ドラゴンフェスタ3
ドラゴンフェスタに訪れるヒトの目的は様々だ。
ドラゴンやドラゴンのための餌等を買いたいヒト、売りたいヒト、色々なドラゴンを見たいヒト。
ただし、訪れるヒト達が必ずしも善良とは限らない。
客と店側のトラブルは、頻繁に起こるし、毎年必ず持ち物が盗まれたり、店の商品が盗まれたりする。小型のドラゴンが何匹も盗まれることもある。
出店している店は、必ず許可が必要だ。しかし、それを守らない店も多く、問題になっている。そのような店は、違法行為をしていることが多い。
販売が禁止されているドラゴンを売ったり、安いドラゴンに色を塗って、高価なドラゴンに見せて売りつけるという詐欺行為を行っている店もある
もちろん、ギド国側も憲兵を巡回させて、そのような店を取り締まっているが、彼らは、憲兵の姿を見ると目にも止まらぬスピードで、商品を鞄に詰め込み、脱兎のごとく逃げ出してしまう。そのあまりの手際の良さに、客から拍手が湧くほどだ。
ただ、こうしたトラブルはあるものの、今までに死人が出たことはない。
今までは。
「いや~、買った。買った」
ネイドが満足そうにかけている荷物の中には、シビの種とヤイネの葉を練って団子状にしたものが入っている。
「そんなに買ったのか?」
「おう、なんと全部で8000Gだぜ!最初、20000Gだったが半額以下にまけさせた。凄いだろ!」
「そ、そうだな」
普通、これくらいの量なら3000G程だろう。
定価の知らない初めて店で買う客や外国の客がよく引っかかる手口だ。最初は、定価の何倍もの値段を設定しておいてから半分以下に値引く。そうすれば、何も知らない客は、ほとんどの場合喜んで買っていく。ネイドはメイにヒトが食べる野菜やフルーツを与えていたから、こういう店で餌を買うことはなかったのだろう。
自分も一緒に付いて行くべきだったと、アドは後悔する。
「メイ、喜ぶかな?」
まぁ、シビの種とヤイネの葉は本当に栄養価も高いので、買って損はない。買った本人も嬉しそうだし、黙っておいた方がいいだろう。真実を知ることが必ずしも幸福であるとは限らない。
ちなみに、今はクロもメイもいない。
飼われているドラゴンが商品のドラゴンに噛みつくというトラブルが過去に多々あった。そのため、同じトラブルを防ぐと言う理由で、所有しているドラゴンをフェスタに連れてくることは、禁止されている。
そのため、飼われているドラゴン達は一時的にドラゴン専用のホテルに預けられることになる(費用は飼い主の負担)。
「お前は、何も買わないのか?」
満足顔のネイドがこちらを見る。その笑顔に罪悪感を覚えながら、アドは答えた。
「そうだな、今のところ何もないな」
ベジタリアンであるメイと違って、クロの好物は魚だ。しかも、クロは新鮮な魚を好む。流石に新鮮な魚を売っている店はない。
「そうか。まぁ、フェスタはまだ続く。ゆっくり探せばいい」
ドラゴンフェスタは、全部で五日間かけて行われる。
店が、ドラゴンフェスタに出店するには、参加料を支払う必要がある。参加料は出店する日数によって変わり、出店する日数が長ければ長いほど、参加料は高くなる。そのため、期間中ずっと出店している店もあれば、最初の一日だけ出店する店、最終日だけ出店する店もある。
最初の日と最後日では、店の内容もガラリと変わるため、欲しかった商品が明日にはあることもよくある。
「お前は、最後日までいるのか?」
アドが訪ねると、ネイドは少し残念そうな顔をする。
「そうしたいが、仕事の関係で今日と明日までしかいれない」
「そうか、俺は最終日までいるつもりだ」
幸い、今は他に仕事の依頼もない。アドが、ドラゴンフェスタに参加した理由は、クロに何か買ってやりたいという想いもあるが、他にも理由はある。
ここには、古今東西、大小様々なドラゴンが集まる。その中に時折、新種のドラゴンが混じっていることがあるのだ。他のドラゴンと色や形が似ていたため、間違えて売られたり、大量に捕獲されたドラゴンの中に混じって捕獲されていたため、そのまま、ひとまとめにして売られることがある。
アドの目的は、ここで新種のドラゴンを見つけることだ。できるなら、研究して論文も書き上げてしまいたい。
「メイ。寂しがってないかな」
突然、ネイドが呟く。まるで、子供を心配する親の様だ。
「大丈夫だろう。メイは賢い」
これは、お世辞ではない。実際にメイは賢いのだ。
道具を使用したり、ヒトの言葉を理解したりと、同じエリフドラゴンと比較するとその知能の高さがよく分かる。もしかしたら、クロと同程度の知能があるのかもしれない。
以前、ネイドにどうやって育てているのか聞いたことがある。
『愛情を持って育てている!』
と自信真満々にネイドは答えた。結局、メイの知能の高さの正体は分からずじまいだ。
「賢くても、心配は心配なんだよ!」
ネイドに子供ができたら、きっと親馬鹿になることだろう。しかし、気持ちは分かる。言葉には出さないがアドもクロの様子は気になっていた。
アドが、ネイドに慰めの言葉を掛けようとした時だ。ネイドが何かに気が付く。
「あれ、見てみろよ」
ネイドが指差す先を見ると、空を飛ぶ小さなドラゴンが目に入った。遠目だが、体長は二十センチ程で、羽をパタパタと羽ばたかせ飛んでいる。どこかの店から逃げ出したものだろうか?
その小さなドラゴンは、上空を一回り旋回した後、出店している店に入っていく。
直後、その店から巨大な爆発が起きた。
その爆発の威力は凄まじく、店で買い物をしていた客、店の店主。さらには、店で販売されていたドラゴン全てを吹き飛ばした。
「一体何が起きた?」
爆発が起きた店からは、炎と煙が上がっている。
アドはネイドに目を向ける。彼は、耳を塞ぎながら辺りを見回していた。
「ネイド!」
呼びかけるが、彼は反応しない。聞こえていないのか?
アドはネイドの肩に手を掛ける。それで、やっとネイドはこちらを向く。
「~、~?」
ネイドは口をパクパク動かしている。しかし、何を言っているのか分からない。
そこで、アドは初めて自分の耳の違和感に気付く。耳にキーンとした耳鳴りが鳴っており、何かが詰まったような感覚。どうやら、先ほどの爆発で耳がやられたらしい。
一時的なものだろうが、耳はしばらく使い物にならない。
アドが再び視線を店の方に戻す。炎と生物の焼ける臭い。炎からは逃れたが、爆風で吹き飛ばされたと思われるヒトもいる。
その中の一人が、ゆっくりと手を上に伸ばした。どうやら女性のようだ。女性は、頭を打ち付けたのか、後頭部から血が流れている。
「……」
女性が口を動かす。何と言っているのかは、アド達には聞こえない。しかし、口の動きから何を言いたいのかは、理解できた。
『助けて』
女性は、そう訴えている。
それを見た瞬間、アドとネイドは動き出していた。二人は、倒れている女性の元に急いで向かう。
その時、アドは先程の小さなドラゴンが女性の上を飛んでいるのに気付いた。
先程の爆発は、あの小さなドラゴンが店に入った直ぐ後に起きた。これは、偶然だろうか?いや、偶然にしては出来過ぎている。
小さなドラゴンが、女性の側に降りる。すると、緑色だったドラゴンの体が、どんどん赤く変色していく。
(まずい!)
本能的にそう感じたアドは、急ブレーキをかけた。だが、反対にネイドは速度を加速させた。
「ネイド!止まれ!」
しかし、ネイドの耳にアドの言葉は届かない。ネイドは、女性の元まで来ると、彼女を担ぎ上げた。
巨大な爆発が起きたのは、その直後のことだった。
ドラゴンフェスタから離れた建物の屋上で、見つめる者達がいた。
「成功です!」
双眼鏡で覗いていた男が、リーダーに告げる。それを聞いたリーダーは満足そうにニヤリと笑う。
「よし、では予定通りに進める」
リーダーは自分の部下達に命じた。
それを聞いた部下の男は黙って頷くと、持っていた銃を空に掲げ、引き金を引く。勢いよく弾と赤い煙が銃から飛び出す。赤い煙は、真っ直ぐ上空に向かって伸びていく。
すると、街中から、緑色の小さなドラゴンが飛び立った。何千匹もの小さなドラゴンは一か所に集まる。その姿は、まるで一匹の巨大なドラゴンのようだ。
巨大なドラゴンと化した群れは、真っ直ぐドラゴンフェスタまで飛んでいく。




