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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
35/61

ミステリードラゴン15

「どうして、そんなことをしたんだ?」

 自ら犯したことを暴露するなど、自らの首を絞めるようなものだ。

「憲兵達は、未確認生物を政府のせいにした」

 政府は、極秘に未確認生物を実験により生み出していた。それが逃げ出してヒトを襲っていると憲兵は触れ回り、さらにヒト型生物の写真もばら撒いた。

「そんな!」

 ネイドは、大声を上げる。あまり、興奮させすぎてはいけない。アドはネイドに落ち着くように言った。

「実験をしていたのは、アイツらも同じだろ?」

 そうだ。ウズリアが内情に詳しかったことから考えても、むしろ積極的に実験に参加していたはずだ。

「政府を悪者にすることによって、クーデターを起こす大義名分を得ると同時に、自分達の罪をなかったことにするつもりだな」

 政府が極秘に開発していた生物兵器が逃げ出し、市民を襲った。それを察知した正義の味方の憲兵は政府の所業を許しておけず、悪の政府を討伐した。

分かりやすくインパクトがある話をヒトは簡単に信じてしまう。

「くそ!」

 ネイドは、自分の膝を叩いて悔しがった。


 結局、アド達が本を出版することはできなかった。

 おそらく、クリスリア国から直接圧力が掛かったのだろう。新政権の機嫌を損ねて、貿易などに支障をきたすことを恐れた政府から、本の出版をしてはならないという警告が来た。

「じゃあ、彼らが死んだことも、なかったことにされたのか!」

 ネイドは声を荒げる。

「ああ」

死んだ調査メンバーは、全員クリスリア国で行方不明ということになっている。

「なんとか、ならいのか?」

「何ともならなかった」

 アド達もただ、黙っていた訳ではない。この半年間、様々な方法を考えたが、すべて潰された。

 ネイドは、何か言おうとしたが、アドの顔を見て、口を閉じる。

「……」

 そして、黙って、うなだれた。


 長い沈黙の後、ネイドが口を開く。

「メイは……どうしている?」

 アドは、表情を変え、微笑んで答える。

「大丈夫、ちゃんと俺が面倒を見ている。元気だよ」

 それを聞いてネイドも微笑んだ。

「そうか、……よかった」

 アドは、ふと時計を見る

「ああ、ちょうどいい時間だな。窓の外を見てみろよ」

 言われたままにネイドは、窓の外を見る。

 通常のヒトには、あまりに遠いため、赤い点にしか見えなかっただろう。しかし、ネイドの視力は、その姿をハッキリと捉える。


 赤いドラゴンが木の上で、何かを食べながら、こちらをじっと見ている。


「いつも、この時間に、あの木の上でこの病室を見ている。あそこにいる間は、いくら呼んでも、全く動かない」

 ネイドの目に涙が溜まる。それから、窓を開けて、大きく手を振った。

「おおーい、メイー!」

 ネイドは、大声で叫ぶ。

 メイは、しばらくネイドを見ていたが、フイと視線を逸らすと、どこかに飛んで行ってしまった。


 メイは、ヒトに懐こうとはしない。しかし、とても優しいドラゴンだとアドは思っている。


 ネイドが、ミノタウロスに気絶させられた時、ネイドを助けたのはメイだ。

 ミノタウロスの注意を自分の方に向けさせ、ミノタウロスをネイドから遠ざけた。気絶していたネイドは、ニーナ達を回収した馬車によって助け出された。


 シオン達もメイに助けられている。

 森にいたシオン達は、突如として現れたミノタウロスの群れに囲まれた。

 セイルもいたが、相手はネイドを打ち負かしたミノタウロスだ。それが六匹もいた。

流石のセイルでも、勝てる保証はなかった。

 その時だった。突如としてミノタウロス達が何かに反応して、左上を見上げたかと思うと、凄まじい勢いで走りだした。

 シオン達は、何が起きたのか理解できなかったが、その隙に逃げだすことができた。

 この時、メイは、未確認生物達を誘導するために、特殊な鳴き声を発しながら、上空を飛んでいた。その鳴き声は、遠くに行くほど小さくなっていき、ヒトの耳には聞こえなくなっていったが、ミノタウロスの耳には確かに届いていた。

 メイのいる場所から、はるか遠くにいたにもかかわらず、ミノタウロス達はメイの鳴き声に反応し、メイを追って走り出した。

 メイにシオン達を助ける意図はなかった。しかし、結果としてメイはシオン達の危機をも救うことになった。


「他のヒト達は今、どうしている?」

「シオンさんは、まだ諦めていないようだ。動物写真家の仕事をしながら、本の出版ができないか模索している。セイルさんとムーアさんも協力している」

 そういうアドも、まだ諦めてはいない。仕事の合間に、彼らに協力している。

「ニーナさんは……」

 そこで、アドは言葉を止める。

「どうした?」

「いや、あーそういえば、このあと急用があったんだ」

 若干、棒読み気味にアドは言った。

「え?どうしたんだよ、急に」

 ネイドは、困惑した様子でアドを見る。

「と、いうわけで帰る」

「えっ、ちょっと、おい!」

 ネイドの制止も聞かず、アドは病室を出てしまった。

「なんだ?あいつ……」


 アドが病院を出ようとすると、ちょうどニーナが病院に入ってくるところだった。彼女は、いつも大体、この時間に見舞いに来る。

 ニーナの手には、花が一輪だけ握られていた。

 どうしたのですか、その花?とアドが訪ねると、ニーナは困ったように笑った。

「本当は、花束を用意していたのですけど……さっき、メイちゃんに食べられてしまいました」

 彼女が病院に来る途中、突然メイが上から降ってきたらしい。メイは彼女が持っていた花束を一輪だけ残して食べてしまい、どこかに飛んで行ってしまった。

「あいつ、またやったのか……」

 アドは、溜息を吐く。

「えっと、その……」

 ニーナを慰めようとするアドだったが、なかなか言葉が思い付かない。

「大事なのは、気持ちですよ!気持ち!」 

 ニーナは、目を伏せる

「でも……」

「大丈夫です。あいつは、貰えるものなら何でも喜びます。そういう奴です」

 ニーナは少しの間、目を見開いていた。それから、柔らかく微笑んだ。

「そうですね」

 まるで、太陽の様な笑みだった。ネイドには、もったいない。

 ニーナとは、そこで別れた。ネイドの目が覚めたことは、あえて教えなかった。

二人がどういう反応をするのか、どういう会話をするのか、こちらから聞かなくてもネイドは、自分からペラペラ喋るだろう。

 その時を楽しみにしながら、アドは病院を後にした。



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