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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
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ミステリードラゴン8

 クリスリア国は、貧富の差が激しい国だ。昔、国民は五つの階級に分けられており、生まれた時から死ぬまで、変えることができなかった。

 階級制度は国外からも厳しく指摘されていた。近年、ようやく階級制度は廃止されたが、それは名ばかりで、貧富の差や差別は一向になくならなかった。

 五年前、そんな格差社会に嫌気がさした低い階級だった者達が反乱を起こした。政府の主要機関を襲い、いくつかの金持ちの家が襲撃を受けたが、反乱は小規模なものだったので、すぐに鎮圧された。


「昔、新聞で読んだ記憶があります」

 ニーナが呟きに、アドも思い出した。確かにそんな記事を見たことがある。

 反乱は、すぐに鎮圧されたためか、小さな記事だったように記憶している。

「問題は襲撃された施設だ。反乱を起こした奴らは、政府関係施設と分かれば、手当たり次第に襲った。そこで、何が行われているのかも知らずにだ」

「なるほど、ミステリードラゴンやヒト型生物を飼育していた施設も襲撃を受けたわけだ」

「……そうだ」

「その施設を襲ったヒト達はどうした?」

「……」

 ウズリアは答えなかったが、アドは察した。秘密を見た者をどうするのか、それを想像することは、決して難しくはない。


「一つ質問がある」

「……なんだ?」

「ミステリードラゴンが産んだ卵は三十二個、その内無事に育ったのが二十匹。間違いないな?」

「ああ」

「二十匹は、それぞれ違う生物。間違いないな?」

「間違いない」

 アドは、顎に手を当て考える。

「マズイな」

「何がだ?」

 シオンがアドに尋ねる。

「シオンさん、ニンギョに襲われたのですよね?」 

「ああ」

「一匹ではなく、大群に襲われた」

 シオンは、首を縦に振る。

「そうだ。三十匹ぐらいいた」

 シオンは

「どういうことだ?逃げ出したのは一匹だけだろ?」

「私とペアを組んでいたカリアさんを襲った七つの首を持つドラゴンですが、七つ全てに首がありました」

「それが、どうかしたのか?」

「目撃者は、そのドラゴンの首を一つ銃で吹き飛ばしています」

「首が一つ再生したってことか?」

「私も最初はそう思いました。しかし、もう一つの可能性があります。あのドラゴンは首を吹き飛ばされたドラゴンとは違う個体だったとしたら……」

「まさか……」

 アドは視線をシオンからニーナに移す。

「ニーナさん」

「はい」

「貴方がネイドを助けた時、ネイドを襲ったヒト型生物……ミノタウロスに角はありましたか?」

「はい、見たのは一瞬でしたが、確かに角はありました」

「二本とも?」

 ニーナは、はっとする

「……はい、二本ともありました」

「ミノタウロスの角も確か一本、吹き飛ばされていましたよね」

「……確かにそうです」

「ミノタウロスの角は、実際の牛とは違い、生え変わる可能性もあります。しかし、七つの頭を持つドラゴンと同様に角を吹き飛ばされたミノタウロスとネイドを襲ったミノタウロスは別の個体の可能性があります」

「それは、つまり……」

「はい」

 アドは、大きめに息を吸い込み、自分が出した結論を述べる。


「ニンギョは繁殖しています。そして他の未確認生物達も繁殖している可能性があります」


 それも、有性生殖ではなく単為生殖でだ。


「もし、それが本当だとしたら大変なことになります!」

 あの危険な生物達が、もの凄いスピードで増殖していくことになる。しかも、ただの獣たちではない。何種類かは道具を使う知恵を持っている。

 反乱が起こり、ミステリードラゴンとその子供が逃げ出したのが五年前。

 ニンギョの大群が船を襲ったのが、二年と五カ月前。約二年と数カ月で、少なくとも三十倍以上に増えた計算になる。他の未確認生物達も同じスピードで繁殖できると仮定すれば、現在何匹いるのか……。


 クリスリア国が何故、国外からヒトを集めたのか。

 反乱は鎮圧されたとはいえ、その残党が、まだ残っている可能性は大いにあった。残党はもしかしたら、政府機関の中に潜り込んでいることだってあり得る。

 その残党が、政府関係者にいないかはっきり分かるまで、未確認生物の調査をさせるわけにはいかなかったのだ。なぜなら、もし反乱を起こした残党が政府関係者にいたなら、政府が研究していた未知の生物が逃げ出し、ヒトを襲っていることが公に暴露される可能性がある。

 しかし、ボヤボヤしていたら、未確認生物達はどんどん増殖してしまう。今は、未確認生物にとどまっているが、そう遠くない先に、国民もこの生物の存在に気が付く。それだけは、避けたい。そこで、国外から何も知らない者達を連れてきて、未確認生物を確保させることにした。


「つまり、私達は最初から利用されていたわけだ」


 クリスリア国は、最初からアド達を捨て石にするつもりだったのだ。危険な未確認生物の調査をやらせる。成功すればよし、失敗しても自分たちは痛まない。

「まぁ、成功しようが失敗しようが、どの道事故に見せられて殺されていたかと思いますけど」

「クソが!」

 シオンがウズリアを思いっきり蹴飛ばす。蹴りは見事に脳を揺らし、ウズリアは、まるで壊れた人形のように気絶した。


「さて、これからどうする?」

 シリアが皆の意見を聞く。

「決まっているだろ!逃げるんだよ!」

 ムーアが真っ先に答える。

「ここで、こうしていたら、いつまた刺客が殺しに来るか分からない。その前に逃げるんだ!」

「どうやって?」

「……それは、船に乗って……」

「船はどうやって、調達する?この国は敵だらけだ。とても調達できるとは思えないけどな」

「……」

「シオンさんは、どうしますか?」

 シオンはニヤリと笑う。

「この国で何が起きているのか暴露する。そのためには、逃げ出したっていう、未確認生物をもっと写真に収めるたい。ニンギョの写真だけじゃあ不十分だしな」

「何を考えているんだ!危険すぎる!」

 叫ぶムーアをシオンは、つまらなさそうに見る。

「こんなことは、今までに何度もあった。命を惜しんでいたらいい写真は撮れないんだよ」

 シオンの迫力にムーアは押し黙る。

「あんたは、どうするんだ?」

 シオンは小説家のセイルに尋ねる。

「……俺は……」

 タップリ、十秒ほど間を置いて、セイルは小さな声で答える。

「……君に付いていく」

 シオンは拳で、セイルを軽く小突く。

「そう来なくっちゃ!」

 シオンは嬉しそうに笑う。

「あんたなら、そう言うと思っていたよ!」

 この二人は面識があったのだろうか?それとも、一緒に調査している内に仲を深めたのだろうか?

「その後は、どうするんだ?どうやってこの国を脱出するつもりだ?」

 シオンは頭をボリボリと掻く。

「あー。どうしよっか?」

 シオンはセシルを見るが、セシルは困ったように黙ってしまう。

「何も考えてないのか!」

「だって、こんなことになるなんて思ってなかったしなぁ。どうせ出られないなら、できるだけ多く写真を撮りたい」

「……俺も、色々見たい……。小説の……ネタになる」

 ムーアは呆れて、黙ってしまった。

「あんたらはどうする?」

 シオンはアド達に尋ねる。

「俺は……」

 アドは、クロをじっと見る。クロはアドの決定に従うと言っているように一声「クー」と鳴いた。

 そんなクロを見て、アドは笑う。

「俺は、仲間を助けに行きます」

 自分達が襲われたということは、病院にいるネイドも危険だということだ。病院なら、事故死や病死に見せかけることはたやすいだろう。

「どうやって、仲間がいる病院まで行くつもりだ?どこにいるのかも分からないだろ?」

 アドはニヤリと笑う。そして、上を向くと大きく叫んだ。

「メイ!」

 声が夜の闇に響く。その震えが収まる頃に、赤い何かが空から降ってくる。

 血のように赤く、炎のように紅い。そんなドラゴンは優雅に地上に舞い降りた。

「彼女に案内してもらいます」

 エリフドラゴンは、ドラゴンの中でも嗅覚に優れている。いつも一緒にいるネイドの臭いを辿らせ、彼がいる病院に向かう。

「そうか、分かった。あんたはどうする?」

 シオンは、次にニーナを見つめる。

「あんた、ヒト型生物の研究者なんだろ?だったら、私たちと一緒に来ないか?専門家がいた方が、私達も助かる」

 ニーナは目を瞑り、しばらく何かを考える。そして、深く息を吸うとゆっくり目を開けた。


「私は……」





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