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ARK  作者: 星河 翼
9/16

#9LAZINESS

▼LAZINESS▼


『怠惰』と刻まれた扉の向こうに続く道は泥沼であった。

一歩中に踏み込むと足が埋もれてしまう。

『ドポン、ドポン』と言う音を伴い一歩一歩足を進める。

しかしなかなか先に進まない。


―このままだと、どれだけの時聞を費やす事になるか分かったものではない―


そう判断したアスタロトはついに翼を使う決心をした。

『バサリッ』というは音がこの回廊に響く。そして開かれた黒き翼はアスタロトを宙に浮かせた。


―怠情か……お似合いだよ……―


 こんな事を思い、アスタロトは先を急いだ。そのためか、次の扉にさし掛かるのに時間は掛らなかった。

 そして扉の前で降り立つ。

 これを開けば、一歩歪みの場所を知る手がかりになる事を自覚し、アスタロトは静かに扉を開いた。

 その先には、果てしなく広がる泥土の地が広がっていた。

 そして、下り来る一人の悪魔。

「いらっしゃいませ。『アスタロト』殿」

 と、その悪魔は答えた。

「出迎えですか?」

「ええ、この地を支配なさってる領主はんが、丁重にお迎えせえ言わはるんで、わてがきたんです。あっ遅ればせながら言いますけど、わての名は、『ラムエル』言いますねん。以後お見知りおき下さいな」

「領主様は何処に?」

 宙を舞いながら、アスタロトは訊く。

「これからお連れしますから、よう、着いて来て下さい。ちょっと距離有りますねん。そやから疲れてはるとは思いますけど頑張って下さいな」

 と言うと、『ラムエル』は、アスタロトを先導するかのように飛び立った。アスタロトはその後に続いた。


「この世界は、泥土の世界なんですね?」

 アスタロトは下を見ながら尋ねる。

「ええ、そうです。身動きもとれんからみんな、羽根使ってますわ」

「どうやって住んでるの?」

「ほらあれ、あのように泥を乾燥させた土を固めて家を作っているんどす」

 確かにところどころに転々とした、家らしい物が見られる。

「簡素ですね」

「この世界は、人ロ密度が他の世界に比べて少ないんですよ。疲れる世界ですからねえ……それでも、ここの領主はんは、ええ人で……わてらから税を取り立てる事をしませんよって、その点は楽ですわ」

「それって、税を取り立てるのが、面倒だからって言うんじゃないの……?」

 頭を掻きながら『ラムエル』は答える。

「そうかも知れへんなあ」

 ゆっくりとした喋り方が、やけに耳に残る。

「あっ、あそこですよ」

 そう指を差した先は、ほんの少しだけ大きな土を厚く重ねられた家であった。

「ほな、また後で会いましょ」

 地面に足を付けた時、そう言い残す『ラムエル』は、その場に座り込んだ。

「あのう……この中に入ればいいの?」

 その言葉にウザそうに見上げる『ラムエル』。

「そうどす。声掛けて入れば宜しいんですよ」

 とだけ言うと、再び顎を膝の上にへたらせている。

 その様子を見届けて、仕方ないなという表情でアスタロトは一声掛けその家の中に入って行った。


「お邪魔します」

 部屋に入ったアスタロトは、何と表規していいのかに迷った。簡素で、何も置かれていない部屋。

「ああ、君が『アスタロト』殿ですか……私の名前も『アスタロト』と申します。どうですこの世界は……ゆったりとしていて良いでしょう。お気に召しましたか?」

 と、言われ、

「ええ……まあそうですね……」

 あやふやに答えるしか出来ないアスタロト。

「ねえどうです?私の地位を差し上げますから……『サタン』様の命令を実行していただけませんかね?もう、面倒でやってられない気分なんです……」

「えっ?」

「いえね、『サタン』様に逆らう訳ではないのですが……私にこの任は重い枷なのです」

「はあ……で、どうすれば良いのでしょうか?」

「指揮をとって頂ければ良いのですよ。この東の地にある鉱山にその地が宥ります。明日にでも、『ラムエル』を迎えにやりますから、どうか御願い致します。では、眠りたいのでこれにて失礼……」

 そう言うと、奥に下がって行った。

 しかし暫くすると、

「ああ、そうでした……あなたの寝床ですが、この部屋をお貸しします。御自由にお使い下さい。では失礼します」

 そしてまた、奥の部置に下がって行った。


―なんて悪魔なんだ……―


 と心から思った。というより、この『怠惰』さに気が抜けたとでも言うか…….


―それでもチャンスは出来た……ここの領主に感謝すべきかもしれない……―


 と、近くに有る椅子に座り込む。

 暫くしてお腹が空いた事に気が付いた。

 何処に有るかも分からない食事を求あて彷徨う。そして探し当てた台所。そこは埃でまみれていた。


―料理さえしないのか?ここの悪魔達は……―


そう窺える程、この台所は簡素化されていた。そして、少しだけ有る食材を、妙めてやっと食事にありつけたアスタロトであった。

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