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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
30/61

ミステリードラゴン10

「ここか?」

「……ああ」

 古代生物の追撃を振り切り、アド達は目的地に到着する。目的地には巨大な病院がそびえ立っていた。

 病院の周りは、高さ五メートル以上のフェンスで囲まれ、入り口には二人の憲兵が立っている。他にも病院の外を何人かの憲兵が巡回してい

「ここは政府が管理している病院で、普通の病院には入院させることのできない者達が入院させられている」

 ウズリアによると、此処に入院している多くの者は、国家転覆を狙うテロリストやその支援者等だそうだ。逮捕する際の銃撃戦や病気になった犯罪者を治療する目的で、この病院は作られたと表向きはなっている。

 しかし、本来の目的は入院しているテロリストに他の仲間の情報や資金源などを喋らせることにある。喋れば元通りに治してやる。だが、喋らなければ治療をやめると脅すのだ。

 最初は喋らず、黙秘を続けるものが大半だが、深夜に訪れる激痛、死の恐怖。

 早い者は一日も経たずに、ペラペラと話し出すという。

「……なるほど、拷問もし放題だな」

 外部とは完全に隔絶されているなら、患者に激痛をもたらす毒を注入することも精神的に追い詰めることも可能だろう。

「……」

 ウズリアは何も答えなかったが、それ自体がもう答えたようなものだ。

「では、ネイドさんも……」

「……行きましょう」

 ウズリアは、生き残った調査を始末するように命じられただけで、病院にいる者の安否までは、知らないという。ということは、もう既に殺されているという可能性も十分にあり得る。だが、逆に生きている可能性もある。もし、まだ生きているとしたら、一刻も早く助け出さねばならない。


「政府対策委員のウズリア=ジールだ」

 ウズリアが、身分証と一枚の紙切れを憲兵に見せると、憲兵はそれを念入りに確認している。

 その気になれば憲兵に助けを求めることも出来るが、ウズリアはそうしようとしない。なぜなら彼には今、銃口が向けられているからだ。

 アドは、服で銃を隠しながら、憲兵達から見えない位置でウズリアを狙っている。

 ケンタウロスとユニコーンに襲われた時、もし、弾を撃ち尽くしていたらできなかったが、ニーナのおかげで弾を撃ち尽くさずに済んだ。

 憲兵はウズリアの身分証を確認すると、こちらに視線を向けた。

「そちらの方々は?」

「……同じく政府対策委員の者だ」

 憲兵の目が光る。

「身分が確認できない方はお通しできない決まりとなっております。ですので、そちらの方々も身分証の提示をお願いします」

 怠慢な憲兵だったら、一人の身分証を確認した時点で、全員通していただろうが、なかなか、真面目な憲兵だった。

「どうしました?身分証の提示をお願いします」

 憲兵の顔に不信感が広がり出す。その時だ。

「グオオオオオオオオ」

 凄まじい咆哮が辺りに響き渡る。

「なんだ!?」

 すると、向こうから憲兵が一人走って来た。

「た、大変だ!」

「どうした?」

「ド、ドラゴンが暴れている!」

「何!?」

 フェンスで囲まれた病院の中庭。その中心に黒いドラゴンがいた。

咆哮を上げながら、周りにいる憲兵を蹴散らしている。その漆黒の姿は完全に闇に溶け込んでいた。見たこともない他国のドラゴンの出現に憲兵達は混乱状態になっている。

「早く、仕留めろ!」

「それが、動きが早すぎて……」

 ここにいる憲兵は、あくまでヒトの侵入を防ぐためにいる。ドラゴンの対処の仕方など訓練してはいないだろう。

「と、とにかく来てくれ!」

「……」

 憲兵がこちらをチラリと一瞥する。そして、もう一人の憲兵に命じた。

「お前は、ここに残れ!あなた方はそこから動かないように!」

 そう言うと、憲兵は急いで現場に向かった。


「動かないで下さい」

「貴様!」

「声も出さないで下さい」

残った憲兵にアドは、憲兵に銃を向ける。ウズリアは逃げないように、憲兵の隣に立たせた。これで、どちらも狙うことができる。

「持っている銃をこちらに渡してください」

「……」

 憲兵は素直に持っていた銃をこちらに渡した。受け取った銃をニーナに渡す。

「では、一緒に来てもらいましょう」


 クロが中庭で暴れているおかげで、病院内の警護は薄くなっていた。

 憲兵を縛り上げて、トイレの中に隠す。

「ネイドはどこにいる?」

「……こっちだ」

「嘘は付くなよ」

 アドは、銃をウズリアに押し付ける。ここで嘘をつかれたら、アド達は袋の鼠となってしまう。それだけは避けなければならない。

「嘘を付いていたら、お前だけは必ず殺す。絶対だ!」

「わっ、分かった」

 アドのあまりの迫力に、ウズリアは何度も頷いた。


 持っていた蝋燭に火を点け、薄暗い病院内の中を歩く。

「ここを降りる」

 ウズリアは下りの階段を指差した。

「調査に来ていた者は全員地下にいる」

階段はらせん状になっており、どこまでも続いているように見えた。

「先に降りろ」

「……分かった」

 コツン、コツンと階段を下りる音が妙に響く。長い階段を下り、暗い廊下を歩くと、ドアがポツンと一つだけあった。普通の病室とは、明らかに異なる異質な部屋だ。

「ここだ」

「……開けろ」

 ガチャとドアは簡単に開いた。おかしい。

「先に入れ」

 ウズリアはゆっくりと、部屋の中に入る。アドとニーナも後に続いた。


「ぐふっ!」 


 先に部屋に入ったウズリアが突如、部屋の隅から現れた影によって倒される。 影はウズリアを倒すと、次の瞬間にはアドの持っていた蝋燭を蹴り飛ばした。

「くっ!」

 アドは、銃を向けるがその腕を掴まれ、投げ飛ばされた。アドの体は、激しく壁に叩ききつけられる。

「がはっ!」

 呼吸が一瞬止まり、激痛が体を襲う。だが、痛みを気にしている余裕はない。 早く体勢を立て直さなければ!

 だが、その前に影はアドに馬乗りになった。

(殺られる!)

 アドは、死を覚悟した。

「動かないで!」

 しっかりとした叫び声が部屋に響く。

「銃があなたに向いています!」

 暗くて見えないが、どうやらニーナが銃を向けているらしい。影はピタリと動きを止めた。そしてゆっくりと立ち上がり、アドから離れる。

 アドが影に反撃しようとした時、影の口が開いた。

「その声、もしかして!」

 アドの動きもピタリと止まる。聞き覚えのある声が影から聞こえた。

「あっ、撃たないで!俺だよ!俺!」

 ニーナが蹴り飛ばされた蝋燭を拾ってこちらに来る。その火で影に光が当たる。

「あっ、やっぱりそうだ!」


 ネイドは嬉しそうに、まるで子供のように笑った。


「ものすごく痛かった」

「悪かったって、てっきりアイツらの仲間だと思って」

 ネイドは両手を合わせてアドに謝罪する。

 話を聞くと、ネイドが意識を取り戻した時、何者かが自分の首を絞めていたらしい。そいつ返り討ちにしてネイドは、逃走した。

 色々な場所に隠れながら逃走していたネイドは、一人の男が地下に何かを運んでいるのを見た。後をつけると男がこの場所に入ったらしい。

「そいつが入るのと同時にそいつを気絶させて、中に入った。部屋の中を見ていると、足音が聞こえたんで、その男の仲間がやってきたと思って隠れていたってわけだ」

 ネイドは、部屋の隅を指差す。蝋燭を向けると男が一人、気を失っていた。

「なるほど、納得した。でも、一つだけ腑に落ちないことがある」

「なんだ?」

「お前、ミノタウロスに頭をぶん殴られたって聞いたんだが、どうしてそんなにピンピンしている?」

 どうみても死にかけていた男ではない。

「さぁ、なんでだろ?運が良かったんじゃないのか?」

 ネイドはケラケラ笑う。瀕死の重傷を負っていたのにもう回復している。

 こいつは、本当にヒトなのだろうか?と時々思う。

「他のヒト達はどこですか?」

 ニーナの声でアドは、はっと我に返る。

「そうだ、お前の他にも怪我を負ったヒト達が運ばれてきたはずだ。どこにいるか知らないか?」

 ネイドは、少し言いにくそうにした後、ゆっくりと口を開く。

「奥の部屋は、まだ見てないよな?」

「ああ」

「見ない方がいい」

 ネイドは悲しそうに目を伏せた。

「全員、死んでる」

 可能性としては十分あり得たことだ。つまり、ここは即席の死体安置所だったわけだ。

 ネイドも、もし死んでいたらここに運ばれていたのだろう。

「……」

 ネイドは、気落ちしている。さっきまで、明るく振舞っていたのは、どうやら無理をしていたらしい。

「……行きましょう」

 そんな空気を吹き飛ばすように、ニーナは力強く言った。

「今はまず、私達が生き残ることを考えましょう」

 さぁ、とニーナはネイドに手を差し出す。

「……そうだね」

 ネイドは、その手を優しく握った。



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