり抜いて食べている。

 対して、異変が起きたキューリィティアドラゴンの目は、丸くなっており、耳は垂れている。さらに、特徴である長い爪は短くなっており、完全になくなってしまった個体も確認されている。


 このような変化はなぜ起きたのか?

 実は、キューリィティアドラゴンに変化が起きた島には、必ずヒトがいる。

 対して、何も変化が起きていないキューリィティアドラゴンが住む島にはヒトがいない。

 キューリィティアドラゴンの変化は、ヒトによって、もたらされたものだ。

 ガリペディア諸島は昔、ヒトの立ち入りが禁止されていた。

しかし、五十年ほど前に、島の一部で、ヒトの出入りが認められた。ヒトは、森を切り開いて、ヒトが住めるように整備した。すると、出入りが認められた島には、観光客が大勢押し寄せた。

 観光客は、そこに住んでいたキューリィティアドラゴンに餌を与えた。

 森がなくなり、食糧不足になっていたこと、さらに、苦労して餌を探さなくても、簡単に食べ物に有りつけることから、キューリィティアドラゴンは、観光客から与えられる餌に依存していった。


 観光客から、餌を得るには、まず他のキューリィティアドラゴンとの争いに勝たなくてはならない。

 争いに勝つには、体格が大きい方が有利だ。体格が大きいものは、多くの餌に有りつくことができる。栄養が十分に取れれば、体格は、ますます大きくなる。

 反対に、体格が小さいものは争いに勝てず、徐々に淘汰されていく。

 その結果、ヒトのいる島のキューリィティアドラゴンの体格は、通常よりも巨大になった。


 観光客から、餌を得るには、もう一つ方法がある。自分の方に、たくさんの餌を投げて貰えばいい。そのためには、どうすればいいか?

 ヒトが、餌を与えたくなると思える外見をしていればよい。

 鋭い目、ピンと立っている耳、鋭い爪を持っている個体は、ヒトに恐怖心を与える。

 丸い目、垂れている耳、鋭い爪を持っていない個体はヒトに癒しを与える。

 ヒトは当然、癒しを与えてくれる個体に多く餌を与える。

 その結果、ヒトのいる島に生息しているキューリィティアドラゴンは、ヒトに『可愛い』と思われない個体は淘汰され、ヒトに『可愛い』と思われる個体が生き残った。


 ガリペディア諸島に生息する二種類のキューリィティアドラゴン。

 最近では、この二種を交配させようとしても、子供ができないことの方が多い。

 このままいけば、近い将来、この二種は分化して、完全に別種になると予想している。


 わずか、五十年の短い時間で、ヒトは『新種』を誕生させようとしている。


 ヒトのいる島に生息しているキューリィティアドラゴンは、完全にヒトから与えられる餌に依存してしまった。そのため、もはや自力で餌を探すこともしなくなってしまっている。仮に、島から全てのヒトがいなくなれば、彼らが生き残るのはかなり難しい。


 キューリィティアドラゴンに起きた変化は、環境に適用しようとした紛れもない『進化』だ。しかし、ヒトに気に入られようと『進化』してしまった体では、自然界を生き残ることは不可能に近い。


 進化や変化。

 それらが、もたらすものが決して、幸福であるとは限らない。


 

 彼女がホテルの一室で、原稿にペンを走らせているとドアをノックする音が聞こえた。彼女は、ペンを置いて、ドアの方を見る。

「はい」

「先生、取材の時間です」

(ああ、もうそんな時間か)

 彼女は、椅子から立ち上がり、ドアを開ける。

 外には、キチンとした格好をした女性編集者のカレンが立っていた。

先生と呼ばれた彼女はカレンに微笑む。

「では、行きましょうか」

 彼女は部屋の外へ出ると、カレンと共に歩き出した。

「調子はどうですか?」

「まずまず、といった所です」

「それは、良かった。先生の新作は、皆楽しみにしていますから」

カレンの言葉に、彼女はニコリと微笑む。

 彼女はドラゴンについて書いた本を出している。その本は、彼女が知っているドラゴンのこと、それについての彼女の考えをまとめただけの本だ。

 彼女は最初、本はあまり売れないだろうと考えていた。

 確かに、最初は売れなかった。しかし、ドラゴンが好きの間で、彼女の本は徐々に話題となった。

 普通、ドラゴンについて書かれている本は、専門用語がとても多く難解な文章で書かれており、読むのがとても大変だ。

 それに比べると、彼女の書く本は、とても分かりやすい。

 創作物のように退治される化物ではない。実際に生きているドラゴンについて

書かれたその本は、ドラゴンに全く興味がなかった者にも読まれ始める。

 最近は、少しずつではあるが、何かに利用するためではなく、純粋にペットとして、ドラゴンを飼い始める者も増えてきている。

 遂には、彼女の本を読んだことが切っ掛けで、ドラゴンを飼い始めたという読者も出る程だった。


 このホテルでは、雑誌の取材がよくされている。そのため、ホテルの一階には取材専用の部屋が、あらかじめ用意されていた

 部屋に入ると、二人の男女がいた。

「先生、良くいらしてくださいました」

 男性が彼女に一礼をする。

「お待たせしてしまって、申し訳ありません」

「構いませんよ。待っている間、仕事をしていましたので」

 男性の年齢は、二十代程で。がっしりとした体形をしている。昔、何らかのスポーツをしていたのは間違いない。

 女性の方は、眼鏡を掛けており、知的なイメージがするが、見た目はかなり若く見える。

 男性と女性は、彼女に名刺を渡す。

「月刊エボルのライル=ニケイルです。本日はお忙しい中取材を受けて下さり、ありがとうございます」

「同じく、リリース=ジックです」

 二人から、名刺を受け取ると、彼女は二人の顔をじっと見た。

「……」

「……あの、何か?」

 ライルが不審に思い、彼女に尋ねる。

「いえ、何でもありません」

 彼女は、ニコリと微笑むと、自己紹介を始める。


「エリア=カインドです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 エリアの微笑みに、ライルの顔が赤くなる。

「あっ……えっと、そ、それでは、さっそく取材を始めたいと思います」

「はい」

「まず、何故、ドラゴンを題材にした本を書こうと思ったのですか?」

「昔から、ドラゴンが好きで、いつかドラゴンの本を書こうと思っていました」

「なるほど、いつ頃からドラゴンがお好きだったのですか?」

「子供の頃からです」

「好きになった切っ掛けは、ありますか?」

「両親がドラゴンベンチャーで……」


「はい、お疲れ様です。以上で取材は終わりです」

「お疲れ様です」

 エリアがまた笑う。ライルの顔がまた、赤くなった。

「あ、あの、こ、この後、食事でもどうですか?」

 ライルの突然の誘いに、その場にいた全員が驚く。

 エリアも目を丸くしていたが、やがて、フッとほほ笑む。

「構いませんよ」

 エリアはあっさりと答えた

「ちょうど仕事も、ひと段落ついた所ですので」

 エリアの思いがけない返答にライルは、破顔した。

「ほ、本当ですか?」

「ええ」

「そ、それでしたら、そこにレストランがあります、そこで……」

「ええ、そうしましょう」

 エリアが、立ち上がると、ライルも慌てて立ち上がった。

「それでは、行きましょうか」

 エリアは、ニコリとほほ笑む。

「四人で」



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