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ARK  作者: 星河 翼
2/16

#2 RE BORN

▼RE BORN▼


「最近仲が良いな、お前達?」

とは、要の兄、(まもる)の言葉であった。

 先程帰ってきたばかりの鎮は、晶と、水。そして、要が部屋から出て来るのを帰り際見送っていた。

「二週間後に学習発表会があって、オレと水が、主人公の劇をやんなきゃいけなくなったんだ。で、晶ちゃんはその劇の監修役で手伝ってもらってるんだよ」

 と、言葉を返す。

「女の子に囲まれて、お前も軟派な奴」

 呆れたと一言漏らす鎮。

 その言葉に険が有る事は重々承知の上であった。

 特に、晶が退院してからは、要は付きっ切りと言っても良いくらい、傍から離れなかった。それは、何も知らないであろう結の魂の事を気に掛けた行為である事は、誰にも言えない秘密であるのではあるが。

 水に到っても、その事情を知っている上で手伝ってくれている。

 今は冬で、水泳部もたまにしか練習が無い。晶は六年生で、もう引退している身では有るが、時に後輩に顔を見せる程度の付き合いがあっても差し障りは無かった。

「軟派で悪かったね。鎮兄ちゃんのように、男に囲まれて、バスケばっかやってるより健全だよ!」

 ちょっと皮肉れて反発してみる。

 鎮は、色素の簿い要とはうって変わったかのような黒髪を、スポーツマンらしく短く切りそろえた風貌をしている。

「へんっ。お前みたいに、男友達と遊ばないような変わり者よりはいいさ」

 この台詞と共に、冷蔵庫からポカリスエットの入ったベットボトルを取り出しながら答える鎮。

「それって焼きもち?オレだって、学校行けば男友達との付き合いだってあるんだよおーだ!」

 その様子を見ながら台所の椅子に腰掛けながら要はそう答える。

 確かに、友達はいる。

 しかし、家に帰ってまで遊ぼうとは思はない。と、言うより、今では晶、いや、結が男友達である気がしてきているのである。

 一方、水に到っては、そんな事は二の次で、女として生きる振りをしているように思われる点が有るが…

「ただいま……」

 そこに、久しぶり顔を覗かせたわたるが、この部屋に入ってきた。

「おっ、要、元気そうだな!」

 軟派と言えばこの男である。

「さっきそこで、晶ちゃんと、水ちゃんに会ったけど、お前達会ってたのか?」

「うん」

 要にとっては良い兄であった。と言うより心が知れている兄とでも言うのであろうか?

部屋に入って来るなり、要の頭を撫でている。

 このわたるは、高較一年生。鎮の二つ上の兄である。その姿は、長い髪の毛を茶髪に染めていかにも不良です。といった風情である。

 鎮より小柄で、一見華奢に見える。まあ、鍛え抜かれた鎮の体型が良すぎると言うだげなのだが……

「久しぶりだな。今日は夜遊びには行かないのか〜?」

 この兄に対抗するような言葉で威圧するかのような鎮。

「良いじゃん。お前には関係ない事だ」

 そんな会話をかわす道と、鎮。

 高校生になる前までの道は、もっと落ち着いた、物静かな青年であったような気がする。しかし、受験を始める年、鎮と一時険悪な喧嘩をして以来この変わり様だ。

 だけど、この喧嘩の理由を要は知らない。

 小さい頃は、よく、道の後を付いて歩いていた鎮であったことは、幼い要の目にも記憶に残っている情景があったくらい、

仲が良かったのに……

「まあ、関係ない事だが、女遊びも少し控えたら良いだろう?実際、母さん達も心配している事だ」

 水を差すかのように鎮は忠告した。

「重々承知の上だ。別に何の問題も起こしてはいない。楽しくやっているのに水を差すような事を言わないでくれるかな?」

 こうやって、また喧嘩になる。それをはぐらかすように、

「そうそう。オレ、主役もらったんだ。劇で!」

 と、焦りながら要はこの状況から脱するかのような勢いで話を切り出した。

「へえーすごいじゃん。で、何て劇?」

 と、訊き返す道。椅子を逆向きにして『ドサッ』と座り込む。

「聞いて笑ってよ……何と、ロミオとジュリエット!」

「げっ!何んだそれ!!」

 とは、鎮の言葉。

「ヒューッ。そんなの小学生がやんのか?イカス!!」

 とは、道の言葉。両極端に分かれてしまった。

「そう言えば主人公と言っていたけど、お前、ロミオやんのか?」

「そうだよ。似合わないだろう?容姿で選ばれた所見え見え!って思わない?」

「どこが……」

 鎮は、そんな言葉に呆れて、物が言えないと言う顔をしている。

「で、みなちゃんが、ジュリエット?」

「そう、気が強い上にあの短気さ!何で選ばれたのかさえ疑問だ!」

「単に、従姉妹同士だから気が合うだろうと言う配慮じゃ無いか?」

 という道。

「ホント、オレとしてはもっとこう、派手なアクションものとかが良かっったんだけどねぇ……」

 要が思い描くアクションものとは一体どんなものなのだろう。二人は影ながら疑問に思った……がロには出さないでおいた。

「それで、こんな家で練習しているって言うのは?」

「うっ……いやさあ、学校でも練習してはいるんだよ……ただ、何時まで経っても台詞を覚えられないために……」

 と、その後は『ゴニョゴニョ』とただ、言い訳じみた言葉が飛び交う。

「つまり、居残り特訓な訳だ!」

 鎮の口から笑いが飛び出した。

「そんなに笑う事無いだろう……」

 底意地悪い鎮。その態度に要の頭に血が上ろうとした時、

「まあ、そう焦る事無いさ。その内何とかなるって!」

 と、励ましてくれたのは道。

「道兄ちゃん〜!そう言ってくれるのは兄ちゃんだけだよ〜!!」

 椅子越しに抱きつく。

 それを良い子良い子。と道は慰める。その様子を見ながら、

「さてと、オレは宿題が有る。晩飯出来たら呼んでくれ」

 とだけ言葉を残すと、その二人に一瞥をし、鎮は二借へと上がって行った。

「さて、オレも遊びに行って来よおっと。晩飯はいらないって言っといてな。要!」

 そう言うと立ち上がる道。それを見上げながら、

「道兄ちゃん……」

 と少し躊躍しながら要は道に語りかける。

「お節介かも知れないけど、鎮兄ちゃんも言っていたこと……もう少し、家に居てあげてよ。母さん達本当に心配してるよ……」

 その言葉をどう受け止めたかは分からないが、

「ああ」

 とだけ答えると、道は、一度自分の部屋に戻るため二階に上がっていった。しかし数分立つと、着替えを終えた道は、玄関を後にしていた。

 ため息をつく要は、『やはり』の状況を察し、台所から居間へと足を伸ばしていた。


「何度言ったら判るの、要!」

 またかと大声で叫ぶ水。

「えっ?」

「そこは、マキューシオと、ベンボリオとの会話で、余り気乗りしない態度を見せる所なの!そんなんじゃ、行きますよ。行きたいです!っていう演技に見えるわ!」

 学校の教室の一室。練習している要に一言申す!という勢いで水は、先ほどから台詞と演技がバラバラな要にまくしたてていた。

「宮下さん。演技指導も良いけれど、これじゃあ全く先に進まない……少し、熱の入れ方を控えた方が……」

 とは、クラス委員の安藤の言葉であった。

「いいえ!要ったら全く演技者としての心構えが足りないわ!こんな劇、見る人がみたらなんて思うか知れない。恥をかくのなんて嫌!根性で、この劇を乗り切るのよ!」

 腕を娠り上げ、一段と熱を入れている様子のこの少女の姿を、脇投のみんなが頭を抱えるように見守っていた。

 そこに、『ガラッ』と、ドアを開ける者がいた。

「あっ。晶先輩!」

 部屋に入って来たのは晶であった。

「晶ちゃん?」

 駆け出す水。そしてあっけに取られるかのように見守るクラスメイト達。この変わりようが凄いからだった。

「どうしたんですか?」

「うん。ちょっと見学に来たの」

「ゲッ」

と、要は退く。

「本当ですか?それじゃあこの椅子使って下さい。立って見ていると疲れますから!」


「あれって、伊集院晶じゃないか?」

「何時見ても綺麗だね」

 皆がロをそろえて囁きあっている。

 晶は以前から、『美人薄命』の意味を込めた言葉が似合う先輩として、この学校で有名であった。

「晶ちゃん?何でこんな所まで……」

 以前の要だったら、ここで歓喜の言葉を上げている所であるが、これが結である事を知っているために、言葉が微妙に途切れていた。

「どれだけの成果が出てるか見に来たの。どう?成果は?」

「それが台詞は何とか覚えてきたんだけど、まだまだ演技者として上手くは行かないんですよ!」

 水は、ハッキリとその事を告げる。

「悪かったな……下手で!」

「そう思うなら、しっかりやってよね!」

 まくしたてる水に、返す言葉が無い要は、項垂れるしかない。

「まだ一週間有るのだもの。まだまだよ、頑張ってね」

 微笑む晶。

「天使だ!!」

 近くにいる少年が言葉を発した。確かに、元天使だったけどな……

 それを何故だか違和感有る気持ちで聞いてしまった要は、『けっ』という表情で流す。

「それじゃあ続けるわよ!」

 再開される劇。

 一通りの所を流し終え、ついには下校のチャイムが鳴った。


「それじゃあ、解散。お疲れさま!」

 暗くなった学絞の廊下には既に電気がともっていた。

 要達は、その廊下を三人で歩いていた。

「今日な、要の家行けないんだ。帰って家の手伝いしなきゃ行けないの……」

 残念。という風に両手を顎の前で組む水。

「そうなのか?それはしょうがないな」

 と、逆に、残念そうな顔を装いつつも、半ば嬉し気な心中の要。

「それじゃ、急いでて悪いんだけどこれで失礼します。それじゃ、また明日ね!」

 そう言うと駆け出す水。

「五月蝿いのがいなくなって清々した〜!」

 と、ボソリと言う要に、

「何?」

 聞き取れなかった晶が返す。

「いや、何でも無いよ」

 二人揃って、階段を降りて行く。

「あのさ、実は気になって隅べたんだ。お前の事…」

 要は、二人でいる時は晶の事を、結として語りかけるようにしている。

「調べる?」

「うん」

 そう言うと、昇降ロの踊り場までやってきていた。

 もう外は真っ暗であった。

「京極結って言ったっけ?名前……」

「そうだけど……」

 二人の時は、男言葉に戻る結。

「晶のお母さんが結婚する前の名前、京極薫って言うんだって、聞いたんだ」

「それじゃあやっぱり、晶とは双子なんだね」

 とは結の言葉。

「余り突っ込んで聞いた訳じゃ無いんだけど、晶のお母さんにはお兄さんが居て、そこに養子で三歳の時引き取られた子供が……つまり結、お前であったらしい」

「……」

「晶。お父さんいないだろう?」

「うん。お母さんと二人暮し。お父さんは『みのるさん』と言って、六十歳の若さで晶が産まれる前に亡くなったと聞いたよ。」

 静かに立ち止まり、昇降口で靴を置き換える。

「それが、初めは晶と結の二人を我が手で育てるつもりだったらしいんだけど、その力が及ばなくなって、お母さん。お兄さんの元に、結を預けたらしい。養子として」

 もうシャッターが降りかけている出口を、頭を曲げてぶつけないように潜ると、瞬間、野球部の練習が終わった校庭にライトが灯った。

「だから、ボクの名字は『京極』って言うんだね?」

「うん」

 ライトの灯った校庭を横切りながら、尚も話し続ける二人。

「でも、良かった。結、ちゃんと家族と共に住んでるんじゃん?」

「うん。そう言う事になるよね。晶ちゃんがいないのは寂しいけど……」

 そう、もうこの世には何処にもいない魂。

 ただ、受け繋がれた身体だけを残し去っていた。

「あのさ、『ウリエル』って天使の名前なんだってさ!」

「ああ……ボクを庇護してくれてたと言う人?」

「そう。図書館で調べたんだ。」

 そういうと、鞄の中に仕舞い込んでいた一冊の本を取り出す要。

「四大エレメンタルの一人であり、土の守りを持っている者。時には、時間の狭間で、魂の管理をしているらしい」

「へえ……よく調べたね」

 結は感心して続きを聞き入った。

「結構しんどかったよ。何処にもそんな事を載せている本なんか無かったから」

「ありがとう」

「いや、礼には及ばないさ。知らない事有ると調べたがる、オレの性分だから」

「意外に勉強家なんだ?」

 その言葉はどうかと思うがと要は少し苦笑い。

「別に……勉強は好きじゃ無いんだけど、下らない事は良く覚えたがるんだ」

 思わず額に汗をかいてしまった。

「あと、光一こういち)兄の事も気になって調べたんだ」

「光一?」

「そう、水のお兄さん」

「何?何かあったっけ?」

 もう忘れたのか結は問う。まあ、あの時意識があってもなかったようなものだから仕方ないか。

「ほらっ、晶ちゃんが言っていただろう?『ラファエル』って!」

「ああ、うん、そう言えば……」

「その『ラファエル』という名前も四大エレメンタルの内の一人としてあるんだ。風を守護するもの。」

「癒しの天使として名を列ねているらしい」

「それって?どういうこと?」

「解からない。けど『ウリエル』と『ラファエル』の二人が敵対しているってのは……何だか戴けないような気がする……」

「確かに……」

「どう見ても、敵って感じだったよね……」

 結は、今やっとあの時の事を思い出していた。

「一体何なんだろうな?」

「全く見当が付かないや……」

 結にはちんぷんかんぷんである。

 まだ、この世界に慣れようとするのに手が一杯で……自分のことや、晶の事にまで頭が回らない状態であった。

「まあ、その内に何か有るかもしれないなあ……この事が重大な事であるのならば?」

 要は、そんな結の事を想い、この辺でこの話は止めにしようと心に決めた。

「ところで、勉強の方はどう?」

 と、話をすり変える。

「あっ、うん。時間の狭間で読んでいた本のおかげかな?結構簡単だよ」

 とあっさり答える結に、

「あっそう。それは何よりだったな」

 と、そんな結に呆れる。

「それより、今年度、結構休んでいたから出席日数の方が心配ですねって担任の先生が言ってた」

 と、結。

「半年以上休んでいたもんな……どう?身体は?しんどかったりしない?」

 心配気に気を配ってくれている要の言葉に、

「それは全く心配無いよ。メキメキ健康になってるってお医者様が言ってる」

「そりゃ驚くよなあ。いきなり健康になったんじゃ……」

「あはは……そうだよね?」

 そうやって笑っている結はのんきものだ。

「そういや、三月には結、卒業していなくなっちゃうんだ……」

「寂しい?」

 少ししんみりする。夜道に二人の影が伸びていた。

「……まあな」

「大丈夫!家が隣なんだから遊びに来てくれたら良いじゃない?」

「うん……そうだけど……」

 何だか、いつも側にいる事ができるはずなのに、遠くに行ってしまう気がして……

「何時でも、遊びにおいでよ!待ってるから!!」

 優しく笑って語り掛けてくれる結の言葉に、心無しか戸惑いを覚える。

「ああ……」

 そう言いながら要は本を鞄に入れる。

「その前に、学習発表会!」

「げっ、それがあったか……」

 そんな感じでまたまた笑いが起こる二人。

 一週間後、要は果たしてこの劇に馴染みそして上手く演じきれるのか?それは要にとって第一の試練であった。

「楽しみにしてるよ」

「御期待に添えるよう頭張りますです。はい」

 そして、慌しい一週間は過ぎていくのである。

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