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100Gのドラゴン  作者: カエル
第一章
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ドラゴンについて

 そのトカゲは元々森の中に住んでおり、昆虫を主食としていた。

 彼らは森の中では、決して強い存在ではなかった。体が小さいため鳥や蛇、または自分よりも大きな虫によく捕食されていた。そのため、いつも隠れながら生活していた。

 そんな彼らの生活が劇的に変わるのは数万年後のことになる。

 火山活動の影響で地表が隆起し、山脈ができる。その山脈に遮られ、湿った空気が森まで届かなくなった。結果、森は枯れ果ててしまい。一面が砂漠化する。

 森に棲んでいた生物のほとんどが死滅し、わずかに残ったのは乾燥に強い植物とわずかな昆虫、そして彼らの様な小型の生物だった。

 生物には個体差がある。寒さに強い者、暑さに強い者、足が速い者、賢い者。何が良いという訳ではない。ただ、生まれる環境に適している者が生き残り、子孫を残すことができる。

 何かに優れた者同士が子供を残すとその子供にも親の特徴が現れる。その中でもさらに他の仲間よりも優れている者が生き残る。

 初めはわずかな違いでも、何百年、何千年、何万年と繰り返すうちに最初と全く違う生物になる。


 彼らも例外ではない。

 森にいた頃は落ち葉や岩陰に隠れ、獲物にゆっくり忍び寄り、捕まえる狩りをしていた。

 だが、砂漠では隠れる場所がほとんどない。ゆっくり忍び寄っても相手から丸見えなので直ぐに逃げられてしまう。さらには敵にもすぐに見付かってしまうため、今まで通りのスタイルでは到底生き残れない。

 足の速い者が生き残った。

 砂漠の昆虫は飛べるものが殆どいない。その代り、早く走る昆虫がたくさんいた。その昆虫は体内に大量の水を蓄えていた。彼らを捕らえて食べるためにも、また敵に見付かってもすぐに逃げられる足が必要だった。足の速い者同士が生き残り、子孫を残した結果、彼らの足はどんどん速く走るのに適した形となった。

 地面に穴を掘り身を隠す者が生き残った。

 隠れる場所がないなら隠れる場所を作ればいいと考えた者達がいた。穴を掘りその中に身を隠すことによって、敵から身を隠し、近くを通りかかる獲物を待ち伏せする。穴を掘る者同士が生き残り、子孫を残した結果、彼らの足は太く、丈夫になり、鋭い爪を持つようになった。滅多に取れない獲物を逃がさないように目に見えないほどの小さかった歯も鋭く丈夫になった。

 立ち上がる者が生き残った。

 後ろ脚と尻尾を使って二本足で立ち上がり、周囲を警戒する者達がいた。敵をいち早く発見することで生き残ることができるようになった。立ち上がる者同士が生き残り、子孫を残した結果、彼らの後ろ脚はどんどん強くなり、長時間二本足で立つことが可能となった。


 また、偶然起きた体の変化によって生き残ることができた者もいた。

 彼らには生まれつき何かが欠けていたり、何か余分なものが付いていたりしていた。ほとんどの場合彼らは生き残ることができない。だが、環境によってはそれによって生き残ることができる場合もある。

 その特徴が子供に受け継がれ、他の仲間よりも有利であれば子孫を残すことができる。

 体内にガスを貯めることができる個体が突然生まれた。

 その個体だけが持つ臓器にはエサを消化する際に発生するガスが溜まった。その個体はその臓器に貯めたガスを敵に吹き付けることもできた。敵が驚いている隙に逃げた。その個体は何度か敵に襲われたが、この特技のおかげで何度も命拾いし、子孫を増やすことができた。

 飛ぶことができる個体が突然生まれた。

 その個体には前足と後ろ脚に膜を持ち、まるでグライダーのように飛ぶことができた。砂漠にも高低差がある。高い場所で蛇などに襲われた時、低い所に飛んで逃げることができる。その個体も何度か敵に襲われたが、この特技のおかげで何度も命拾いし、子孫を増やすことができた。この膜は世代を重ねるごとに洗礼されより飛びやすい翼へと変化した。


 様々な特徴を持った彼らはこの後、それぞれの道を歩み別々の「種」となっていく。

 しかし、その途中で道が交差することがある。

 まず、穴を掘り身を隠す者と立ち上がる者の道が交わった。生まれた子供は鋭い歯と太い腕そして、鋭い爪を持ちながら、二本足で歩くことができた。

 その後、さらに体内にガスを貯めることができる個体との道も交わる。

 生まれた子供は二本足で歩きながらガスを口から噴射することができる。さらに、口からガスを出す瞬間、歯と歯を擦り合わせ、小さな火種を起こす。それをガスに引火させ、炎に変える。

 世界でたった一種類の炎を吐く生物が誕生した。


 飛ぶことができる者との道が交わったのは、それから間もなくのことだ。

 生まれた子供は二本足で立ち、炎を吐き、翼を持っていた。以前は飛ぶために風の力に頼っていたが、筋力も増し、自力で飛ぶことができるようになった。

 空を飛ぶトカゲは年代を重ねるごとに少しずつ巨大し、翼も変化し、より飛びやすいものとなる。

 もはや最初のトカゲとは見た目も中身も全く違ったものになっていた。

 空に舞い上がった彼らは、かつて天敵であった鳥を鋭い牙、ツメ、炎を使い追い払うと、砂漠の生き物を片っ端から貪った。砂漠に彼らに敵う生物はいなくなる。


 後にヒトによって『ドラゴン』と名付けられる彼らは、砂漠の生物を喰い尽くすと新天地を目指し、世界中に飛び立った。


「ドラゴンは世界中に生息域を広げ、今やその種類は数百とも数千とも言われ……。」

「なぁ、エリア」

「なんだ?」

「いや、なんでもない……」

「そうか。ドラゴンの姿形は住む場所によって全く違う。寒冷地方に住むドラゴンは体が大きい。反対に島に住むドラゴンは小型のものが多い。これは何故かというと……」

 アドは後悔していた。

 とある事情でドラゴンのことについて知る必要性に迫られている。だが、アドはこれまでドラゴンにはさほど興味がなかった。子供の頃にカッコイイと思ったくらいだ。

 本を読んで調べるのが手っ取り早いのだが、本は苦手で、いつも途中で寝てしまう。そこで、誰かに相談してみることにした。

 ドラゴンをどう思うか聞くと帰ってくる感想は大体三つだ。


「カッコイイ」か「怖い」か「気持ち悪い」。


 好きな奴は好きだが、嫌いな奴は徹底して嫌う。話をするのも嫌だという奴もいる。

 アドは取りあえず、ドラゴンについて何か知っていることがないか、クラスの人間や知り合いに聞いてみた。

 結果は思わしくなかった。

 「ドラゴン」という生物は有名だが、どんな場所に住み、何を食べているのかなど誰も殆ど知らなかった。知っていることと言ったら火を吐くぐらいだ。

 諦めようとした時、クラスにまだ聞いていないヒトがいるのを思い出した。エリアというクラスメイトだ。

 エリアはクラスでも浮いている存在だった。

 成績は滅茶苦茶よく、勉強も運動もトップクラス。ただし、無口で何を考えているのか分からない奴だった。凍った眼をしているとクラスメイトがヒソヒソと話しているのを聞いたことがある。教師でさえもまるで腫れ物に触るような扱いだった。隠れてイジメに遭っていたこともある。

 以前に何度か話をしたこともあるが、あまり会話は弾まなかったと記憶している。

 アドはダメ元で聞いてみた。


「エリア、ドラゴンについて何か知ってる?」


「ドラゴンが増加するのに反比例して数を減らした生物も多い。もっとも数を激減させたのは『鳥』だ。かつては何千種類もいたが、今や鳥類は十一種類、そのうち飛べる鳥はたった五種類しかいない。ドラゴンは鳥から制空権を奪った。鳥のニッチは完全にドラゴンのものになった」

 一言、ドラゴンについて尋ねた結果がこれだ。放課後に残るように言われ、二時間も経つ。もう完全に日が暮れた。だが、こちらから尋ねた手前、もういいとも言えなかった。

 エリアがこんなにお喋りだとは予想外だ。よほどドラゴンが好きなのだろう。

「ヒトがドラゴンと共存するようになったのは一万年ほど前だと言われている。もっと昔だとする説もあるがな。人が初めて炎を手にしたのはドラゴンが吐いた炎だと言われている。炎を手に入れたヒトは今まで食べることができなかったものも食すことが可能となった。当時のヒトがドラゴンを利用しようと考えるのは当然の成り行きだった。ヒトは捕まえたドラゴンを飼育した。さらに品種改良を重ね人に都合の良いドラゴンを生み出した。現在ヒトに飼われているドラゴンはこうして品種改良されたものだ。今もどんどん新しいドラゴンが生まれているが、これには問題もあり……」

 話が何やら、聞きたいことに近付いた気がする。聞くなら今しかない!でないと話がいつ終わるか分からない。

「なぁ、エリア。実は俺、君に聞きたいことがあるんだ!」

 思わず身を乗り出す。

「なんだ?」

 話を途中で遮ったにも関わらず、エリアは無表情に淡々と聞き返した。


「ドラゴンの飼い方を教えて欲しい!」


 こっそりと家に帰る。まだ誰も帰ってきていないらしい。アドは一安心した。

 ランプに火を点け、外に出ると家の裏にある今は使われていない小屋に入る。

「おーい」

 小声で呼びかける。返事はない。アドは小屋の奥にランプの明かりを向けた。

 小屋の奥には藁が大量に敷いてある。その上に黒い塊がある。

「おーい」

 アドが小声でもう一度呼びかけた。

 黒い塊がピクリと動く。黒い部分に一か所だけ赤い丸が現れた。

 その赤はまるで血の様だった。


 それは黒い体に赤い目を持つ小さなドラゴンだった。


 ドラゴンは首を上げ、アドを一瞥する。

 しばらくアドを見ていたが、軽い欠伸をするとドラゴンは再び眠りについた。


 

 

 


 


 

  

 



 


 

 

 


 

  

  

 

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