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100Gのドラゴン  作者: カエル
第三章
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ドラゴンフェスタ2

『美味い、うまい、ウマイ』

 今まで、食べてきた物の中で最高の味だ。あの狭い部屋で出されていた食事とは比べ物にならない。

「美味しい?」

 傍らにいた少女が話し掛ける。

『彼』は少女に見向きもせず、一心不乱に食べ続けるが、少女はそれに気を悪くする様子はない。むしろ、嬉しそうに彼を見続ける。

「君は、今まで満足に食べていなかったから、栄養不足で本来の力が出せずにいたんだ♪だから、もっともっと食べて力をつけてね♪」

 実際、閉じ込められていた時には、やせ細り、ガリガリだった『彼』の

体はどんどん太く、たくましくなっていく。

 体だけではない。生きる屍だった彼の目は、日に日に力強さを増していく。

『彼』は、出された食事を全て平らげた。しかし、彼の食欲は収まらない。

『足りない。まだ食べたい。もっと、もっとだ。もっと食べたい。もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっともっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと』

「おかわりだね♪」

 少女は、倉庫の奥にある地下へと続く階段を降りる。

 地下は、とても広く、完全防音になっているため、どんな音がしても地上に聞こえることはない。食料を生きたまま、新鮮な状態で貯めておくには最適だ。

「ど♪れ♫に♬し♬よ♫う♪か♫な」

 少女が楽しそうに品定めしていると、あちこちから、うめき声が聞こえた。

「たすけ…て…」

「いえ……に……か……え……し…」

「し……に……たく……ない」

 地面には、大勢のヒトが寝かされている。ヒトは、少女によって麻痺されており、動くことはできない。

「うん、君に決めた♪」

 少女は、中年の男性を指差す。筋肉が少なく食べやすそうだ。

「よいっしょ」

 八十キロを軽く超えている男性を少女は軽々と肩に担ぎ、階段を上る。

「はい、召し上がれ♥」

 中年男性を『彼』の目の前に差し出す。

「ひっいい」

 中年男性は、逃げたくても体が動かない。どうしようもできなかった。

 『彼』が口をいっぱいに開き中年男性に近づく。口の中は、鋭い牙が上下に並んでいた。

「ぎゃああああ」

 『彼』が中年男性の肉に食らいつく。

 中年男性は、体が麻痺しているため、痛みは全く感じない。しかし、痛みで気絶することも出来ないため、死ぬまで自分の体が喰われる光景を見続けなければならない。

「おかわりは、まだまだ、たくさんあるからね♪」

 地下には、まだは百人以上のヒトが蓄えられている。

 ガツガツと食事をする食事をする『彼』に、薄い光が当たった。

 少女が、視線を天井に向ける。

 倉庫の屋根は一部がなくなっている。そこから、今まで雲に隠れていた月の光が『彼』を照らしていた。

「もうすぐ、祭りが始まるね♬」

 あと数日の間に満月となる月を見上げ、少女は呟いた。


「ヒトが多いな!」

「年に一度のイベントだからな」

 ギレ国の初代国王は、大のドラゴン好きだった。

 町中にドラゴンの銅像が建てられているし、国旗にはドラゴンが描かれている。 お札には、ドラゴンに跨る初代国王が描かれている。

 その影響からか、国民もドラゴン好きか非常に多い。ドラゴンの専門店が一番多くあるのもギレ国だ。ゆえに、ドラゴンフェスタには大勢のヒトが集まる。

 さらに、外国からもドラゴン好きが来るのだから、その数は計り知れない。

「すげぇ、見てみろよ!エメラルドドラゴンがいる」

「凄いな」

「あっち、見てみろよ。サファイヤドラゴンだぜ」

「エメラルド、サファイヤがいるなら、ダイヤドラゴンもいるかもな」

「値段は……。げっ、エメラルドドラゴン、5600000G。サファイヤドラゴン、82000000G!」

「サファイヤドラゴンは、餌代だけでも、月1000000Gぐらいかかるらしいな」

 それでも、毎年、五匹~六匹売れるらしい。世界には想像もできないほどの金持がたくさんいるものだ。

「おい、虫もいるぞ!」

「ミツホシコオロギにバニーワーム、ミルクワームにデェピア。小型のドラゴン用の餌だな」

 虫を食べるドラゴンは、生きている虫でないと食べないものも多いので、必ずと言っていいほど、小型のドラゴンを扱っている店には、生きている虫が置いてある。

「俺、虫は苦手だ」

 ネイドは、虫から顔を背ける。

 彼の相棒であるエリフドラゴンのメイは、草食で虫や肉は食べない。虫が苦手というネイドとでもコンビを組むことができるドラゴンだ。

「草食のドラゴン用の餌もたくさんあるぞ」

 シビの種や栄養価の高いクボンの葉を練って団子状にしたもの、ニノハを乾燥させ、粒状にしたもの等様々だ。

「う~ん、メイに買って行くか!」

 ネイドは草食ドラゴンの専門店に向かっていった。一人残されたアドは、周りを見渡す。

「クリカドラゴン、たったの100000Gだよ!」

「高い、もっとまけろ」

「じゃあ、850000Gでどうだ?」

「買った!」

「ドミノドラゴン残りあと三匹だ!早いもの勝ちだよ!」

「俺に売ってくれ!」

「いや、俺だ!」

「この子が欲しいのだけど、飼い方はどうすればいいのかしら?」

「リティアドラゴンは、温度を二十八度、湿度を五十パーセント位にして、餌は……」

「栄養剤品数豊富!」

「イスミラルドラゴン、手に取ってみることも出来ます!」

 フェスタは活気にあふれており、向こうでも、そっちでも、売り手と買い手の弾んだ会話が聞こえる。

 売られているドラゴンのほとんどが、体長十五センチほどの小型のものだが、二メートルを超えている中型のドラゴンもいる。

 しかし、何故か、ヘビやトカゲ、カエルやカメなどもドラゴンに混じり、売られている。

 ドサクサにまぎれて売ってしまおうということらしい。

(エリアも連れて来たかったな)

 仕事の関係で今は遠くにいるが、もし機会があれば、一緒に見て回りたい。

(しかし、エリアと一緒に来たら、解説が止まらないだろうな)

 無表情で、淡々と、だけど楽しそうにドラゴンのことを話すエリアを想像し、思わず笑みがこぼれる。

「何か良いことありましたか?」

 横から、突然話し掛けられる。若い女性がそこにいた。

「えっ、や、別に」

 見られた!恥ずかしい!アドの顔がトマトのように真っ赤になる。

「すみません。なんだか、とても楽しそうで、つい声を掛けてしまいました」

 女性はクスクスと笑っている。アドの顔がさらに赤く染まった。

「ドラゴン、お好きなのですか?」

「はい、好きです」

 女性の質問にアドは、即答する。

彼女は、ほんの少しだけ、驚いた顔をしたが、直ぐ元の笑顔に戻る。

「ドラゴンに家族を殺されても?」

 アドは、はっとして女性を見る。何故、そのことを知っている?

 尋ねようとしたが、先に女性の方が口を開いた。

「例え話です。ドラゴンが好きな方は、もし、ドラゴンに大切なヒトを殺されたとしても、ドラゴンのことを好きでいられ続けられるのかなって」

 なんだ、例え話か。アドは少し安堵した。

「ヒトによると思います。嫌いに、憎むようになるヒトもいれば、好きでい続けるヒトもいるでしょう」

 女性は少し、目線を下げる。

「そうですよね、ヒトそれぞれですね」

 顔を上げた女性は笑顔に戻る。それから、何かに気が付いたように遠くを見た。

 視線の先には、フードを被っている男がいた。

 フードのせいで、顔はよく見えないが、かなり高身長な男だ。

「では、私はこれで」

「はい」

 若い女性はアドに頭を下げると、こちらを見ていた男に駆け寄った。

そして、嬉しそうに腕を組んで歩き出した。

(恋人かな?)

 なんとなく、温かい気持ちになっていると、買い物を済ませたネイドが走ってきた。

「おい、誰だよ。今の美人!」

 歩いていく女性を見ながら、ネイドが訪ねる。

「さぁ?誰だろう?」

 ネイドが驚き、こちらを見る。

「なんだ?ナンパされたのか?」

「違う。ただちょっと話をしていただけだ」

「ど、どんな話だ?」

 ネイドは興味津々で聞いてくる。アドは、はぁと溜息を吐いた。

「ドラゴンが好きか聞かれただけだ」

 ネイドは、眉を上げる。

「それ、ナンパだろ?」

「なんで!?」

「そもそも、ドラゴンフェスタに来ているのだから、ドラゴンが好きに決まっているだろ?ドラゴンが好きかどうかなんていうのは、話すためのきっかけさ」

「違うだろ」

「絶対そうだって!だって、俺がいつもやって……いや、なんでもない」

 なるほど、いつも自分がやっているナンパの方法だったんだな。

「そういうのじゃない。それに分かれる時、恋人と歩いて行ったぞ」

 ネイドは、なぁんだとガッカリする。

「本当に、ただ単に話し掛けただけか」

「だから、さっきからそう言っているだろ!」

 まったくと二度目の溜息を吐く。アドは、女性が歩いて行った方を見つめる。

『ドラゴンに家族を殺されても?』

 聞くことはできなかったが、何故、彼女はあんなことを言ったのだろう?

「どうかしたか?」

「……いや、なんでもない」


「ふ~ん♪ふ~ん♪」

 少女は、楽しそうに『彼』に腕をからめながら歩く。『彼』の方は何の感情もないように無言で歩いていたが、チラリと目だけを少女に向けた。

『さっきの奴は誰だ?』

 『彼』は言葉を発しない。だが、少女は『彼』の言いたいことを完全に理解していた。

「あ、もしかして、妬いてる?あはっ♫大丈夫だよ♪私は君一筋だから♥」

『……』

「ゴメン♪ゴメン♬冗談だよ♬いや、さっき言ったことは、本音だけどね♪」

 少女は後ろを振り返る。先程まで話していた少年は、少女とは逆方向に歩いていく。

「ちょっと、知っているヒトに会ったから、ついね♪まぁ、向こうは私のことを知らないけどね♬」

『……話し方が、普段と違った』

「あはっ♪初対面の相手にいつもの話し方だと、怖がられるからね♪相手の警戒心を解くためには、あの話し方が一番良い♪」

 少女は、無邪気に笑う。

「ヒトの社会で生きるために必要な技術のうちの一つだよ♬」

『……そうか』

「でも、もし、貴方が普段から、さっきの話し方が良いと言うのなら、そうしますけど?」

『今までの話し方で良い』

「あはっ♬そう?」

 少女は嬉しそうに笑う。『彼』と少女は、そのまま大勢のヒトの中に消えた。


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