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100Gのドラゴン  作者: カエル
第三章
15/61

ドラゴンフェスタ1

「ふん♪ふん♪」

 少女が、長い廊下を歩く。

 その姿は、街中にいるような普通の少女にしか見えない。

 ただ、その少女が普通と決定的に違っていたのは、その口が血で真っ赤に染まっていることだ。

「止まれ!」

 警備員が少女に銃を向ける。

 獣を狩るためではない。ヒトを撃つために作られた小型の銃だ。

 しかも、相手は十人以上いる。

「……はぁ」

 少女は、つまらなそうに溜息を吐くと、銃を持っている男の前に一瞬で現れた。

そして、そのまま男の喉を掻っ切る。

「がっ」

 喉から血を流しながら、男は地面に倒れた。

 他の警備員が少女に銃を向ける。しかし、すでに少女はいなかった。

「こっち♪こっち♪」

 上から少女の声がした。警備員が驚き、視線を上に向ける。

 少女は、まるで地面に立っているような自然さで、天井に逆さまに張り付いていた。 

 その手には、さっき警備員から奪った銃が握られている。

「あはっ♪」

 少女は、無邪気に笑うと、警護員に銃弾を降らせる。

 パン、パン、パン、パン、パン、パンと六発の銃弾は、正確に警備員の額に埋め込まれた。

「うわああああ」

 警備員も応戦するが、天井いた少女は、今度は壁にいた。今度は、そちらに銃を向けるが、少女は床に立っている。

 重力を無視した動きに警備員たちは、ただ翻弄される。

 少女は弾切れになった銃を捨てると、別の警備員から銃を奪い、正確な射撃で警備員を確実に仕留めた。

 一分にも満たない時間で、警備員は一人を除いて全滅した。

「あはっ♪」

「ひっ」

 すでに戦意を喪失している警備員に少女は、ゆっくりと近づく。

 警備員は逃げることも忘れ、ただ震える。

 少女の手が警備員の肩を掴む。少女は警備員の首筋に鋭く尖った牙を突き立てた。

「あがががががががががが」

 警備員はガクガクと痙攣すると、白目をむいた。

 少女は警備員の首から牙を外すと、全身が紫色に変色した警備員を投げ捨てた。

「マズイ」

 顔をしかめながら、少女は目的の場所に向かった。


 『彼』は、その施設の奥のまた奥の四方を壁に囲われた部屋にいた。

 手足を鎖でつながれているため、自由に歩くことができる距離も制限されている。

 自由はなかった。

 唯一の楽しみといえば、二本足で歩く怪物が持ってくる三日に一回の食事だけだ。

 『彼』は生まれた時からここにいる。死ぬまでここにいる運命だった。


「や、やめ、ああああああ」

 外から悲鳴が聞こえた。

その悲鳴は、『彼』をここに閉じ込めている二本足で歩く怪物の声だった。

 『彼』は、生まれて初めて、怪物のそんな声を聴いた。

「ここ、開けて♪」

 悲鳴とは別に、陽気な声が聞こえる。とても明るく、透き通る声だ。

「で、できな、がああああ」

 再び悲鳴が聞こえた。先ほどよりも大きい。

「ここ、開けて♪」

 悲鳴の後に、透き通る声で、さっきと同じ言葉が聞こえた。

「わ、分かった。分かったから、も、もう、やめて、くれ」

 部屋の扉からガチャンと音がした。

ギィィィィィィと鈍い音を立て、扉はゆっくりと開いていく。

 最初に見えたのは、二本足の怪物だった。真っ白な服を着た男。

「い、言う通りにした。だから、命だけは……」

 次の瞬間、怪物が着ていた白い服は、あっという間に紅く染まった。

「がああ」

 悲鳴を上げ、二本足の怪物が倒れる。

「あっ、いた!」

 二本足の怪物がその場に倒れた後、入ってきたのは少女だった。

 外見は二本足の怪物だ。だが、違う。匂いが全く違った。

 明らかに別の生き物だ。

「やっと会えた♪」

 二本足の怪物の姿をした少女は、嬉しそうに笑った。

 『彼』は、少女に『お前は、何者だ?』という視線を向ける。

「私?私はね……」

 少女は、再び笑う。

 さっきよりも嬉しそうに、さっきよりも無邪気に、さっきよりも邪悪に。


「君の花嫁だよ♪」


「ドラゴンを排除せよ!ドラゴンは悪魔だ!」

「ドラゴンを排斥せよ!ドラゴンは魔物だ!」

 白い装束に身を包んだ集団が、ドラゴンの絵に✕印を付けた旗を掲げながら、大声で道を歩く。

 アドはその光景をじっと見ていた。

「よう、アド」

 背後から声を掛けられる。

 振り向くと、赤いドラゴンを連れた若者がいた。

「よう、ネイド」

 気さくに声を掛けてきた若者にアドも気さくに返事をする。

 彼の名はネイド。彼もドラゴンベンチャーだ。

「クロも元気か?」

「クー」

 ネイドは、クロにも話し掛ける。クロも軽い返事を返す。

「お前も元気そうだな」

「まぁ、ぼちぼちだな」

 ネイドは、頭をボリボリと掻きながら答える。

「メイも元気そうだな」

 アドはネイドが連れている赤いドラゴンに目を向ける。

赤いドラゴンは、エリフドラゴンと言う。名前はメイ。

 メイはプイっと、アドから視線を外した。

「はは、相変わらずだな」

「悪いな、無愛想な奴で。こら、メイ。ちゃんと返事しろよ!」

「……」

 メイは、その場に伏せ、目を閉じてしまった。

「ごめんな」

「いいよ。気にしてない」

 メイは、ネイド以外には誰にでもこういう態度だ。

「ドラゴンを排除せよ!ドラゴンは悪魔だ!」

「ドラゴンを排斥せよ!ドラゴンは魔物だ!」

 白い集団から、また声が上がる。

「また、アイツらか」

 ネイドがうんざりした表情で呟く。


 ドラゴンリジェクター。

 ドラゴンを危険なものとして、ヒトの生活から排除しようとする団体のことだ。

 老若男女、様々なヒトで構成されており、世界中にメンバーがいる。

 活動資金は主に寄付によって成り立っており、ドラゴンを嫌っているヒト。ドラゴンに大切な者を殺されてしまったヒトなどが、寄付している。

 年々、行動が過激になってきており、世界の国々から危険視されている。


「まったく、もうすぐフェスタが開かれるっていうのに」

 ネイドが、はぁと溜息を吐く。

「だからだろうな。ドラゴンの危険性を宣伝して、開催を中止させたいんだろ」

 しかし、大した効果はないだろう。せいぜい嫌がらせレベルだ。

「お前も行くのか?フェスタ」

 ネイドの問いにアドは頷く。

「ああ、行くつもりだ」

「そうか、俺も行く。一緒に行くか?」

 少し考える。まあ、一緒に行って別に困ることもないだろう。

「そうだな。一緒に行こう」

 ネイドが笑う。

「よし、決まりだな!楽しみにしてるぜ!」

「ああ」

「じゃあ、俺、これから仕事だから。またな!」

「ああ」

「メイ。行くぞ!」

 ネイドが呼びかけると、メイはゆっくりと立ち上がる。アドとクロに手を振りながら、ネイドはメイを連れて去った。

「じゃあ、俺達も行くか」

「クー」

 アドとクロも別の方向に歩き出した。白い集団の声がどんどん小さくなる。


 ゾクリ。


 アドが何か視線を感じて振り返った。

 その視線の先には、白い集団がドラゴン排斥の声を上げている。

「クー?」

 クロが心配そうにアドを見つめる。どうやら、クロは何も感じなかったようだ。

「何でもない」

 優しい声でそう言うと、アドは歩き出した。


 白い集団の中に紛れ込んでいた異質な存在は、唇の端を上げ、笑った。


 ドラゴンフェスタ。

 ギレ国で、年に一度開催されるこの祭りには、古今東西、大小様々なドラゴンが展示、販売される。ドラゴン好きには、たまらないイベントだ。

 珍しいドラゴンを一目見るため、珍しいドラゴンを手に入れるため、世界中からヒトが集まり、一般庶民が、一生かけて稼ぐ額の金額が飛び交う。 

 ドラゴンリジェクターは、このイベントの中止を訴えており、イベントを行っているギレ国と度々衝突を起こしている。


 大金、思想、様々な思案が渦巻き、ドラゴンフェスタは開催される。

 


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