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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
29/61

ミステリードラゴン9

 低空で飛行する赤いドラゴン。その姿は真っ黒な闇を照らす炎の様だ。

 その後ろを飛ぶ黒いドラゴン。赤いドラゴンとは対照的に、その姿は完全に闇に溶け込んでいる。

 赤いドラゴンと黒いドラゴンの間には、一頭の馬が走っている。さらに、その後ろを二頭が走る。この馬は、ただの馬ではない。ウズリア達が乗っていたのを奪ったもので、他の馬と比べて揺れが少なく、乗るヒトの体に負担を掛けないような体の構造をしているにも拘わらず、他の馬よりも圧倒的な速さを誇る。さらに、ヒトによく慣れ、ヒトの言うことを聞くように品種改良されている。

  気絶したウズリアをたたき起こして聞いたネイドがいる場所。ここから、そんなに離れていない。このスピードなら一時間ほどで到着できそうだった。

「大丈夫ですか?」

 アドは、後ろに声を掛ける。

「はい、大丈夫です!」

 後ろから帰ってきた声に、嘘はなさそうだった。品種改良された特別な馬だとはいえ、彼女は見事に乗りこなしている。


「私は、彼を助けに行きます」


 ニーナは、よく通る声でそう言った。彼女は、ヒト型生物よりもネイドを助けることを選んだ。

 襲撃者達を小屋に拘束した後、アドのグループとシオンのグループは、それぞれ分かれ、出発した。出発する直前、アドは彼女に尋ねる。

「いいのですか?」

「はい」

「しかし、せっかくのチャンスなのに……」

 過去に存在した古代生物。化石などではなく、実際に生きている古代生物を実際に観察できるチャンスというのは、滅多にないだろう。

 しかし、ニーナは首を横に振る。

「ネイドさんは、私の命の恩人です。必ず助けたい。それに……」

 彼女は、ニコリと笑う。

「私は、古生物学者ですから」


「方向はこっちで、いいんだな?」

「……ああ」

 案内係として、前を走らせているのは、シオンに蹴り飛ばされ、気絶していたウズリアだ。彼女に蹴り飛ばされたのがショックだったのか、それとも逃走防止のために、クロとメイの間に挟まれていることの恐怖なのか、さっきまでの勢いはすっかり失われている。

(待っていろよ、ネイド!)

 友人を助けるため、アドは危険な夜の草原を疾走する。

 


「やっぱり、撮影するならミノタウロスかな?どう思う?」

「……それでいいと思う」

 シオンとセイル、それにムーアは森の中を進む。

「おじさんは、こっちに付いて来てよかったの?」

 ムーアは憮然として、答える。

「こちらも向こうも危険なのは変わらないが、向こうの方が危険だ。だったら、少しでも、安全な場所にいるさ」

「なるほどね」

「だいたい、仲間一人のために敵がいるかもしれない場所に行くなんて……」

「そうか?ヒトらしい行動だと思うがな。あんたはどう思う?」

 話を振られたセシルは、考えを纏めるように顎に手を当てる。

「……どちらが……正しい……か……は決まっていない……身に危険が迫っている時に……自分の身を守ろうと……他人の命を救おうと……どちらを選ぶのかは……本人が決めればいい」

「あははははは、もっとも……」

 楽しそうに笑うシオンだったが、その笑い声がピタリと止まった。

「……」

「……」

「どうした?」

「しっ」

 シオンは唇に人差し指を立て、ムーアの言葉を遮った。


 森の奥から、パキパキと小枝が折れる音と草を踏みつける音が聞こえる。


 パキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ。


 音は、どんどん近づいてくる。


「来た!」


 ヒトの様な体に、牛の様な頭を持つミノタウロスは、正面から現れた。両手に棍棒を持ち、激しい鼻息をしながらこちらにやって来る。

「すげえ!」

「……」

「あっあっあ」

 興奮するシオン、無表情で相手を見つめるセシル、怯えるムーア。

 三者三様で相手を見つめる。ミノタウロスは、なおも距離を縮めてくる。

「う、あああああああ」

「あ、おい、止まれ!」

 シオンの制止を聞かず、叫び声を挙げ、ムーアが逃げ出す。


 パキパキパキパキパキパキパキパパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ。


 逃げ出したムーアが急ブレーキを掛ける。ムーアが逃げ出そうとした方向からも小枝が折れる音が聞こえた。


 パキパキパキパキパキパキパキパパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ。


 右からも左からも小枝が折れる音が聞こえる。

「グルルルルルルルル」「ギルルルルルルルル」「ゴルルルルルルルルル」

「ギャルルルルルルル」「ジャルルルルルルル」「ドルルルルルルルルル」

 前後左右斜め、六匹のミノタウロスが彼らを取り囲んでいた。



「止まるな!走れ!」

 ヒトを乗せえた三頭の馬が全力で走り、その上を黒いドラゴンが飛ぶ。長距離を走るペース配分をまるで無視して、文字通り必死に走る。止まるわけにはいかない。

 カッ、カッ、カッと乗っている馬の蹄の音以外にも似たような音が左右から聞こえる。

「ひぃいいいいいい」

 ウズリアの左を飛んでいたメイは既に姿を消している。今なら簡単に逃げることができるだろうが、ウズリアはそうせず、ひたすら真っ直ぐ全力で馬を走らせる。

 何故なら、さっきから顔のすぐ近くを弓矢が飛んでいるからだ。

 右に二頭、左に三頭。上半身がヒトの様な姿、下半身が馬の様な体をしているケンタウロスが弓矢を射ながら、追ってくる。

 それだけではない、ケンタウロスの後ろから、角を生やした馬の様な生物、ユニコーンが追ってくる。体つきは馬のようだが、顔をよく見ると目は真正面についており、口から見える歯は犬歯の様で、その顔つきは草食動物よりは、肉食動物に近い。

「スピードを落とすな!」

 アドは叫びながら、襲撃者から奪った銃を取り出す。

 パン!パン!パン!

 ケンタウロスに向けて三発撃つ。しかし、弾は命中せずに後方の暗闇に消えてしまった。

「くそ!」

 アドは大型のドラゴンを眠らせるために麻酔銃を使ったことはあるが、小型の銃を使うのは初めてだった。しかも、普通よりは振動が少ないとはいえ、馬に乗りながら動く相手を仕留めるのは、かなり難しい。

 どうやって作ったのか、ケンタウロスは持っている弓を構えるとこちらに向けて射た。

「くっ!」

 アドは間一髪で躱す。命中の制度がどんどん正確になってきている。

「クアアアアア」

 アドを心配してクロが振り返る。

「こっちは気にしなくていい!それよりも二人を守れ!」

 ニーナとウズリアはアドの前を走っており、クロは二人の周りを飛んでいる。 ニーナは勿論のこと、ウズリアも死なせるわけにはいかない。ウズリアがいなければ、案内する者がいなくなる。彼の武器は全て取り上げているので、ウズリアは今、丸腰の状態だ。

 パン!パン!

 命中しないと分かっていても、アドは銃を撃ち続ける。少しでも注意をこちらに向けるためだ。銃を撃っている間にも弓矢が飛んでくる。

 アドは、持っている弾の数を確認する。

残り八発。

無駄にしないように慎重に狙いを定めて引き金を引く。

 パン!

 だが、弾はケンタウロスにかすりもしない。

(どうする?)

 アドが作戦を考えていると、前方を走っていた馬が一頭、スピードを落してきた。アドが、スピードを上げろと言おうとした時、馬上に乗っていた人物が叫ぶ。

「貸してください!」

 ニーナは右手を差し出し、銃を貸せと言ってきた。

「銃を使ったことが?」

「あります!早く!」

 アドは銃を渡すか迷ったが、ニーナの目を見て、銃を渡すことに決めた。

「……」

 ニーナは慎重に狙いを定める。

 パン!

 銃弾は正確にケンタウロスの肩を貫いた。撃たれたケンタウロスは、その場に倒れる。ニーナは、すぐさま他のケンタウロスに狙いを定める。ケンタウロスも持っている弓矢を彼女に向ける。

 パン!

 シュ!

 銃弾が発砲されるのと、弓矢が放たれたのは、ほぼ同時だった。銃弾はケンタウロスの右手を貫き、弓矢はニーナの左頬の一センチをすり抜けた。

 ケンタウロスは弓矢を落とし、立ち止まる。

 パン!パン!パン!とニーナは続け様に銃を撃つ。弾は一発も外れることなく確実に命中した。

 ニーナが最後のケンタウロスに銃を向けた。ケンタウロスは諦めたかのようにスピードを落とす。後ろを走っていたユニコーンもケンタウロスもスピードを落とした。

 アド達は一気にスピードを上げ、その場を去る。

 ケンタウロスとユニコーンは、小さくなっていくアド達を見ていたが、やがてクルリと踵を返し、元いた場所に帰って行った。

 

「凄い腕前ですね」

「いえ……別に」

 ニーナは恥ずかしそうに顔を背ける。

「どこで銃を?」

「父に習いました。身を守るためだと」

 貴重な化石や遺跡が眠っているのは治安がいい土地とは限らない。

 そんな土地では、学者は金を持っていると思い込んでいる者も多く、誘拐目的で攫われたり、無言で撃たれたりする。

 そんな土地に行く時は、多くの場合ボディーガードを雇うが、それでも身を守る技術を身に着けておくことは必須だ。

「正直、銃を持つなんて嫌ですけどね」

 彼女はポツリと呟くように言った。その様子から、銃を扱うことを彼女は本気で嫌がっているようだった。

 しかし、先ほどの腕前を見る限りでは、彼女の思いとは反対に銃の才能はあるようだ。

「さぁ、進みましょう」

 少し沈んでいる彼女にアドは微笑む。

「あと、もう少しです」

 ニーナは、少し笑って答えた。

「……はい」

 



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