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100Gのドラゴン  作者: カエル
第二章
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ファントムドラゴン2

 砂漠、森、草原、山、雪原、洞窟、海。

 誕生して以来、様々な場所に勢力を伸ばしているドラゴンだが、現在、川辺に適応しているドラゴンはいない。

 その場所には、ドラゴンが唯のトカゲだったころから君臨し続けている圧倒的な『王』がいたからだ。


「あと少しですよ。旦那」

 次にアドは調査のため、リンが行こうとした川辺まで行ってみることにした。

 その場所に何度も言ったことがあるという村の男性に案内を頼む。

 本当はリンも連れて行って上げたかったが、危険な目に遭ったばかりと言うこともあり、連れて行くのは断念した。

 道中、会話は自然とワニのことになる。

「昔は、そこらへんに沢山にいたんですけどね。最近はめっきり数が減って、森の奥の方に行かないと、見ることができなくなってしまいました」

「ワニの数が減ったのは、いつごろからでしょうか?」

「七、八年前ですかね」

「七、八年前……」

 その時に何かあったのだろうか?

「ドラゴンが原因でワニの数が減ったと聞きましたが、貴方は見たことがありますか?」

「俺はないですね。見たっていう連中なら村に何人かいますけど」

「そうですか」

「何でも、ドラゴンがワニを襲ってどこかに連れて行ってしまうらしいですよ」

「どこかに連れて行く……」

 アドが思案していると、男は小声で話し掛けてきた。

「正直な話、今の方が私は良いんですけどね」

「というと?」

「村ではワニを神と崇めていまので、ワニを殺生することが禁じられています。漁をするのだって、ワニがいる場所では禁止されていました。ワニが減ったおかげで、漁ができる範囲も広がったし、魚の数自体も多くなったので、前よりも格段に魚が獲れるようになりました」

 そのおかげで、村は少しずつ豊かになりつつあるのだという。


「着きました」

 森を少し抜けた場所に川はあった。

 ワニがいるという川は、以外にも静かだった。幅は広く、水深は深そうだが、流れも遅く泳いで向こう岸に渡ることも可能だろう。

 アドは辺りを見渡したが、肝心のワニの姿はどこにもいない。

「昔は、そこかしこにワニがいたんですが、今では全く見かけません」

「それは見てみたかったですね。残念」

 向こう岸ではランナードラゴンの群れが、川の水でのどを潤していた。

 その中に一匹、他のランナードラゴンより二回りも大きな個体がいる。雄のランナードラゴンだ。

 ランナードラゴンは通常、十から二十匹ほどの群れを作る。群れには雄が一匹だけおり、残りは全て雌と子供達だ。

 子供の雄は、生まれてから三年ほど経つと群れから追い出される。

 追い出された雄はあぶれ者と言われており、とても危険だ。リンを襲ったのもあぶれ物の雄だ。

 あぶれ者は他の群れを見つけると、その群れの雄に戦いを挑む。戦いに勝てば、その群れを乗っ取ることができ、子孫を増やすことができる。

 雄同士の争いは激しく、どちらかが死んでしまうことも珍しくない。

 アドは、ランナードラゴンの群れを見た。群れには、生まれたばかりであろう子供の雄が何匹かいる。今は無邪気に子供同士で遊んでいるが、いづれは過酷な争いに身を投じなければならない。

「ん?」

 アドが、川の水面のわずかな変化に気付く。次の瞬間だった。

 今までの静寂を破るように川から何かがランナードラゴン目指して飛び出してきた。

「ギーー!」

 ランナードラゴンが警戒音を鳴らし、一斉に川岸から逃げる。だが、一匹逃げないランナードラゴンがいた。雄のランナードラゴンだ。

 彼は逃げたくても逃げられない。なぜなら巨大な顎に頭をガッチリとくわえられているからだ。

 巨大なワニがランナードラゴンに襲いかかっている。

「すげぇ!」

 隣にいた男が、大きな声を上げる。アドもその光景に目を見開く。

 ランナードラゴンは、何とか逃げ出そうと必死に暴れる。だが、ワニの巨大な顎はビクともしない。

 今度は、ワニが動いた。

 ワニは、体を勢いよく後ろに捻って、ランナードラゴンを川に放り投げたのだ。

 体重二百キロを軽く超えるランナードラゴンの雄の体が宙を舞い、川に落ちる。

 川に落ちたランナードラゴンが、溺れまいと暴れる。激しい水しぶきが周りに飛び散った。

 そこに、ワニが泳いで迫る。ランナードラゴンはワニから逃げようと必死に泳いだ。

 陸上では、六十キロから八十キロのスピードで走ることができるランナードラゴンだが、水中ではその自慢の脚力も発揮できない。ワニはそれを知っていて、水中に放り込んだのだ。

 両者の距離が縮まる。ワニは大きく口を開け、ランナードラゴンに噛みついた。

「キッ」という短い悲鳴が辺りに響く。ランナードラゴンはそのまま、ワニに水中にひきづり込まれた。

 アドも村の青年もその光景を黙って見ていた。

 しばらくすると、ワニがランナードラゴンをくわえて岸に上がってきた。ランナードラゴンの雄は既に息絶えている。

 ワニはランナードラゴンに噛みつき、体を一回転させた。ランナードラゴンの肉が千切れる。ワニはその肉を一飲みにした。

「うっ」

 あまりの光景に、最初は興奮していた村の男も目をそむけた。

「行こう」

 男を気遣い、アドはその場を後にした。


 様々な姿形のドラゴンが世界中に広がっていった。当然、川辺に適応するように進化したドラゴンもいた。

 リバードラゴン、ブリクドラゴン、ピリンドラゴンなどである。

 だが、それらのドラゴンはワニによって、全て絶滅させられた。

 鳥を絶滅寸前に追いやり、人間さえも食料にするドラゴンだが、ワニとの生存競争には勝つことができなかった。

 ワニの固い鱗の前には、ドラゴンの牙も爪も効かなかった。水中にいるワニにはドラゴンの炎も効かなかった。ワニの圧倒的な力の前にはドラゴンは無力だった。

 ワニは今も川辺の『王』として、君臨し続けている。


「貴方は、もう帰っていいですよ」

「えっ?旦那はどうするんですか?」

「もう少し調べてみます」

「でも、一人じゃ危険です。ここら辺は危険なドラゴンも出ますし……」

「大丈夫ですよ。一人じゃないですか」

 アドは上を向いて「クロ!」と叫んだ。黒い塊が一直線に降りてくる。

「うわ!」

 村の男が腰を抜かす。

 黒い塊は、空中で急ブレーキをかけると、静かに地面に降りた。

「驚かせてすみません」

 アドは男に手を貸し、立たせる。

「この子もいますから、大丈夫ですよ」

「キュー」

 黒いドラゴンが鳴いた。まるで『任せろ!』と言っているかのようだ。

「でも、だけど……」

 なおも渋る男性にアドは、何かを握らせる。

「ありがとうございました。これは、お礼です」

 男が手を開くと、一カ月は贅沢に暮らせるほどの金ががあった。

「……分かりました」

 男は、それをポケットにしまうとあっさりと帰ってしまった。

 実に分かりやすい性格だ。だが、これで気兼ねなく調査ができる。

「クロ、頼む」

 アドが頼むとクロと呼ばれるドラゴンは、クンクンと地面の臭いを嗅ぎ始めた。

 そして、匂いを辿るように森の奥に進み出す。アドもそれに続いた。

 進むにつれて、植物は一層生い茂げる。村のヒトもここまでは来ないだろう。

「キー」

 クロが突然立ち止まり、何かを訴えるように鳴いた。

「ここか」

 一見すると何もない場所だ。ただ、それは見えないだけで、ここにソレは確かにある。

「一度、戻ろう」

 アドは村に戻ろうとした。だが、クロがアドの袖を引っ張り、それを止める。

「何だ?」

 クロに尋ねると、クロは木の枝を折り、口にくわえた。

 それを使って、地面に丸い円を描く。その円から棒を一本伸ばし、その棒から四本の短い棒を伸ばした。

 アドは、クロが何を伝えたいのか理解した。


「どうだった?」

 村に着くと、リンとリンの両親が迎えてくれた。

「まだ分からないね。もう少し調べてみないと」

「そっか……」

 リンは少し残念そうにうなだれる。アドは「ごめんね」とリンの頭をなでた。

「ところで、少し頼みたいことがあるのですが……」

 今度はリンの両親に話し掛ける。

「何でしょうか?」

「この家にシャベルはありますか?」

「シャベルですか?」

「はい、少し森の地面を掘りたいので」

 リンの父親が、少し怪訝そうな顔をする。

「どうしてですか?」

「実は、ワニの死体がどこにもなかったのです」

「死体がなかった?」

「はい、ドラゴンの中には食べきれなかった餌を地中に隠すものがいます。もしかしたら、地面を掘ってワニの死体があれば、それを調べることによって何か分かるかもしれない」

「家の裏にシャベルがあるよ」

 リンが元気よく答える。

「そうか、ありがとう。貸してもらえますか?」

「あ、えっと、実はシャベルは仕事で使うので……」

「そうですか、分かりました。では、どこかシャベルを売っているお店を知りませんか?」

「えっと、この村にはないですね。隣の村になら売っていますが……」

「分かりました。では、明日にでも買ってくることにします」

「明日も調査を?」

「はい」

「でしたらどうでしょう?今日はもう遅いです。今晩はここに泊まっていかれては?」

「よろしいのですか?」

「はい、貴方は娘の恩人ですから」

 リンが、アドの元に寄ってニコリと笑う。

「そうしなよ!」

 アドはニコリと微笑む。

「では、お言葉に甘えて」

 他人の家で、寝泊まりするのは久しぶりだなとアドは思った。

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