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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
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ミステリードラゴン14

 意識が少しずつ覚醒して、ゆっくりと目が開く。

 しばらくすると、瞼は完全に上がったが、意識がまだ追い付いていない。

 ふと、ヒトの気配がしたので、首だけを動かし隣を見る。だが、まだ少し、ぼやけている。体格や格好から男のようだ。

 男性は、何かを手に持っている。どうやら本のようだ。

 本を読みながら、男は懐かしそうに、嬉しそうに、ほほ笑んでいた。

 意識が覚醒していき、男の顔がはっきりと分かる。よく知っている男の顔だった。

 男もこちらを見る。男は、驚いたように目を見開いた後、口を開き、

「おはよう、ネイド」

 と言った。


 ネイドは頭に大きなダメージを受けていた。気絶して一旦は目が覚めたが、そのダメージは消えておらず、痛みもなく、ネイドを少しずつ蝕んでいた。

 激しく体を動かした上、極度の緊張状態が続いたことにより、ダメージはついに限界を迎えた。

 ネイドは、すぐに病院に運ばれ、直ぐに緊急手術が行われた。手術は成功したが、ネイドはずっと眠ったままだった。

「俺のことが分かるか?」

「……ああ、アド=カインド、黒いドラゴン使い」

「お前は誰だ?」

「……ネイド=ブレイブ、ドラゴンベンチャー、相棒はメイ」

 言葉は、はっきり喋ることができている。アドのことも自分がドラゴンベンチャーだということも認識できている。

「ここは、どこだ?」

「病院だ」

「……病……院?」

「少し待っていろ、医者を呼んでくる」

 アドは、そう言うと病室を出た。

 ネイドは、起き上がろうとしたが、うまく起き上がれない。手も動かそうとしたが痺れて無理だった。

 少しすると、アドが医者を連れてきた。医者はアドがしたような質問をネイドにしたあと、体調を調べた。

 医者は、アドを病室の外に連れ出す。

「意識もはっきりしていますし、記憶障害もないようです。正直驚いています。目覚めてすぐ、こんなに話すことができるヒトを初めて見ました」

 医者は驚いていたが、彼と付き合いのある者ならば、特に驚くことでもない。

 ネイドと知り合った者のほとんどは、ヒトの肉体に関する常識が変わる。

「彼と話しても大丈夫でしょうか?」

 医者はうーんと唸った。

「普通は、患者の安静のため許可できないのですが……患者の回復から見て大丈夫と思います」

 しかし、念のため長時間の会話は避けてくださいと医者は最後に忠告し、アドは、それを了承した。


「半年?あれから半年も経ったのか?」

「ああ」

 ネイドは目を見開く。それは、そうだ。ネイドにしてみれば時間移動したような感覚だろう。

「アド、教えてくれ。あの後どうなった?」

「その質問に答えるには、こちらも質問しなければならないな。ネイド、どこまで覚えている?」

 ネイドは頭を押さえる。

「船に乗って、ニンギョの群れを追い払ったとこまでだ……いや、ミステリードラゴンについて話したことも覚えている。ああ、そうだ!その後、シオン氏とセイル氏が本を出すとかなんとか言っていたような気がする」

 普通、気絶したら、その前後の記憶は曖昧になるはずだが……ネイドは、正確に覚えていた。

「そこまで、覚えているなら話は早い」

 アドは、話をまとめるために少し考え、口を開く。


「結論を言うと、告発は失敗した」

 アドは、起きた出来事を思い出し、拳を軽く握った。


 脱出したアド達は、クリスリア国が行っていたことを告発するために準備を始めた。

 セイルとシオン、ムーアは本の作成の準備を初め、アドとニーナはニンギョの体を詳しく調べていた。

「ニーナさんは、お前の分も頑張るって言っていたぞ」

「そうか、やっぱり良い子だな!」

 アドは、少し冷やかすつもりで言ったのだが、ネイドには伝わっていないようだった。少し呆れたが、アドは話の続きをすることにした。


「三か月程で、ニンギョの調査も終わり、その情報とクリスリア国で体験したことまとめた本が完成した」

 徹夜続きのムチャクチャな作業だったが、皆の努力のおかげで、奇跡的に完成させることができた。

「あとは、その本を出版するだけだったが、その時、クリスリア国で事件が起きた」

「事件?」

 首を捻るネイドに、アドは答えた。


「クーデターだ」


 クリスリア国に所属する一部の憲兵が突然、中央議会を占拠した。

 クーデターを起こした憲兵達は、現政権の解体とクーデターを起こした憲兵達による暫定政権の樹立を宣言した。

 当然、議員や議員派のクーデターを起こした憲兵以外は、そんなことを認める訳がなかった。何十倍もの兵力で議会を包囲したのだ。

クーデターを起こした憲兵達が制圧されるのも時間の問題だと思われた。

「だが、そうはならなかった」

「どうなったんだ?」

 ネイドが息を飲む。


「今度は国民が反乱を起こした」


 クーデターが起きたと国中に伝わると同時に、各地方で武装蜂起が起きた。

 特に、かつて一番身分が低い者達の多くが反乱に加わった。

「きっと事前に示し合せていたのだろうな。中央議会に兵力を集中させていた憲兵は、地方にまで応援を送ることができなかった。地方の議員は拘束され、地方議会は次々と占拠された」

 地方議会を占拠した国民は、大きな流れとなって中央議会に押し寄せた。

 最早、戦う力は残っておらず、議員派の憲兵達は降伏。百年以上、クリスリア国を支配していた中央議会は、アッサリと滅んだ。


「これが、その時の新聞だ」

 アドは新聞の切り抜きをネイドに渡す。ネイドがいつ目覚めてもいいように、アドはいつも新聞の切り抜きを持ち歩いていた。

 新聞には、クーデターが成功した時の様子が写真と共に載っている。

 沸き立つ民衆、手を高らかに上げる憲兵。国中が歓喜に沸いているようだった。

「こいつ……確か」

 憲兵の中心に立ち、声高に何かを演説している男。ネイドはその男に見覚えがあった。

「俺が気絶させた男じゃないか?」

 ネイドだけではない。シオンにも蹴り飛ばされ気絶した男だ。


 ウズリア、現クリスリア国の最高権力者だ。


「憲兵は、クリスリア国の最高権力者にウズリアを指名した。まぁ、憲兵はこれから民主主義による投票によって新たな権力者を決めると宣言しているから、奴が権力を握れるのも今の内だけどな」

「ちょと、待て!どうして、この男が?」

 ネイドの驚いた顔を見て、アドは三か月のことを思い出す。

 ちょうど、アド達も同じ反応をした。いや、皆、ネイドの何倍も驚いていた。

 何しろ、自分達が脅していた男が国の最高権力者になっていたのだから。

「写真の隅を見てみろ」

 写真の隅に小さくある人物が写っている。アドは気付くのに時間が掛かったが、ネイドはすぐに気が付いた。

「あっ!」

 ネイドは、短い声を上げる。

 写真の隅には、一人の女性がまるで、目立つのを避けるように立っていた。


 ソフィア=ミランダ、アド達をクリスリア国に連れてきた張本人だ。


「えっと、どういうことだ?」

 ネイドは混乱しているようだった。無理もない。

「俺にも分からないが、推測はできる」

「何だ?聞かせてくれ」

「……分かった」

 病院での待ち伏せや、試作品であるはずのドラゴン捕獲用の銃を使いこなしていたこと、さらに、あのミノタウロスやケンタウロスの群れから、無傷で脱出していてことから、ソフィア=ミランダは、優秀な女性と思う。

 逆に、ウズリアはアド達にあっさり捕えられたこと、脅されて、情報をペラペラ喋るばかりではなく、病院にまで案内した事、ケンタウロスに襲われた時の怯え方。とてもじゃないが、優秀とは言い難い。覆面を被り、小屋から離れた場所にいたのも、暗殺が上手くいったのか確かめる、いわば使い走りのようなものだったのだろう。

「どう考えたって、ソフィアの方が階級は上だろう」

 ネイドは首を捻る

「じゃあ、どうしてソフィアじゃなくて、こいつが最高権力者なんだ?」

 アドは簡潔に答える。

「傀儡だろうな」

 最高権力者になるということは、実はリスクも高い。常に国民の前に立たなければならないし、批判も一身に受ける。さらに、暗殺される可能性もある。

「権力を握る最も理想な形は、自分は表に出ずに裏で操ることだ」

「なるほどな……」

 ネイドは、納得したように頷く。


「それにしても、情報を簡単に話すような奴をよく、最高権力者に選んだな」

 ネイドの疑問ももっともだ。

「おそらく、顔だろうな」

 ウズリアの顔は、整っており、美形の部類に入るだろう。写真の見栄えはとても良い。本人は無能でも、外見が良ければ問題と判断されたのだろう。

 それに、ウズリアは、単純そうだった。きっと言いくるめられ、まんまとその気になったのだろう。もしかしたら、操られていることにすら気が付いていないかもしれない。

 演説も実際はソフィアか、別の者が書いた原稿を読み上げているだけだろう。

「操り人形は、役割を終えるまで、踊り続ける」

 アドは、小さな声で呟いた。


「それから、どうなったんだ?」

 先を尋ねるネイドに、アドは一つ質問をする。

「クーデターを起こすのに必要なものは何だと思う?」

 ネイドはまた首を捻る。頭にダメージを受けているので、あまり首を動かさないように注意する。

「分からない、武器か?」

 それも正しいが、それよりも大切なものがある。


「大義名分だよ」


 いくら、兵力が多くても、いくら優れた武器を持っていたとしても、権力を掌握できたとしても、その後、国民が付いてこなければ意味はない。

「権力を倒すには、権力側を悪者するのが、手っ取り早い」

 憲兵は、権力側を悪者にするために二つのことを利用した。


 一つは、格差。

 階級制度は、廃止されたとはいえ、未だ富裕層と貧構層との格差は大きい。


 そして、二つ目は未確認生物。

 憲兵達は、未確認生物のことを国民に暴露したのだ。


 憲兵達は、未確認生物が存在していること、そして、未確認生物がヒトを襲うことを国民に公表した。

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