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100Gのドラゴン  作者: カエル
第四章
22/61

ミステリードラゴン2

「それでは、皆様こちらをご覧ください」

 ソフィアは、集まったメンバー全員に紙を渡していく。

 紙には目撃された謎の生物とそれが目撃された場所が記されていた。

(多いな……)

 目撃された目撃された未確認生物の数は、二十匹。今、この場にいるのは二十人、それが二人一組で行動すると、一度に全て調べることはできない。

 そこで、調査を前半と後半でそれぞれ、調べる場所を分けることになった。二週間かけて、前半の十か所を調べ、その後、後半の十か所を調べる。

 アドは、配られた紙を見る。写真に写っていたドラゴンは後半に分けられていた。

(つまり、二週間他の未確認生物を調べないと、あのドラゴンを調査することはできないという訳か)

 一刻も早くドラゴンを調査したいアドだったが、まずは、他の未確認生物を調査しないことには仕方がなかった。

「それでは、調査したい生物をお伺い。もし、三人以上が同じ生物の調査を希望された場合は、くじ引きとなります」

 アドは、配られた紙を再び見る。

 ドラゴン調査できないのなら、この生物を調査したいと思った。

 

「よろしくお願いします」

「……よろしく」

 くじ引きの結果、アドは未確認生物学者のカリア=ウルマ氏とペアを組むことになった。握手を交わすと、二人と一匹のクロドラゴンは馬車に乗り込むと馬車は動き始める。後ろからは馬に乗った二人のヒトが付いてくる。案内兼、通訳として同行するクリスリア国のヒトだ。

 アド達の目的地は、クリスリア国北西にある民家だ。

「……」

「……」

「……あの」

「……何?」

「……いえ、なんでもないです」

「……」

「……」

 重苦しい沈黙が続く。目的地まではまだ半日以上あるというのに、このままでは気が重過ぎる。

「……あの」

「……何?」

 アドは、何とかして話題を探す。

「……未確認生物について、教えていただいても良いでしょうか?」

 アドは未確認生物については専門外だ。ほとんど何も知らない。

 せっかく専門家が目の前にいるのだ。目的地に着く前に色々と聞いておいて損はないだろう。アドはそう考えた。


「未確認生物というのは、目撃者はいるが、正式にその存在が確認されていない生物のことだ。長年その存在が噂されているものや比較的最近目撃されたもの、実際の生物の様なものから、精霊や妖精のような伝説の存在とされているものまで、その姿形は様々だ。未確認生物は、大きく分けて、二つに分類される。『今だかつて誰にも存在が確認されていない生物』、もう一つは『かつて存在したが、今は絶滅してしまった生物』、前者を伝説型未確認生物、後者を絶滅型未確認生物と僕は呼んでいる。でも、未確認生物の多くは、既存の生物の見間違えだ。例えば、とある地方には、昔から、大型類人猿の未確認生物の噂があったけど、調べてみると、その正体は熊だった。他にも川に住んでいた未知の爬虫類がワニの見間違えだったり、家畜を襲って、血を吸っていた未確認生物が、ドラゴンの見間違えだったり、とにかくヒトは誤認しやすい生き物なんだ。他にも金目当てやイタズラ目的の捏造も多い」


 さっきまで、無口だったカリアだったが、未確認生物のことを聞いた途端、洪水のようにし話し出した。

 アドが、今は遠くにいる誰かを思い出している間も、カリアは話し続ける。

「未確認生物学はまず、証拠が正しいものかどうかから調べるところから始まる。さっきも言ったように、未確認生物を見たという証言や、未確認生物の証拠というのは、ほとんどが誤認や捏造だ。実際に調べてみると、やはり、大抵が偽物だ。でも、その中に数パーセントぐらいの確率で、誤認や捏造とは思えない物がある。その数パーセントの証拠を見つけて初めて、動くことができる。まぁ、調べてみるとやっぱり偽物だったということも多いけどね」

「大変な作業ですね」」

 ドラゴンベンチャーは、生きているドラゴンや新鮮なドラゴンの死体を調査する。目の前にある証拠が全てであるため、それを疑う必要がない。

 対して未確認生物学者は、数千もの証拠の中から正しいものを見つけなければならない。

「最初は大変だったけどね、もう慣れたよ」


 未確認生物学とは、その名の通り、未確認生物の発見や研究を主な目的としている。ただし、その性質上オカルトの学問とよく誤解を受ける。その上、未確認生物を発見、確保することは、砂漠に落とした砂粒を見付けるよりも難しいと言われており、調査が無駄足に終わることも多いため、他の学問と比べると未確認生物学は研究資金が集まりにくい。そのため、未確認生物学者達は、アルバイトなど他の仕事を掛け持ちしながら、働くことが多いそうだ。

 

「どうして、未確認生物学者になろうと思ったのですか?」

 暗そうな人物というのが、アドの第一印象だった。

 確かに普段は声も小さいし、あまり話さない。しかし、話している内にその考えは、間違っていることにアドは、気が付いた。未確認生物を語る彼の声には、確かな情熱が宿っている。

 彼を未確認生物学者にしたのは何なのか、アドは純粋に気になった。 

「子供の頃にね、ある未確認生物を見たことがあるんだ」

 カリアは、照れくさそうに頬を掻く。

「どんな未確認生物を見たのですか?」

 アドは無意識に、前に乗り出していた。

「ドラゴンベンチャーなら知っていると思うけど」

 そう前置きして、カリアはその未確認生物の名前を口にした。


「フラマを見たんだ」


 カリアの話によると、彼がまだ子供の頃に家族で森に入った時だった。

 遊びに夢中になっていた彼は、家族とはぐれてしまう。泣きながら家族を探していると、木の上に何かがいることに気付いた。

 木の上にいた生物は、カリアと目が合うと、彼の目の前に降りてきた。

「不思議な生物だったよ。首から上は完全にドラゴンだ。なのに、体つきはどう見てもヒトだったんだ」

 その生物はゆっくりとカリアに顔を近づけてきた。鼻息が掛かる程の距離でその生物はカリアの目をじっと見つめた。

「どれぐらいの時間そうしていたのかは、分からない。何時間もそうしていたような気もするし、数十秒ぐらいだった気もする」

「……それから、どうなったのですか?」

「森の奥から、家族が僕の名前を呼ぶのが聞こえた。その生物は、その声を聴くと一目散に木に登って、どこかに行ってしまった」

 カリアは、どこか寂しそうに目を伏せた。

「家族に再会した僕は、家族に今あったことを伝えた。でも、誰も信じてはくれなかった」

 カリアは結局、迷子になった恐怖で幻覚を見たということになったらしい。

「でも、僕は自分が見た生物が幻覚だとは、どうしても思えなかった」

 彼は、世界中の動物の図鑑、文献、伝説上の怪物、ありとあらゆるものを調べた。そして、ついにカリアは、一つの生物を見付ける。

「それがフラマだった」

 姿、形、彼が見た生物そのものだった。

「フラマは、ある研究者の創作だとされている。でも、僕はあの日確かに見た。間違いなくフマラは存在する」

 カリアは、力強く拳を握った。

「それで、未確認生物学者に」

「まぁね、世界中の動物や伝説を見ている内に、未確認生物に興味が出てきてね。それに、この仕事を続けていれば、またいつか、あの生物に遭えるかもしれないと考えたんだ」

 まぁ、この仕事を始めて二十年以上経つけど、まだ再会できていないんだけどね。彼は、そう言って苦笑した。

「君がこの調査に参加したのは、あのドラゴンを調査するためだろ?」

 カリアもソフィアに、あの写真を見せられたのだろう。

「はい、そうです」

「まぁ、ドラゴンベンチャーだから当然だね。僕もあのドラゴンが目的でこの調査に参加した」

 さすが、未確認生物学者だ。普通のヒトには分からないであろう、写真に写っていたあのドラゴンが未確認生物だということをちゃんと分かっている。

「もし、あのドラゴンを見付けることができたのなら、なんとなくフラマの存在も証明できるような気がしてね」

 フラマはドラゴンが誕生する以前に、生息していた二本足で歩いていたトカゲが、絶滅せずに、進化していたらどうなっていたのか?という疑問を元にヒトが予測した空想の生物だ。

 だから、フラマは正確にはドラゴンではない。

予測では、ドラゴンとヒトに、とてもよく似ている形になったため『ドラゴンビト』と呼ばれることもあるが、もしフラマが存在していたとしてもドラゴンとは全く別の生物だろう。未確認のドラゴンの存在を証明したとしても、フラマの存在の証明にはならない。

 カリアもそんなことは、分かっているのだろう。しかし、おそらくそれは、希望を持つための彼にとっての願掛けのようなものなのだろう。

「信じてくれるかい?こんな話……」

 彼は、少し悲しそうな顔でアドに尋ねる。大勢のヒトに否定されたためすっかり、自信を失ってしまっているようだ。

「信じます」

 だが、アドは、真剣な表情で即答した。カリアの表情が悲しい顔から驚いた顔に変わる。

「信じてくれるのかい?」

「はい」

「どうして?」

 カリアの疑問にアドは微笑んで答えた。


「私も、フラマを見たことがありますから」

 

 アドの隣におとなしく座っていたクロが、まるで『自分もだ』と言っているかのようにクーと鳴いた。


 民家に到着したのは、およそ一位時間後のことだった。アドとカリア、そしてクロは馬車から降りる。

 草原だが、少し離れた場所から森が広がっている。どうやらこの辺りは森を開いてできた草原の様だ。民家の近くには、豚や山羊が放し飼いにされており、独特の臭いがする。

 ここは、七つの頭を持つ大蛇が目撃された場所だ。


 蛇。

 ドラゴンが出現するよりも遥か昔に、ドラゴンと同様、トカゲから進化した生物。

 世界中に生息しており、ネズミやカエル。大型のものはシカやイノシシなども捕食する。蛇は、作物を荒らすネズミなどの害獣を食べてくれるが、毒蛇や大型の蛇にヒトが襲われることも多い。

 ヒトに対して、有益になる一方でヒトを害することもある生物。

 さらに、その姿形から、蛇は世界中の民話や昔話にも登場し、『神の使い』または『神』そのものとして信仰の対象にもなっている。

 専門家の中には、蛇はドラゴンの進化に大きく関わっているという説を主張している者も多い。


「すみません」

 アドは、民家のドアをノックする。しばらくすると扉が開き中から一人の男が出てきた。

「あんたらは?」

 男性にアドとカルマは頭を下げる。

「ドラゴンベンチャーのアド=カインドといいます」

「未確認生物学者のカリア=ウルマです」

 男は、首を捻る。

「未確認生物学者?ひょっとして、あの蛇についてかい?」

「……はい」

 初対面の相手は少し緊張するのかカリアの声は、さっきよりだいぶ小さい。

「ああ!話は聞いているよ。上がって、上がって!」

 男性は上機嫌に迎えてくれた。どうやら事前に話は通っているらしい。

 クロを外で待たせ、家に入る。こんな調査など、仕事の邪魔になるため、嫌がられそうだが、彼の機嫌の良さを見るに調査料として、金銭も貰っているのかもしれない。

「ちょっと待っていてくれ」

 アド達を家に上げると男性は、家の奥に消えた。しばらく待っていると男性は奥からガラスケースの箱を持ってきた。

「これを見てくれ!」

 男性は宝物を見せるかのように、ガラスケースの箱をアド達に見せる。

「これは……」

「……」

 アドとカリアは驚き、目を見開く。

「どうだ、凄いだろ?」

 ガラスケースに入っていたのは蛇の頭だった。口を開き、今にも襲いかからんとしているかのような姿は、まるで生きているかのようだ。

「あの化物の頭だ。銃で吹き飛ばした後、剥製にした」

 凄いだろ?と男性は宝物を見せびらかす子供のような表情をしている

「これは……凄いですね」

 カリアの目はすっかり釘づけになっている。その隣で、アドも食い入るように剥製を見ていた。ただし、その表情には疑問符が浮かんでいる。

「手に取ってみてもいいですか?」

 アドが頼むと、男性は丁寧に扱うことを条件に了承した。

「ありがとうございます」

 アドは慎重にガラスケースを持ち上げ、正面、横、上、下。あらゆる角度から剥製を眺めると、心の中で『やっぱり』と呟いた。

 ガラスケースを男に返すと、アドは男性に言った。

「この剥製は……」



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