#7 RAGE
▼RAGE▼
業火の道を歩いて行くアスタルテ。
そのためか、かなりの暑さで身体がとろけそうである。
一つ足を踏み外せば、火の中に身を投じる程この道は狭かった。
「この先に行けば、歪みが有る場所が分かる……しかし……」
アスタルテは考えていた。
―本当に……歪みを全て閉じてしまってもいいのであろうか……―
あの『サタン』の言葉がやけに脳裏に渦巻く。
―『創造神』の行動……魔界の秩序の乱れ……余りにも矛盾している……―
歩き続けながら、アスタルテは考えに浸っていた。
―『創造神』は、魔界を?いいえ、天界を滅ぼすつもりなのか……それともこうして、私達の行動を見守られているのか?―
どんなに考えても納得の行く答えは見つからない。取り敢えず前に進む事を考え始めた。
程なく進むと、扉が見えて来た。
『ギーッ』とその扉を開く。
すると、火山地帯に小さな街が広がっていた。
「お越しをお待ちしておりました」
と、一人の者が立ちふさがっていた。
背中には爬虫類のような羽を広げている。
「あなたは?」
とアスタルテは尋ねる。
「私はこの街の支配者。『バルベロ』様の使徒でございます」
その者は答える。
「これより『バルベロ』様の所に御案内致します」
告げると、羽を広げて宙に舞い上がった。
その後を追い掛けるようにアスタルテも自らの黒い羽根を翻し宙に舞った。
暫く飛んでいるとその『バルベロ』という者の館らしい所に入って行った。
「よく参られた。『アスタルテ』殿」
通された部屋で、『バルベロ』はアスタルテを歓迎した。一見もの静かそうな男で、ゆったりと椅子に腰を掛けている。
「どうです?魔界の居心地は?」
という問いかけに、
「まだ慣れません。この地帯は火山帯なのですね……こんな危なっかしい場所でよく生活出来るものだと感心しております」
素直な感想を言うアスタルテ。
「率直な方ですね。気に入りました。それにお美しい……でも、明日からはそんな事を悠長に思ってもらっていては困ります」
席を立ち、窓辺に立つ『バルベロ』。
「この火山帯の一角に天界への道を通しております。そこから攻め入る算段を今立てている次第……あなたも『サタン』様の御為、魔界の為、参戦してもらわなければなりませんからね」
振り返り、アスタルテの顔を見る『バルベロ』。
―歪みの事だ……―
と悟ったアスタルテは、すぐに答えた。
「私のカが、魔界の為になるのでしたら喜んで、お貸し致します」
敬意を称し胸に手をやり答える。
「うむ。期待しておるぞ!」
それだけ言うと『バルベロ』は下がって行った。
「『アスタルテ』殿、あなたの生活の場を御案内致しましょう。こちらへ……」
この館に招いた時の男が、家を案内した。そこは、納屋とでも言うべき小屋であった。その一角をアスタルテに譲る形なのである。
「同僚に、『シェミハザ』という悪魔がいますが、事無きようにお願い致します」
それでは。と告げると、その男は去って行った。今はいない『シェミハザ』という悪魔。一体どんな者であろうかと少し考えてみる。
しかし見当も付かない者の事を考えても詮方なき事。今はその者が帰って来るのを待つしか無かった。
―きっと、歪みの場所に行っているのね―
とだけ悟るアスタルテであった。