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100Gのドラゴン  作者: カエル
第二章
14/61

ファントムドラゴン エピローグ

 クロウドラゴンは、主に湿地帯や森林に二十~五十匹ほどの群れを作り、生活している。

 肉食性のドラゴンで、特に魚を好んで食べる。

 クロウドラゴンが何を食べているのかを調査をした結果、食べ物の六十パーセント以上を魚が占めていた。魚の他には、小型のトカゲ、ヘビ、カエル等を食べている。ワニの卵や子供を食べたという目撃報告もある。

 彼らの特徴は、とても賢いということ。そして、とても優しいということ。

 もし、仲間が他のドラゴンなどに襲われた時は、仲間全員で救出に向かう。

 もし、仲間が怪我や病気で動けなければ、治るまで仲間全員で面倒を見る。

 彼らはとても、賢く、優しいドラゴンであるというのが今までの定説だった。

 ところが、近年その定説が覆りつつある。

 ドラゴンの研究者がクロウドラゴンの群れを観察していた時のことだ。

 ある日、別の群れが、彼らの縄張りに侵入した。縄張りの主であるクロウドラゴン達と侵入者が対峙する。

 一時間後、勝利したのは侵入者の方だった。

 元々、縄張りに住んでいた群れは、七割が戦死。生き残った者は侵入者側の群れに吸収された。

 研究者は、驚いた。

当時、クロウドラゴンの群れ同士の争いは、観察例がなかった。まさか、こんなに激しいものだとは、思わなかったのだ。

 だが、研究者が本当に驚いたのは、この後だ。

 以前、侵入者の群れは、魚を取るための漁を群れ全体でしていた。

 しかし、敗者を群れに吸収してから、彼らは全く漁をしなくなった。

 代わりに漁をしていたのは、敗れた群れのクロウドラゴン達だ。

 しかも、魚を捕るとすぐに、勝利した群れのクロウドラゴンに魚を奪われてしまう。

結果、勝利した側のクロウドラゴン達は満腹まで食べ、、敗れた側のクロウドラゴン達は、ほとんど食事にありつくことは出来なかった。

 さらに、勝利した側の群れのクロウドラゴン達は敗れた側のクロウドラゴンが敗れた側を意味もなく痛みつける場面も観察された。

 別の話もある。

 あるクロウドラゴンの群れが、大型のドラゴンであるルガードラゴンに襲われた。

 その時は、群れのメンバーの大半が狩りに出ていたため、群れには大人二匹とたくさんの子供達がいるだけだった。

 ルガードラゴンはそこを狙って、群れに襲いかかった。

 大人のクロウドラゴン達が帰って来た時には、既に遅かった。

 ルガードラゴンは、大人二匹を殺し、群れの子供を一匹残らず喰い殺していた。

 その光景を見た大人のクロウドラゴン達は怒り狂い、ルガードラゴンに襲いかかると、あっという間に倒してまった。

 外敵を群れで協力して倒す。よくあることだが、クロウドラゴンは、そこからが違った。

 彼らは、ルガードラゴンを殺さなかった。クロウドラゴン達は、ルガードラゴンを放置して、飛び去ってしまった。

 やがて、ルガードラゴンが目を覚ます。瀕死の重傷だったが、何とか飛べた。

 ルガードラゴンには子供がいた。

 巣に戻ると、ルガードラゴンは、食べたクロウドラゴンの子供たちを吐き戻し、自身の子供達に与えた。

 その様子を離れた場所から、クロウドラゴン達が見ていた。

 彼らはルガードラゴンの親子に襲いかかった。そして、親子ともども始末した。

『その行動は、どう見ても<報復>だった。それ以外に考えられない。クロウドラゴン達はワザとルガードラゴンを殺さず、ルガードラゴンに巣まで案内させた。そして、親だけでなく、巣の子供達までも殺した。倒した同種を<奴隷>として使い、<報復>を行う。知能の高さと敵に対して行われる残酷さ。私は恐怖を覚えた』

 この光景を観察し、まとめた筆者は、本の中でそう語っている。

 クロウドラゴン、彼らには、もう一つの特徴があった。

 確かに彼らは、仲間にはとても優しい。そのことに間違いはない。だが、優しいのは仲間に対してだけだ。

 彼らは、敵に対しては情け容赦がないほど残酷になる。

 それは、アドのパートナーであるクロウドラゴンも変わらない。


 密猟グループが地面に埋めていたのはワニの死体だけではなかった。

 地面の下には若い男性の死体も埋められていた。彼は、密猟グループに所属していたが、崇めているワニを殺すことに罪悪感を抱き、罪を告白しようとしていた。

 だが、仲間にそれがバレてしまい、殺されてしまった。そして、ワニの死体と一緒に埋められてしまう。

 アドに人型の記号でそれを伝えると、彼は密猟グループを捕まえるための作戦を立て、クロに伝えた。クロは一旦、その作戦を了承した。しかし、実際にアドが撃たれそうになったのを見たクロは、作戦を変更した。

 偽の銃声で密猟グループを川までおびき寄せ、密猟グループの一人から銃を奪った。

ドラゴンであるクロに銃を撃つことはできないが、クロの目的は銃を使うことではなかった。

 まず、クロは銃声を真似た声で鳴いた。それと同時に密猟グループの一人の頭上に石を落とした。

 頭から血を流し、倒れた仲間を見て、奪われた銃で撃たれた思い込んだ密猟グループは、狙撃されまいと明かりを消した。

 クロの目的は、最初から明りを消させることだった。

 視覚さえ奪ってしまえば、例え銃を持っていたとしても、ヒトの戦闘力は大幅に落ちる。ヒトと生き、人と生活することで、ヒトは嗅覚よりも聴覚よりも視覚に頼っていることをクロは、理解していた。

 最後の仕上げとして、クロはワニの子供が助けを呼ぶ声を真似して泣き、ワニをおびき寄せた。後は、子供に危害を加えられていると勘違いしたワニ達が密猟グループを始末してくれる。

 ヒトとワニを手玉にとり、目的を達成したクロは、悠然とアドの元に向かった。


「ほら」

 次の目的地に向かう途中の森の中で、魚を捕まえたアドは、それをクロに食べさせた。

 魚を丸呑みしたクロは満足そうに、舌で口の周りを舐める。

「そろそろ、行くか」

 アドは立ち上がり、荷物をまとめ始める。クロはそんなアドをじっと見ていた。

 クロが密猟グループを壊滅させたことをアドは知らない。アドはクロの大切な仲間だ。だが、必ずしもアドの言うことを全て聞くわけではない。

 同じようなことが起きれば、クロは、また同じことをするだろう。

「じゃあ、行こう!」

「ピー」

 目的地に向かい歩き出したアドの後ろを、クロは嬉しそうに付いて行く。


 ~数年後~

「ほらいい子、動かないでね」

 川辺にいるワニの背後から女性がゆっくりと忍び寄る。

「えい!」

 女性はワニに馬乗りになると、縄でワニの口を素早く縛る。

「博士、また一人で……」

 助手と思われる男性が慌てて走ってくる。

「ごめん、ごめん」

 女性は、助手と共に素早く、ワニの体長、性別、健康状態など、体の隅々を調べ上げる。

 最後にワニの体に影響のないタグを体に取り付け、川に帰す。

 一仕事を終えた女性と助手は、休憩を取ることにした。

「博士は、どうしてワニを研究しようと思ったのですか?」

 サンドイッチを食べながら、助手が訪ねる。

「どうして?」

「いや、博士がワニ好きなのは見ていてよく分かりますけど昔からそうなのかなぁって、思いまして」

「そうだね。昔から好きだったよ。住んでいた森の近くにいた川にはワニがいたし」

 女性は昔を思い出すかのように遠くを見る。

「私、昔病気だったの。それもかなり重い病気」

「えっ?」

 助手が驚く。だが、それも当然のことだ。今の彼女を見て、かつて重い病気を患っていたなどと誰も思わないだろう。

「病気を抑えるには、薬がないといけなかったのだけど、薬はとても高かった。家は貧乏だったから、そんなお金何処にもなかった。父は私を救うために、犯罪に手を染めてしまったの。でも、そんな父も死んでしまった」

「……そうだったのですか。つらいこと思い出させてしまって、すみません」

 助手は頭を下げる。そんな助手を彼女は笑顔で見つめる。

「気にしなくていいよ。で、父がいなくなって、薬を買うお金もなくなってしまった。もう死ぬしかないって思った時、奇跡が起きた。村の近くにいたワニから特殊な免疫が発見されて、それを元に薬ができたの。薬の効果はすごくって、私の病気にも効くことが分かった。もちろん、そんなすごい薬、買えるはずなかったのだけど、そのワニがいた川は、私の村の土地だったから、報酬の代わりに、その薬を分けてもらった」

「それで今は、そんなにお元気なのですね」

 女性が頷く。

「私には薬が特別効いて、今までのことが嘘みたいに元気になった」

「でも、本当に良かったです」

 彼女は、太陽のように明るく笑った。

「ありがとう」

「ところで君は?」

「え?」

「どうして、研究者になろうと思ったの?」

「私ですか……」

 助手は恥ずかしそうに頬を掻く。

「昔は、漁で生計を建てていましたが、魚が捕れなくなったので、現地の道案内や研究者の手伝いをしていました。ある日、ドラゴンを研究している方が来られたのです。その方と何日か仕事をさせていただいたのですが、通常の仕事料の何倍ものお金を払っていただきました。研究者の方のお手伝いをする内に、研究に興味が湧いてきた私は、頂いたお金を元手にして、勉強し、研究者になることができました」

「へー。いいヒトだね」

「はい」

 ワニを研究対象に選んだのは、そのヒトと最後に話したのが、ワニのことだったからだ。その話が、印象に残っていた彼は、ワニについても調べだした。そうしたら、ワニにすっかりハマってしまったのだ。

 あのヒトには何度、お礼を言っても足りない。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「はい、リン博士」

 リンの後に助手が続く。

 彼女らもまた、ワニを調査するために、世界中を飛び回る。

 彼女達が、新種の珍しいワニを発見し、その名付け親になるのは、それからさらに数年後のことである。



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