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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
27/61

ミステリードラゴン7

 ミステリードラゴン。

 古代に生息していたドラゴン。詳しい生態は不明。現在では、絶滅されているとされているが、目撃情報は、今までにも存在した。写真に収めらたのは、今回が初めてのことである。


「お前が調査した未確認生物について、どこまで分かった?」

 ウズリアは、アドを試すように問う。

「あれが、ドラゴンと言うことは分かった」

 ドラゴンと他の爬虫類を区別する方法は、様々だ。そのうちの一つに口の中を見る方法がある。

 ドラゴンは口の中に『火歯』と呼ばれる特殊な歯を持っている。『火歯』は、火打石に似ており、強くこすり合わせることで火花を発生させることができる。ドラゴンは、体内にため込んだガスを吐き出すと同時に『火歯』で火花を発生させ、それをガスに引火させることで、炎を吐き出している。

 この『火歯』は、ほぼ全てのドラゴンに存在している。ドラゴンの中には、火を吐かなくなった種類もいるが、そんなドラゴンの口の中にも、かつて火を吐いていた名残として、小さな火歯が存在している。


 首が七つあった生物。最初は、蛇と思われていたが、剥製を見ると、口の中に火歯が存在していた。しかも、その火歯は大きく、明らかに火を吐くタイプのドラゴンのものだった。それを見た瞬間、アドはあるドラゴンを連想した。

 アシナシドラゴン。

体は、細長く翼は退化している。その形は蛇そのものだが、口の中に火歯がある。狭い穴の中で生活している内に、蛇と同じような形に収斂進化したとされている。

 アシナシドラゴンの仲間は何種類かいるが、七つも頭を持っているアシナシドラゴンの仲間は、アドも聞いた事はない。


「流石、専門家だな」

 ウズリアは感心したかのように唇の端を上げる。

「じゃあ、これは知っているか?」

「何だ?」

「今回、お前らに調査を依頼した生物。あれらの正体も全てドラゴンだ」

 体はヒトで、頭部は牛という奇妙な生物も、頭部に一本の角が生えていた馬も、ヒトと魚を合わせたような生物も、上半身がヒト、下半身が馬という生物も全て正体はドラゴンだというのだ。

「それは、本当か?」

 実際に未確認生物の一つがドラゴンだと見破ったアドだったが、今回の調査対象の正体が全てドラゴンだとは、考えていなかった。記憶をいくら辿ってみても、目撃された未確認生物のようなドラゴンは見たことも聞いたこともない。

「嘘をつくな!そんな、話聞いたことがないぞ!」

 超常現象研究家のムーアが叫ぶ。アドも同じ思いだった。他の皆も同じ感想を抱いたとアドは、思っていた。しかし、一人だけ違った。

「私は信じます」

 後ろから聞こえた、力強い言葉に全員が振り向く。

「私は信じます」

 ニーナは、同じ言葉を繰り返した。その声は、さっきよりも力強かった。

「目撃された未確認生物のほとんどは古代に実際に存在したヒト型生物によく似ています。そして、私は、ヒト型生物の正体はドラゴンだと考えています」

 ニーナは、ヒト型生物について現在研究中で、ヒト型生物はドラゴンであるという新説を唱えているらしい。

「ヒト型生物は哺乳類とされています。しかし、ヒト型生物は、口内に哺乳類にはない特徴を持っています。よく調べてみると、それは、ドラゴンが持っている火歯によく似ていました。そこで私は、ヒト型生物はドラゴンだという仮説を立てました」

 彼女は、ヒト型哺乳類はドラゴンであるという自身の説を証明するために、今は様々なドラゴンを研究しているという。ドラゴンフェスタに来ていたのも、色々なドラゴンを観察するためだったそうだ。

「今、彼女が言ったことは本当か?」

 アドは、ウズリアを問い詰める。

「ああ、本当だ。あんたも凄いな」

 ウズリアはニーナを見ながら唇の端を上げる。

「ちょっと、待ってくれ!それよりも、もっと大事なことがあるだろう?」

 動物写真家のシオンが話に割って入る。

「ヒト型生物は、私も知っている。それが、ドラゴンだったていうのは驚きだが、そもそも、何でそんな古代種が、生きてるんだよ?魔法で復活でもしたのか?」

 シオンの疑問はもっともだ。全員の視線がウズリアに向けられる。

「分かっている。最初から話すよ」

 ウズリアは、はぁと諦めるように溜息を吐いた。

「あれは、八年前だ。我々は、ミステリードラゴンの捕獲に成功した」


 捕獲できたのは、完全に偶然だった。ある猟師が仕掛けた罠に、たまたま引っかかっていたのだ。見たことのないドラゴンだったため、猟師はドラゴンベンチャーに見てもらった所、ミステリードラゴンだと分かった。

 ミステリードラゴンはすぐに、政府関係の施設に引き取られた。絶滅していたと思われたドラゴンの世紀の大発見は、政府関係者を驚かせたが、政府はこのことを世間に伏せていた。もし死なせてしまった場合、非難は避けられないからだ。

 だが逆に、もし生かす手段を完全に発見できれば、国外から大勢の観光客を呼ぶことができる。クリスリア国はミステリードラゴンを死なせないように細心の注意を払って飼育した。

 調査の結果、ミステリードラゴンは雑食性であるという事や夜行性であることが分かった。そして、とても気性の荒いドラゴンであることが分かった。

 ヒトに決して慣れず、ヒトが見ている前では決して餌を食べない。懐かせることはできないかと、何度か試したが、すべて失敗。何人もの飼育員が大怪我を負った。それでも、何とかミステリードラゴンを生かし続けることに成功した。

 

 だが、捕獲から一年後、事態は急変する。ミステリードラゴンが産卵したのだ。


「ミステリードラゴンは、単為生殖するタイプのドラゴンか……」

 多くのドラゴンはオスとメスが交尾をして子供を産む有性生殖を行うが、メスのみで子供を生む単為生殖を行うタイプも存在する。

 しかし、単為生殖を行うドラゴンでも、全くオスがいないドラゴンは、実は少ない。単為生殖を行うドラゴンの多くは、普段は有性生殖をして、オスがいない特別な環境になると単為生殖を行うパターンが多い。

「研究者は、小躍りして喜んだ。何しろ、未確認生物のドラゴンを繁殖させることができるかもしれないのだからな」

「それが、あの生物達と何の関係がある?」

 とっとと本題に移れとばかりに、シオンがウズリアに詰め寄る。

「大いにある」

 ウズリアは、ニヤリと笑った。

「……まさか」

 ニーナが何かに気が付く。

「まさか、卵から孵ったのが……」

「そうだ!」


 ミステリードラゴンが産んだ卵は三十二個。その内、孵化したのが二十五個。

 孵化した生物は、それぞれ、全く違う形をしており、その多くは、古代に生息していた生物に酷似していた。


「……つまり、あの未確認生物は全部、ミステリードラゴンの子供だというのか?」

「そういうことだ」

 あまりの話にアドは、頭を抱える。他の皆も同様の反応をしていた。

「そんなこと、あり得るのか?」

 シオンが、呟く。

「あり得たんだよ!」 

 ウズリアは笑いながら答えた。

「ミステリードラゴンは、自分と全く違う別種を産むことができるドラゴンだった。ドラゴンだけでなく、生物の中でもこんなことができるのは、ミステリードラゴンだけだろうな」


 どんな生物でも子供は親と同じ種類の生物だという常識は、ミステリードラゴンの存在で覆ることになる。


 ミステリードラゴンが産んだ卵から孵った生物の内、五匹は死んでしまったが、他は順調に成長した。世紀の大発見に研究者は大いに喜んだ。

 単為生殖の場合、生れる子供は親のコピーである。全く違う別種を産むことなど通常なら、不可能である。ミステリードラゴンが、どのようにして別種の生物を産むことができるのか?その詳しいメカニズムは、謎だ。

 しかし、ミステリードラゴンが産んだ生物が、古代に生きていたヒト型生物等とよく似ていたため、ミステリードラゴンが産める別種の数は決まっているのではないかという仮説が立てられた。

 今回、ミステリードラゴンが産んだ卵は三十二個。つまり、ミステリードラゴンは三十二種類の別種の生物を産むことができると研究者は考えた。

「これが、自然界でも起こることなのか、それとも長らく、異性と交わらなかった結果なのかは分からない。何しろ、一匹しか捕獲できていないからな」

 話を聞く限り、ミステリードラゴンの性別にオスがあるのかも分からない。とことん、生物の常識を超えている。


「ミステリードラゴンと、あの未確認生物については理解した。だが、どうして研究所にいたヒト型生物達が、外に出ている?」

 アドの質問にウズリアは目を逸らす。

「クロ!」

「グルルルルルル!」

 クロが唸りながら、牙を見せる。

「わ、分かった!話すよ!」

 ウズリアは、慌てて話し出す。


「反乱が起きたんだよ」


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